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☆氷の魔女のスローライフ☆  作者: にゃんたこ


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第202話〜氷の魔女の職業は?〜


〜〜主な登場人物〜〜


・ルノ (氷の魔女)

 物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。


・フユナ (氷のスライム)

 氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。とある本に出会って双剣にハマってしまいサトリの弟子になった。


・レヴィナ (ネクロマンサー)

 劇団として村にやって来たルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。


・コロリン (コンゴウセキスライム)

 ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。


・フウカ (妖精王)

 妖精の秘境『妖精郷』に住まう妖精の王。神様とは友人関係にあり、その実力も折り紙付き。風の魔法を得意としており、中でも【風刃・風華】は風魔法最強を誇る力を持っている。




 その質問が来たのは突然のことだった。


「サトリちゃんと帰ってくる途中でルノの話題になってね? そしたらほにゃららほにゃらら〜って」


「はは〜ん、わかったぞ。あの人のことだからそこで変なこと言ったんでしょ? 『ルノちゃんのお仕事は食っちゃ寝すること。つまりニートさ!』とかね」


「すごい! なんで分かったの!?」


「ふっ、サトリさんの考えることなんて全てお見通しだよ。……許せん」


 帰ってくるなり「ルノってどんなお仕事してる人?」と質問を投げかけてきたフユナに私は動じることなくサラリと答えた。

 ついにこの日が来てしまったかと内心では焦ったが、しかしフユナの前で情けない格好はできないのでこの場は冷静に会話することが大切だ。なんならこの話を無かったことにするというのもアリ。というかそれが最適解な気がする。


 なので。


「まぁその話は後でするとして。私は今から夕飯を作るから何かリクエストがあったら遠慮なく――うっ!?」


 何食わぬ顔でクルリと背を向けてキッチンへ向かおうとするも袖をグイッと摘まれてそれ以上の進行を拒まれてしまった。


「ルノ」


「……はい」


 やはりと言うべきか、フユナの目が逃がさないと言っている。

 質問の内容がコレでなかったなら、夕飯なんて後回しにして積極的なフユナにドキドキしながらどんな質問にでも笑顔で答えちゃう――なんて脳内がお花畑な私とは正反対に、至って真面目はフユナはその視線だけで「はよ答えろ」と訴えかけてくる。


「ルノ?」


「あぅ……」


 ただ名前を呼ばれるというのがこんなにも恐ろしいことだとは思わなかった。このままではちゃんと答えるまで尋問されそうだ。


「あっ、違うんだよ? フユナはルノがニートだなんて思ってないんだけど、今日みたいにお仕事が何かって聞かれちゃうと困っちゃって……えへ」


 微笑と共に言葉を濁してくれる辺り、フユナの優しさが見て取れる。

 サトリさんの場合はカフェの看板娘。カラットさんは鍛冶師。同じ魔女でもみんな何かしらのお仕事をしているのだ。むしろ今までよく突っ込まれなかったなと思う。

 やはりフユナの親(自称)という立場上、私自身の仕事とやらもハッキリさせておかないといけないな……よし!


「ならば説明しよう。私はフリーランスの魔女だよ(キリッ!)」


「???」


 すぐさま浮かぶ疑問符は想定内。なので私はキメ顔を維持したまま間を置かずに言葉を続ける。


「ある時はスライムを倒してお金を稼ぎ、またある時はカフェでアルバイトしたりなどなど、様々な方面で自らの技能を活かして困っている人を助けるのが私のお仕事! 魔女らしく魔法を必要とする案件ならなお良しかな」


「ふむふむ?」


 とは言ったが、スライム討伐ならまだしもカフェでのアルバイトなんて魔法にかすりもしていないのでただの一般人同然。まぁ、あれはサトリさんのお手伝いで半ばお遊びみたいなモノだったしノーカンにしておこう。そういう意味では最近の配達業務も似たようなものだ。


「まぁ、この辺りは平和だからやっぱりスライム討伐が主なお仕事になってくるかな。けど運が良ければ金ピカスライムやコンゴウセキスライムにも巡り会えるからなかなか夢のある仕事――って、一緒に行ったこともあったね」


「うんうん。でもそっか。なら今度からは『フリーランスの魔女です』って言えばいいんだね!」


「そういうこと。私だってこう見えてもちゃ〜んと働いてるんだから。何もしていないように見えるかもしれないけど、それだけオン・オフの切り替えができてたということで今日の所は見逃し――コホン。えっと、その、アレかな。フユナもお仕事と趣味の切り替えを上手くできると生活が潤うんじゃないかな。うん」


「ふむふむ!」


 てな訳で、いい感じに話をまとめたところでこの話題はおしまい。美味しいご飯を食べて明日からも元気に行こう!


「よし。じゃあご飯にするからみんなのこと呼んできてくれるかな?」


「うん、わかった! コロリン! レヴィナさ〜ん!」


 こうして私は、今日も今日とて大切な家族達と共に有意義な時間を過ごしたのでした。














 そして翌朝。


「なるほどね。その結果、逃げるようにアタシの元へやって来たと」


 フユナとの会話を引きずったままの私は後ろめたい気持ちと共にフウカのいる『妖精郷』までやって来ていた。

 そこら中に点在する『妖精の雫』が湧き出す泉と小さな虹。それらを引き立てるように芝生を彩る小さな白い花達。昼も夜も無視した明るい空は一日の概念を吹き飛ばし、いつまででもお昼寝を許してくれる女神様のように見える。……が、昨日の今日でそれに甘えてのんびりお茶会をしている訳にもいかないのだ。


