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☆氷の魔女のスローライフ☆  作者: にゃんたこ


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202/206

第201話〜王都に現る双剣使いサトりん②〜


〜〜主な登場人物〜〜


・ルノ (氷の魔女)

 物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。


・サトリ (風の魔女・風の双剣使い)

 ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。


・ブレザー (謎のジェントルマン)

 王都リトゥーラを治めるブレッザ・リトゥーラが自由を謳歌するべく変装した姿。ピチピチの茶色スーツに黒い丸メガネという格好のせいで変人扱いされがちだが、立ち振る舞いはジェントルマンそのものでルノからはイケメンと再評価されている。



 ひょんなことから衛兵達の訓練場に案内された私とサトリさん。

 スローライフの延長でやって来たはずの王都でなぜこんな場所に案内される羽目になったのか……理由は簡単。


「おぉ〜! やっぱり近くで見ると迫力が違う! 鎧じゃない人も結構いるからあんまり堅苦しくないのもいいね」


「サトリさん。一応言っておきますけどここに屋台はありませんよ。分かってますか?」


「当たり前でしょ? なんたって闘いに来たんだから」


「えぇ……私達のスローライフは?」


 と突っ込むも目をキラキラさせながら前を歩くサトリさんはほとんど聞いてない。ご覧の通り本人はすっかりやる気なので少しの見学で終わる雰囲気は皆無だ。


「ルノちゃんもその辺の人に声かけてやってみたら? やたら崇拝されてるみたいだしみんな喜ぶよきっと」


 サラッと私を巻き込もうとするサトリさんに便乗して案内役の衛兵がうんうんと頷いている。

 ほんの数人なら構わないが残念ながらここは王都だ。サトリさんが言うように魔女を崇拝してる人がほとんどなので、手合わせ願おうものなら100人抜きをしても余裕でお代わりが来ると思う。

 という訳で。


「私は屋台で何か買ってきますね。欲しいものはありますか?」


「じゃあお言葉に甘えて飲み物と……あと最初に食べたクレープがいいな。チョイスはルノちゃんに任せるよ」


「分かりました。ちょっと遠いので時間がかかっちゃったらすいません」


 これでよし。同じ魔女なら私はサトリさんを身代わりにして自由になる道を選ぶ!

 クレープのお店はほぼ正反対にあったので必然的にあの屋台が連なる通りを往復することになる。もう少し食べたいと思っていたのでお使いがてら遊んでこよう!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 しばらくして戻ってくると、訓練場の中央では何やら人だかりと共に多数の歓声が上がっていた。今もガキィンッと激しい音が鳴り響き、一本の剣が空中を舞ったところだ。


「おや、お戻りですか魔女様」

 

「あ、どうも。随分と盛り上がってるようで……」


 私がいない間のことを聞いてみるがなんとなく予想はできている。すると衛兵の人も何かを察したのか、苦笑いしながら「今は30人目です」と教えてくれた。

 周りをよく見てみると挑戦者だった人の何人かが白目を向いて倒れており、救護班らしき人が忙しなく動いては水をぶっかけて回っている。それで済んでる辺り大きな怪我は無いのだろうがやっぱりちょっと申し訳ない。


「ご安心ください魔女様。ここは訓練場ですので全員がそのつもりで闘っています。アレで済んでるのはむしろあの凄腕の魔女様に気を使わせている訳でして……お恥ずかしい限りです」


「本人は楽しんでるだけなのでその点は気にしないで大丈夫だと思いますよ」


 現に今も挑戦者の一人を武器もろとも吹き飛ばしたサトリさんが嬉々として次の挑戦者を迎えているのだ。アレはもう完全に100人抜きのノリである。


「ちょっとちょっと。なにルノちゃんはのんびり見学してるのかな?」


 しばらくしてようやく一段落した様子のサトリさんが戻ってきた。「いやぁ、疲れた」などと言いつつも、その表情は晴れやかで誰がどう見ても楽しんで来た人のそれだ。


「お疲れ様です。随分とお楽しみだったようで」


「あはは。最初は何人かやって帰るつもりだったんだけど……次々と挑戦者が現れるもんだからこっちもすっかりその気になっちゃったよね。ルノちゃんもやれば? わたしはちと休憩」


