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☆氷の魔女のスローライフ☆  作者: にゃんたこ
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第005話〜風邪の魔女・ルノ〜


〜〜登場人物〜〜



ルノ (氷の魔女)

物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。


サトリ (風の魔女・風の双剣使い)

ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。


フユナ (氷のスライム)

氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降はルノの魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。


カラット (魔女・鍛冶師)

村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。


 



 季節は夏。春を彩っていた色鮮やかな草花たちも終わりを告げ、本格的に暑くなり始めたある日のこと。


 世間の誰もが肌を焼くような暑さに苦しむ中、私達はそんなものとは無縁の実に快適な暮らしをしていた。なんと言っても私は氷の魔女、そしてフユナは氷のスライム。その特権は存分に使わせてもらう。



「はぁ〜〜この暑い季節になると、自分が氷の魔女で良かったと心の底から思うよ」


「ルノがいれば夏でもへっちゃらだね」



 今現在、私達が寛いでいるリビング、その中央のテーブルには、魔法で生み出した特大の氷がどかっと置かれ、ひんやりとした冷気が部屋を満たしている。



「あっ、氷が溶けてきちゃった。ふーー!」


「おぉ。ナイスフユナ」



 フユナはフユナで、氷が溶けないように冷気を出したりして、それがまたクーラーのようで、部屋の冷却に一役買っている。そしてこれでもかとばかりに、氷属性がエンチャントされた双剣『カラット・カラット』をタオルで包んでおでこに当てている。そんな使い方もあるのね。



「それにしても、こうも快適だと外に出る気がしないねぇ。フユナ、私にもそれ片っぽ貸してよ」


「うん、はい」


「ありがとーー」



 そんな調子で、ひたすらにだらけること数時間。そろそろお昼ご飯を食べてもいい頃だが、肝心のお腹の虫が鳴く気配がまるで無い。いくら涼しくてもやはり夏。食欲があまり湧かないのは問題だ。



「うーーん。何かしら食べた方が良いんだろうけどなぁ。フユナ、お腹が空いた?」


「ううん。……これ、お昼ご飯じゃ駄目かな?」



 フユナが指先でツルツルと擦りながら示すのは件の特大氷。なるほど、かき氷とか?



「いいね。ご飯として扱っていいかは微妙だけど、今日くらいはいっか」


「やったーー!」


 

 というわけで、私達は思い思いに双剣で氷を削ってお椀に盛っていく。使ってて思ったけど便利だな、双剣。



「ふっふっ。ヒュンガル山の完成!」


「あっ、いいなぁ。フユナもそれやろーーっと!」



 そんな山の如く盛られたかき氷には、仕上げとしてミルクに砂糖を溶かしたシロップや、ハチミツをかけていただく。



「んーー最高。次はヒュンガル山二倍盛りだ!」


「ふふーーん♪ フユナは三倍だよ〜〜」


「それなら私はさらに倍だ!」


「むむ……!」


 食べては盛り食べては盛り。次々と胃の中に消えていくかき氷達のおかげで、中からも外からも冷やされお腹もいっぱい。夜はさすがにちゃんとしたご飯を食べようと考えていたがそれも残念な結果に終わった。



「さーーてと。寝る前にもう一杯だけかき氷食べようかな」


「じゃあ最後だからミルクとハチミツ両方かけちゃおっと!」


「あ、それいいね。やっぱりもう一杯!」



 その結果……



「へっくしゅっ!」


「ルノ、大丈夫?」



 次の日の朝。我が家に虚しく響いたのは大きなくしゃみ。私は見事に風邪をひいてしまいましたとさ。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「へっくしゅ! へーーっくしゅ! さ、さむい……。なんでフユナだけ平気なの。ずるい……」


「ほんとに大丈夫? お医者さん呼ぼうか?」


「やだぁ……フユナと二人きりがいい……」


「もう……」



 体調を崩しておかしな事を言う私のおでこに手を当てて冷やしてくれているフユナ。氷の魔女も所詮は人間。そしてフユナは氷のスライム。私だけ風邪をひいたのは……そういう事だろう。やっぱりずるい。