「一応言っておくけど、私は逃げて来た訳でもないしニートでもない――もぐもぐ。今こうしてるのもこの後にしっかり働くためのエネルギーを補充するためで――もぐもぐ」


「ふ〜ん……なんだか自分に言い聞かせてるみたい。てか働きたいならアンタんところの村にカフェやら温泉やら色々あるしょ? この神聖な妖精郷に仕事を求めてやって来るとか、とんだバチ当たりよ」


「だってフユナのアルバイトに付き合おうとしたら今日は人手は足りてるとかで追い返されちゃうし、温泉は好きだけどそこを仕事場にしちゃうと失うものが大きい気がするんだもん」


「それ、完全にニートの思考じゃない。よく今日まで生きてこれたわねぇ」


「ふっふっ、そりゃ私だって無駄に100年も生きていた訳じゃないからね。ヒュンガル山でちょこっと本気出せば金ピカスライムを捕獲できるくらいの腕はあるんだよ。運良くコンゴウセキスライムを見つけた時なんて、そこから一年は余裕でニート――コホン。充実したスローライフをおくることができるのさ」


「はいはい、環境に恵まれ過ぎたせいでニートでも十分に暮らせていけちゃう訳ね。可哀想な子……」


「だ、だからニートじゃないってば。今回は謎の力が働いて不本意ながらニート扱いされちゃってるだけ! 私はオン・オフの切り替えがキッチリできてるから見る人が見ればぐうたらしてるように見えちゃうだけなの! そりゃ、タイトルがタイトルだから実際のんびりしてる日は多いしフリーランスの魔女を語るのもどうかなって気持ちも少しくらいは、その……もごもご」


「ハッキリしないわねぇ。まぁ、なんでもいいわ。それよりおかわりいる? 今回のは少し味付けを変えてけっこう美味しくなったと思うんだけど」


「うん、いただきます!」


 話を一区切りすると目の前にあるクッキーを一つだけ口に放り込み、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるフウカ。


 現在、私とフウカはテーブルを挟んで向かい合って座っている。

 テーブル代わりの大きな切り株に並ぶのは『フウカサンド』に『フウカクッキー』といったお馴染みの軽食。グラスの中でキラリと輝く液体は飲み物として注がれた件の妖精の雫だ。

 私のおかわりの返事を聞いてすぐさま出てきたのは野菜たっぷりフウカサンド。軽食などと言いつつガッツリ食べてしまっているので完全に朝食の勢いだが、これはこれで会話も弾むし有意義な時間と言えよう。


「うんうん、確かに美味しくなってる! でもフウカってアレだよね。面倒見が良すぎてニート量産しちゃうタイプ」


「今まさに証明されている最中だから否定できないわね。アンタ、自分で言ってて虚しくならないの?」


 と、そんなよく分からない返答はポイ。その後に続いた「どうせならフユナも連れて来れば良かったのに」だとか「お姉ちゃん寂しいわ」などという寝言もスルーしようかと思ったが、その言葉を聞いて突っ込むべきとこがあったことを今さらながら思い出した。


「フウカってばいつの間にフユナのお姉ちゃんになったのさ? フユナもフユナでめっちゃくちゃノリノリだから寝言とは思えないし……」


「ふっふっふっ、知りたい? 答えはカンタン。あの日(152話)アンタがニートしてる間にアタシは『信頼』を勝ち取ったのよ」


「な、なにぃ!?」


 あの日、フユナとフウカは初対面だったはず。にも関わらず、私がカフェでのんびりしていた短時間でお姉ちゃんと呼ばれる程の信頼を勝ち取ったと言うのか?

 確かに一緒にいたグロッタとも仲良くなってたみたいだし、何よりフユナ自身がノリノリだから疑う余地は無い。さすがは妖精王と言ったところか。


「おっ、悔しがってる悔しがってる。のんびりしてるともう一人のちっちゃい子までアタシの妹になっちゃうわよ? あのクールな瞳でお姉ちゃ〜んって呼ばれてみたいわぁ」


「もう一人のちっちゃい子ってまさかコロリンのこと? あの子は基本的に呼び捨てだからそんな甘々な空気にはならないと思うよ。逆にすっ転ばされたり、轢かれたりで大変な目にあうかも」


 それ以前に許さん! と、そんな冗談を言いながら談笑に耽けるのも良いが、いつまでもこの平和な空間に甘えている訳にもいかない。

 ではそろそろ本題に入らせてもらおう!


「ねぇねぇ。妖精王ってことはフウカはこの場所に詳しいんでしょ? お宝が眠る禁断の遺跡があるなんて美味しい話はない?」


「そりゃあここはアタシの庭みたいなものだから知らないことなんてないわ。けどいいのかしら? そんな美味しい話をアンタに教えてしまったら明日からまたのんびりスローライフでニート脱却が夢のまた夢……いや、まてよ?」


 割と的を射ている指摘に思わず怯んでいると突然の沈黙が訪れた。

 いやな沈黙から逃げるように必死でフウカサンドを頬張ること数分。おかわりまで完食し、残りのフウカクッキーを二つ三つと口に放り込んだ辺りで顔を上げたフウカがニヤリ。やたら役に入ったような雰囲気で言葉を投げかけてきた。


「この私、妖精王フウカが直々に依頼を出しましょう」


「あはは、なにそれちょっと面白い。急にどうしたの?」


 キミ誰? と、ツッコミたくなるような豹変ぶりでつい笑ってしまった。

 先程までのジト目といやらしいニヤけ顔はどこへやら。その熱い視線(?)は見る者を引き込んでしまう王者の風格に満ち溢れており、今までどれだけスイッチ切ってたの――などというツッコミはその真面目な表情によってさせてもらえなかった。


