第五十一話〜カフェに取材が来た〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の鍛冶屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気をしている。
「いらっしゃいませー!」
ある日のこと。
私・フユナ・レヴィナの三人でカフェにやってきた。お馴染みの看板娘・サトリさんが出迎えてくれる。
「おはようございます。今日は朝から混んでますね」
「そうなんだよ。この前のフェアでたくさんの人に食べてもらえてさ。さらに人気が出ちゃったよ」
「良かったね、サトリちゃん」
「私も今日はそれ目当てで来ました……」
そう。今まさに人気絶頂の品『ルノサンド』と『いちごのロールケーキ・ホイップクリーム乗せ』その内の一つを私達は食べに来たのだ。
ちなみに『ルノサンド』の作り方はお姉さんに教えてあるので私がいなくても問題ない。
「今日はあんまり話せないけどごめんね。まぁ、ゆっくりしていってよ」
そう言ってサトリさんは仕事に戻ってしまった。
「仕方ないか。んじゃいつもの席に行こっか」
「おー」
「いちごのロールケーキ……ふふ」
人気なのは嬉しいがあの落ち着いた雰囲気が無くなるのはちょっといやだな……なんて思いながらいつものテラス席に座る。
私達はそれぞれ『いちごのロールケーキ・ホイップクリーム乗せ』とコーヒーがセットになっているものを注文した。
「お待たせしましたー!」
「ありがとうございます」
今のサトリさんは完全に仕事モードだ。注文した品を持ってきたと思ったらすぐに行ってしまった。確かに話せる雰囲気じゃないな……
「いや、むしろこれが普通なのかな? 感覚が麻痺してるな」
「今日はサトリちゃん、セットに付いてこないね」
「今日は混んでますからね……」
フユナとレヴィナは微妙におかしなを話していた。
しばらくすると、店内にやけにキッチリした格好の人が入ってきた。その人は注文と同時にサトリさんと何かを話しているようだった。
「なんだろ? まぁいっか」
そうして、私達はそれぞれ『いちごのロールケーキ・ホイップクリーム乗せ』に舌鼓を打ってその日は帰った。
次の日。
トントン
珍しく朝から人が訪ねてきた。このパターンはまさか……?
「いらっしゃい、カラットさん」
「やぁ、ルノちん。おはよう! ……って違うわ!」
「ぐふっ!?」
テンション高めなサトリさんのツッコミが私のお腹に命中した。
「な、なんですか……今日は朝からご機嫌ですね」
「ふっふっふっ。聞くがいい、ルノちゃん。なんと……」
「ぽけー……」
「ちょっと! もうちょっと期待してよ!」
「はっ……!? ご、ごめんなさい。寝起きなもので……てへ」
「こ、こほん。じゃあ気を取り直して。な、なんと!?」
「ぽけー……」
「……」
「ぽけー……」
「なんと私達のカフェに取材が来る事になりました! フーー! やっほーい!」
「すやー……」
ふーむ。眠くてよく聞こえなかったがそういう事らしい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その後、一旦サトリさんには上がってもらった。場所をリビングに移して先程の続きだ。
「なんと私達のカフェに取材が来る事になりました! フーー! やっほーい!」
「はい。それはもう聞きました」
「上に『眠くてよく聞こえなかった』って書いてあるじゃん!?」
「あれはそういうフリです。それで、なぜ私までカフェに?」
「つまり……この二つの人気商品が誕生したのはルノちゃんのおかげでもある。ということで、開発した一人として取材を受けてほしいんだよ」
「えぇ……? 私、大したことしてませんよ?」
『ルノサンド』はロッキサンドをちょっとアレンジしただけだし『いちごのロールケーキ・ホイップクリーム乗せ』だってちょこっと案を出しただけで作ったのはお姉さんだ。
「そんな謙遜しなくていいんだよ! 姉さんだってそう言ってるんだから!」
「はぁ……分かりました。私なんかで良ければ」
「あっりがとールノちゃん! ちゅちゅちゅ!」
「うわっ!?」
なんだか今日のサトリさんはおかしい! 相当テンション上がってるな。
「それで……その取材はいつやるんですか?」
「今日だよ」
「え?」
「もちろん今日だよ」
「私、何も準備してないですよ?」
「平気平気! 取材って言っても『どうやって作ったんですか?』とか『思いついたきっかけは?』とか聞かれるくらいだよ。あとはテキトーにルノちゃんスマイルを振りまいといて」
「ふむふむ」
まぁ、それくらいなら問題ないか。それにあくまでメインになるのはカフェを運営してるお姉さんやサトリさんだもんね。
「もし良ければフユナちゃんとかレヴィナさんも来ていいからね。取材してる間になんか食べたりしてていいからさ」
「わーい、行く行く!」
「私もぜひ……」
「じゃあ、準備しますからちょっとだけ待っててください」
「あ、服は何でもいいからね。どうせ向こうで着替えてもらうから」
「……? 分かりました」
何だろ? 嫌な予感……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私達はすぐにカフェにやって来た。
どうやら今日は取材があるのでお店は休みらしい。サトリさんとお姉さんが出迎えてくれた。
「今日は皆さん、よろしくお願いしますね。」
「ささ、入って入って。とりあえず更衣室に行って着替えるよ」
ん? この流れってアルバイトした時と同じなような気がする。案の定……
「おぉ、やっぱりレヴィナさんは似合うね! あ、もちろんフユナちゃんも似合ってるよ!」
「あの……なんでフユナとレヴィナまで?」
「いやーやっぱり取材なんだから華がないとさ? 取材は基本的に私と姉さん。あとルノちゃんが受けるから二人はそのへんで食べたり飲んだりしてくつろいでていいよ」
ひどい! 私には華がないって言うの!? 私はただの商品開発なの!?
