第四十五話〜劇団がやって来た〜
本日の天気は晴れ。風も穏やかで過ごしやすい。
そんな中、私は庭に設置してあるテーブルでくつろいでいる。
「ぽけーー」
特に何かをしている訳でもなくただただのんびりと過ごしている。その横では……
「はい、グロッタ。取ってきてねーー!」
「ワンワン!」
フユナが魔法で作り出した氷を投げて、それをグロッタが取りに行っている。愛犬と戯れているようなやり取りだが、グロッタは犬ではなくフェンリルなので迫力が桁違いだ。
「ワンワンか……懐かしいな」
グロッタがこの家に来た当初は『あなたフェンリルでしょ!』なんて思ってたっけか。
「あの日から今日まで、こうして変わらぬ毎日を過ごせてるのはいいことだよねぇ。平和平和」
「ほら、グロッタ。もう一回行くよーー! あっ!」
「ワンワン!」
ん……なんか嫌な予感。
「ちょ……グロッタ……来ないでよ? 来ないでよ!? フリじゃないからね!」
ドドドド! ゴシャ!
「うぎゃ!?」
「ぐはっ!?」
「サササッ……!」
フユナの手元が狂ってそのままグロッタが突っ込んで来た。フユナが急いで隠れてしまったけど私は見てたからね!
「何をしているのですか、あなた達は……」
「いたた……あ、スフレベルグ、おかえり」
散歩にでも出掛けていたのか、スフレベルグが帰ってきた。
「ただいま。なにやら村が面白そうな事になってましたよ?」
「え、なになに?」
「空から見ただけなので内容までは分かりませんが、劇団が村に来ているみたいですよ」
「ふーん?」
劇団か。最上級の劇団ともなれば役者だけでなく、観客までもがその世界に引き込まれるとか引き込まれないとか。
「それはちょっと気になるな。みんなで見に行ってみようか?」
「うん、行きたい!」
「わたくしも興味がありますな」
「ワタシは食事を取ってきたので留守番してます」
という訳で私、フユナ、グロッタで村に来ているらしい劇団を見に行く事になった。
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村に到着すると、人だかりが出来ていたのですぐに分かった。
「お、あそこだね」
「……?」
「なんだか妙に静かですな」
確かに……? こういうのってもっと盛り上がってるものじゃないのかな?
そんな事を思っていると不意に……
「ぎゃあああ!?」
いきなり舞台上で悲鳴が上がった。これも演出なんだろうか……ものすごく真に迫った演技だな。
「あ、終わっちゃったみたいだね」
「えー」
すると、舞台上から一人の女の人が前に出てきた。私と同い年くらいだろうか?
失礼かもしれないけど、なんだか幸薄そうな雰囲気……紫色の前髪が目にかかりそうになってる。ホラー映画に出てきそうだな。
「えーと……これで午前の部は終了となります。午後の部もあるので良ければ見に来てくださいね……」
ふむふむ。どうやらこの後もあるみたいだ。これで終わりなら残念だったから良かった。
「でもどんな内容か気になるな」
「案内板とかも無いね」
「じろー」
グロッタが目で何か訴えてきてる。まぁ、ちょっと話でも聞いてみるか。
私は舞台前にいる幸薄そうな女の人に話しかけてみた。
「こんにちは。今来たんですけど……」
「あ……こんにちは」
「午後の部はどんな演劇をやるんですか?」
「えーと……そうですね、内容は秘密です。見てからのお楽しみということで」
そりゃそうか。自らネタバレを聞きに行くなんてちょっとあほだったかな。
「えーと……せっかくですので、これどうぞ」
そう言って彼女が手渡してきたのはどうやら名刺のようだ。
『死霊術師・レヴィナ(舞台役者)』と書いてある。
「死霊術師って……ネクロマンサー?」
「はい……よくご存知ですね」
「私、こう見えても魔女なんです。あ、申し遅れました。ルノといいます」
「ルノさんですね……よろしくお願いします」
話してみた感じ、暗い雰囲気はあるけどいい人みたいだ。
