第二十二話〜雷光・ランペッジ〜
グロッタの小屋の飾り付けが一段落した時、ある人物が我が家を訪ねてきた。
「ごめんください」
木の双剣を腰にさした、どこか見覚えのある男性だ。そう、それは家族旅行でロッキの街に行った時に会った。その名も……
「「「双剣の人」」」
「……」
私、フユナ、サトリさんの声が重なった。グロッタに至ってはたいして興味がないらしい。そして双剣の人の反応はというと。
「……」
黙ったまま。なんで訪ねてきたのに無言なんだ?
「……なっ」
あ、しゃべった。
「なんで君たちがここにっ!?」
「???」
何が言いたいんだ? ていうかこっちが聞きたい。とりあえず疑問には答えてあげよう。
「なんでって……双剣の人は自分の家に帰らないんですか?」
「そりゃもちろん帰るさ」
「そういう事です」
「つまりここは君達の家か」
「はい」
また黙り込んでしまった。
「双剣の人はなぜここへ? ロッキからそこそこ距離もあるのに」
「ここまで来て隠す意味も無いか。何を隠そう、ロッキの結晶の情報を掴んだので譲ってもらうために来た」
「この際、情報の出どころはどうでもいいとして。どうしてまた?」
「オレがロッキの結晶を欲しがる理由なんて一つしかないだろう?」
「あぁ、なるほど」
ロッキの街では希少な結晶を景品にして色んな人と闘っていた。つまりそのためだと。
「しかし……」
「ん?」
「まさか持ち主が君達だとは……一度負けて結晶を持っていかれたのにその相手に結晶を譲ってくれなんてみっともないな」
確かに。考えようによっては、返して。と言ってるみたいだ。だがそこで双剣の人はニヤリと笑った。ひぇ……
「しかし! オレが負けたのはそこのお嬢ちゃんであって君ではない!」
「うわぁ、開き直った……」
「という訳でどうだろうか。あの時と立場は逆になるが、君から一本取れたら結晶を譲ってくれるというのは?」
「えー、私が一本取ったらどうなるんですか?」
「ふむ……結晶を買い取るというのは?」
うーん、なんかそれって普通じゃない? 私から購入するってだけのような?
「……わかりました。その代わり、私の言い値で買ってもらいますよ? それが駄目なら諦めるということで」
「よし、いいだろう! 望むところだ!」
いや、そもそも闘いたくないんだけどなぁ。
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それからは一旦準備時間に入った。
「ルノ。ロッキの結晶いくらで売るの?」
「そうだねぇ。ロッキの街で出回ってるやつの倍とか?」
「二人とも、もう勝った気でいるのね……」
「私だって一応フユナが闘っていたのを見てますから大丈夫ですよ」
「でもほら、あの人の武器見てごらん?」
「え? あれって……」
「フユナちゃん気付いたみたいだね。使うのは木の双剣じゃないどころか……」
双剣の人が持っているのは『カラット・カラット』
ふむふむ。どういう訳か、あの人の武器はフユナやサトリさんと同じカラット・カラット。見た目は薄い黄色だから雷ってところかな?
「なるほど。今回は本気みたいですね」
いいだろう。こっちもやれるだけやる。
そしてついに闘う時間がやってきた。
「それじゃ、一応わたしが審判を務めるということで。はい、すたーとー」
開始の合図ユルい!
「そう言えば自己紹介がまだだったね」
「あ、そうでしたね。私は氷の魔女・ルノです。よろしくお願いします」
「あぁ、こちらこそよろしく。オレの名前はランペッジ」
双剣の人が名乗ると、双剣から一気に雷が吹き出した!
「双剣使い。雷光のランペッジさ!」
おぉ、なんかかっこいい。でもあれって……
「覚悟しな! 何人たりとも雷の速さには付いてこられない!」
その通り。もちろんランペッジさんも。
バチバチバチバチ!!
「ぎゃあああ!?」
まさに攻めようかという時に双剣から溢れ出した雷をくらって自滅した。
「ふふ……攻める間もありませんでしたね」
色んな意味でね。
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その後、ランペッジさんが起きるまで待つこと数分。
「あ、起きた」
「はっ……!?」
ガバッと勢いよく起き上がってきた。ちょっと頭突きされそうになったんだけど。それはさておき……
「ふふ……雷の如き速さで自滅しましたね」
「ルノちゃん、煽りすぎだよ……ぷっ!」
私はちょっと調子にのってみた。ランペッジさんの声真似をしながら。
「何人たりとも雷の速さには付いてこられない。そう! もちろんオレもな!(キリッ)」
「ぶー!! う、うま……うますぎ……くくっ!」
「サトリちゃん、そんなに笑ったら……可哀想……ぷっ!」
「ゲラゲラゲラゲラ!」←グロッタ
「うぉぉぉぉっ!! ひどすぎる!!」
ランペッジさんは恥ずかしさのあまり、その場で亀のように丸くなってしまった。
そして立ち直るのを待つこと一時間。かかりすぎ!