「残念ながら私は絶賛スローライフ中で忙しいんです。はい、サトリさんの飲み物とクレープ。……ん?」


 聞き間違いかな? 休憩って聞こえたけど。


「もしかしてまだ続くんですか? 別に100人抜きしても景品は出てきませんよ?」


「分かってるけどさ、アレを見ても同じことが言える?」


 アレとは後ろにできている長蛇の列だ。

 先頭にいる次の挑戦者らしき人は今か今かとこちらを見ており、その後ろには作戦会議をしている者や素振りをしてイメージトレーニングに励んでいる者までいる。さらに奥では挑戦権をかけた予選的な何かまで始まってもはや収拾がつかなくなっていた。


「ね? だからわたしはこうしてカフェオレとクレープで英気を養うのさ。うまうま」


「…………」


 カフェオレとクレープで英気を養えるかはさておき、まだまだ続くのは確定らしい。この人は一体どこでこんな体力をつけているんだろうか。


「よっし。んじゃルノちゃんの分もわたしが相手するとしよう! 行ってくるね!」


 休憩もそこそこに勢い良くかけ出すサトリさんは次々と挑戦者をノックアウトし、早くも40人抜きを達成してしまった。

 ここまで来るともうこれは一つの娯楽として見るのが吉。事実、全てを諦めてサトリさんの勇姿を見ているといつの間にか集中してしまいーー


「おぉ、すごい早さ。いいぞサトリさ〜ん!」


 開始早々、スピードにものを言わせる急接近から横薙ぎの一撃。見事に脇腹を捉えると気を失った相手は吹き飛び、手元から離れた武器がその場に虚しく落下。


「かっこいいサトリさん!」


 また、別の相手には先手を譲ったと思えば降り注ぐ斬撃の数々を体の捻りだけで躱し、堪らず呼吸を挟んだその隙をつくように後頭部への一撃で意識を刈り取る。


「あぁ……! サトリさんの敗北が見たかった……!」


 そしてたまに接戦を演じることはあっても結局最後にはまだまだ本気ではなかったサトリさんが圧勝してしまう。

 そして気がついた時には50人、60人と次々に挑戦者返り討ちにし、ついには99人抜きを果たして100人抜きが目前までやって来てしまった。


「この調子なら本当に100人抜きできるんじゃ……? こっちまでドキドキしてきちゃったよ……!」


 私もテンションが上がっていたのかもしれない。だがこのような発言を世間ではフラグと言う。


 次の瞬間。


「とうっ!!!」


 ズドォンッ!!!

 突如、空から降ってくるように現れたのは訓練場には似合わない茶色いスーツの男だった。

 筋骨隆々を物語るように強靭な筋肉が服の内側から盛り上がり、もはやギャグを疑うしかないほどにピチピチなったスーツははち切れる寸前。極めつけは渋い髭と黒い丸メガネが実にアンバランスで見方によっては変人でしかない。……が、私はこの人を知っている。


「はっはっはっ! 最後はこの私が相手だ! 魔女を騙る不届き者よ!」


 その人物の名はブレザー。

 国王ブレッザ・リトゥーラが身分を隠して自由気ままに出歩くことを可能にしたお忍びスタイルであり、スーツがピチピチなことを除けば以前に私とレヴィナもお世話になったことがあるジェントルマンである。

 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 訓練場の空気は一変し、サトリさんを含めた全員の視線がその異様な人物に向けられていた。中でも一番最初に反応したのは私のすぐ近くに控えていた案内役の衛兵。