「じゃあとりあえず聞くだけ。……どうぞ」


「あちらをご覧なさい。大きな山がありますね?」


 指し示す遥か先には確かに山が見える。

 距離が距離なため正確な大きさまでは分からないが、それでもうっすらと霞んで見えるアレを瞬時に『山』だと認識できたのはおそらくそういうことだろう。麓まで行けばド肝を抜かれる大きさなのは間違いなさそうだ。


「なるほど、ヒュンガル山の比じゃなさそうだね。もしかしてあの山には金銀財宝が眠ってるとかそんな感じ?」


「あそこは魔物の巣窟です。あなたにはこれからあの山まで出向いてもらい、蔓延る魔物達を一掃していただきます。妖精郷の平和のために」


「うげ、思ったよりちゃんとした依頼じゃん。そういう危なそうなやつよりもっとこう楽チンなーー」


「妖精郷の平和のために!」


「それで押し切ろうしないで!?」


 そもそもまだ聞くだけ聞いているたけだ。だというのに決定権を委ねるどころか半ば強制。急に真面目になったと思ったら、ナニかを崇めるドコかの団体みたいなノリで面倒事を押し付けてくるんだから困ったものだ。

 まぁ、私もこの妖精郷には度々足を運ぶくらいには気に入っているので、そこまで切羽詰まっていると言うのなら手を貸してあげることもやぶさかではない。

 若干の苦悩の末に結論を出した私が「わかりました」と返事を返すと、数秒前まで真面目だった目の前の妖精王様は素晴らしい笑顔でガッツポーズをかましてくれた。嫌な予感がする。


「よっし! これで今回は楽できるわ!」


「ハッキリ言った! やっぱりこっちが素だよね!? 取り消し! 真面目なお願いだと思って聞いてあげた私がバカだったよ!」


「あなたが無事に依頼を達成できるよう心から願っております」


「今さら取り繕っても遅い。てかこの流れで自分だけ行かないとか有り得ないから! しょうもない演技してるくらいなら一緒に来て! 道連れにしてやる!」


「いたたた!? ちょっと、アンタ! 泣く子も黙る妖精王の羽を引っ張るなんてバチが当たるわよ!?」


「私は泣く子じゃないから知らない。バチなら今日のことをにゃんたこ様に報告して当ててもらうから覚悟しといてよね」


 てな訳で急遽、私とフウカは魔物が蔓延る魔の山にモンスター退治へ行くことになった。

 嵌められたことへの憂さ晴らし? いやいや、もちろんこれは本来の目的である『フリーランスの魔女』としての仕事の一つだ。

 釈然としない部分もあるが、フウカの依頼自体は真面目なモノみたいなので、これが成功した暁には報酬を目一杯頂いて我が家のお財布を潤すとしよう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 場所は変わって件の山の麓。

 時間にしておよそ一時間。フウカは持ち前の羽で、私とレヴィナは箒に乗ってここまでやって来た。

 急いでいた訳ではないので最速には程遠いが、平原が続く見渡しのいい直線距離で約一時間。予想以上の大移動で思わずため息がこぼれたのは言うまでもない。


「はぁ……はぁ……。やっと到着ですか……?」


「お疲れ様って言いたいところだけどまだスタートラインだよ。ガンバ!」


「ひぃ〜……!?」


 ちなみになぜいつの間にかレヴィナまでいるのか。それはもちろん人手が欲しいのと、あとは職業がよく分からないという点では似た者同士だから呼びました。


「うぅ……せっかく食べ頃の野菜達を収穫してたのに……」


「ごめんごめん、依頼内容がちょっとばかり危なそうな雰囲気だったからさ。こういう時は魔女の手も借りたいって言うでしょ? はい、ご褒美にジュースあげるから許してちょ」


「んぐ。すごい……力が湧いてきました……!?」


 差し出した妖精の雫をグイッと飲み干した瞬間、瀕死のように息を切らせていたレヴィナの瞳に光が宿る!

 これにて準備は万端。私とフウカ、そして妖精の雫によるドーピングを完了したレヴィナがいればどんな危機でも乗り越えられるだろう。


「それにしても魔物退治か。妖精郷と言えば危険とは無縁な場所だと思ってたけどそんなに強い魔物いるの?」


 ここで魔物の類を見たことがないのはもちろん、私の経験で言えば一番の危険は目の前にいらっしゃる妖精王様だ。

 出会って早々に魔法をぶつけられただけでなく、その後に身の潔白を証明すべく行った戦闘で殺されかけたという実例もあるくらいなので、そう考えるとアレ以上の危険なんて無いと思う。


「そうねぇ……今回は久しぶりだから数は多いかもしれないけど強さ自体は大したことないわよ。問題があるとすればこの原因をつくってるヤツの方かしら。実はこの山にはね――」


 とてつもなく強力な悪魔が封印されている!


