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☆氷の魔女のスローライフ☆  作者: にゃんたこ
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第004話〜ピクニックに行ったら師匠が出来ました〜


〜〜登場人物〜〜



ルノ (氷の魔女)

物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。


サトリ (風の魔女)

ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法に関してはかなりのもの。


フユナ (氷のスライム)

氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降はルノの魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。


カラット (魔女・鍛冶師)

村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。





 先日、行きつけのカフェにて、私・フユナ・サトリさんの三人で討伐に行こうと約束をし、ついにその日がやってきた。ただの討伐と言えばそれまでだが、本日はフユナのデビュー戦という事もあり心が踊る。



「ちょっと早く着きすぎたかな? サトリさんがまだ来てないね」


「うん。……なんか緊張してきちゃった」



 しかし本人はそれどころではない様子。だがそんな緊張も討伐に行くにあたっては必要な事ではある。既に試練は始まっているのだ。


 そんな時。

 


「お待たせーー!」


「あ、来た」



 天気は快晴。心地よい風が吹く中、周囲を巻き込む明るい声と共にやって来た風の魔女のサトリさん。ちなみに少々遅刻だが、当の本人は気にした様子もなく……



「いやぁ良く晴れたね。楽しみで昨日はなかなか眠れなかったよ〜〜!」



 と、元気いっぱいのお言葉。



「あの、サトリさん? ピクニックに行くわけじゃないんですからね。まぁ、危険はないと思いますけど」


「分かってる分かってる。でもある程度は楽しまないと損だよ!」


「まぁ、そうですね。ところでそれは? 随分と荷物が多いですね?」



 同じ事を思っているらしいフユナの視線もその多すぎる荷物に向いている。背中にはリュック、両手には手提げ袋をそれぞれ一つずつという、討伐に行くというよりも買い物帰りの主婦と言った方が伝わる格好だ。



「ははーーん? ルノちゃんは早くもわたしの手作り弁当が気になるのか。食いしん坊め」


「お弁当って……」



 正直、そこまでガチの討伐ではなく、ちょろっと行ってお昼頃には帰ってくるつもりだったのだが、両手の手提げ袋を自慢げに掲げるサトリさんの中では完全に一日コースのようだ。



「フユナちゃんの分もあるから楽しみにしててね!」


「ありがとう、サトリちゃん!」



 うん、今日はもうピクニックだ。フユナの緊張も少しはほぐれたみたいなので良しとしよう。



「ところでフユナちゃん。それ、ずいぶん綺麗だね。……双剣?」



 ハイテンションから一変。思いがけない物を見つけてしまったかのように目を丸くするサトリさん。いや、この際『サトりん』と呼んだ方がいいだろうか……なんてね。



「いいでしょ。昨日、カラットさんに貰ったんだ。ふふっ、サトリちゃんの師匠だーーって色々お話してくれたよ!」


「へ、へぇ? 色々……ね。わたしが恥をかきそうだから詳細を聞くのはやめておこうかな」



 嬉しそうに氷属性がエンチャントされた双剣『カラット・カラット』を見せびらかすフユナと、それをまじまじと見つめながら「貰った……? でも、その双剣って……」などと呟きながら難しい顔をしているサトリさん。



「ふっふっ。残念ながら試練なんちゃらは顔パスでしたよ」


「えぇ……フユナちゃんの隠された素質を見抜いたのかな? 見込みない人には渡さないはずだしなぁ。何にせよこれは期待できそうだね。経験を積んでどう成長するか楽しみだよ!」