「あ、アレはいつからか王都に現れるようになった謎のジェントルマン! なんでも魔女様を二人も同時に攫っていく程の実力で悪を裁いているんだとか……!」


 やたらワナワナと震えながら解説を始める衛兵さん。

 魔女様云々は噂で聞いただけなので詳しくはないとのことだが、王都に現れるようになってから悪人を懲らしめる姿がよく目撃されるようになったのは事実なんだとか。


「つい先日、私も偶然現場に居合わせたのですが……あの強靭な筋肉で見事にひったくり犯を捕らえていたのです……!」


 登場シーンからも分かる通りあまりにも神出鬼没で感謝すら伝えられなかったらしいが、おかげで最近では魔女に次いでちょっとした有名人になってきているとのこと。


「うーん……それってもはやお忍びになってないけどいいのかな……?」


 今も「はっはっはっ!」と笑っているブレザーさんは近くの衛兵から大剣を借り受けて勝負する気満々だ。

 相手はもちろんサトリさんだが、突然降ってきたピチピチスーツの変人に不届き者扱いされて絶賛困惑中である。


「放っておいて大丈夫ですか?」


「そ、それがあのジェントルマン……不思議なことに誰も逆らえないのです。まるで国王様を前にしているかのような威圧感で、噂では王城にも自由に出入りできる身分なんだとか……!」


「あぁ、そういう設定……ってことかな? 帰宅姿を目撃されてる辺りかなりガバガバだけど」


 とは言え王都では人気者みたいだし私からこれ以上言うことはない。深く考えたら負けということで話は終わり。


「情けないぞお前達。リトゥーラが誇る衛兵でありながらたった一人にやられっぱなしとは」


 急に現れたピチピチスーツに何も言えない衛兵達は上司に叱られる部下の如く意気消沈してしまっている。これに待ったをかけたのはサトリさんだった。


「ちょっとちょっと。せっかくいい所だったのに急に現れて何様かな? 見たところ衛兵でもないみたいだし下がってた方が身のためだと思いますけどぉ?」


「これは失礼。私は国王ブレッザ・リトゥーラといーーゴホゴホッ!? ……ジェントルマンのブレザーだ」


 もう正体バラしてるじゃん。そんな私の突っ込みは喧騒に掻き消され、どことなくヤンキーに成り下がったサトリさんはブレザーさんの上から下まで視線を走らせてから「ジェントルマぁン?」と胡散臭そうに笑った。


 しかし。


「大剣にその筋肉……見た目ほどふざけてないみたいだね」


「フッ。それを見抜く貴様もかなりの使い手のようだ。転がっている衛兵の数が物語っているぞ」


 先程までとは一転してピリつく空気が周囲の喧騒を打ち消す。

 誰が合図をするでもなく距離を置いた二人。一方は双剣を構え、一方は大剣を構え……ジャケットのボタンがパァンッと全て弾け飛んだ。


「…………」


「……失礼」


 どこまで本気か分からない立ち振る舞いに呆れるサトリさんだがそれも一瞬。空高く弾け飛んだボタンの一つが二人の間に落下した瞬間、いち早く踏み込んだのはなんとブレザーさんの方だった。


「げっ!?」


 踏み込んだにしては大きすぎる一歩であっという間に距離を詰め、ブレザーさんは肩に担いだ大剣を勢いのままに振り下ろして『ズドンッ!』と訓練場全体を激しく揺らした。

 予想外のスピードとパワーを誇る一撃にド肝を抜かれたサトリさんは果たして?


