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☆氷の魔女のスローライフ☆  作者: にゃんたこ


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205/206

第204話〜家出したニセルノ〜


〜〜主な登場人物〜〜


・ルノ (氷の魔女)

 物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。本物のルノでホンルノ。


・ニセルノ (ルノの偽物)

 にゃんたこの複製魔法で生み出された偽物。見た目は瓜二つだが、言動が雑に設定されていて若干男勝りな部分が目立つ。


・にゃんたこ (神様)

『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。


・ブレザー (謎のジェントルマン)

 王都リトゥーラを治めるブレッザ・リトゥーラが自由を謳歌するべく変装した姿。ピチピチの茶色スーツに黒い丸メガネという格好のせいで変人扱いされがちだが、立ち振る舞いはジェントルマンそのものでルノからはイケメンと再評価されている。



 ここは雲の上に存在する天空領域パラディーゾ。

 にゃんたこの氷魔法【大輪・氷華】によって生み出されたこの場所は、中央にそびえ立つ大輪から広大な大地に至るまでその全てが氷によって作られている。

 太陽の光を反射した氷の大輪がキラリと輝く幻想的な風景の中、しかしこのパラディーゾで行われているのは激しい戦闘だった。


「迫る終焉、氷の牙! 全てを穿て! 【怪狼・フェンリル】!!」


 連続する轟音と共に大地を揺らすのは山など消し飛ばしてしまう程の鋭い氷の数々。

 物量にものを言わせた氷の牙は一つ一つが重なり合い、獣を髣髴させる大顎となって対象を容赦なく貫く。


 しかし。


「甘いよ」


 物量には物量で。そんな皮肉を返すように放たれたのは氷の牙を優に超える物量の氷の大輪だった。

 山を消し飛ばす威力の氷ーーをさらに吹き飛ばす威力を誇る大輪は、茎となる部分をしならせ超重量の暴力となって縦横無尽に暴れ回る。それが三本。


「ちくしょう!? そりゃ汚いゼにゃんたこ様!」


「くすっ。悔しかったらニセルノもマネしてみたら?」


「お望みとあらばやってやるゼ! 咲き誇れ、零の導き! 【大輪・氷華】!!」


 迎撃されバラバラになった氷の牙が降り注ぐ中、現れたのはにゃんたこが操るものと同等の氷の大輪。ただしその数は一つ。

 神様と人間。力量差は歴然だったが、対峙する氷の魔女は自信満々に言い放つ。


「にゃんたこ様と違ってこっちは『質』なんだ! 今日こそリベンジしてやるゼ!」


「面白いことを言うね。じゃあかかっておいで」


 そして次の瞬間、パラディーゾ再び轟音が響き渡ったのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「そして案の定、残り二つの大輪に押し潰されたと。まぁ一つ相殺できなら良かったじゃん。あはは」


「こ、こいつ他人事だと思ってテキトーなこと言ってやがるゼ……」


 ふらっとやって来たと思ったらボロボロの姿で何やら語り始めた私の偽物、その名もニセルノ。

 偽物なだけあってその雑な口調を除けば私と瓜二つの彼女だが、話を聞くとどうやら生みの親であるにゃんたこ様とドンパチやり合って家出してきたらしい。とんだお子ちゃまである。


「まったくやってらんないゼ! あの人、私のことをオモチャか何かと勘違いしてるんだゼきっと」


「どうどう……気持ちは分かるけど落ち着いて。ほら、私が手ずから淹れてあげたコーヒーでも飲んでリラックスしなよ」


「ぐすっ……どうせならフユナかコロリンに淹れて欲しかったゼ。レヴィナでもいい」


「…………」


 久しぶりに現れたと思ったらやさぐれていたので優しくしたらこれだ。


「おっ、ラッキー。チーズケーキ発見!」


「こら!? それは私が食べようと思ってた高級チーズケーキ!」


「ホンルノは隠し場所がワンパターンだな。そんなだからコロリンにつまみ食いされるんだゼ?」


「たしかにこの前されたよ! だから今回は譲らない!」


「こら、やめろ! 私のチーズケーキだゼ!?」


「どの口が言ってるの! このニセモノめ!」


「なっ!? こいつ言いやがったゼ!?」


 そんなこんなで自分自身とケーキを奪い合って数分。

 ニセルノはすでにボロボロだったので完勝した私だったが、やって来た理由が理由なので仕方なく半分こすることで穏便に済ませた。自分自身と争うのも虚しいしね。


「はぁ。なんだろう……ホンルノと喧嘩するのがめちゃくちゃ楽しく感じるゼ……」


「ちょっとやめてよ。同じ顔でそんな地獄の中で生きてますみたいなこと言われたら放っておけなくなるじゃん」


「あは、自分で言ってて思った。でも本当だゼ? はっはっはっ!」


「こわっ」


 ちなみに笑ってるのは声だけで目は虚空を見つめているので怖いを通り越して不気味だ。こういう姿を見せられてしまうと家出というのもあながち冗談じゃなかったんだなと思ってしまう。


