第五十三話〜お子ちゃまが泊まりに来た〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の鍛冶屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気をしている。
久しぶりに家族とのスローライフを満喫した次の日。
「「「いただきまーす」」」
私はフユナ、レヴィナと共に今日も朝からスローライフを満喫していた。ただ朝食を食べているだけだが。
「うまうま」
「もぐもぐ」
「んぐんぐ……」
うむ。今日も平和で良いことだ。先の予定に急かされることなく朝食に楽しめるなんてスローライフそのもの。
するとそこへ……
ドンドン!
「うわ、何?」
突然、我が家の玄関から激しい音が聞こえてきた。ノックしてくる以上は知り合いだとは思うが……
「フユナとレヴィナはここにいてね」
「うん」
「は、はい……」
二人にそれだけ言い残して私は玄関に向かった。
「はいはい、誰ですか?」
まったく。せっかくの平和な時間なのに。そこで扉が勢いよく開け放たれた。
出たな、我が家の静寂を乱す輩めっ!
「ルノちゃーん!」
「とりゃ!」
「うぎゃあああ!?」
私は、我が家の静寂を乱す輩。サトリさんを氷漬けにしてやった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
朝からまさかのサトリさん登場。玄関ではあれなのでサトリさんはリビングまだ持ってきた。『持ってきた』といったのは氷漬けのままだから。
「我が家の静寂を乱すなんて許せません。何か言い残すことはありますか?」
「ちょっとルノちゃん! いつからそんな悪魔になっちゃったの!?」
「私は昨日から家族との時間を大切にしようと決めたんです」
「ちょっとー!? フユナちゃん! レヴィナさん! 助けてー!」
むむ、フユナとレヴィナを仲間に引き入れようとはこしゃくな……
「ルノ、もう解放してあげたら?」
「そ、そうですよ……このまま飾っておくわけにも……」
『このまま飾っておく』か……それも面白そうだけど。
「ふふふ……二人とも。これをもってごらん」
「「???」」
私が差し出したのはスフレベルグの羽。それをフユナとレヴィナに一本ずつ持ってもらう。
「フユナ、こっちに来て?」
「うん……?」
「ちょっと、ルノちゃん……?」
私はフユナを呼んで氷漬けで身動きの取れないサトリさんの横まで来た。ちなみにサトリさんは顔だけ出ている状態。
私は羽を持ったフユナの手を取って……
「ほら。これをこうして……こちょこちょ」
サトリさんの鼻に羽をかすらせる。
「はっ……ふぇ……!?」
「ぷっ!」
「サトリちゃん……くすくす!」
サトリさんの鼻の穴が大きくなったり小さくなったり。女性にあるまじき顔である。
「ぶえっくしょん!!」
「ぷふっ! ほら、レヴィナもおいで」
「は、はい……ふふふ」
「ちょっと! みんな怖い!?」
こうして私達は思い思いにサトリさんにお仕置きをしていった。
数分後。
「げそー……」
「「「……」」」
くしゃみのしすぎですっかり大人しくなってしまったサトリさん。
「それで、サトリさん。今日は一体どうしたんですか?」
「あ、あぁ。実はちょっと姉さんと喧嘩しちゃってさ。そのまま飛び出してきた。だから今日からルノちゃんの家族になる」
「それまた急ですね」
「だって……だってぇ……ぐす」
「ほらほら、泣かないでください。こちょこちょ」
「はふん!? ちょ、ちょっと! 耳をくすぐらないでー!」
「くすくす!」
「ふふふ……私も……」
なんだかレヴィナがやけに乗り気だな。これはまさかのドS疑惑浮上だな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一通りサトリさんをくすぐり倒した後、話を聞いてみると……サトリさんはお姉さんと喧嘩してしまい、いじけているらしい。
「いや、ちょっと語弊が。それだとわたしがお子ちゃまみたいな感じがする」
「え、だって……デザートに取っておいた『いちごのロールケーキ・ホイップクリーム乗せ』を食べられちゃったから喧嘩してたんでしょ?」
「うん」
それをお子ちゃまと言わず、なんと言うのか。
「だからさ、今日だけわたしはルノちゃんの家族になる!」
氷から解放されたサトリさんがそんな事を言っている。今日だけとかただ泊まりに来たみたい。家出してきたみたいなノリなのにちゃんと明日には帰るところが可愛い。
「まぁ、そういうことなら別にいいですけどね」
「さんきゅー! ルノちゃん!」
という訳でサトリさんのお泊まりが決定。
「……という訳でここがサトリさんのお部屋になります」
現在、私達がいるのはツリーハウス。一日だけとはいえ、家族になるのだから掃除くらいしてもらおうとか思ったり思わなかったり。
「あの、ルノちゃん? ここホコリがすごいんだけど。イモムシとかいるし」
「それはワタシの食事です」
「あ、やっぱり?」
ツリーハウスはもはやスフレベルグの小屋みたいなものだから仕方ない。
「しょうがない。ちゃちゃっと掃除しちゃおうか。はい」
「え?」
グイッっと箒を押し付けられた。
「え? じゃないよ! ルノちゃんもやるんだからね!」
「えー」
「えーじゃない。本来はルノちゃんが管理してないといけないんだから!」
うぐ、確かに。
「せっかく、サトリさんで綺麗にしちゃおうと思ってたのに……」
「心の声がダダ漏れだよ! さ、掃除掃除!」
「ひぇー!」
「ほら、フユナちゃんとレヴィナさんも! (ギンッ!)」
「サトリちゃん怖い……」
「ひぃ……」
どうやらくすぐりの刑のことを恨んでいるみたい。まるでお姉さんみたいな目付きだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そうして急遽始まった掃除は、サトリさんの手際が良さと支配力ですぐに終わった。さすが看板娘。
「疲れた……なんだかお姉さんがいるみたい」
「呼びましたか、ルノさん?」
「えっ……!?」
「はは、冗談だよ」
「今のサトリさんだと冗談に聞こえないところが怖い……」
「んじゃ、泊めてもらうだけってのも悪いから今日の夕飯はわたしが作ってあげるよ」
「やったー!」
「楽しみですね……」
フユナとレヴィナが喜んでいる。サトリさんは料理も上手だからなぁ。
「あ、でもサトリさん何か忘れてませんか?」
「ん、なに?」
「ちょうどお昼なので、良かったらお昼ご飯も作ってください」
「悪魔!」
こうして、新たな家族(?)が一人増えて、今日も一日が始まるのでした。