「そうですね。色々と言いましたけど、今日の討伐はフユナに慣れてもらうって意味が大きいですから気楽に行きましょう」


「うぅ、ドキドキする……」



 双剣を胸に抱え込むフユナだが、言葉に反して目はキラキラと輝いていた。はやく戦ってみたい……そんな表情である。



「よーーっし! それじゃ、ピクニックにレッツゴー!」


「はいはい、ピクニックピクニック」


「ドキドキ……!」



 という訳で本日は待ちに待った討伐という名のピクニック。楽しんできいましょう。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 今回の目的地は、ヒュンガルを出てすぐのヒュンガル山。基本的にスライスしか出現しないこの山は赤青黄色など、様々な草花に彩られていてピクニックだと言い張れば本当にそう思えてくる程の平和な場所だ。


 そんな中を歩くこと数分。未だモンスターに遭遇していない私達は、緩んでしまった空気の中、文字通りすっかりピクニック気分となっていた。



「それにしてもフユナちゃんが双剣か。なんでまた?」


「ふふーーん♪ これを読んだの!」


「本か。あれ? それって」



 フユナが嬉しそうに一冊の本をサトリさんに見せる。持ってきてたのね。



「双剣使いサトりんのワクワク冒険記! この主人公の女の人がすごくかっこ良かったの」


「それほどでも♪」


「え?」


「ちょっと。なんでサトリさんが得意気なんですか?」


「いやぁ、間違えちゃったなーーてへぺろ!」


「うわ、わざとらしい……」



 今ので確信したが、やっぱりあれサトリさんだ。でも気付いていない方向で話を進めた方が面白そうなので、私はニヤニヤしながらその様子を見守ることにする。



「まぁ、確かにかっこいいねこの人。風を操りし孤高の双剣使いって感じ!」


「ぷっ!」



 テンションが上がってドヤ顔が一層加速するのは風を操りし孤高の双剣使い、サトりん。もう一度言おう。風を操りし孤高の……だめだ、吹き出しそう。私は水を差さないように二人の視界の外で必死に笑いを堪えた。



「そうなの! だからこの人みたいな立派な双剣使いになるんだ」


「へ、へぇ?」



 そんな夢を語るフユナの顔はとても輝きを増すばかり。ここまでくると流石に本人としても照れくさい部分があるのか、顔を真っ赤にして照れている。サトリさんがいつ暴露するのか楽しみだったが、これは完全に言い出すタイミング逃したな。



「じゃあ私達もかっこいい所を見せましょうね」


「ちょ、ちょっと……なんでわたしの脇腹つつくのさ」


「ふふ、なんでもないですよ。孤高のサトりんさん。ぷっ!」


「なっ!?」


「二人共何してるの? 早く行こうよーー」


「今いくよーー!」



 こうして、さらに歩くこと数分。



「ピョン!」


「いた!」



 ついに現れた本日初のスライムに、私は出会い頭に魔法を一発。元気に跳ね回っていたスライムは、足(?)が氷漬けとなって動きが止まった。



「よし。フユナ、最初の相手はあれだよ」



 私は凍って動けないスライムを指差す。最初の相手だからこんなものだろう。



「頑張れーーフユナちゃん!」


「う、うん……!」



 意を決して力強く一歩踏み出すフユナ。驚くべきはその速さだ。音を置き去りにするかの如く加速で、一気にスライムとの距離を詰め、その勢いのまま双剣を振り抜き、見事にスライムを真っ二つにした。



「おぉ。すごいよ、フユナ!」


「やるねぇ!」


「えへへ……」



 人間の姿になっているとはいえ、流石は氷のスライムだ。その運動能力がモンスター故のものなのかはさておき、一連の流れは実に見事だった。しかし、私達がそれぞれの驚きを示す中、一番驚いていたのはフユナ自身だった。



