第四十話〜枯れた温泉〜
ある日の朝。
窓から差し込む光が起床の合図となった。
「んー……朝か」
「すぅ……すぅ……」
「なにこれ……可愛すぎる……」
私の隣に寝ているのは言うまでもなくフユナ。ちょうど肌寒いのもあったので抱きしめる。
「うーん……ひんやりする」
みんな忘れているかもしれないが、フユナは氷のスライムなので身体がひんやりしている。
「でも、フユナ成分は補給できたし良しとしよう」
それにしても最近、寒くなってきたな。今日は久しぶりに温泉に行こうかな。
私は今日の予定をおおまかに決めて起床した。
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今朝の朝食は私が作ったルノサンド。アルバイトの日に思い付きで作った品が思いの外好評で、我が家でもちょくちょく作っている。
「おはよう、ルノ」
「おはよう、フユナ」
眠そうな顔のままフユナがやってきた。寝癖がついているのがまた可愛い。
「フユナ。朝ご飯出来てるから食べようか」
「うん。顔だけ洗ってくるね」
「おっけー」
数分後、顔を洗ったフユナが戻ってきた。私とフユナは共に席に着く。
「「いただきまーす」」
こうして毎朝食卓を囲めるのはいい事だね。
「そうだ、フユナ。今日は肌寒いし久しぶりに温泉に行こうよ」
「うん、フユナも久しぶりに行きたい!」
「よし、そうと決まればさっそく準備しようか! あ、でも朝ご飯はゆっくり食べるよ」
「うん!」
この時間だって大切だからね。しっかり堪能しておく。
「今日は誰かいるかな?」
「そうだねぇ。サトリさんは結構気に入ってるみたいだし、もしかしたらいるかもね」
「お姉さんの方が来てたりしてね。ふふっ!」
「ぞくっ! だ、だめだよフユナ……そういう変なフラグ立てちゃ。ちゃんと折っといて」
「ぼきー」
そうして多少の不安を抱えたまま、私とフユナは家を出た。
村までの道中。
「なんだかこうして歩くのも久しぶりな気がするなぁ。いつもはこの辺の描写はすっ飛ばしちゃうからね」
「村までは道があるだけだもんね」
「うんうん。でも懐かしい思い出もあるよ。フユナがまだスライムだった頃、この道で色々食べてたんだよ。虫とか虫とか虫とか」
「木の実とかも食べてたよー!」
「はは、そうだね。でも最初は驚いたよ。スライム状態だと中身が見えるからさー」
「うぅ……恥ずかしいからこの話はおしまいね!」
フユナがちょっとむくれてしまったみたいだけど……可愛い。
そんな事を思っていると村に着いていた。『ようこそ。ヒュンガルへ!』と、書かれた看板が立っている。
「温泉か。なんかすごく久しぶりな気がするなぁ」
「できたばっかりの頃は毎日来てたのにね」
「懐かしいね、それ。あまりにも温泉が気持ちよくてサトリさんに関する記憶が吹き飛んだんだっけ」
「ルノがサトリちゃんのカフェは積み木だー! って言って怒られたよね」
「はは……今思えば聞かれたのがサトリさんでまだ良かったよ。もしお姉さんに聞かれてたら……」
「たら?」
「……」←フユナ
「聞かれてたら、今頃私はここにいなかったね。リンゴみたいに頭を潰されてたよ。ははは」
「ふふ、自覚があるようで何よりです。では、遠慮なく」
「え、あれ? フユナ?」
「ガクガク……」
「おはようございます。ルノさん、フユナさん」
「……て、てへぺろ……?」
その後の展開はお馴染みのものだった。
お姉さんの気が済んでやっと解放された頃。
「ひーひー!」
なんとか生き延びた私はその場にうずくまって痛みが引くのを待っていた。
「あ、あの……今日はお仕事はお休みですか?」
フユナが恐る恐る質問している。
「えぇ、今日は久しぶりに休みを取って温泉に行こうかと思っていたのですが……これは偶然ですね」
これは本当に偶然なのか!? 私はフユナの元に駆け寄った。
「フユナ。フラグはちゃんと折っておいてって言ったでしょ?(コソコソ)」
「う、うん。ちゃんと折ったはずだよ。ルノも見てたでしょ? ぼきーって(コソコソ)」
「確かに……」
「何をコソコソ話してるんですか?」
「「ひぃ……!?」」
いつの間にかお姉さんが後に来ていた。
「い、いやぁ、せっかくなのでお姉さんも一緒に温泉どうかなぁ? なんて思ったり思わなかったり」
「奇遇ですね。私も同じ事を思ってました。では、一緒に行きましょうか」
「「わーい」」
そうして到着した温泉の前で私達は呆然としていた。
『本日、諸事情により休業』
そんな張り紙が入口に貼ってあった。
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「本日……休業……」
お姉さんがショックを隠しきれない顔で立ち尽くしている。休みを取ってまで来たのにこれは流石に可哀想だ。
「あの……お姉さん? 気を確かに……」
「……ない」
「え……お金ない? なーんだ、じゃあ最初から入れないじゃ」
……メキャ!