「えーと……ごめんなさい……私、そろそろ行かないといけませんので。午後の部、良かったら見ていってくださいね」
「あ、はい。忙しいのにありがとうございました」
ふむ、これは思わぬ形で知り合いが増えたな。良いことだ。
「ルノ、どうだった?」
「内容は秘密だけど是非見てってくださいって。親切な人だったよ」
「あの娘、幸薄そうな顔をしておりましたな! ゲラゲラ!」
「失礼な事言わない!」
「ぎゃあああ!?」
私はグロッタに氷塊をくれてやった。まぁ、私も思ってたけど。
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そうして午後の部の時間がやって来た。今回のテーマは『死霊術師と魔女』
「ひぇ……なんか既に寒気がする」
「……」
「まるでルノ様の身に何かが起こる! みたいなテーマですな!」
「へ、変な事言わないでよ……」
私とフユナは既に怯えている。グロッタは相変わらず高い所以外だと強い。
「お、始まるみたいですぞ」
「「……」」
舞台が幕を開けると、レヴィナさんが出てきた。テーマを見てなんとなく分かっていたが彼女がメインの舞台みたいだ。
「雰囲気あるね……」
「ね、ねぇ……ルノ。あれって本物のゾンビ?」
「ま、まさか。あれも役者でしょ?」
舞台上にはレヴィナさんと複数のゾンビがいた。どうやらレヴィナさんが襲われそうになっているみたいだ。
するとそこに仲間らしき魔女がレヴィナさんを助けに来た。魔法を駆使してゾンビを打ち倒していくが倒しても倒しても次々に湧いてくる。
「うそ……あれどうやってるの?」
「ほんとに地面から出てきてるよ……?」
い、いや……きっとあれは地面に役者が沢山潜んでるんだ。間違いない。
そこで舞台の状況が動いた。
「いけません! ここは一旦逃げましょう!」
無限に湧いてくるゾンビに打つ手がなくなったみたいだ。するとレヴィナさんが……
「逃げるってどこへ……? あなたもこちら側に来るのよ……」
するとその声を合図にして周りのゾンビが一斉に魔女に襲いかかった。
「ぎゃあああ!?」
魔女の長年の友人だったレヴィナさん。だがそれは長い時間をかけて、魔女の力を奪い取るための計画に過ぎなかったのだ。
めでたしめでたし。
「ぞぞぞ……!?」
「ガクガク……」
「すやー」
なにこれ……全然めでたくない! むしろ軽くトラウマになったよ! 今後、友達作れないかも……!?
こうして午後の舞台は私にトラウマを植え付けて、終わりを告げた。
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舞台が終わった頃には夕方になっていた。どうやら引き込まれ過ぎて時間を忘れていたみたいだ。
「ガクガク……は、はやく帰らないと暗くなる……!」
「ま……まってよ、ルノ。置いていかないで……」
どうしよう。さっきの舞台が頭から離れない。
「あの……」
「ぎゃあああ!?」
「あわわわ……」
「む、幸薄そうな娘」
突然、背後から声をかけられた。完全に不意打ちだったので心臓が飛び出しそうになった。
「えーと……どうでしたか……私の舞台は?」
「え……あ、なんだ……レヴィナさんか」
「ほっ……」
ゾンビに肩を叩かれたのかと思っちゃったよ。
「いやー、すごくよく出来てましたよ。まるで本物のゾンビみたいな! なんちゃってー!」
「ふふ。そう言ってもらえるとやったかいがありました。ちなみに本物ですよ?」
「またまた! たしかにすごく上手な役者さんでしたからそう見えましたけどね」
チョンチョン。
「ん、なに? フユナ」
「……」←ゾンビ
「ガクガク……」
え、いつの間に湧いたの?
「あ……お、お疲れ様でした……?」
ドサッ。首が落ちた。
「あの……レヴィナさん? この役者さん、首落ちましたよ?」
「ふふ。だから言ったでしょう?」
確かに言ってた。名刺にも書いてあった。
「私は舞台役者。死霊術師のレヴィナ。ネクロマンサーですからね」