「冷気の力が……斬れ味がすごい……!」


「そうそう。あの双剣、フユナの冷気によって力が増幅されるんですよ」


「ほう?」



 真っ二つになったスライムに目をやると、私が動きを止めるために氷漬けにした箇所もろとも、双剣の属性によって丸ごと氷漬けになっていた。



「なるほどね。あれほどのエンチャントなら魔法に勝るとも劣らない攻撃も可能だね。使い方さえ覚えればルノちゃんみたいな氷の槍を出したりも可能だよ。きっとね」


「さすがサトりんさんは詳しいですね」


「ていうか、ルノちゃんはなんで気付いたのさ?」


「表紙に自分そっくりの絵を描いておいて何を言ってるんですか。それに名前もですよ。『サトりん』なんて書いてあるから最初はギャグ漫画かと思いましたからね」


「くぅ、迂闊だった。そしてギャグ漫画とは失礼な」


「それよりもフユナには教えないんですか? すごい憧れてるみたいですよ」


「いや、だからなんだよね。夢を壊したくないっていうかさ?」


「別にサトリさんがサトりんでもサトりんがサトリさんでもフユナが幻滅することは無いと思いますけどね。ま、その辺はサトリさんにお任せしますよ」


「ならこのままフユナちゃんの夢を守る!」


「左様ですか」



 そんな話をしているうちに二匹、三匹と次々にスライムを討伐していくフユナ。もはや私とサトリさんはただの散歩みたいになっているが仕方ない。こりゃ、出番は無しかな。



「若いっていいですねぇ」


「なにボケたこと言ってるのさ。でも確かに。これだけの実力なら特大のスライムに後から不意打ちされても余裕だね。そんな状況なんて無いか。はは!」


「ほんとですよ。変な事言わないでください。そんな事は絶対にありません。ええ、絶対に」



 そんな余計なフラグの建設を完了したサトリさん。いや、この場合は私もなのかな。兎にも角にもいやーーな予感はしたが、それは杞憂だと自分に言い聞かせて歩を進めることに専念した。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「到着ーー!」



 と、疲れた様子も無く、山頂に一番乗りのフユナ。あれから、特に問題もなくフユナの無双は続き、私とサトリさんはひたすらにその様子を見学していただけなので、休憩と言っていいのか疑問だが、時間も丁度お昼なのでいいタイミングだろう。



「ほんとにピクニックみたいになってきちゃったけど……いい景色だ。晴れてよかったね」


「うん。村が良く見えるねーー! あっちはフユナ達の家かな?」



 心做しか達成感のようなものがあり、いつもより割り増しでよく見えるのは、視界いっぱいに広がる青空と麓の景色。これだけでも来てよかったと思えるのだから不思議なものだ。



「さてさて、山頂と言ったらお弁当だね。いよいよ私の出番だよ!」



 そう言ってお弁当の準備を始めるサトリさん。なんだかその為だけに来たみたいになっているが、それ以上に出番がない私はあまりにも申し訳ないのでその準備を手伝うことにした。


ちなみに場所はフユナと出会った思い出の泉のすぐ近く。もう以前のような氷漬けではなく、色鮮やかな草花に囲まれていて、実にのどかな風景だ。



「懐かしいなぁ、フユナと出会ったのもここだったね」


「う、うん。あの時は泉に飛び込んだら動けなくなっちゃって……助けてくれてありがとね」



 若干照れくさそうにお礼を言うフユナ。やっぱりあれはそういう事だったのね。



「こらこら、二人だけの世界に入ってないではやく食べるよ!」


「お、サンドイッチですね」


「美味しそう!」



 さすがはカフェ店員。料理もお手の物という訳か。褒めて遣わす。



「しまった……飲み物忘れた。てへぺろ」


「ズコッ……!」



 やっぱり訂正。砂糖と塩間違えちゃったぁ! とか言いそうで怖い。



「分かりました。でしたら私がそこで何か買ってきますよ」


「助かるよルノちゃん。唯一の出番だから頑張ってね!」


「うぐ。ちょっと気にしてたのに……」



 なんてことをぶつぶつ言いながらいざ売店へ。山頂の物は高いけど今日はフユナの討伐デビューだし細かい事は気にしない。



「んーー何にしようかな」



 とは言え、品数はそこまでないので、コーヒーという無難なチョイス。買い物を終えた私は三人分のコーヒーを抱えて振り返ると、フユナとサトリさんの後から大きなスライムが襲いかかってくるのが見えた。



