第二十一話〜結晶フィーバー!〜
「……」
私は現在、目の前の光景に言葉を発せずにいた。だってあれは希少な物のはず。うん、間違いなく。
「これってもしかして……一生のんびりと生活していけるんじゃ……ふへ」
私がそう思うのも仕方の無いことだった。何故なら我が家のロッキの樹には滅多にお目にかかれない希少品、ロッキの結晶がこれでもかというほど実っていたのだから。
今朝はフユナが朝ごはんを作ってくれていたので、私はその間グロッタに朝ごはんをあげて、今はその帰り。手には件のロッキの結晶を一つ持っている。
ガチャ。
私は家に入る。
フユナがエプロンをして、キッチンで料理をしている。
「そんな後ろ姿も可愛いなぁ」
「あっ、ルノ。おかえり」
「ただいま、フユナ。ほら、これ見て」
「え? あっ! グロッタのやつ取ったー!」
「ち、ちがうって! 聞いて驚け! なんと我が家のロッキの樹に結晶ができたんだよ!」
「ホントに!?」
「朝ごはん食べたら取りに行こうね」
「……? まだあるの?」
「うん、ほら」
私は窓の場所まで移動して外のロッキの樹を指差した。
「ぽかーん……」
やっぱりそうなるよね。ロッキの樹が結晶でライトアップされてるんだもの。
「ま、それはそれとして。まずは朝ごはん食べよう。いい匂いだね」
「あ……うん」
フユナはまだ現実を理解出来ていないようだった。
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朝食後、私達は収穫するために外に出た。
「これは見事なものですな」
グロッタがそんな感想を漏らした。案外落ち着いてるな。
「グロッタはそんなに驚かないのね」
「ふっふっふっ! わたくしにはフユナ様から頂いた本物のロッキの結晶がございますからね! あんなものはただの食料にしか見えませんよ!」
「冗談に聞こえない所が怖いな。今から収穫してくるけど食べちゃダメだからね?」
「ガク……」
本当に食べる気だったのか! 確認しておいて良かった。
「ルノ! 早く行こ! 早くー!」
フユナのテンションがかなり上がっている。うんうん、分かるよその気持ち。これから億万長者になれるんだからね……ふふ。
私はそんな欲に支配されながら氷の箒をつくった。
「よし。んじゃ行こうか。いつかの再現みたいだね」
「うん! レッツゴー!」
そして樹の上に到達。とりあえずざっと見回してみた。
「ふむ。これは思ったよりありそうだね」
「これ必要な分以外はそのままにしておいてもいいんじゃない?」
「それいいね。夜に見たらきっと綺麗だ」
そんなにすぐに無くなる量じゃないし、とりあえず収穫してみた。
「んじゃ、前みたいに私が箒動かすからフユナには収穫をお願いするね」
「うん、任せて!」
数分後。
「よいしょっと。もうこんなに沢山とれちゃったね」
「ほんとだね……ロッキの実の方が希少に思えてくるよ。一旦、地上に戻ろうか」
「うん」
帰り際にフユナが抱え込んでいる結晶が一つ落ちた気がするけど……ま、いっか。
ヒュー……
「ぎゃあああ!?」
相変わらず収穫の時はなんか聞こえるな。
そして私達は無事に下へ到着。
「ただいま。あれ?またグロッタ寝てるのね」
「ほんとだ」
疲れているのかな? まぁ、寝かせておいてあげよう。こっちにもやる事があるからね。ふふっ……!
「じゃあ、さっそく!」
「うんっ!」
「村に売りに」
「グロッタの小屋の飾り付けだね!」
「……」
ま、まだ結晶は沢山あるからね。うん。焦る必要も無いか。
「じゃあ私が結晶とってくるから飾り付けお願いしてもいいかな?」
「任せて! でも一人で大丈夫?」
「うん。のんびり少しずつ持ってくるよ」
という訳で再び上へ。片手で箒を掴み、空いた手で収穫し、膝の上に置いていく。
「よいしょ……三つくらいしか置けないや。あと一つだけ収穫しようかな」
そして私は結晶に手を伸ばした。その動きで膝に置いてある結晶が落ちてしまった。
「あちゃ……やっちゃった……仕方ない。一度に二個くらいにしとくか。一旦戻ろ」
ヒュー……(×3)
「ぎゃあああ!?(×3)」
うーん、うるさいなぁ?
