第六十一話〜ネクロマンサーの風邪事情〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の鍛冶屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。
フユナの突然の風邪は看病したかいもあって、一日ですっかり良くなった。
しかし今度は……
「ゲホッ……ゴホッ……!」
レヴィナが風邪をひいてしまった。というか、これに関しては私の責任でもある。なんたって凍えさせたまま放置しちゃったからね。
「安心して、レヴィナ。今日は私が一日看病してあげるからね」
「うぅ〜……!」
恨めしそうな目で私を見つめてくるレヴィナ。やっぱり根に持ってるのかな……?
「とりあえず温かいもの食べてゆっくり休もう。ちょっと待っててね」
「はい……ゲホッ……!」
という訳で本日はレヴィナを看病する日になった。
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「お待たせ!」
私はすぐにスープを作って戻った。昨日のフユナの看病ですっかり手際が良くなっていた。
「はい、辛いかもしれないけど一旦起きてね」
「レヴィナさん、起こしてあげる!」
「あ、えと……ありがとうございます……」
レヴィナが恥ずかしそうにしている。年齢的には私と同じくらいだし当たり前か。
「それじゃ食べさせてあげるね。はい、あーん」
「えぇ……!? あ、あの……自分で食べられますので……ゲホッ! ゴホッ!」
「ほら、無理しちゃだめだよ。病人は大人しく看病されなさい」
「そうだよ、レヴィナさん」
「う、うぅ……!」
レヴィナの顔が真っ赤になった。大変だ……熱が上がっている。
「ほら、せっかくスープが冷めちゃうよ。はい、あーんして」
「あ、あーん……」
ついにレヴィナが言うことを聞いてくれた。かわいい。
「はい、よく出来ました。おいちいおいちい」
「おいちいおいちい」
「ぶっ!」
「くすくすっ!」
「はっ……!?」
レヴィナが壊れてしまった。風邪ひくと幼児になる体質かな?
「ちょ、ちょっと……! 変な事させないでくださいよ……! ゲホッゴホッ……!」
「あらあら、無理したらだめだって。ほら、まだスープも残ってるんだからちゃんと食べて。はい、あーん」
「あ、あーん……」
「はい。おいちいおいちい」
「おいちいおいちい」
「くすくすっ!」
そして、レヴィナは無事に完食した。えらいえらい。
「あとはゆっくり寝てればすぐに治るよ。一人で寝んねできる?」
「で、できますよ……」
レヴィナの顔はまだ真っ赤だ。まだ治っていないな。
「じゃあレヴィナさん。眠るまで頭撫でてあげるね。よしよし」
「そ、そんな……子供じゃないんですから……きゃっきゃっ!」
「「……ッ!」」
レヴィナが子供のように喜んでいる。私もフユナも笑いを堪えるのに必死だった。
「よしよーし」
「うとうと……」
フユナの愛がこもったなでなでであっという間に眠る体制に入ってしまった。
「やるね、フユナ」
「昨日ルノが撫でてくれたのを真似してみたの」
うーん!さり気なくかわいい事を言ってくれるじゃないか。これならもう一日くらい風邪ひいててくれてもよかったのに。
「すやー……」
「あ、レヴィナさん寝ちゃったね」
「ほんとだ。天使か……!」
フユナに撫でられながら眠るレヴィナは最高に可愛かった。まさかのもう一つの顔(風邪の時限定)は危険なほど可愛らしく、新たなる発見だった。
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翌日の朝。
目覚めた私はレヴィナの寝顔を改めて見てみた。
「……」
普通だった。
「そんな……まさか治っちゃったの……!?」
レヴィナの風邪が無事に治って、いつも通りの寝顔になっていた。ある意味分かりやすい。
「うーん、フユナに匹敵する可愛さだったからもう一日くらいあのままでも良かったんだけどな」
そんな事を呟いているとレヴィナが起きた。
「うぅーん……」
「あ、ごめん……起こしちゃった……?」
「いえ、大丈夫です……おはようございます。お陰様ですっかり良くなりました……」
「そっかぁ……」
「なんで残念そうなんですか……」
いけないいけない……思いっきり顔に出てしまっていたらしい。今は素直に喜ぼう。
「いやいや、すぐに治って良かったね」
「はい、ありがとうございます……」
私はそう言ってレヴィナを撫でる。ちょっとしたイタズラ心からだった。
「レヴィナね、昨日可愛かったんだよ? こうやってフユナが撫でてたんだけど……『きゃっきゃっ!』って」
「!?」
「ご飯食べてる時なんて『おいちいおいちい』なんて言っててほんとに可愛……ぷっ!」
「うぅ……」
レヴィナが真っ赤になって布団で顔を半分ほど隠してしまった。今日は今日で可愛らしい。
「そ、その事はもう忘れてください……恥ずかしい……」
「ふふっ。よちよち」
「うぅ、こっちは大変だったのに……」
レヴィナが完全に布団に潜ってしまった。きっと顔はさらに真っ赤になっている事だろう。
まぁ、でも大変な事ばかりでもなかったな。こうしてレヴィナの意外な一面も見れたし、こう言っていいか分からないけど私にとっても有意義な時間になった。
「これからも風邪ひいたら看病してあげるからね。ふふっ」
「もうっ……!」
ひょっこりと布団から顔を出したレヴィナはまんざらでもないのか、嬉しそうな表情を浮かべていたのでした。