「むむ、ここでまさかのフラグ回収とは。おーーい、二人共! 後ろ後ろーー!」



 とは叫んでみたものの、大きいだけでスライムなので、ぶっちゃけ大して焦ってはいない。襲われてもぶにゅってなるだけだ。



「!」



 それでも危険を察知して、私の声の意味を唯一理解したサトリさん。すぐさま目線だけで――


「フユナちゃんは守るから魔法で撃ち抜いて!」

「いや、コーヒーで両手が使えません」

「ばかーー!」


 などという一瞬のやり取りを繰り広げた後に、サトリさんの目つきが鋭くなる。怒った訳じゃないよ、たぶん。


 次の瞬間。



「え?」



 サトリさんの姿が消えた事に戸惑いながら、振り返るフユナの視線の先。背後に迫っていたスライムが無数の風に切り刻まれ吹き飛んでいた。



「ふぅ。危なかったね」



 それを成しえたのは一人の双剣使い。綺麗な緑色の髪、そして両手には風を纏った武器。双剣『カラット・カラット』が握られていた。



「サトリ……ちゃん?」



 フユナの理解が追いついた時にはすでに全てが終わっていた。神速の斬撃。吹き抜ける疾風。それはまさに――



「サトりん……!?」


「あ」


「やっぱり! サトりんだ! 風の双剣使いサトりん!」


「えーーっと。その……今のは魔法じゃ間に合わないかなぁ……っていうか? 双剣使ってみようかなぁ……っていうか?」



 朝の威勢はどこへやら。もうフユナも気付いてますよ。



『双剣使いサトりんのワクワク冒険記』


 その主人公はサトリさん。双剣使いとして書かれていたので双剣を使える事もなんとなく予想は出来てたが、その強さは予想外だった。魔女としてすごいのは知っていたが、まさかその道でも一流とは恐れ入った。正直、本の中だけのネタだと思っていた。



「なんでなんで? それにその双剣!」



 そうなのだ。サトリさんの手に握られているのはフユナと同じ双剣。ただし色は透き通った緑。先程の攻撃からも分かる通り、属性は風だろう。



「カラットさんがサトリさんの『師匠』ってそういうことだったんですね。でもそうなると試練は? もしかして顔パスですか? でもフユナの方が可愛いですね」



「ルノちゃんの発言に物申すのは後回しにして……そうだね。どこから説明したものか。……とりあえずお腹空いたし」


「うんっ!」


「それじゃあ、お昼食べましょう」



 どうせこの後はフユナの質問攻めで時間なんていくらあっても足りないないだろう。それならお昼を食べてお腹を満たしてからゆっくり話そうじゃないか。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ひと騒動あったものの、お昼ご飯はまさに平和なひと時だった。綺麗な泉に、草花に彩られた景色。地面に敷かれたシートの上、お弁当を囲んで座る私達。幸せを絵に書いたような光景だ。



「美味しいですね、このサンドイッチ。ぜひカフェのメニューに入れて欲しいくらいですよ」


「またまたルノちゃんはそんなこと言って! 褒めたって何も出ないぞ♪」



 これは本音。それにしても、周りの風景一つ加わるだけでいっそう美味しく感じるのだから不思議なものだ。



「二人の好きなチーズケーキもあるからね!」


「あ、チーズケーキが出ましたね。いただきます」


「ありがとう、サトリちゃん!」



 最初は、お弁当まで持ってきてピクニックかよ……なんて思っていたが、さすがカフェ店員のサトリさん同伴なだけあって至れり尽くせりである。



「「ごちそうさまでしたーー!」」



 その後、お弁当を片付け、その代わりに目の前には並べられているのは二組の双剣。言うまでもなくフユナとサトリさんの双剣『カラット・カラット』である。

 