私は再び地上に戻ってきた。
「フユナー持ってきたよ」
「ありがとう、ルノ」
「おぉ、綺麗になったね。というか眩しい」
元々、天井に一つくっつけてあったロッキの結晶が今や七つ。さらにたった今私が収穫した結晶をフユナが取り付けたのでさらに増えた。
「もうこの小屋には一生夜は訪れないね」
「グロッタ喜んでくれるかなぁ?」
ちらっとグロッタを見てみるがまだ寝ている。いつの間にか結晶持ってるし。
「きっと喜ぶよ。起きた時にびっくりさせちゃおうか」
「うん!」
そうして、収穫と飾り付けをお昼頃まで繰り返した。
「やったー! 完成!」
「おぉ、やったね」
グロッタの小屋は見違えるように明るくなった。天井には結晶がびっしり。こんな豪華な小屋、他に無いだろうな。
そこで、グロッタが目を覚ました。そのままこっちにやってくる。
「おはようグロッタ。……頭でもぶつけたの?」
グロッタの頭に目をやるとコブが三つあった。
「わ、わたくしにもさっぱり……ところでこれは?」
「ルノが収穫した結晶でフユナが飾り付けしたんだよー!」
「おぉ、ありがとうございます! とても神々しい雰囲気になった気がします! いやぁ、眩しい!」
うん。それ多分、物理的に眩しいだけだよ?
「じゃあ、お昼ご飯食べたら村に行こうか」
今度こそ売って億万長者になるんだからね!
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現在の場所は村の武器屋『カラット』
もちろん、カラットさんに会いに来た訳なんだけど……
「こんにちは、カラットさん! これお裾分け!」
「……」
微笑ましい。なんていい子なの。でもね、フユナ……それは……それはっ……!
「おぉ、随分と上質なロッキの結晶じゃないか。しかもこんなに!ありがとうなフユナちゃん! これ使って何か作っといてあげるからな!」
「うんっ!」
「……ぐすっ」
「なんでルノちんは泣いてるんだ?」
「いえ、お気になさらず……」
次の場所はサトリさんのカフェ。
今度こそは!!
「お、いらっしゃい! ルノちゃん。フユナちゃん」
「こんにちは、サトリさん! 今日はっ……!」
「おや、フユナちゃん。それ綺麗だね」
「ロッキの結晶だよ。はい、お裾分け!」
「え、いいの? ありがとうね!」
「うわぁぁぁん!!」
「ルノちゃん!? 気でもおかしくなったの!?」
「???」
ついに私は泣き崩れた。
その後、せっかくなのでお茶をしていくことに。
「それで……急にどうしたのさ。情緒不安定なの?」
「お気にならさず……ぐすっ」
「まぁ、コーヒーでも飲んで落ち着きなよ。あ、サービスじゃないよ?」
「ぐすっ!!」
「それにしてもこんなに沢山どうしたの?」
「うちにあるロッキの樹に沢山できてたの!」
「へぇ? ロッキの結晶って滅多にできない希少品なのにね」
「これでもまだ全部じゃないんだよ。綺麗だから今度見に来てね」
「お、いいの? じゃあ早速見に行くよ!」
急遽そういう事になった。いや、だからお仕事は……?
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そして再びロッキの樹へ。サトリさんも一緒だ。
「おー! これは綺麗だね」
「でしょー!」
現在は午後の明るい時間だがそれでもロッキの結晶は美しく輝いている。
「でも、やっぱり特にすごいのはこれだね」
「ふふん! 分かってるじゃないか、サトリよ!」
そう。グロッタの小屋だ。
「これ眩しくないの? 夜眠れないじゃん」
「ふっ、こんな素晴らしい飾り付けをして頂いたのに寝てなどいられるか!」
ずっと起きているらしい。それ死んじゃうよ?
「まだまだ結晶はあるからサトリちゃんも一緒に飾り付けやろ!」
「いいね! よーし、わたしのセンスを見せてあげるよ!」
「……」
そういうことで飾り付けは再開された。
サトリさんは宣言通り、見事なセンスを見せつけた。家からグロッタの小屋までの道に結晶を埋め込み、輝く道の完成だ。
「うん、さらに良くなったね。どうだい、フユナちゃん」
「サトリちゃんすごい!」
希少な結晶をこんなに沢山使っちゃって……!!
「ど、どうしたの、ルノちゃん? 目が怖いよ? ほら、綺麗でしょ?」
「はい、とても綺麗です」
「目が笑ってない……」
もう諦めよう。こうして飾り付けもできたし、サトリさんやカラットさんにお裾分けもできて喜んでくれたし。それで充分じゃないか!
「そう、これで……充分なんだっ……!」
「な、なんか妙な役になりきっちゃってるね」
「う、うん……」
そうして自分の欲望と決着をつけて前を向いて生きようと決心した時。
「ごめんください」
木の双剣を腰にさした、どこか見覚えのある男性が私の家に訪ねてきたのでした。