 遥か昔、この妖精郷にどこからともなく悪魔が現れた。

 その規格外な力は大地を溶かし、空を赤く染めあげ、迫る者全てを真紅の炎で等しく焼き払い、この妖精郷にて破壊の限りを尽くしていった。

 そんな中、思わぬ飛び火に美しい髪の一部を焼かれた妖精王は激怒し、同じく規格外の力をもって滅ぼすことも難しいとされる悪魔を封印することに成功。見事、王としての責務を全うしたことで事なきを得たのでした――とのこと。


「今思い出してもムカムカしてきちゃうわ。アイツのおかげでアタシのチャームポイントが二本になって――あら? おかしいわね? あらら?」


 語り終えるなりブツブツ呟き始めたフウカの頭ではチャームポイントとされるアホ毛が一本だけ虚しく揺れている。

 話を聞く限りアレは元々三本あったようだが、残りの二本のうち一本は私がフウカと出会ってなんやかんやあった末に切り落としてしまい虚しい結果となっている。どうやらまだバレていないらしい。


「なに? アンタ、汗がすごいけど大丈夫?」


「はっ!? べべべ、別にぃ? そんなことより封印しちゃったなら問題ないじゃん。倒しちゃえば良かったのにとは思うけど」


「ちゃんと理由があるのよ。そっちの死神なら分かるんじゃない?」


 チラリ。私とフウカの視線の先では漲るパワーを持て余しているのか、もしくは暇なだけか分からないが、闇のオーラを撒き散らしながら近くの樹に向かってペチペチと控えめなビンタをかます怪しい人物がいた。


「言われてるよレヴィナ。死神だってさ」


「……え? 私のことですか……? ひどい……!?」


 顔の半分を覆い隠す前髪から涙目を覗かせる死神、もといレヴィナ。

 死神呼ばわりはあんまりなのでそれは後で指導しておくとして、気になるのはフウカの言葉だ。『討伐』ではなく『封印』という手段を取らざるを得ない理由があり、レヴィナはそれに気付いてると?


「それではレヴィナさん。説明をお願いします」


「多分ですけど……復活するってことですよね……? 私はネクロマンサーなのでそういう類とは付き合いが長いので分かるんですけど……どんなに強力な魔法をぶつけても復活してしまうのが一定数いるんですよ……。おそらくフウカさんが言うくらい力のある悪魔ならそう簡単には……」


「へぇ。それは厄介だ」


 つまりその悪魔は大まかに言うとゾンビ側に分類される訳か。いや、ゾンビが悪魔に分類されるのかな? まぁなんにせよ不死身の存在が敵にいると厄介なのは理解できる。


「その通り。だから何も出来ないように封印してやったまでは良いんだけど……ソイツから漏れ出す魔力のせいで魔物が湧き出すめんどくさい山になっちゃったのよ。それらが山から出てくる前に倒すのが今回の仕事ってワケ」


 と、フウカ。

 復活するなら封印。至ってシンプルだが、結局はこうして定期的に魔物退治をしなくてはいけない状況になっているので手間は変わらない。むしろこれを継続しなきゃいけない分、仕事を増やされた気分だ――と妖精王様はお怒りだった。


「まぁいいんじゃない? 一匹のドラゴンより百匹のアリンコの方がマシだよ。私とレヴィナもいるんだし魔法でササッと終わらせちゃお」


「それもそうね。でも気を付けなさいよ? 妖精の雫はそこら中にあるから怪我しても大丈夫だけど即死したら元も子もないから――って、そんな心配いらないか」


 アンタ達も魔女だもんね。と妙にプレッシャーをかけてくるフウカ。あんまり期待されても困るがまったくもってその通りなので、私とレヴィナは程よくリラックスしながらも適度に気合いを入れ直した。


 と、ここで一つの疑問が。


「あのさ。呼び出しておいてアレなんだけどレヴィナって戦闘は大丈夫な人なんだっけ? 試してもいいけどたぶんビンタじゃ厳しいよ?」


「そんな攻撃手段ありませんよ……!? でも戦闘が苦手なのは確かなので、強いゾンビを呼び起こして代わりに戦ってもらいます……」


「あぁ、あの人(?)達か。そう言えばグロッタに敗北を味あわせてたこともあったっけ」


 シンプルな大軍はもちろん、過去に見たゾンビの中にはマッチョなゾンビなんかもいたので、たとえ戦闘になっても臨機応変な対応が期待できそうだ。


「そう考えるとレヴィナの魔法って結構万能な力だよね」


「意外とそうでもないんですよ……。ほら、一度ルノさんの家でコックさんを蘇らせたでしょう……? アレも見かけ倒しで味の方は……あは……」


「思い出した。激マズだったね……」


 とは言ってもあれはゾンビになったせいで味覚が狂っていたのが原因で、調理技術などの身に染み付いた能力までは失われていなかったらしい。

 そういう意味では戦闘という場面において、例えば剣術を極めたゾンビを呼び起こせれば大きな戦力になるということだ。


「あわよくばめちゃくちゃ強いゾンビが蘇って私は見学だけで済むのでは? よし! 今日はガンガンやっちゃってくださいレヴィナさん!」


「そ、そんなに期待されましても……えへへ……」


 全てを押し付けられそうになっているのに困るどころか喜ぶレヴィナさん。だが、あながち冗談でもないと私は考えている。

 剣の達人に槍の達人。他にも斧や弓の達人なんかも蘇らせて不死の達人集団で突き進めば私達は本当にお散歩気分でも問題無い――なんて頭の中をお花畑でいっぱいにしている時、フウカから思わぬツッコミが入った。


「期待しているところ悪いけどこの山で死んだのは大して強くもない魔物ばかりよ。過去に誰かしら来てたとしてもアタシの記憶にない時点でお察しね」


 聞くところによると、基本的に妖精郷は平和な上に悪魔が現れた時の被害も妖精郷の大自然と、あとは強いて言えばフウカのチャームポイントとされるアホ毛の一本だけらしい。

 封印してから現れるようになった魔物達も、この山から飛び出さないようにフウカが定期的に見回りに来ているので犠牲者などいるはずもなし。

 そもそも妖精王であるフウカがそんな達人達の死を把握していないハズ無いし、そうならないようにこうして見回りに来ている訳で。

 