「それにしてもびっくりしましたよ。魔女という肩書きはおまけだったんですか? なんですかあれは。魔女の動きじゃないですよ」


「サトりん、なんで隠してたの?」


「いや……ね。双剣使ってる自分を題材にして本を書いた手前、あんなに尊敬の眼差しで見られるとちょっと恥ずかしくてさ。それにほら、この辺の森はほぼスライムしか出ないでしょ? 魔法の方が効果的だからほとんど使わなかったんだよ。うん」



 生物を殺めてしまったので封印した。とかではないらしいので安心した。



「それにしてもサトリさんとはそれなりに討伐に行ってますけど、双剣を使う所なんて一度も見ませんでしたね。あれ程の腕ならピピッとやっつけられて楽そうなのに」


「はは。なんだかんだでルノちゃんとの討伐は魔法合戦みたいな事をしてるのが楽しかったからね。わたしだってまさかスライム相手に双剣を使う事になるなんて思わなかったよ。平和ボケしてたのかな。今回のことで思い知ったよ」


「ほんとですね。でも、おかげでフユナもコーヒーも無事でしたよ」


「まったく……ルノちゃんもなかなか平和ボケしてるね。それよりこっちこそ朝から驚かされたよ。同じ双剣もってるんだもん。貰ったとか言ってたけど……」


「はい。カラットさんに貰ったんですよ。友達になった記念だ! 顔パスだ! って」


「それ! ずっと突っ込みたかったんだよ。一応言っておくけど、わたしなんて何年もこき使われた挙句に、ちゃんと試練を突破してやっと手に入れたんだよ?」


「あはは、そうだったんですね。会った初日に頂いちゃってすいません。まぁ、今日のフユナを見れば分かる通り、素質を認められたということで」


「それは否定しないけどさ。わたしって一体……はぁ」



 そんな話に、サトリさんがガクッと首を折って項垂れていると不意に……



「サ、サトりん!!」


「うわっ! な、なにかな、フユナちゃん? あと、サトりんはちょっと恥ずかしいかな……」


「あ、うん。サトリちゃん。その……」



 突然の大声と思いきや、すぐさま俯いて小さくなってしまうフユナ。もごもごと何かを言いたそうにしているが、その表情で言いたいことは何となく分かった気がした。双剣を使うきっかけになった憧れの人が目の前にいるんだもんね。



「えっと。もし良かったら……です……けど……」


「急に改まってどうしたの? 遠慮しないで言ってごらん?」


「そ、双剣の使い方を教えてくださいっ!」


「え?」



 予想外の言葉だったのだろう。サトリさんは無言で私に視線を向けてきた。フユナのお願いは、師匠となって双剣の使い方を教えてくれという事。それはつまり、サトリさんとカラットさんのような関係になるという事で。



「サトリさんさえ良ければぜひ」



 私は笑顔で頷いた。



「うん、分かった! いいよ。今回みたいな事があったら危ないし、強いに越したことはないからね」


「うん。よろしくお願いします!」


「ただし条件があります」


「は、はい……?」



 サトリさんはニヤリと笑って私に視線を移す。



「あのーーサトリさん? 何をさせる気ですか?」


「ルノちゃん」


「は、はい?」


「フユナちゃんをわたしにちょうだい」


「……」



 私は寝ぼけた事を言うサトリさんに、ごめんなさいと拒絶の意を表すように、頭の上に特大の氷の塊をプレゼントしてあげた。



「まったくもう。フユナの師匠になるんだからしっかりしてくだい」


「はーーい……」



 あまり心配はしてないけどね。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ふむふむ、さすがは師匠。いい仕事するねぇ」



