第五十五話〜コンゴウセキの運命〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の鍛冶屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
ある日の朝。
少々早い目覚め。しかし外を見てみると実にいい天気だ。
「うーん……ちょっと早いけど起きようかな」
私の両隣で寝ているフユナとレヴィナはまだ熟睡中。
「んじゃ、ちょっと失礼しますよーっと」
ベッドから出るためにはレヴィナを跨がなければ行けない。
「ぐぇ……!」
レヴィナが少し潰れた。
実はここ最近はこのやり取りが定番となっている。だって通れないんだもん。
そうしてリビングまでやってきた私はコーヒーでも飲もうと思いお湯を沸かす。
「えーっと、コーヒーはと……あったあった」
テーブルの上にあるコーヒーを取ろうと、一歩踏み出したその時。
ゴリッ……
何か踏んだ。丸っこくて硬い何か。そんなものを踏んだ私は当然……
「うぎゃっ!?」
すてーん! と、見事に一回転。猛烈な勢いで頭を打った。
「うっーー!? な、なにっ……!?」
床に物を置いた覚えはない。普段からそれは徹底しているはずなので確かだ。不思議に思いながらも踏んずけた物に目をやると……
「コロコロ……」
「な、なんでコンゴウセキスライムが……? あっ!?」
そうだ、思い出した。
あれは確か『スライムの島』に行ったのこと……
『あれは超レアだから持って帰るよ!』
私はそんなことを言って捕まえてきたのだ。
「すっかり忘れてた……」
目の前では現在もコンゴウセキスライムがコロコロと転がっている。どうやらこれは移動しているらしい。
「それにしてもよく今日まで逃げなかったね……」
私はいつの間にかコンゴウセキスライムに話しかけていた。よく見ると転がる姿がなかなか可愛らしい。
「うーん、超レアだから持って帰ってきたけど、どうしようかな。カラットさんに渡して武器でも作ってもらう? それとも……」
「コロコロ……」
「……」
この可愛らしい物体を飼うか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それからしばらく考えんでいたのだか答えは出ていない。
「うーん、単純に売ってもお金にはなるけど別に困ってないしな……とう」
「コロコロ……」
「そうだ。カラットさんに頼んで私専用の杖でも作ってもらおうかな……てい」
「コロコロ……」
決まらない。正直お金はある。杖にしてもあまり使わないし、氷でいくらでも作れる。ならこのスライムは……?
「コロコロ……」
「……」
あれ? これってまさか情が移っちゃったというやつでは……
「いやいや、スライム枠はフユナで埋まってるからだめだよ。きみはあくまで……そう、転がる癒し系アイテムだよ」
そうして私が朝からスライムと会話するというイタイ子をやっているとフユナとレヴィナが起きてきた。
「おはよう、ルノ」
「おはようございます……」
「二人ともおはよう。……あ」
目を離した隙にコンゴウセキスライムが転がってフユナとレヴィナの足下に行ってしまった。そうなると当然……
「「うわっ!?」」
すてーん!
まるで先程の自分を見ているようだった。まさか、この子は狙ってやってるのか?
「いたーい!」
「ルノさん、ひどすぎます……」
「いや、私じゃないよ。ほら、それ」
私はコンゴウセキスライムを指差す。そういえばスライムの島に行ったのはレヴィナに会う前だったな。あとで説明しよう。
「スライムの島で捕まえたのをすっかり忘れててさ。朝、私も転んだ」
「コンゴウセキスライムってお金になるんじゃなかったっけ?」
「私も最初はそう思ってたんだけどね。ほら、なんか転がる姿が……」
「コロコロ……」
「「……」」
二人とも目を奪われていた。やっぱりそうなるよね。
「ルノ、この子どうするの?」
「うーん、やっぱりカラットさんに頼んで武器にするのが現実的……」
「うるうる……」
あぁ……フユナの目が何かを訴えかけてきている。いや、私も辛いんだよ?
「売るとか武器にするとか以外で考えようよー!」
「そうだねぇ……コンゴウセキスライム……コンゴウセキ……」
コンゴウセキといえば指輪とか? でもこの子、リンゴくらいの大きさあるしな。
「そうだ!」
「なにか思いついたの?」
「ふっふっふっ。この子は私の『使い魔』にするよ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その日から私には使い魔ができた。
「ふんふんふーん♪」
「なんだかお星様みたいだねー!」
「羨ましいです……」
現在、私の肩の辺りにはコンゴウセキスライムが浮いている。グロッタに魔法陣を描いたように、この子にも魔法陣を描いたのだ。『この魔法陣を描いた者の周りを漂う』という効果で。
「ふふふ……これでもしお金に困ってもこの子を売れば安心……」
「そんなのだめだよ! ルノの薄情者ー!」
「ガーン……!?」
「ふふっ……!」
こうして……
『超レアだから』なんて理由で連れて帰ってきたコンゴウセキスライムは思わぬ形で、我が使い魔となったのでした。