第五十七話〜家族〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の鍛冶屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
「バイバイ、ルノ」
「フン、もうここにいる意味などないな」
「ルノ。せいぜい元気に頑張ってください」
「さようなら、ルノさん……」
フユナ・グロッタ・スフレベルグ・レヴィナ。
これからもずっと一緒だと思っていた、私の大切な家族。
「ま、待ってよ……行かないで……私達は家族……」
そんな私の考えは間違っていたのだと思い知ってしまった。
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久しぶりの一人カフェ。私はその帰り道をのんびりと歩いている。
「たまにはこうして一人でのんびりするのも悪くないね」
とはいっても、やはり家族の皆と過ごす時間の方が楽しい。一人の時間というのはたまにだからいいのだ。
「帰ったらお昼作らないと。今日はツリーハウスでみんなで食べようかな」
先日、スフレベルグのツンツン事件があってから家族との時間は取るように心掛けている。一緒なのが当たり前になってお互い関心が無くなったら意味無いからね。
「ただいまー! すぐにお昼つくるから……ってあれ?」
私が帰宅すると既にフユナとレヴィナが昼食を終えていた。
「あれ、お昼もカフェで済ませてくると思ったからレヴィナさんと食べちゃったよ」
「ごちそうさまでした……」
リビングにやって来た私にフユナがそんな事を言ってきた。
「あ、うん……そっか?」
まぁ、ちゃんと連絡しておかなかった私も悪かったか。仕方ないので簡単もので済ませよう。
という訳で私はお馴染みのルノサンドを作って食べた。
「もぐもぐ……」
「レヴィナさん、お外に遊びに行こう」
「はい……!」
「……?」
なんだろう。私、避けられてる……?
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簡単に昼食を済ませた私はフユナ達に合流しようと外に出た。
「フユナ達は……あ、上か」
途中、スフレベルグに乗ってツリーハウスに向かうフユナ達の姿が見えた。グロッタの姿も見当たらないので上にいるのだろう。私も後を追うようにツリーハウスに向かう。
「お昼はみんなとの時間が取れなかったからちょうどいいや」
そんな事を考えながら到着すると、四人が集まってカードめくりが始まろうとしていた。グロッタとスフレベルグも揃ってやるなんて珍しい絵だな。
「だけど……ふっふっふっ。カードめくりをやるのに私がいないなんてだめだよ。私もまぜてよー!」
私はお得意のカードめくりをやっているのを見てついテンションが上がってしまった。
「ルノ様……やるのですか?」
「うん、やるやる!」
「ルノ。あなたが入るとあなたの一人勝ちになってしまうのでつまらないのですが」
「……え?」
「そうだよ。ルノはあっち行ってて」
「ルノさん。もう四人でやる予定なので……」
「あ、うん……ごめん」
仕方なく、私は一人離れた椅子に腰掛けてみんなのゲームを眺めることにした。
「……私、なんかしたかな……」
そのまま時間は過ぎていき、既に五ゲーム目に突入していた。しかし私に声をかけようとする者は誰もいなかった。
「あーまた負けちゃったー!」
「ぐぅ、幸薄そうなのに……!」
「やりますね、レヴィナ」
「ふふ。あと一勝でフユナさんに追いつきますよ……」
「……」
私はすっかりゲームの気分ではなくなってしまっていた。みんなに何か迷惑をかけたのかを頭の中で探るばかり。
「みんなとの……家族との時間を楽しみたかったんだけどな……」
すると突然。
「家族?」
「え、フユナ……?」
「フユナは氷のスライム。ルノの家族じゃないよ」
「え……?」
「わたくしも同じです。無理矢理連れてこられただけのこと」
「……!?」
「ワタシ、ここに住むとは言いましたが家族になるなんて一言も言ってませんよ」
「ちょっと……やめてよ……」
「ルノさん。所詮私達は友達。それだけですよ」
「な、なんで……」
なにこれ……今までの時間は何だったの? 家族だと思ってたのは私はだけだったの……?
「バイバイ、ルノ」
「フン、もうここにいる意味などないな」
「ルノ。せいぜい元気に頑張ってください」
「さようなら……ルノさん」
フユナ・グロッタ・スフレベルグ・レヴィナ。
これからもずっと一緒だと思っていた、私の大切な家族。
「ま、待ってよ……行かないで……私達は家族……」
そんな、私の考えはーー
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チュンチュン……!
小鳥の鳴き声と共に朝日が私の顔を照らしている。
「え……?」
気付くとそこはベッドの上。両隣りにはフユナとレヴィナ。
「あ、あれ……みんな……?」
私は横になったままフユナの方を向く。確かにフユナがいる。
「夢……だった……?」
「ルノ……?」
「あ……ごめん。起こしちゃった?」
フユナが起きた。私を呼ぶその声にはいつもの優しさを感じたような気がして……
「なんで……泣いてるの……?」
「え? あ……」
目元を拭ってみると確かに濡れている。いつの間にか泣いていたみたいだ。それを自覚した瞬間に一気に抑えていたものが溢れ出していった。
「うっ……ぅ……」
「……」
すると、ぎゅっとフユナに抱き締められた。
「え……?」
「大丈夫だよ」
フユナはそれだけ言って私の頭を撫でてくれている。
「あのね……」
「うん」
「夢で……フユナが。ううん、グロッタもスフレベルグもレヴィナも……私達はみんな家族じゃないって……無理矢理連れてこられただけだって……」
「……」
「所詮私達は……友達だって……」
「……」
それから少しの間をおいて、フユナが私の名前を呼んだ。とても優しく。
「……ルノ?」
「……」
「周りをよく見て。フユナもレヴィナさんもいるよ? 外にはグロッタもいるしスフレベルグもいるよ?」
「……」
「みんな家族だよ」
「……うん」
それからしばらくの間。
私はフユナの胸の中でずっとずっと……頭を撫でてもらいながら、子供のように泣き続けました。