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☆氷の魔女のスローライフ☆  作者: にゃんたこ
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第四十九話〜認められる喜び〜


〜〜登場人物〜〜



ルノ (氷の魔女)

物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。


サトリ (風の魔女・風の双剣使い)

ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。


フユナ (氷のスライム)

氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。


カラット (炎の魔女・鍛冶師)

村の鍛冶屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。


グロッタ (フェンリル)

とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。


ランペッジ (雷の双剣使い)

ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。


スフレベルグ (フレスベルグ)

白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。


レヴィナ (ネクロマンサー)

劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気をしている。

 



 サトリさんの提案によって再びアルバイトをする事になった。その当日の朝。



「んー……朝か……出かける準備しないと。んっ?」



 ふと視線を横に向けると布団が何やら丸く盛り上がっていた。誰かが中にいるらしい。誰かと言っても一人しかいないが。



「レヴィナ、起きてるの?」


「は、はい……緊張して眠れませんでした……」



 そう言ってレヴィナが顔だけ出してきた。亀みたい。



「そんな大げさな……昨日、サトリさんも言ってたけどお手伝いするくらいの気持ちでいいんだよ?」


「はい……完璧なお手伝いを……してみせます……」



 だめだこりゃ。なんとか緊張をほぐしてあげないとな。



「ん……」



 目の前には布団の中で丸まっているレヴィナ。これほどイタズラするのに適した状況はそうそう無いんじゃないかな? これはチャンス。



「とりゃ」


「うわっ!?」



 私は布団の上から覆いかぶさった。これでレヴィナは顔以外は動かせない。



「こちょこちょ……」


「ふっ!? ……くっ! ぷふっ!」



 何でもいいからとにかく笑わせる。そうすれば緊張もほぐれるはず。



「どう、レヴィナ。緊張のし過ぎは良くないよ? こちょこちょ……」


「ふふっ! あははっ!」



 おぉ。なんだかレヴィナの新たな一面を発見した気がする。



「ふふ……その笑顔、最高だよ。今日の接客でもきっと役に立つよ。ツンツン」


「くふっ!? ルノさん……ぷっ! もうやめてっ!」


「リラックスできた? まだならリラックスできるまで続くよ。ふふ……」


「できました! くくっ……! できましたからー!」


「そう? それなら良かったよ。……おまけ」


「!? ……ぶふっ! あははっ!!」



 最後のくすぐりで今日一番の笑い声が響いた。


 朝から騒いでいると、ちょうどフユナも起きたので三人でリビングまで降りてきた。



「はい、ルノサンド作ったから食べてね」


「いただきまーす」


「ルノさんがルノサンドを……ふふっ!」



 なんだかレヴィナが笑いに目覚めてしまったみたいだ。別に狙ったわけじゃないんだけど……とにかくレヴィナ緊張もほぐれたし、結果オーライだ。



「よし。んじゃ、朝ご飯も食べたし出かけるよ!」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「では、本日はよろしくお願いします」



 カフェに来た私達を出迎えてくれたのはお姉さん。サトリさんは中で掃除してるみたい。



「あ、あの……ルノさん? サトリさん……なんか怒ってませんか?」


「え?」



 あっ、そうか。お姉さんはサトリさんと瓜二つだから区別がつかないよね。私は喋り方で分かったけど。



「レヴィナ。あれはサトリさんのお姉さんの方だよ。見極め方は簡単。極悪な話し方をする方がお姉さんだよ」


「そ、そうだったんですね……あっ!?」


「実はもう一つあってね。脇腹をつついて『あふん』って言ったらそれまたお姉さんだよ」


「ルノさん……朝から随分と口が回るようですね?」



 ぞくぞくっ……いやな予感……!



「このゾンビ以上の悪寒はもしかして……」



 振り向くと、お姉さんがすぐ近くまで来ていた。



「おはようございます(メキッ)」


「ぎゃあああ!? ごめんなさいごめんなさい! てへぺろてへぺろ!」



 なんだかこのやり取りも久しぶりだなぁ。全然嬉しくないけど……



「あなたがレヴィナさんですね? サトリの姉です。今日はよろしくお願いしますね」


「は、はい……! こちらこそよろしくお願いします!」


「ちょ、ちょっとお姉さん!? 今日はいたぶる時間が長いですよー!?」



 それからもお姉さんとレヴィナの会話があったが頭が潰れそうで全く内容が頭に入ってこなかった。



 その後、私達は前回と同じ更衣室に案内された。その頃、サトリさんもやって来た。



「ルノちゃんは懲りないね。実は嬉しいんでしょ?」


「そんなことありませんよ。私はグロッタと違ってドMじゃないんですから……」


「姉さんの方はあれでけっこう楽しんでると思うよ?」


「まさかのドS!」



 何となくそんな気もしてたけどね。そんな話をしているうちにフユナとレヴィナは着替えを済ませていた。



「おぉ、レヴィナさん似合うね」


「確かに。これはフユナと合わせてこのカフェの二枚看板だね」


「あ、ありがとうございます……」


「ルノちゃん、わたしは?」


「サトリさんは看板を立てる棒です」


「ひどい!」



 おっと、私も早く着替えないとドSお姉さんに怒られてしまう。



「それにしてもなんだかんだでルノちゃん達もこのカフェに馴染んできたね。従業員として」


「あはは……一回きりのネタかと思ってたんですけどね」



 このままいくと、ここの社員にまで昇格しそうだな。



「よし。着替え終わりました」


「オッケー! んじゃ行こっか」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 本日のポジション。



 厨房 : お姉さん、私


 接客 : サトリさん、フユナ、レヴィナ



「……」


「レヴィナさん、一緒にがんばろうね」


「は、はい……!」


「フユナちゃん。レヴィナさん。接客は楽しんでなんぼだよ!」



 またお姉さんと一緒になってしまった。まさか、今後このカフェで働く時はいつもこうなのか?



