第四十四話〜アイス職人が現れた〜
「アイスが食べたい」
「突然どうしたの、ルノ?」
私のそんな突然の言葉にフユナは怪訝そうな顔をしている。ちなみに今日はそこそこ寒いが、突然食べたくなった。みんなもこたつでアイスを食べたくなる時あるでしょ?
「んー、なんだか急にそう思っちゃってさ。どっかに食べに行かない?」
「うん。どこいくの?」
「そうなんだよね……とりあえずカフェに行ってみようか」
そうしてやって来たお馴染みのカフェ。先日、私達とお姉さんで開発した新メニューが今日も人気みたいだ。
「おぉ、みんな新メニュー食べてるね。開発に携わった者として、私も嬉しいよ」
そんな感慨に耽っていると、看板娘のサトリさんが出迎えてくれた。
「やぁ、いらっしゃい! お陰様で新メニューの売れ行きが好調だよ。感謝してるよ、二人とも!」
「いえいえ」
「良かったね、サトリちゃん」
簡単に挨拶を済ませて私達はいつものテラス席へと座った。そこで私達が今日来た経緯を説明した。
「アイスかぁ。残念ながらウチには普通のアイスしかないよ? あ、そう言えば『アネ・アイス』なんてやつもあるよ?」
「マンネリ化を通り越して忘れ去られたっぽい名前ですね。またお姉さんのメニューですか」
「お、よく分かったね」
「もう慣れました」
でも、そうか……ここに無いとなるとほかの街に食べに行くしかないかな? また家族でロッキにでも行くか。
「それならルノちゃんが自分で作っちゃえば? 氷の魔女なんだからお手の物でしょ?」
「なるほど……それは考えもしませんでしたね」
「楽しそうだね。お家でやろうよ!」
「よーし、そういう事ならさっそく材料買って家に帰ろうか!」
「おー!」
そういう訳で今日は一日中アイス作りだ。テンション上がってきたぞ!
「いいなぁ、楽しそう」
私達の頭の中はすっかりアイスのことで埋まっていたので、サトリさんのそんな呟きは耳には入ってこなかった。お仕事頑張ってください。
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私達はカフェを出てから雑貨屋へ向かった。アイスの材料とあと一つ……
「お、これなんかいい感じかな?」
「そんなの何に使うの?」
「ふっふっふっ! まぁ楽しみにしてなよ」
「うん……?」
私が手に持ったのは金属でできた丸いプレートのようなもの。どうやって使うかは後のお話として……
「こんなもんだね。行こっか、フユナ」
「うん」
そうして材料を買ってお店を出たところで意外な人物に出会った。
「ん? ルノさんに、フユナちゃんじゃないか」
金欠の双剣使い。ロリコン・ランペッジだった。もはや、意外でもない気がしてきた。ここ最近はこの村にずっといるもんな。
「おいおい……もう少しまともな紹介してくれよ! 読者が勘違いするだろう?」
「どの辺が勘違いなんです?」
「金欠の双剣使いじゃなくて、雷の双剣使いだ! (キリッ)」
「へぇ」
せっかくのキメ顔だけど、ロリコンの部分を否定しなかったので全て台無しだ。
「ところで何してるんです? もはや村にいることには驚きませんけど」
「特に何もしてないぞ。強いて言えば散歩かな」
「つまりニートなんですね」
「失礼な! 君達こそ何してたんだい?」
「ふっふっふっ。私達はこれからアイスを作るので忙しいのですよ。では、ランペッジさん。ごきげんよう」
私はドヤ顔で立ち去ろうとしたところに背後から声をかけられた。
「楽しそうだな。オレも行こう!」
「???」
なんか妙なこと言われた気がするけど……気のせいだよね。
「今、なんて……?」
「楽しそうだな。オレも行こう!」
「……」
「と、言った」
「正気ですか?」
「もちろんだ! (キリッ)」
「フユナはあげませんよ?」
「何言ってるの、ルノ?」
ちなみにランペッジさんのロリコン説は危険なのでフユナには伏せてある。
「ルノさん。オレは純粋に楽しみたいだけだぜ?」
「まぁ、いいですけど……」
なんだかんだでこの人も主要な人物になりつつあるからな。少しくらい出番をあげよう。
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家に着くと私はさっそく準備を始めた。場所はグロッタの小屋の横にある庭。
「ルノ様? それは一体何ですかな?」
「これはね、今からアイスを作るんだよ」
「ほほぅ?」
とは言ったものの。
「うーん。サトリさんに作り方聞いておけば良かったかな」
材料は揃えられたが、詳しい作り方は知らない。まぁ、そんなに難しく考えなくてもいいか。
「ミルクに砂糖と生クリームを混ぜてと……」
「ルノ、これも入れようよ」
「ん? おぉ、いちごか。いいね!」
よし、これで完成だ。ここからが本番。私が買った金属プレートの出番だ。まずは氷の魔法でキンキンに冷やす。
「ふっふっふっ。見てなよフユナ?」
「う、うんっ!」
私は冷やしたプレートの上にアイスの液体を薄く流し込む。すると、キンキンに冷えたプレートによって一気に凍った。
「すごーい!」
「まだまだこれからだよ!」
あとはこれをヘラを使ってクルクルっと取る!