「じゃあレヴィナがこの場にいてもポンコツってこと? せっかく呼んだのにポンコツって……」


「いざとなったら魔物を蘇らせればいいじゃない。まぁ、ソイツらも結局は小物だから実力はお察しだけどね」


「わ、私だって魔女ですから一応は他の魔法も使えますよ……!? 二人ともそんな目で見ないでください……!」


 てな感じでワイワイと盛り上がりながら山に足を踏み入れること数分。


 妖精郷にしては珍しく、深い森に覆われた山道は美しいと言うよりも不気味だった。もちろん、場所によっては光が差し込んでいてお馴染みの白い花達が可愛らしくも確かな存在感を放っているが、やはりこの山全体がどことなく異質な空気に満ちているのは確かだ。


「これはアレだね。妖精郷という完璧に管理されたお花畑の一角に邪悪な外来種が紛れ込んだ、みたいな感じ」


「妖精郷を汚す悪魔が紛れ込んだのは確かね」


「えっと、火……水……風……。大丈夫……大丈夫……!」


 そんなこんなでやがて見えてきたのは拓けた空間と大きな洞窟だった。

 全てを吸い込んでしまうように大きく口を開けた入口を前に、思わず「ゴクッ」と息を飲む私とレヴィナはなんてことのないお散歩気分で先頭を歩くフウカの背中をゆっくりと追いかけていくのでした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 


 洞窟の中はほんのり明るい。

 所々で光を放つ小さな鉱石が洞窟内を照らし、松明代わりの火が不要なくらいには視界の確保ができている。

 先頭にフウカ、その後ろに私、最後尾にはレヴィナ。仲間を引連れた勇者のような陣形だが、仮に私達が横に並んで歩いたとしても余裕があるくらいには道幅があるので圧迫感はあまり無い。

 

 やがて数十分が経過し、代わり映えのない光景に手持ち無沙汰を感じ始めた頃。


「なに、レヴィナ?」


「えっ? 私は何も……」


 進む足は止めずに首だけをひねって返事をすると何を言っているんだとばかりにキョトンとするレヴィナとご対面。

 冗談を言っている様子はないが、だったら肩に走ったこの衝撃はなんだろう?


「ひぃ!? あ……わ……!? ル、ルノさん……!?」


「あら? アンタ、そのスライム早く取らないとあっという間に貧血になるわよ」


 私の肩に視線を釘付けにしながらアワアワと顔面蒼白で震えるレヴィナ。続くフウカの言葉にようやく不安を感じ始めた私が二人の視線を追ってみるとあら不思議、拳程もある黒いナメクジ的なナニかが私の肩にくっ付いておりました。


「………………なに、これ」


 すぐさま現実逃避を試みた。が、吸い付かれるような気持ち悪い感覚を前にあえなく失敗。数秒後、フウカの言葉と合わせて明確な答えを導き出してしまった私は、その『ヒルスライム』肩にくっつけたまま「うぎゃあああ!?」と大絶叫。

 訳も分からず走り回った結果、踏んずけたり蹴っ飛ばしたりで通路上にいたものはほぼ全滅。首元に吸い付いていたヒルスライムは追いついたフウカが撃ち抜いて事なきを経た。


「はぁ、びっくりした。いきなり吸い付くのは心臓に悪いからやめて欲しいけど……うん、正体さえ分かればコレもスライムだからぷにぷにしててかわいいかも。ほら、レヴィナも触って――あ、くっついちゃった」


「ちょ!? ぁ……なんだか目眩が……」


「アンタバカなの? さっき貧血になるからって注意したわよね?」


 最初は気持ち悪かったヒルスライムも慣れてしまえばかわいいもので、皮膚に吸いつかれなければなかなかに癒しの存在になった。

 なお、早くもダウンしそうなっているレヴィナは、妖精の雫でしっかりと元に戻しておきました。


 続きまして。


「ぶえっくしょんっ!!!」


「うわっ!?」


 その辺で新たに拾ったヒルスライムを手でこねくり回しながら歩いていると、唐突に炸裂したくしゃみが洞窟内に響き渡った。

 先程の件もそうだが、こういうビックリ系は心臓に悪いからやめて欲しい。


「まったくもう……驚かせないでよフウカ。なに今の超絶ブサイクなくしゃみは」


「アタシじゃないってば。今のはアンタが『クシャミスライム』を踏み潰したせいよ。気を付けないと死ぬ間際にするくしゃみでかなり強力な花粉症の症状が――」


「ふぇ……っくしょん! ぶえ〜っくしょんっ!?」


 といった感じに、もう無縁だと思っていた花粉症に苦しめられることになったのは思わぬ誤算。

 これは『花粉症スライム』の方が的確。などと心の中ではツッコミ、しかし現実ではくしゃみでうるさい魔女がその他大勢のクシャミスライム達と仲良く戯れている虚しい絵が完成していた。


「行くわよレヴィナ。あの子なら帰り際に拾えばいいから今はポイしましょ」


「は、はい……。さようならルノさん……」


 そんな訳にはいかないので、私は近くで湧き出ていた妖精の雫を飲み干しあっという間に完治させた。

 それからはクシャミスライムを踏んずけないように魔法で吹き飛ばしたり、時には片足でピョンピョン跳ね、たまに厄介なくしゃみの呪い(?)にかかっては妖精の雫を飲み干す。

 そんなことを繰り返しながら、私達は誰のモノかも分からないやかましいくしゃみ(主に私)に耳を痛めながら必死に進んだのでした。


 最後に。


「ふきあれろ〜ここうのしっぷう〜!」


「アレってフウカの!?」


 と驚愕した次の瞬間、妙なクチバシ付きスライムから放たれたのは見覚えがあるフウカの最強魔法【風刃・風華】だった。

 いつかのトリスライムにそっくりだがあんな能力は無かったぞ!?