「まぁ、にゃんたこ様も追ってこないみたいだしゆっくりしていきなよ。一日くらいなら大丈夫でしょ」


「うぅ……やっぱり私のことを理解してくれるのは私だけだゼ……」


「はいはい。それでどうするの? 仮にも自由の身になれたんだし村でも行ってきたら?」


「いいのか? こういう時だいたい止めてくるのはホンルノのくせに」


「どうせ村の人たちにはほとんど私達のことはバレちゃってるからね。ニセルノが多少変なことしても平気でしょ」


「ふ〜ん? でも残念。こんなチャンス滅多にないから私は王都に行くゼ!」

 

「なんでよ!?」


 軽く流してたのはあくまでも地元での自由行動だからだ。それ以外の場所でニセルノに行動された場合、何かやらかしてしまった時に全部私の責任になってしまう。


「知ってるんだゼ? ホンルノはここ最近、仕事と称してリトゥーラに入り浸ってるってな」


「サトリさんみたいなこと言わないでよ。ダメとは言わないけどリトゥーラに行くならお目付け役として私もついて行くよ。あと日帰りね」


「やった! そうと決まれば出発するゼ!」


 自由行動を許されたのが余程嬉しいのか、それくらい誤差だと言わんばかりの受け入れようだ。


 こうして、私は家出してきたニセルノと一緒に王都へ観光に行くという謎のイベントに巻き込まれてしまったのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 到着して早々にやったことはまず変装。と言ってもサングラスにマスク、そして帽子を被ったシンプルな変装だ。少なくともこれで同じ人物がいて騒ぎになったりはしないだろう。


「……いや、なんで私なのよ。するならニセルノじゃないの?」


「まぁまぁ。たまには私に『ルノ』をやらせてくれよ。今日くらい羽を伸ばして自由に生きたいっ!!」


「わ、分かったからあんまり騒がないで。私たち魔女はただでさえ目立つんだから」


 自分で言うのもアレだが王都ではそれなりに顔が知られているのだ。ニセルノが何か変なことをしようものなら噂はあっという間に広がってしまう。


「いいじゃないかチヤホヤされるくらい。どうもこんにちは皆さん。ルノで〜す」


 私の言葉を無視して近くにいた人達に愛想を振りまくニセルノ。早くも変なことをしているので先行きが不安だ。


「言っとくけどここで叫んでやってもいいんだからね? 天空にいるにゃんたこ様ならきっと……!!」


「わ、分かったからそれだけは絶対にしないで欲しいゼ……」


「分かればよろしい」


 そんなこんなでニセルノに先頭を譲って観光が始まった訳だが、どうも彼女の歩くスピードが遅い。

 それもそのはずで、先頭を歩くニセルノが少し歩く度に「ほえ〜」などと言いながら周囲の建物や点在する露店、挙句の果てにはメインストリートを走る馬車にまで視線を向けているのだ。楽しそうで何よりだが、完全に田舎者のそれである。


「まさか初めて?」


「そりゃそうだゼ。今日まで監禁生活をしてきた私に王都は眩しすぎるゼ」


 キリッとキメ顔を披露しつつその目線はまた新たな建物に向かってキラキラしていた。まるで新しい物に興奮する子供を見ているようで微笑ましい……いや、なんだか涙が出てきた。


「なんで泣いてるんだよ」


「気にしないでニセルノ……ううん、今日だけはあなただけが『ルノ』だよ」


 ニセルノには新しい物に囲まれて戸惑いながらも思い出に残る経験をしてもらうんだ。そうすればまた明日からにゃんたこ様にビシバシ地獄をーーいや、とにかく私は影に徹しよう。


 ……と、そう思った瞬間、全身が影に覆われて。


「とうっ!!!」


 ズドォンッ!!!

