第三十二話〜家族の娯楽〜
ある日の昼下がり。
私はツリーハウスのテラス。そこに設置してあるテーブルである光景を眺めていた。
「ふっ、最初から当てて行きますぞ!」
「ふふっ、そう簡単にいくかな……?」
「ふふふっ、手を誤れば足元救われますよ」
重たい空気。真剣な眼差し。口を挟むこともできないほどの真剣勝負。
「まずはここ!」
「「!」」
「そして……ここ!」
「……グロッタ」
「手を誤りましたね」
「な、なんだと! ゴフッ!?」
この『ゴフッ』は別に吐血している訳でも何でもなく、グロッタがそう言っているだけ。
「ふふ、次はフユナの番だよ。グロッタ、ありがとね」
「なんですと!?」
サッ! サッ!
「ぐはぁぁぁ!?」
ドサッ……。グロッタが仰け反りすぎて、仰向けになって倒れた。
「やりますね、フユナ」
「まだ終わりじゃないよ?」
サッ!
「ま、まさか!?」
「にやり」
サッ!
「そんな……これ程とは……! ガクッ……!」
今度はスフレベルグがその場に崩れ落ちた。まるで戦闘シーンを見ているかのような演出。しかしそれは……
「この様子だと、今回の勝負もフユナの勝ちだね」
ただのカードめくり。すなわち神経衰弱でした。
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「ぐぅ! フユナ様は強すぎます!」
「えぇ、恐れ入りました」
「ふふふ……」
現在の勝ち数はグロッタ1、スフレベルグ2、フユナ8
フユナの意外な才能が発揮されていた。記憶力が良いのか、カンがいいのか、それとも両方か。どちらにせよ、フユナが圧倒的に勝ち越していた。
「わたくしは諦めませんぞ!」
「ワタシだってこのまま引き下がる訳にはいきませんよ」
「次の勝負も負けないよ!」
最初はお昼ご飯を食べに来ただけだったのだが、いつの間にか熱い勝負が始まっていた。スフレベルグまで夢中になってるのはちょっと意外だったな。
「でもこうして三人仲良く遊んでるのを見るとほんとに和むね。じつに平和だ」
ここ最近はこうして三人で遊んでいる姿をよく見かけるようになった。先日、私がサトリさんやカラットさんと山に行っていた時も、こうして遊んでいたらしい。
「仲良くて微笑ましい反面、若干取り残されたような気持ちもあるからちょっと複雑……ぐす」
と、その時。目の前にフユナが来た。
「あれ、もうおしまい?」
「ううん。ルノも一緒にやろうよ」
「!?」
こ、この子は! なんでこんなに可愛いの! 親の顔……鏡はどこ!
「分かった。一緒にやろうか!」
「うんっ!」
そして。
「ふふん、ルノ様。わたくし達の勝負に付いて来れますかな!?」
「勝つのはワタシです。ゴゴゴ……」
「ルノ! 真剣勝負だよ!」
「は、はい……」
なんかみんな気合入れすぎじゃないかな? 見てる時は微笑ましかったけど、混ざるとまったく違う。
「お、お手柔らかにね……」
こうして、地獄の真剣勝負が始まった。
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「ふむ、ここと……ここだ!」
「「「おー!」」」
私が加わってからの第一戦目。私は見事に勝つことができた。
「なかなかやりますな、ルノ様」
「では次から本当の勝負と行きましょうか」
「次は負けないよー!」
「よーし、私だって負けないからね!」
最初は熱苦しい空気だと思ってたけど、だんだんテンション上がってきたぞ!
第二戦目。
「ほ、ほぅ? まぁまぁですな」
「偶然は重なる事もありますからね」
「ルノ……強いね」
「はははー偶然だよー!てへ」
また勝った! こういうのって勝ってる時、ものすごく楽しいんだよね!
第三戦目。
「くっ……外してしまいましたな。しかし……ふっふっふっ! 今回はわたくしの勝ちのようですな!」
「やりますね……」
「むむむ……!」
「ふむ……」
いや、これはまだ分からない! もし、残りのカードを全部取れれば!
「次は私の番だね。行くよ!」
「にやにや」
あ、グロッタ! 勝ちを確信して、にやにやしてるな! みてろー!
サッ!
「にやにや」
「ここだ!」
サッ!
「ほ、ほう? やりますな」
「まだまだ!」
サッ!
「……」
サッ!
「な、なにぃ!?」
「ま、まさか……?」
「ルノ……」
「ふふ、次も私の番だね」
サッ! サッ!
「ゴフゥッ!?」
「ガクッ……!」
「ぐすっ!」
「ふ…ふふ。ふっふっふっふっ!」
やばい、なにこれ。楽しくなってきた!
「でも、そろそろ夕方だし次の勝負で最後だね」
「やっと本番というわけですな!」
「絶対勝ちます。ゴゴゴゴゴゴ……」
「次こそはフユナの勝ちだよ!」
「よーし、勝負!」
最終勝負開始!
「「「……」」」
「あちゃー、外しちゃったかー!(にやにや)」
「くっ、なんか妙な手を使ってますな!?」
「え、そんなことないよ?」
外してしまったものの、私が取ったカードはけっこうある。
「次はワタシの番ですね」
サッ! サッ!
「そ、そんな……」
「次はフユナだね!」
サッ! サッ!
「うぅーーー!!」
「ふっふっ、それなら再び私の番だね」
サッ! サッ!
「「「!?」」」
「いただき!」
「おかしい! 何か魔法を使ってますな!? こしゃくな!」
「ルノ……あなたという人は! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!」
「ぶーぶーぶーぶー!!」
な、なんで私こんなにディスられてるの!?
「とりあえず次も私だね。行くよ!」
「「「……」」」
その後、結局最後まで私がカードを引き当てて最終勝負は終わった。
「ルノ様……見損ないましたぞ! ぺっ!」
「アナタは一体どこで道を踏み外したのですか……」
「つーん……」
「あれ、みんなどうしたの? ほら、今日はもうおひらきだよ(ルンルン♪)」
「ぺっぺっぺっ!」
「ゴゴゴゴゴゴ……!」
「つーんつーんつーん……」
その日。
私は勝利と引き換えに、何か大切なものを失ったのでした。