「あら、前回の生き残りがいたみたいね。アレはなかなか厄介なヤツよ」


 その名もオウムスライム。見た事のある魔法を記憶し、使用まで可能とするチート級スライムとのこと。

 だがあくまでも模倣に過ぎず、本家の足元にも及ばない上に記憶できるのはせいぜい一つの魔法だけ。しかし元が元なので威力はそれなりにあって。


「ひゃ〜〜!?」


「大変! レヴィナがなんちゃって【風刃・風華】を避けようとして崖から落ちちゃったよ!?」


「安心なさいな。この下には妖精の雫が湧き出してる泉があるから死ぬどころか元気になってるわよ。どうせ少し歩けば通る場所だけど、心配ならアンタも飛び降りてみれば?」


「え、えっと……目的は魔物退治なんだからショートカットはダメ。別に飛び降りるのが怖いとかじゃないけどね? 私、飛べるし」


「解説どうも。じゃあソイツのことやっつけといてね。オウムスライムは生き残りがいると次回が大変よ」


「よしきた。レヴィナの仇だ! ずどん!」


 そんな感じで、凶悪なオウムスライムを一撃必殺のもとに葬り去る。

 後にずぶ濡れのレヴィナとも無事に合流し、私もついでに妖精の雫を飲んでここまでの疲労もすっかり回復。私達のコンディションはスタート時点よりも遥かに良くなった。


 そして現在。


「よし、だいぶ温まってきた! ヒルスライムは吸いつかれる前に――ずどん! クシャミスライムは倒した瞬間のくしゃみが厄介だから氷の牢獄で――【怪狼・フェンリル】! オウムスライムには隙も与えずに――【大輪・氷華】!!」


 響き渡る轟音。飛び交うスライム達。

 敵の数が増えてきたこともあって洞窟内の戦闘は激しさを増したが、ここまでに培われたチームワークもしっかり機能しているため討伐はかなり順調だ。

 私は各種氷魔法、フウカは風、後ろでは私達の手が回らなかった分の相手をレヴィナが相手取る。この調子ならあとは同じ作業の繰り返し――と思ったら後ろの様子がおかしい。


「あれ? あれ……? やっぱりゾンビが蘇ってくれませ〜ん!?」


 涙目で叫ぶレヴィナがごく普通の火・水・風といった魔法、挙句の果てには洞窟に入る直前に見たようなビンタで応戦している!

 嫌な予感が的中してしまった訳だが、それでも妖精の雫によるドーピングのおかげか、最後の砦のレヴィナで全てのモンスターを逃がすことなく倒すことができていたのは不幸中の幸いだろう。


 やがて戦闘も一段落した頃。


「本当にこの辺りには誰もいないんですね……。私のアイデンティティが……」


 レヴィナが残念そうに呟いた。

 ここで言う『誰もいない』とはゾンビの元となる死体のことであり、死霊術を扱うネクロマンサーにとってこれは致命的だ。妖精王様の管理が行き届き過ぎてある意味彼女にとっては地獄になっているようだ。


「まぁいいんじゃないかな。ビンタで敵を倒す魔女なんてレヴィナくらいだし十分に個性的だよ」


「それってもはや魔女でもなんでもないような……」


「贅沢な悩みを言ってる暇があるならここの治安を守ってきたアタシを褒めて欲しいわね」


 フウカの働きはまたの機会に褒めるとして。

 レヴィナには悪いが本格的な魔法が必要になるような戦闘が発生するよりは今の方が遥かに平和的でいい。

 彼女自身が常日頃からストレスマックスでこの機会に魔法をぶっ放したいと言うなら話は別だが、そんな様子は無いのでビンタ程度の軽い運動で済むくらいが丁度いいのだ。


「わっ、また来ました……!? えいっ……!」


 バチ〜ンッ!!!


 ドーピングのおかげもあってか、とても『軽い運動』には見えない威力ではあったけど。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ふぅ、やっとゴールか。なんでか知らないけどテーブルとイスが完備されてるのは助かる。……いや」


 そう見せかけてじつは擬態しているイススライムとテーブルスライムでした! と、一瞬だけバカな警戒をしてしまったがそれは考え過ぎだったようだ。

 なんせここまで謎スライム達に散々苦しめられてきたので妙な勘ぐりをしてしまう。


「ふっふっふっ。毎回討伐に来るだけじゃつまらないからのんびりお茶していけるようにアタシが設置したのよ。表の草原とは違ってまた綺麗でしょ?」


 フウカが両手を広げながらクルリと踊るように一回転。得意気に示すのは終点の現在地にぽっかりと空いた大きな空間――ちょっとした箱庭と言っても差し支えない広さがあるドーム状の空洞だった。

 地面や壁、天井に至るまで満遍なく散りばめられた鉱石は道中でも見かけた物だが、ここに関してはまるで規模が違う。

 小さくてもリンゴサイズ、大きいものになると人間がすっぽり収まるような特大サイズ。そんな鉱石が夜空の星々のように光り輝いており、仰向けで寝転がってしまえば洞窟にいることなど忘れてしまうような美しさがこの空間を支配しているのだ。フウカが自慢気なのも頷ける。


 ではさっそく、とイスに腰を下ろそうとしたその時。


「ん? これは……」


 ふと、視線を向けた先でひときわ美しい鉱石がキラリと輝いた。件の鉱石である。

 こうして近くで見てみると、その輝きはどことなくコンゴウセキに似たモノを感じられた。周囲の鉱石がお互いの光を反射し合いながら輝くその様は夜空の星々のようで本当に綺麗だ。


「ふむふむ。硬さはコンゴウセキには劣りそうだけど、美しさは負けてないかも……!」


 キラ〜ン!