「あ、もちろんルノちゃんにも華はあるよ? うん」
「……」
フォローが逆に辛かった。
そんなことをしているうちに取材の人が来たみたいだ。よく見たらあれ、昨日カフェに来てた人だ……なるほど。
取材はホールのテーブルの一つを使って行われる。その場には私・サトリさん・お姉さん。そして取材の人がいる
「本日はよろしくお願いします。早速質問ですが、この『ルノサンド』を作った方は?」
「はい。こちらのルノさんです」
「なるほど。では、ルノさんにお聞きしますが『ルノサンド』を開発したきっかけは?」
ふふん、定番の質問が来たな。
「はい、それはお客様の満足と健康を考えて……あれこれペラペラーー(ニコッ)」
「なるほど。味だけでなく健康にまで配慮されているんですね……素晴らしい!」
よしよし。上手く受け答えできたぞ。案外簡単かもね。
「では次に『いちごのロールケーキ・ホイップクリーム乗せ』の方は?」
「それは私です(ドヤァ)」
うわぁ、お姉さんがものすごいドヤ顔で言ってる……いや、間違ってはいないけど。
「これは現在流行しているだろう味をイメージして作りました。ありがたい事にお客様にも満足してだいているみたいで何よりです」
「ふむふむ。流行を的確に見抜く店主さんがいてこそのカフェというわけですね!」
なんかお姉さんに全部持っていかれちゃったみたい。するとそこで……
「では、ちょうどいいのであちらの店員さん方にも感想を聞いてみましょう!」
「「「あっ!?」」」
まさかの不意打ち。私達三人が驚いている間に取材の人はフユナとレヴィナさんの所まで行ってしまった。
「少々お時間よろしいですか? お味はいかがですか?」
「え? は、はい。とっても、美味しいです」
レヴィナがちょっと驚いているがあれくらいなら大丈夫かな?
そんな風に私達が安心していると。
「これはね、ルノがロッキサンドに」
「フユナっ!?」
ヤバい! これはヤバいぞ! いや、パクってない! あれはあくまで私が既存の品にちょっと手を加えただけのオリジナルだ!
「し、仕方ない……!?」
ごめんよ、フユナ!
「とりゃ!」
「ちょっと手を加えただけの……むぐ〜〜!?」
ピキーン!っとフユナが口を氷漬けになった。
「むぐ〜〜!? むぐぐ〜〜!?」
「ど、どうされました?」
フユナはテーブルに突っ伏してしまっている。するとレヴィナが。
「どうやら、美味しすぎて感動しているみたいですね……!? いつもこうなんですよ……ははは」
「な、なるほど。ご協力ありがとうございました!」
そうして、フユナとレヴィナへの取材はなんとか無事に終わった。ナイス、レヴィナ!
「あ、危なかった……」
「何焦ってるの、ルノちゃん?」
「い、いえ! てへぺろ!?」
そんなこんなで取材はついに終盤。
「では、最後に……このカフェをオープンしたきっかけはございますか?」
「きっかけですか」
「ふふ」
サトリさんがちょっと笑った。
「……そんなに複雑な事ではありませんよ。自分のカフェを持ちたい。という小さい頃からの私の夢だったんです。それを妹のサトリや、こちらのルノさん。そしてあちらにいるフユナさんやレヴィナさんに支えてもらって今日までやってこれたんです」
「なるほど。店主さんは周りの方々に愛されていらっしゃるんですね!」
「……」
お姉さんが黙り込んでしまった。顔が赤い。
「そうなんですよー! でも姉さんは素直じゃないからあまり表に出さなくて! あはは!」
「ふふっ……そうですか。わかりました! それでは本日の取材はこれで終わりです。ご協力ありがとうございました!」
こうして、お姉さんの語られることのなかった気持ちを知ることができ、取材を受けたかいもあったなぁ、なんて思った私だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
取材が終了した後の店内では『ルノサンド』と『いちごのロールケーキ・ホイップクリーム乗せ』パーティーが行われていた。
「お疲れ、みんな!」
そんなサトリの声と共に乾杯をする。
「一時は焦ったりもしたけど無事に終わってよかったよ。ありがとね、みんな!」
「ふっふっふっ。大したことは」
「じろーー……」
「あ……!? て、てへぺろ……?」
「ぷいっ」
ガーン……フユナに嫌われた……!?
「では改めて。ルノさん、フユナさん、レヴィナさん。今日はありがとうございました。取材でも言いましたがあなた達の協力もあって今日までやってこれてます」
お姉さんがストレートに感謝の気持ちを伝えてきた。
「もしかしたら今後も助けて頂くことがあるかも知れませんが……その時はよろしくお願いします」
「そ、そんな。こちらこそ……!」
「がんばってね、お姉さん!」
「ま、またお手伝いに来ます……」
こうして。
私達は取材を通して新たなる絆が芽生えたような気がした。これからも長いお付き合いになるのでこちらこそよろしくお願いします。
その後。
「はぁ……お姉さんとの絆と引き換えに、フユナとの絆を失うところだった……」
フユナの口を氷漬けにした件は、謝り続けてなんとか許してもらえたのでした。