「だとしたらもうここで働くのは……」


「何をぶつぶつ言ってるんですか。ほら、行きますよ」


「ひぇ……!?」



 こうして私は心の準備をする間もなく連れていかれた。



「あ、あのお姉さん? ぶっちゃけもう厨房はできるので接客に回ってもいいですか? お姉さんが悲鳴を上げたら厨房に行くので……」


「そしたら、ルノさんがずっと接客になってしまうではありませんか。私は悲鳴を上げたりしません」


「ガク……」


「それに今日は『ルノサンド』と『いちごのロールケーキ・ホイップクリーム乗せ』のダブルフェアです。どちらが欠けても厨房が回らなくなりますよ」



 ふむふむ、そういう事なら仕方ないか。



「それにしても、二つともすごく人気なんですね」


「えぇ。これもルノさんのおかげですよ」



 まったく……そんな風に言われたら頑張るしかなくなってしまうではないか。



 よーし、やるぞ! と意気込んだ頃、開店時間がやってきた。厨房は前回とあまり変わらず、ひたすらにルノサンドを作るばかりだった。


 一方、接客のみんなの方は……フユナはもう三回目だから大丈夫として、レヴィナはどうだろうか?



「ルノサンド三つお願いします!」



 そんな声が聞こえてきた。でも誰? 完全に男の声なんだけど……



「あっ……!? コックっぽい人!」



 これレヴィナのゾンビだ! 格好こそコックではないものの、これはあの時のゾンビだよ!



「それじゃあレヴィナは……?」



 周りを見回してみると……いた。レジでお会計係をやっている。お会計ならそんなに時間取られないらしく、手が空くとゾンビに命令を出しているようだった。



「まさかの一人二役……」



 しかし、レヴィナがお会計している時にゾンビがひと仕事終えると、命令が出せないので止まってしまう。それも棒立ちだからちょっと面白い。



「うんうん。なんだかんだでうまくやれてるみたいで良かった」


「なにが良かったんですか?」


「あ、お姉さん。ほら、レヴィナもちゃんとやれてて安心だなーって」


「それであなたがサボってたら意味無いでしょう?」


「ぎゃあああ!? ごめんなさい!」



 レヴィナの働きぶりに感心している間にルノサンドのオーダーが十個ほど貯まっていた。


 そうしてその日は接客メンバーは大健闘したものの、私は最初のサボりもあって最後まで悲鳴を上げ続ける事となってしまった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 そうして、すっかり夜になり閉店時間がやって来た。本日も無事に終わって……



「ないですよ、ルノさん?」


「ひぃーー!?」



 私とお姉さんは現在、皿洗いをしている。閉店時間で帰ったお客さん達の分が一気に来たのだ。



「よ、よし……これで最後……!」


「はい、お疲れ様でした」



 ようやく終わった。閉店時間だからって完全に気を抜いてたな。この反省は次に……



「いやいや! なんで次の事まで考えてるの、私!」


「お、ルノちゃんお疲れー!」



 厨房から出ると閉店時間の店内でサトリさん達がちょっとした打ち上げみたいな感じで食べたり飲んだりしていた。



「お疲れ様です。最後の最後でお皿に襲われました」


「はは、厨房は最後が大変だからねぇ」


「まったくです。フユナとレヴィナもお疲れ様」


「ルノ、お疲れ様ー!」


「お、お疲れ様です……」



 どうやら二人ともやり切ったみたいだ。表情がスッキリしている気がする。



「レヴィナはまさかの一人二役だったね。オーダー来た時びっくりしたよ」


「ふふ……私の魔法が役に立ったみたいで良かったです」



 今回のアルバイトでレヴィナはいろんな部分で自信を持てるようになったみたいだ。今朝のような緊張はもう微塵も感じられなかった。



「よーし! 無事に終わった事だし、私もいただこうかな。いただきま」


「ルノさん」


「ん、なんですか? お姉さんは一緒に食べないんですか?」


「まだ厨房の片付けが残ってますよ」


「……」



 私の夕飯はまだまだ先になりそうだ。



 数十分後。



「お疲れ……様です……」


「ルノちゃんがゾンビ化した」


「くすくす」


「お、お疲れ様です。ルノさん……ふふっ」



 なんか疲れて戻ってきただけなのに笑われてる!



「ふふ、ルノさんは愛されてるのですね」



 そう言いながらドS疑惑のあるお姉さんが私の後から入ってきた。



「皆さん、本日はお疲れ様でした。フユナさん。レヴィナさん。……あと、ルノさん。とても助かりましたよ」


「やっぱり私の扱いにだけドS心を感じる……」



 まぁ、それもこうして二度目の厨房仕事を共にしたことによる信頼と受け取っておこう。



「これが本日のお給料です」


「「「ありがとうございます」」」



 私達は声を揃えて受け取った。するとお姉さんが。



「それと、レヴィナさん」


「は、はい……?」


「今日の仕事ぶりはしっかり見させてもらいましたよ。あなたさえ良ければまたいつでもうちで働いてくださいね。もちろんルノさんやフユナさんも歓迎しますよ」



 そう言って微笑むお姉さん。なんだかそうストレートに言われると照れてしまう。



「あ、ありがとうございます……!」



 中でも一番嬉しそうだったのはレヴィナだった。友達ともまた違うが、こうして認めてもらったことが嬉しいらしい。

 お手伝いのつもりで来ただけだったけど、予想以上の収穫があったな。






「良かったね、レヴィナ」


「はい……! 今日はありがとうございました!」



 そう言ってレヴィナその場にいる全員に向けて感謝の気持ちを伝えたのでした。




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