「ぎゃあああ!? 冗談です! 励まそうとしただけですからっ!?」
今ほんとに潰れそうだったよ!?
「……ます」
「え? ご飯食べに行き……ごめんなさい」
「理由を聞いてきます」
「は、はぁ……」
そのままお姉さんは裏口の方に行ってしまった。
そのまま待つこと数分。
「ルノ、お姉さん戻ってきたよ」
「ほんとだ。どうでした?」
「ふふ。今日、あなた達と出会ったのは運命のようですね」
「え……ごめんなさい。私、そっちの趣味は……」
「ギンッ!」
「ひぇ!? あ、あの……どういう意味でしょうか?」
「説明するより早いでしょう。どうぞ、ついてきてください」
そうして辿り着いたのは、お湯を引いている源泉。しかし、そこにあった光景は想像を絶するものだった。
「うわ! 気持ち悪!!」
「た、たくさんいるね……」
「ギロ……!」
源泉のある場所にうじゃうじゃとスライムがいた。赤、青、黄、緑、様々な色があって綺麗だが……
「お姉さん。まさかこれの討伐をするんですか?」
「そのまさかです(ゴゴゴ……!)」
「ガクガク……!」
燃えてるなぁ、お姉さん。よほど温泉が楽しみだったのか。
「それにしてもお姉さん、強いんですね。こんなに沢山のスライムを倒すなんて」
「何を言っているのですか? そんなはずないでしょ?」
「え?」
「言ったはずですよ。今日、あなた達と出会ったのは運命だと」
「……」
なるほど。つまりこれらの討伐は私がやると。
「あの……いくら何でもこれは……」
「謙遜しないでください。サトリから聞きましたよ? スライムの大群を森ごと消滅させたと」
サトリさん……余計な事を! いや、でもこのままだと私達も温泉に入れないしなぁ。仕方ない、今回はやるしかない!
「分かりました。任せてください!」
という訳で殲滅作業開始。
私は詠唱する前に氷の杖を三本ほど作り出した。この量は流石に一本じゃ辛いからね。
三本のうち一本は手に持ち、残りの二本は地面に突き刺す。これで準備完了。
「迫る終焉……氷の牙……すべてを砕け! 怪狼・フェンリル!」
三本の杖による、かつてない程の超特大の氷の牙。それがスライムの大群を余さず飲み込んだ。
「驚きました……聞いてた通り、とんでもない力ですね」
「ルノ、すごい……!」
どうやら今回は成功したみたいだ。綺麗にスライムだけが消え去っている。森まで消し去るかもなんて不安があったけど杞憂だったみたいだ。
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「ふぅ、噂通り最高の温泉ですね」
「ほんとですねぇ……」
「気持ちいいー」
私達がスライムを退治した後、すぐに温泉は再開された。お姉さんの休みも無駄にならなくて良かった。
「あらためてお礼を言います。ありがとうございます。ルノさん」
「い、いえ。大したことは」
量が沢山いただけで、やったのはただのスライム討伐だしね。
「ふふ。それこそ謙遜する事はないんですよ? これで沢山の人達がこの温泉を利用できるんですから」
「そうだよ、ルノ!」
「そ、そう?」
うーん、なんだか照れくさいけどみんなが喜んでくれるのなら良しとしようか。
「今回はこうして助けてもらった事ですし……くすぐり倒された事は忘れてあげましょう。ふふ……」
「……え!?」
この人覚えてたの!? あんなに酔っ払ってたのに!?
「おや、どうしたのですか?」
「あ……はは。気持ちいいですね……? 温泉……」
「えぇ」
そう言ってお姉さんはにこりと笑った。ほっ……どうやら本物の笑顔みたいだ。
めでたしめでたし。