「ふぅ、いや、すまない。恥ずかしい所をみせた」
「いえ、お気になさら……ず……ぷっ、く……」
「……」
あ、やばい。そろそろ怒りそう……
「コ、コホン! では。ほんとは言い値で買い取ってもらうつもりでしたが、一応聞きますね。いくらでいくつ欲しいんですか?」
「うむ……そうだな……」
ランペッジさんの答えは市場に出回っている値段の倍の値段で十個。との事だ。うん、願ったり叶ったりだ。
「わかりました。その値段で譲りましょう」
「本当か! さらに倍の値段を覚悟していたがありがたい! 恩に着るぞ!」
「え、じゃあさらに倍でお願いしますね」
「墓穴!!」
「はは、冗談ですよ。いろいろからかっちゃったのでおまけにもう一個あげますよ」
「おぉ! 君は良い奴だな!」
ということで取引成立。
その後、どうせならということでフユナとも闘っていた。結果はフユナの勝利。おまけであげた結晶をフユナに奪われ、グロッタの小屋の飾り付けを手伝わされていた。
そしてサトリさんとも。この勝負に至ってはランペッジさはもはや目で追うことも出来ずに終わっていた。そのあとは昔話で盛り上がってたり。
うーん、なんかこの人。強いのか弱いのか分かんないな。
最後に意外な組み合わせ、グロッタだ。
若造に勝負の厳しさを教えてやるらしい。
「さぁ、来るがいい!」
「ふん! 噛み砕いてやるわ!」
ギュン!
「おぉ!?」
お、さすがフェンリル。速い!
ピキーン!
「ぎぇぇぇぇ!?」
……すっかり忘れていた。人に危害を加えようとすると氷漬けになるんだった。
「ふ、他愛もない」
ランペッジさんの勝利。追加で結晶を一個持っていかれた。
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空がすっかり茜色に染まり、日も沈もうとしていた。
「突然訪ねて来たりして悪かったね。今日は楽しかったよ」
「いえいえ。こちらこそいろいろと楽しかったですよ。そう、いろいろと……(キリッ)」
「ぶっ……ルノちゃん、やめてっ……!」
「くすくすくす!!」
「ゲラゲラゲラゲラ!」
「ま、まったく、君ってやつは……!」
最後にそんなやり取りをして、ランペッジさんは去っていきました。
いやぁ、なんだかんだでほんとに楽しかったな。
「そう言えば……」
「ん? どうしたのグロッタ」
「この中で唯一、わたくしだけがあの若造に負けましたな……」
「うーん、でもあれは自滅みたいなものだったからね。……自滅……って……ぷぷっ!」
「そういえばグロッタもとんでもない速さで自滅してたよね。そう! それはまさに雷の如き速さでな!(キリッ)」
「ぶっ! サトリさんこそやめてくださいよ! せっかく言わないでおこうと思ったのに……ぷぷっ!」
「ぷっ! くすくす!!」
「うぉぉぉぉっ!! ひどすぎる!!」
なんか、グロッタとランペッジさんってキャラの立ち位置が似てるなぁ。
その後もしばらく間、私達の笑いは響いていたのでした。
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その頃、村の武器屋『カラット』では……
「ほい、師匠。良質なロッキの結晶が手に入りましたよ」
「お! いつも悪いね、ランペッジ! てか、あんたまだこの村にいたのか」
「ふっふっ! 師匠にロッキの樹の情報を聞いた時から狙ってたんでね!」
「なに? まさかルノちんのとこ行ったのか?」
「もちろん! 見事にやられ……いや、自滅してきましたけどね。雷の如き速さで」
「またあれやったのか? 相手は魔女だぞ。ネタなのバレてるって」
「あ、そういう事なんですかね? その後めっちゃネタにされてからかわれましたよ」
「はぁ……カラット・カラットを授けたのはお前が初めてだってのに……このロリコンが!」
おしまい。