第二十七話〜氷の魔女のセカンドライフ〜
その日、私はいつもより早く目が覚めた。
「う……今日はちょっと寒いな……」
一瞬布団から出たくないとも思ったが、せっかくだし早朝の散歩でもしようかな。そうと決まればさっそく準備をする。
「早朝に散歩か。完全に老後の生活みたいになってるな」
ちなみにフユナはまだベッドで寝ている
「むにゃむにゃ……おばあちゃん……」
ん、起きてるのかな?
「おばあちゃんじゃないよー。フユナのお母さんはピチピチだよー」
「むにゃむにゃ……ルノ……ボケちゃった……」
「ひどい!」
フユナはまだ夢の中らしい。私は否定したい気持ちを抑えながら、そーっと部屋を出た。
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「んー! 早朝の空気も悪くないね」
そう言って伸びをする私は、現在グロッタの小屋の前にいる。グロッタはまだ眠っているみたいだ。起こしても悪いからさっさと出よう。
「あ、その前に上の様子見に行ってみようかな」
ということでロッキの樹の上へ。
「コソコソ……あ、起きてた」
「おはようございます。ルノ」
「おはよう、スフレベルグ」
この白銀の大鷲は、フレスベルグのスフレベルグ。先日突然やってきて、ここに住み着いたのだ。ちなみに呼び方はこれで定着してしまった。
「スフレベルグは早起きなんだね」
「ルノこそ。まるで老後の起床時間ですよ」
「うぐ……やてめよ。ちょっと自覚があるだけに何も言えないんだから」
「ふふ。どうです? せっかくなのでワタシが散歩に付き合ってあげましょうか?」
「え、なに? 乗せてくれるの?」
「ええ。早朝の空は気持ちいいですよ」
「おぉ、ありがとう。それじゃ、お言葉に甘えさせておらうね!」
私はすぐにスフレベルグの背中に飛び乗った。この白銀の羽根が結構気持ちいい。
「さて、どこか行きたい所などはありますか?」
「そうだねぇ。スフレベルグのおすすめの場所なんてのがあれば行ってみたいな」
「おすすめですか……分かりました。そうしましょう。では、行きますよ」
バサッバサッ!
ちょ! 風がすごい!
「あ、あのスフレベルグ? みんな起きちゃうから静かに飛んでね? グロッタは別にいいけど、フユナが睡眠不足になっちゃうとあの可愛さに影響が出ちゃうかもしれないからさ。静かに、そして落ちないようにね」
「なかなか難しい注文ですね……」
「ひどすぎる!」
「ん、スフレベルグ……なんか言った?」
「いいえ? ほら、落ちないようにしててくださいね」
「うん、お願いねー!」
そうして始まった空の旅は最高に気持ちよかった。
「いやぁーこの早朝の冷たい空気がたまらないね」
「ふふ、ルノは完全におばあちゃんですね」
「いいのいいの。今日はまたまただからね。これが続いたら認めるけどね!」
あ、今のフラグっぽいな……折っとこ。ボキっと。
「ところで、スフレベルグのお気に入りの場所ってどんな所なの?」
「そうですね……今ワタシが住んでいる所とよく似ていますよ。ほら、ちょうど見えてきた」
「お、あれってロッキの樹? しかもあんなに大きいのが六本も並んでる。ギロッポンー♪ なんちゃって!」
「……」
あれ……白けちゃったかな? 通じるわけないか……ってあれ? 六本のロッキの樹……?
下を見てみると見覚えのある街が広がっていた。一度とはいえ、初めての家族旅行で行ったあの街を忘れるはずがない。
「ここがワタシのお気に入りの場所です」
「ロッキの街じゃん!」
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着陸したのは一本のロッキの樹。看板には『安らぎの樹』と書いてある。そう言えばここは旅行の時には来なかったな。
「早朝の時間帯だと誰もいないのでゆっくり羽を伸ばせるんですよ」
「へぇ。確かに誰もいないし、空気も美味しいし、広さも文句ない。最高だね!」
「ふふ、喜んでもらえたようで何よりです」
それからしばらく私達はこの場所でまったりしていた。下が芝生になっているので寝転がると気持ちいい!
「ふぁ……やばい。このまま寝ちゃいそう……」
「構いませんよ。人が来たら掴んで飛びますから」
「それ、客観的にみたら捕食されるみたいだよね、私」
「ふふ、そうですね。……実はワタシ、前まではここで暮らしてたんですよ」
「え、ここ? でも人がたくさん来るけど」
「正確にはここより下の枝部分にですけどね。そうなんです。なので、静かな場所を探していたらあなた達の場所を見つけたという訳です」
「へぇ、そういうことだったのね」
「えぇ」
「ならあそこは最高の場所だね。静かな場所だし、好きなだけいるといいよ」
「えぇ、ありがとうございます」
そんなやり取りの後は、ひたすら早朝の静かな時間を満喫した。
「さて、朝ごはんの準備もしなきゃだしそろそろ帰ろうか?」
「そうですね。人が来る前に帰りましょう」
ほんとはもう少しゆっくりしたかったけどしょうがない。また機会があればこうして一緒に来ればいいだけだからね!
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現在は帰り道の途中。私はスフレベルグの背中で大の字になっている。
「結局、散歩とか言いながらほとんど歩いてないや」
「でも、出てきたかいはあったでしょう?」
「はは、ほんとだね」
そんな会話をしているとあっという間に家に着いた。空を飛んでいくと散歩感覚でロッキの街まで行けるという新たな発見。
「はい、到着です」
「ふぅ、ありがとうね。楽しい散歩だったよ」
「こちらこそ。機会があればまた行きましょう」
「うん、楽しみにしてるよ。それじゃ、私は下に戻るから。またね!」
「えぇ、また」
そうして私は早朝の散歩から帰宅した。
「ただいまーっと」
「あ、ルノ。どこ行ってたの?」
「ちょっと早朝の散歩にね」
「ルノ……おばあちゃんみたい……」
「ひどい! ちがうんだよ? 散歩とは言ったけどほぼ歩いてないから。だから標準! ピチピチ!」
「どういうこと?」
「ふふん! 実はスフレベルグに乗せてもらったんだ。しかも散歩感覚でロッキ街まで行っちゃってさ。安らぎの樹でゆっくりして来ちゃった」
「えー! ルノだけずるーい!」
「ふっふっふっ、早起きはしてみるもんだね!」
「ぶーぶー!」
その後。
グロッタにもおばあちゃん扱いされるという一幕があったものの、私は早朝の散歩も悪くないなと上機嫌で朝食の準備をするのでした。