第三十三話〜金欠のランペッジ〜
その日、私はフユナとグロッタと共に村に行った。本屋に武器屋。カフェに温泉。なんだかんだで、けっこう発展してきている。
そんな中、最近新たにできた娯楽施設(?)があった。
「ルノ。あれ、ランペッジさんじゃない?」
「あ、そうだね。まだいたんだ」
「もはやこの村の住人ですな」
私達のそんな視線を浴びるランペッジさんは現在、挑戦者の村人と木でできた武器で闘っている。もちろん景品はロッキの結晶。その物珍しさからか、なかなかのお客さんの量だ。
「さぁさぁ、このオレから一本取れるヤツはいないかい? 見事一本取れたらこの希少なロッキの結晶をプレゼントするよ!」
ふむふむ、まるであの家族旅行の日に戻ったみたいだ。ならば……
「フユナフユナ。あのロッキの結晶、頂いちゃおうか」
「……うんっ!」
私とフユナはにやりと笑った。
「お二人共、顔がゲスいですぞ」
グロッタになんか言われたけど今は気にしない。
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「次、挑戦者します!」
そう言って駆け寄っていったのはフユナ。ちなみに私とグロッタはバレないように遠くで見ている。
「おや、君はフユナちゃん。え、挑戦するのかい?」
「はい。ロッキの結晶が欲しいんです」
「ふ……む……よし、いいだろう! ならばいつかのお返しをしないといけないな!」
「よろしくお願いします」
フユナが出ていくと顔見知りの村人が声援を送ってきた。
「頑張れフユナちゃん!」
「今日も可愛い姿をみせてー!」
うんうん、さすがはフユナ。すっかり村のアイドルだね。
そんな事を思っていると勝負が始まった。しかし、それも一瞬。
「えいっ!」
「ごふっ!?」
バタ……!
見事フユナの勝利。ロッキの結晶は頂きました。
その後、私達は温泉でまったりしたりお昼ご飯を食べたりして、再びランペッジさんの元へ向かった。
しかし、こんどはフユナではなく私が。
「あ、あのぅ。私、挑戦してもいいですか……?」
か弱い女性を演じる私。ぶっちゃけ村人もランペッジさんも顔見知りなのでそんなに意味は無い。
「今度はルノさんじゃないか。さっきフユナちゃんも来たよ?」
「え、そうなんですかぁ?」
「ふむ、まぁいいか。君とはちゃんと決着を付けておきたかったからな!」
「そうですね。なにせ前回は雷の如き速さで自滅してしまいましたもんね」
「そ、それはもう忘れようか……」
まぁ、今日はからかうために来たわけじゃないからさっそく勝負だ!
「さぁ、どこからでもかかってきな!」
「ほんとうにどこからでもいいんですか?」
「もちろんだ!」
よほど自信があるらしい。自滅で終わった前回とは違うということか。
「では、遠慮なく」
そう言って私はランペッジさんの背後にあった、貸出用の木製の剣を一本、魔法で浮かせ……
「ぐはっ!?」
後頭部を一撃。見事勝利した。
そして私は上機嫌でフユナとグロッタの元に戻った。
「やったね、ルノ!」
「さすがです、ルノ様! カードめくりの時といい今回といい、日に日にゲスくなってますな!」
ピキーン!
「ぐぇぇぇ!?」
グロッタを氷漬けにしてやった。
今回はともかく、カードめくりの時は実力だからね!
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次の日も私達は村に行った。
「あ、今日もやってるね」
「ふむふむ。相手の人、なかなか強いね」
「ルノ様、あれはサトリですぞ」
本当だ。なんかちょっと遊ばれてるような気がするな。
「よーし、いくよ! ランペッジさん!」
「ちょっ! まっ……!?」
ガガガガッ!
「ぎゃあああ!」
サトリさんの勝利。
一本でいいのにあんなに何回も入れちゃって……ランペッジさん……どんまい。
「はは、今日も結晶とられちゃってるね」
「フユナももらってきていい?」
「しょうがないな。一個だけだよ?」
「やったー!」
「お二人共。勝負があるという事を忘れてませんか?」
「ふふ、もちろん覚えてるよ。だけどね、グロッタ。勝負の世界は厳しいんだよ!」
「またゲスい顔になってますな」
またそういうこと言う!
「ぐはぁぁぁ!?」
「おーーーー!」
「フユナちゃん最高!」
うむ、どうやら終わったみたいだね。
そしてまた次の日。
「見て。今日もランペッジさ」
「ぎゃあああ!?」
「もうやられてるね」
どうなら今回の相手はカラットさんだったらしい。ロッキの結晶を狙われたな。
そんな事が何日か続き、ある日を境にその光景を見ることがなくなってしまった。代わりにランペッジさんが一人でポツンと座っている機会が増えたのだが……
「これはきっとあれだね。ロッキの結晶の在庫切れだ」
「ぜんぶ取られちゃったのかな?」
「有り得ますな」
すると、ランペッジさんがこちらに気づいたのか、顔をバッと勢い良く上げた。
「聞こえてるよ、君達!」
「あ、どうも」
「こんにちは、ランペッジさん」
「毎日見ていたぞ。ルノ様にフユナ様。サトリにカラット。むしり取られるかのように結晶が減っていったな! ゲラゲラ!」
「い、言わなくていい! うぅ……ぐす!」
うわ、泣いちゃった。でも確かにあれはランペッジさんの収入源みたいなものだったしなぁ
「同情しますよ、ランペッジさん」
「おぉ、分かってくれるか……」
「えぇ。同情しかできませんけど」
「……」
あ、下向いちゃった。まったく、仕方ない。
「ロッキの結晶が欲しいんですか?」
「あ、ありがとうっ!!」
「いや、あげませんよ?」
「……」
「庭の掃除やらをやってくれたら譲ってあげます」
「本当か!? 任せてくれ!」
そういうことで、庭の掃除や買い出しをやってもらった。色々と頑張っていたようなので、ロッキの結晶を五個譲ってあげた。今回だけだぞ。
「ランペッジさん。あの商売はヒュンガルではやめておいた方がいいですよ? 私、フユナ、サトリさんにカラットさん。残るのは一個ですよ」
「悪魔!!」
そうして、しばらくはランペッジさんは大人しくなった。といっても三日くらいでまた復活してたけど。
「まったくもう。次は金欠になっても助けてあげませんからね」
その呟きはランペッジさんには届きませんでした。