 鉱石に反射した自分の瞳が同じように輝いた気がした。

 前述の通り、この洞窟内――特にこの空間は見渡す限り美しい鉱石だらけだ。

 今日まで生きてきた中でも初めて見る鉱石。うっすらと色がついているものもあるが基本的には透明。よく見ると、閉じ込められている光の粒子が妖精のように可愛らしく漂っており、それこそが妖精郷のみでしか採れないことを証明する何よりの特徴だった。


 つまり!


「これをいくつかパク――いやいや、トレジャーハンターとして持ち帰ればカラットさん辺りに高く売れるかも。ここまで少し時間がかかるけど定期的に来るのは可能だし、仕入れルートの確保は問題無い。うふふ……!」


 夢が広がり新たな職もゲット。いや、別にニートじゃないんだけど、まぁそんな話は一旦置いておこう。

 とりあえず手頃なリンゴサイズでも二つ三つあれば結構な高値になりそうな気はするが、ここはひとつ大きめのスイカサイズを持ち帰ってみんなをびっくりさせてみるなんてのもアリかもしれない。


「う〜ん……これだけあると迷っちゃうけどまずはフユナとコロリンに一個ずつお土産に持って帰ってあげようかな。グロッタとスフレベルグは食べ物の方が喜ぶと思うから余ったフウカクッキーを貰ってと」


 そうと決まれば行動あるのみ。何にせよまずは一つ採取してみないことには始まらない。いざ!


「そもそも道具とか持ってないから上手くできるかも分からない……あっ、とれた! なんだ、けっこう簡単だね」


 岩肌を軽く叩いてみただけで思いのほか簡単に鉱石は外れた。


「おぉ……!」


 ひとつの物にこれだけ感動したのはいつぶりだろうか。思わず漏れた感嘆の声がその証拠だった。

 だからこそ思う。沢山あるとはいえフウカはこの鉱石をすんなりくれるだろうか?


「フウカってたまに真面目になるからなぁ。よし、事後報告ってことで明日にでも――」


「アンタ、そこでなにしてんの?」


「ひぃっ!?」


 突然の背後からの声に思わず肩がビクッと跳ねる。ほんのり黒いことを考えていたが故か、思わず採取した鉱石を隠しながら振り向くとそこにいたのはやはりフウカだった。


「び、びっくりした! 驚かせないでよ……」


「はぁ? ナニを驚く必要があるのよ。やましい事でもしてんの? 泥棒?」


「ギクッ!? い、いや、べつにぃ……?」


「ふ〜ん? ま、いいわ。それよりアンタも座って休憩したら? も・ち・ろ・ん、後ろ手に持ってるモノを戻してからね」


「うげ。見てたんじゃん……」

 

 知らんぷりして泳がせるなんて意地悪な妖精王である。

 残念ながらタダで持ち帰るのは無理っぽい。であるならば、この依頼を完璧にこなして少しばかりのおねだりを受け入れてもらう他ないだろう。

 あわよくば、定期的にこの山に立ち入る許可なども貰えたら嬉しいなぁ〜なんて話は依頼達成後にしてみよう。


「途中のモンスターが少し面倒だけど、こんなに綺麗な場所ならたまには遊びに来たいからね。次は家族みんなで来れたらいいなぁ」


 イスに腰掛け、星空のように美しい天井を見上げながらそんな風に思う。


 しばらくのんびりしていると新たな発見もあった。よく見てみると鉱石の中で漂う光が一つ一つ違うのだ。

 先程、私が手に取った鉱石は全体的に細かい光の粒子が漂っていて、何をせずともキラキラと輝いているタイプ。他には中心部にポツンと指先サイズの光が制止していたり、光同士がぶつかり合っていたりなど、それぞれが同じ鉱石だとは思えないような個性に満ち溢れている。

 中でも珍しかったのが――


「あら、ちょうど生まれたわ」


「えっ?」


 見つめる先にある一つの鉱石で不思議な現象が起こった。前触れも無くパリンと砕け散ったかと思えば小さな光が飛び出し、それはもう立派な妖精の如く飛び回り始めたのだ。


「しかもこっちに来た。本当に生きてるみたい!」


 私は感動しながら「まさか本物!?」とフウカに視線を向けると、なんてことはない世間話くらいのノリで「だから生まれたんだってば」と返されてしまった。その言い方はおかしいのでは?