 凄まじい衝撃と共に狙ったように空から降ってきたのはいつか見たことのあるピチピチスーツのジェントルマンだった。


「やはりルノ君じゃないか。いや偶然だな」


 絶対偶然じゃないでしょ、と思いつつ後ろで固まる私。そう、今は私がある意味で偽物なのだ。

 まずい。ニセルノは前述の通り王都での経験はゼロ。すなわち人間関係も構築できている訳もなく、目の前に現れた怪しさ満点のジェントルマンに怪訝な表情を浮かべるばかりだ。


「待ってニセルノ。その人はーー」


「下がってな!」


 こっそり耳打ちしようとする私を守るように一歩前に出るイケメンなニセルノ。

 彼女はすでに杖を構えており、その立ち姿にはにゃんたこ様との生活で培われた強者の風格が滲み出ていた。いや、今はそんなシリアスな場面ではないのだが。


「む? どうしたルノ君。私だぞ?」


「ふん、こんな往来のど真ん中で私私詐欺とは物騒な野郎だゼ! そのピチピチスーツをひっぺがして衛兵に突き出してーーあだっ!?」


 まさに一触即発の瞬間。

 さすがに見ていられなくなった私は背後からの一撃でニセルノをノックダウンさせ、しかし同時に勢いに身を任せて行動したことを後悔した。


「お、おい……あの魔女様が一撃でやられたぞ?」

「顔を隠して……まさか悪者か?」

「でもあのジェントルマンがいるんだ。なんとかなるさ」


 最近噂になりつつある謎のジェントルマンのおかげか、ざわつき始めた場が一気に静まりかえる。


「えっとぉ……ご、ごきげんよう……?」


 人々の視線が集まる先にいるのは呆気にとられるジェントルマンでも、だらしなく突っ伏す魔女でもない。間に割って入った挙動不審過ぎる謎のサングラス少女(私)だった。


「お、おほほほ……! ごめんあそばせ〜!?」


 そしてあっという間に空の彼方へ連れ去られた魔女。

 あまりの手際の良さに、目の前にいたジェントルマンでさえ動くことはできず、その謎のサングラス少女は王都の新たな伝説として語り継がれることになるのでした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ちゃんちゃん。……と終われるはずもなく。


「ひどいゼ!? あまりにもひどすぎる!? 何がどうして観光地で襲撃されなきゃいけないんだ!? 世の中はこうも変わってしまったのか!?」


 突如現れたジェントルマンに襲撃されたニセルノ(という設定)は世の中に絶望するように夕焼けに向かって嘆いていた。


「隣の芝生が青く見えるとはよく言ったもんだゼ。やっぱり私はこうしてサトリのカフェでコーヒー飲むのが性に合ってるみたいだな」


「きゅん……ルノちゃんイケメン……」


 場所を移して結局ヒュンガルのカフェで過ごすことになった私達はいつの装いでのんびりしている。

 テーブルには私とニセルノ、対面には目がハートのサトリさんと……にゃんたこ様。カフェに入ったら呆気なく見つかってしまったのだ。


「家出なんてしてもいいこと無かったでしょ?」


「はい……襲撃される恐怖に怯えるくらいなら知ってる顔にボロボロにされる方がマシだゼ!」


「じゃあ明日からも楽しく遊ぼうね」


「もちろん! ……でもこういう日もちょっとは欲しいなぁ〜……なんて」


「くすっ」


 コーヒーを啜りながら笑うにゃんたこ様には果たして伝わったかどうか。それは明日のニセルノをもって証明されるだろう。

 そんな風に他人事のように聞いていると。


「明日はルノも混ぜようか」


「えっ?」


 突如振られる話題に反応できずにいると隣に座っているニセルノがとても嬉しそうに「それだゼ!」反応した。


「同じ私なのに片方だけスローライフとか許せないゼ! 同じ苦しみを味わいな!」


「決まりだね」


 いるよねこうやって同じ苦しみを味あわせようとする人。


「ふぅ。なんだかモヤモヤしてた原因が分かってスッキリしたゼ! 明日からよろしくなホンルノ!」


「ちょっと待った。からって言った? まさかしばらく続くの?」


「私と同じ道を歩いてもらう予定だから……うん、ほぼ毎日だゼ?」


「絶対無理ッ!?」


 そんな抵抗で神様を納得させることができれば苦労するはずもなく。

 それからしばらくの間、私は毎朝起こされてはニセルノと一緒ににゃんたこ様のお遊びに付き合わされるという地獄の日々を過ごす羽目になったのでした。



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