「うぅーー……」


「わわっ!?」


「あぁ……ひんやりして気持ちいい。このまま一緒に寝よ……」



 にゅっと布団の中から手を伸ばしてベッドの横にいたフユナを抱きしめる私。新しい家族が出来たことにより、一人になることに不安を抱くようになってしまったらしい。



「ル、ルノ! これ以上冷やしたら風邪が悪化しちゃうよ!」


「ぶるぶる……だけど一人の方がもっとやだぁ……」



 不安を抱くと必然的に人肌……いや、フユナ肌が恋しくなってくる。全身満遍なくひんやりしていたので温もりもへったくれも無かったけど。



「うぅ……どんどん寒くなっていく……私はもうダメなんだ……」


「よいしょっと。だから言ったのに。ただの風邪ならちゃんとご飯食べて寝てれば大丈夫だよ。何か作ってくるね」



 私の抱擁から抜け出したフユナはそう言ってキッチンへと向かっていった。私の為のご飯を作ってくれるらしい。なんて出来る子なんだ。



「でもやだぁ……! 一人にしないでぇ……! ご飯ならここで作ってぇ……!」


「だーーめ。すぐに戻ってくるから待っててね」


「ぐすっ。フユナのばかぁ……まぬけぇ……」



 パタンと静かに閉められた扉に向けて放たれた言葉は虚しく響くばかり。風邪の影響か、今の自分はとても小さな存在になってしまったかのように感じた。


 それからしばらく孤独と戦っていると、三十分もしないうちにフユナが戻ってきた。お盆の上に乗っている小さなお鍋からは卵を使ったお粥のいい匂いがする。



「フユナの愛を感じる……このままずっと風邪でもいいかも……」


「何言ってるの? 変なこと言ってないでほら、あったまるから食べよう」


「………………食べさせて」


「もう。しょうがないなぁ」



 フユナはなんだかんだ言いながら、慈愛に満ちた微笑みを浮かべながら食べさせてくれた。これじゃどっちが親か分からないな。



「はい。食べたらちゃんと寝ましょうね」


「やだぁーー! そんなこと言って、私が寝たら部屋から出て行っちゃうんだ……。そのまま家から出て行っちゃうんだ……。寝るまで側にいて。寝てからも側にいて。起きてからも側にいてぇ……!」


「はいはい、ずっと一緒にいるから大丈夫だよ」


「なんかものすごく嬉しいこと言われた気がする……」


「ほんとにもう。でも、ルノって風邪引くと別人みたいだね。ちょっと可愛い……」


「うぅ……こんな幸せな日に風邪で寝込んでる自分が許せない……」


「ふふっ」



 フユナもまんざらでもないのか、結局、私が眠りにつくまでベッドの横でずっと頭を撫でていてくれた。そんな真っ直ぐすぎる愛情がくすぐったいやら嬉しいやら、されるがままの私は、あっという間に心地よい眠りへと誘われていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「うぅ……ん……」



 あれから何時間くらい寝ただろうか。私が目覚めた時には既に外は真っ暗。思いの外、深い眠りについていたみたいだ。



「あ、起きた?」



 声の方向に視線を向けると、そこには私が眠りに落ちる前と変わらないフユナの姿がある。そのまま視線を下げると、膝の上に乗っている一冊の本『双剣使い・サトりんのワクワク冒険記』が目に入った。



「もしかして……ずっと側についててくれたの?」


「うん。ルノがワガママさんだったからね。体調はどう?」


「あ、うん。まだ身体が重い気がするけど、とりあえず熱は下がった……かな。ありがとうね」


「どういたしまして。でも今夜はまだゆっくり休んでないとだめだよ?」


「はーーい……」



 そして、ちょうどお腹も空いたということで、夕飯はフユナのお手製の料理を一緒にいただく。やっぱり体調を崩したりした時に、家族がいるととてもありがたい。



「ごちそうさまでした。それにしても、フユナは立派なお嫁さんになれそうだねぇ」


「お嫁さん?」


「うんうん。優しく看病してくれて、料理も上手だし。あ、でもフユナが出て行っちゃうのは嫌だなぁ」


「また熱でも出たの?」


「え、なんで?」


「眠る前も似たような事を言ってたよ? 二人きりがいいとか、側にいてとか」


「えぇ……!?」



 確かに言った。……ような夢を見た気がしていたけど現実だったのか。こりゃ、恥ずかしいぞ。



「子供みたいで可愛かったなぁ。ルノも言ってたけど、少しくらいの風邪なら治らないでいても良かったかもね。ふふっ♪」


「ひどい……!? フユナのばか……まぬけ……」


「ルノが言ってたのに……」



 言われれば言われるほど記憶が甦ってきてひたすらに恥ずかしくなってくる。顔が真っ赤になり、フユナの顔も見ることが出来なくなった私は、いじけるように枕に顔を埋めた。



「まぁでも、風邪を引いてある意味幸せだったから良しとしよう」


「ふふっ、そうだね」



 今思えば、フユナもよく笑うようになった。それを発見できた意味でも今回、風邪を引いて良かったと言える。これからもどんどん新しい一面を見せて欲しいものだ。



「さてと。なんだか元気が出てきたし、寝てる間に汗かいちゃったみたいだから、お風呂入ろうかな」


「あんまり長湯したらだめだよ?」


「え、一緒に入らないの?」


「ルノが寝てる間に入っちゃった。てへ」


「しょぼーーん……」



 ということで本日は一人のお風呂となってしまったがそれも仕方ない。少々残念な気持ちを抱えつつも、入浴を終えて部屋に戻ると、フユナが椅子に座ったまま寝てしまっていた。



「あらら……ずっと私の看病でしてて疲れちゃったのかな。こうして見るとやっぱり子供みたいだ」



 そんなことを言いながらフユナ横に移動した私は、寝顔を堪能しつつ、お返しとばかりに頭を撫でてあげた。うーーん、本当にかわいい。



「ふぁぁ……私ももう寝ようかな。今日はありがとね。おやすみ、フユナ」



 私はそのまま可愛い寝顔のフユナを抱えてベッドに入り、眠りについた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 そして次の日。



「へっくしゅ! な、なんで……!? へーーっくしゅ!」


「あっ、また可愛いルノだ」



 私に抱かれたまま、目を輝かせて見つめてくるフユナ。なんか喜んでるような……?



「うぅ……さ、さむい……。寒い?」



 答えは至って単純だった。昨日の夜、お風呂上がりに髪も乾かさずに、しかもひんやりとしたフユナを抱いて寝たのが原因だったらしい。



「はいはい、風邪ならゆっくり寝てないとだめだよ。よしよし」


「うぅ……幸せ」





 結局、私はその日も一日中フユナに可愛がられ、幸せな一日を過ごしたのでした。




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