「ん、あれ? けっこう難しいな……」
私の記憶だと何層もあるアイスのロールが出来上がるはずなんだけど……
「……」
「ルノ……」
ただの薄いアイスが出来上がった。
それを見て、フユナが憐れみの視線を向けてくる。こんなはずじゃないんだよ!? そんな目で見ないで!
するとここで一つの笑い声が聞こえてきた。ランペッジさんだ。
「ふっふっふっ……!」
「な、なんですか……?」
「はーっはっはっは!」
プチーン!
「迫る終焉……氷の牙……全てを砕け! 怪狼・フェンリ」
「ストーーーップ!!!!!」
「!?」
びっくりした! いきなり大声出さないで欲しいな。
「いやいや! びっくりしたのはこっちだから! あと一文字でオレ死んでたから!」
「だって急に悪役みたいに大笑いするから……」
「失礼な……ちょっとそれ貸して。オレがここに来た意味を教えてやろう!」
「え、いやです」
「ガクッ……」
「冗談ですよ。はい」
なんだか自信あるみたいだしお手並み拝見といこう。
「いくぜ! オラァ!」
「なんでそんな喧嘩腰なんですか……」
「……」
私とフユナが呆れている中、ランペッジさんがアイスの液体を流し込む。そして……
「うぉぉぉ!」
「!?」
スッ……ススッ……!
熱苦しい掛け声に反して動きは繊細そのものだった。アイスがどんどんロール状になっていく。
「ヘラをもう一本貸してくれ!」
「は、はい……」
今度は二刀流!? さすが双剣使い! さっきの倍のスピードでロールアイスを量産していく。
「すごいね。ルノ……」
「うん……」
「うぉぉぉ! ……完成。どうぞ、お二人さん」
そう言ってランペッジさんが差し出すお皿には何層もあるロールアイスが並んでいた。
「じゃ、じゃあいただきます」
「いただきます……」
「わたくしもぜひ」
私達は恐る恐る頂いた。
「アイスが! 口の中でとろける!?」
「アイスじゃないみたい!」
「ガツガツ!」
やばい! これは本格的に美味しいよ! アイスが何層にもなってるから口溶けがすごい柔らかい!
「驚きました。美味しいです!」
「うんっ。もっと食べたい!」
「もっと作る事を許そう」
私達はそれぞれ賞賛の声を上げる。まさかここまでのアイスを食べられるとは思ってなかった。
「ふっふっふっ。いいだろう! うぉぉぉ!!」
掛け声はちょっとうるさいけどそれを帳消しにするほどアイス作りは上手だった。これなら最初から呼んでおけば良かったよ!
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「ふぅ。ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした。美味しかったよ、ランペッジさん!」
「すやー」
「ふっふっふっ。それは良かったよ」
結局今回はランペッジさんに全部やってもらっちゃったな。
「それにしてもこっちが本業だったなんて知りませんでしたよ。なんで双剣使いなんて副業を?」
「失礼な! 双剣が本業だよ! むしろアイスはおまけ!」
「えーもったいない」
「アイス作りのほうが合ってるよー!」
フユナが素直な感想を述べている。決して悪気は無いだろうけど、突き刺さるような感想だ。
「まぁ、君達が喜んでくれたならこの際どちらでもいいさ」
そう言ってランペッジさんが意味ありげな視線を私に向けてくる。視線をだけで何かを語っているようだ。
「じろー。チラッチラッ!」
「……」
ははーん……分かったぞ。いい所を見せたからフユナちゃんをオレにください! みたいな意味だな。
「コク」
なんか頷かれた。確かに今日はアイス作りでお世話になったし多少見直したけど、それとこれとは話が別だ。
なので……
「フルフル(ごめんなさい)」
私は顔を横に振ることで返事とさせて頂いた。