「冗談でしょ? 妖精の生態系は知らないけど生き物が石から生まれてくるなんて……」


「別に珍しいことじゃないわよ。妖精郷にいる妖精はみ〜んなこうして生まれてくるモノなの。この鉱石に一定の魔力が蓄積されると出てくるのよ。嘘だと思うなら暇な時にでも妖精達が沢山いる場所に連れて行ってあげるから聞いてみなさいよ」


 初めは意味の分からなかった現象もフウカの言葉を聞いたことで理解できた。つまりあの鉱石は新たな妖精を生み出す『卵』のような役割を担っており、出てきた光は今まさに生まれたばかりの『妖精』なのだ。


「じゃあ私がしようとしていたのって……」


「極悪非道の密猟者にならなくて良かったわね。命をお金に換えるなんてとんでもないわ」


「いやぁ〜!?」


 本当の意味でフウカに感謝した瞬間だった。

 目の前で我が子に等しい存在を盗もうとする極悪な魔女(私)を妖精王の名のもとに消し飛ばしてもよかっただろうに、わざわざ忠告までして見逃してくれるなんて!


「ありがとうございます妖精王様! やっぱり人間、真面目に生きないとダメですよね!」


「正しい道に戻ってくれたようで何より。じゃあこの後はアンタの働きに期待しようかしら? 魔女は魔女らしくガンガン暴れてちょうだい」


「分かりました! ……けど魔女を戦闘狂みたいな扱いするのはやめて。私はあくまでもスローライフを愛する魔女だから」


「ウフフ……冗談よ」


 ちなみに件の鉱石。

 聞くところによると全てから妖精が産まれるということはなく、例えば私が手に取ったような光が散らばっているようなタイプはそのままの美しい鉱石として残るらしい。あの大きさで光がひとつに纏まってない時点で命が芽吹くことはないんだとか。スーパーに売ってる卵みたいなものか。


「それならさっきの鉱石もらってもいい? トレジャーハンターとしての成果を目に見える物で欲しいんだよね」


「アンタのどこをどう見たらトレジャーハンターか分からないけど……ま、いいわよ。お姉ちゃんからのお土産ってことでフユナに渡しといてちょうだい」


「えぇ、それは嫌だな。これは私の功績としてフユナに献上するのだ」


 お土産には違いないが、フウカの手柄にされるのは断固拒否する!

 これはあくまで『フリーランスの魔女』としての本日の成果であり、私がニートではないことを証明するために必要なモノなのだ。


 なんにせよこれにて任務完了! 明日からはまた思う存分スローライフを満喫するとしよう。


 ――と、締め括ろうとしたら何やらコーヒーカップ片手に寛いでいたレヴィナが騒ぎ出した。


「わわっ……!? ルノさん、フウカさん……! 出口がスライム達に塞がれてます……!」


「うげっ」


 せっかく帰ろうとした矢先にこれだ。

 まぁ、状況はレヴィナの言った通りなので省くとして、最後の最後にとんだ試練が課せられたものだ。


「こ、今度こそ私が……ひ〜ん! やっぱり誰も出てきてくれない……!?」


「もうこの際さっき倒したスライム達を蘇らせたら? 不死身になれる分、こっちの方が有利になるんじゃないかな」


「それもいないんですよ……! なんでぇ……!?」


 最後までポンコツのレヴィナがなんだか不憫に思えてくる。

 魔法が使えない一般人同然のレヴィナの目の前にはすでに大量のスライム達が津波の如く押し寄せていた。

 唯一の出入り口を塞がれてしまった以上、開き直って強烈なビンタでもかましてみたら? とも思ったがさすがにこの量は骨が折れるだろう。

 帰るまでがなんちゃらと言うし、ここは私達が責任もって片付けてあげよう。


「フウカ! 思いっきりやっちゃおう!」


「そうね。早めに終わらせてお昼寝でもしようかしら」


 こうして私とフウカは最後の仕上げとして思いっきり魔法を撃ち込み、今度こそ帰路に就くことができたのでした。



























 その日の夜。

 帰宅した私はさっそくニートではないことを証明すべく、お土産の品をフユナに手渡した。


「じゃじゃ〜ん! 見て見て、フユナ! 今日ね、魔物退治の依頼を成功させたらこんな綺麗な石を貰っちゃったの。はいどうぞ!」


「きれ〜い! ありがとうルノ! さすがフリーランスの魔女だね〜!」


「ふっふ〜ん! そうでしょ? 私は作者の謎の力になんか負けないのだ」

 

 フユナの尊敬の眼差しが眩しい。これだけでも頑張って良かった!

 もちろん、グロッタとスフレベルグにもお土産としてフウカクッキーを渡した。元々は食べ物の方が喜ぶであろう二人に向けてのものだったが、なんだかんだで夕飯後のティータイムで家族そろって談笑混じりに食べてしまったのはいい思い出になった。

 最後にコロリンだが、残念ながら件の鉱石は一つしか貰えなかったので。


「コロリンには妖精郷産のスライム三点セットね。左から、ヒルスライム、クシャミスライム、オウムスライムさんです!」


「…………」


 ポン、ポン、ポ〜ン。

 次々と並べられる変わり種のスライム達にコロリンはテンションはイマイチの様子。妖精郷産のレアアイテム(?)という点では同じなのでなかなかのお土産だと思うんだけどな。


「ニートのルノがガンバってエラんでくれたならワタシはナンでもウレしい」


「ニートじゃないし、めちゃくちゃ棒読み! まぁ、いつものツンデレだとポジティブに受け取っておこうかな」


 なんだかんだでお土産のスライム達をいいオモチャにしていたのでこの考えは遠からずといった所だろう。

 なお、数分後には何故か青筋を浮かべるコロリンが、グロッタの口にスライム達を放り込んでいたので恐らく手痛い反撃を受けたのだと思う。あの洞窟での記憶が蘇って親近感が湧いたのはここだけの秘密。


「ふむ。やっぱりお土産には無理があったか」


「この確信犯めっ!」


「あた〜!?」


 後に何があったかは想像にお任せします。



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