 それから改めてフユナの双剣を手に持って観察するサトリさん。頭には大きなコブが一つある。なぜでしょう。



「エンチャントはルノちゃんがしてあげたのかな?」


「そうですよ。失敗したら色々な意味でヤバいので必死にやりました」


「なるほどなるほど。ルノちゃん、君もいい仕事するねぇ」


「よく分からないですけどありがとうございます。でもサトリさんのも似たようなものなんじゃ?」


「えっとね。まず、氷の属性一つとってもそれはもうかなり強力だよ。属性の威力だけで言ったらわたしの双剣より強力なんじゃないかな」


「ふむふむ」


「でもすごいって言ったのはそこだけじゃないよ。わたしの双剣は風の属性。フユナちゃんのやつは氷だけど……私の双剣の場合、風の力で自身のスピードが上がるなんて効果もあってね。フユナちゃんのやつは自分の冷気を双剣の威力に変換できるんだっけ? とにかくそういったプラス効果まで付けるのはなかなか難しいんだよ」


「なるほど。サトリさんの速さの秘密がそんな所に……」


「まぁ、わたしの速さに関してはそれだけじゃないけどね。あとは、さっき言った属性の話ね。普通はせいぜい刀身に属性を付与するくらいなんだけど、フユナちゃんやわたしの双剣は別。エンチャントされた属性が特に強力だと、例えば……とりゃ!」



 バキン!



「おーー!」


「すごーーい!」


「たとえ同じ属性でも、強力なものだとこんな風に属性を利用した攻撃もできるんだ。慣れれば連発もできるし、ある意味魔法より便利かもね」



 少し離れた地面から突き出すのは二メートルは優に超える氷の槍。確かにあれを連発されたらそこらの魔法使いなどひとたまりもないだろう。



「これほどじゃないけど、わたしのやつでもそれなりに強力な風の刃を飛ばしたりできるよ。もちろんエンチャントしたのはわたし。つ・ま・りーー?」


「へぇ、すごーーい」


「うわ、思ってなさそう……」


「そんなことありませんよ(ニコ♪)」



 サトリさんのドヤ顔を華麗にスルーした私。これが言いたかったと顔に書いてあったのでつい。



「と、とにかく。エンチャントと一言に言ってもはなかなか奥が深くてね。魔法の実力とイコールとまでは言わないけど、魔法の素質が無きゃ使えないことの方が多いよ。というか、そもそも魔法を使える人自体が希少だから、その辺の人が使ってもただの双剣だね」


「フユナでもそういうのできるようになるかな?」


「なるなる! フユナちゃんの戦いを見てたわたしが保証するよ。安心して師匠に任せておきなさーーい!」


「う、うん!」


「ま、あとは発想力の差かな。イメージ次第ではほんとに沢山のことができるよ。『氷の壁を作るぞ!』とか『氷の槍を作るぞ!』とかね」


「そうなんだ……ほんとに魔法みたいだね」


「他にもあんな事やこんな事までーー」


「ふむふむ!」



 そんな感じで、終わりの見えないサトリ師匠の講義は帰り道でも続いた。師匠となったことで思いの外テンションがあがっているみたいだ。得意分野になると饒舌になるアレ。



「でもやっぱり本家の魔法と比べたら威力がーーペラペラ! だけどちゃんと利点もあるから大切なのは使い分けでーーペラペラ!」


「ぷしゅーー……」


「サトリさん。その辺にしておかないとフユナが壊れちゃいますよ?」


「あ、いけないいけない。弟子ができたのなんて初めてだからついね。あはは」



 こうして討伐という名のピクニックは無事に幕を下ろした。フユナに師匠ができるというまさかの展開だったが、一大イベントとして私もなかなかの思い出となった。きっとこの二人ならうまくやっていくだろう。



「んじゃあ、まずは打倒ルノちゃんだね。ルノちゃんみたいな純粋な魔女を倒すにはまずーー」


「ふむふむ!」


「あのーー私を討伐対象にしないでもらえます……?」









 何はともあれ、これにて一件落着。ちなみにこの日以降、サトリさんとの修行によって、フユナがちょくちょく外出するようになってしまい、ほんの少しだけ寂しい思いをする私でした。

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