「ハッ!」


「むうッ!?」


 双剣による鋭い二連撃が無防備となったブレザーさんの背中にほぼ同時に直撃。しかし筋骨隆々の肉体は衝撃こそ受けても後ずさることはなくその場でガッチリと耐えて見せた。


「峰打ちとは優しーー」


「【逆巻く旋風】ッ!!」


 問答無用の二発目はここまで一切使ってこなかった魔法による追撃だった。背後を取った最初の攻めもそうだが、今回のサトリさんはだいぶ本気のようだ。


「どう? これで本物の魔女ってことは証明できたかな?」


「……フッ」


 しかし空高くまで吹き飛ばされたブレザーさんは怯むどころかニヤリと笑い、ボロボロになったジャケットを脱ぎ捨てて大剣を構え直した。

 背中に隠れるほど持ち上げられた大剣は振り下ろすぞと言わんばかりの分かりやすい構えだが、その威圧感は半端ではない。


「ま、まさかアレはーー【グラウンド・クロス】!?」


「えっ? ぐ、グラウンド?」


 いつの間にか案内役から解説者になった衛兵曰く。

 あの構えから放たれるのは強烈な二連撃からなる遠近両用の斬撃。その凄まじい破壊力は地面に十字の傷跡を残し、リトゥーラの各地に伝説を生んでいるんだとかいないとか。


「くらうがいい! 【グラウンド・クロス】ッ!!」


「グラウンド!?」


 何かとんでもない攻撃が来ることを察知したサトリさんは私と同じようにツッコミつつも油断なく構えた。

 そして「フンッ!」という掛け声とともに凄まじい速度で振り抜かれる大剣は文字通り十字を描き、飛ぶ斬撃となってサトリさんに襲いかかる。


 そして再びズドンッ!

 本日一番の衝撃が大地を揺らし、訓練場の中央に深い十字を刻み込んだ。


「ふむ……避けられたか」


 意外にも柔軟な膝で見事に衝撃を殺して着地するブレザーさん。目の前に広がるのは十字が刻まれた地面と舞い上がる砂埃のみでサトリさんの姿は見えない。だが言うまでもなくどこかに潜んでいるその姿は突如としてブレザーさんの背後に現れーー


「いただきっ!」


 完全に不意をついた一撃。しかしそれを予想していたのか、二度目は通用しないとでも言うかのように振り返ったブレザーさんは既に大剣を構え直しておりーー


「お返しだッ!!!」


「うわっ!?」


 大剣の面をうちわの如く振り切った瞬間、凄まじいまでの突風がサトリさんを襲う。

 咄嗟の回避で直撃しなかったのは凄いが、それでも風圧までは防げなかったサトリさんは私がいる場所まで吹き飛ばされて来た。

 もちろん、そんな流れ弾を受ける私ではなく。


「ぎゃあっ!?」


 私と解説役の衛兵さん、そして食べかけのクレープを守護するべく現れた極厚の氷壁が、猛スピードで突っ込んでくるサトリさんを見事に拒絶した。


「ちょっとルノちゃん!? なんで受け止めてくれないのさ!?」


「む、無茶言わないでくださいよ。あんなスピードで突っ込んで来る人を受け止められる訳ないじゃないですか」


 氷壁の向こう側からぎゃあぎゃあとまくし立てるサトリさんはすっかりお怒りモードだ。ちょっとだけ鼻血が出ているのはご愛嬌。


「そうだぞ。真剣勝負に仲間の助けを期待するのはナンセンスだ」


「ぐえ」


 そして決着。

 不覚にも背後を取られたサトリさんは脳天への一撃でパタンとその場に崩れ落ちたのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 その後、ブレザーさんと再会した私は反省会という名の雑談をすることに。


「はっはっはっ! 上に吹き飛ばされた時に美しい青色が目に入ってな。すぐにルノ君だと気付いたぞ!」


「左様ですか。私はピチピチスーツを見た瞬間に気付いてましたよ」


 気絶したサトリさんを膝の上に置いたまま突っ込むと、ブレザーさんは「派手に登場したからな!」愉快そうに笑った。


「それにしても驚きましたよ。人並外れた筋肉技を使えるのは知ってましたけど、まさかあんなに強いなんてビックリです」


「はっはっはっ! なんと言ってもこの国を治める国王ーーゴホゴホッ!? おい、まさかわざと口を滑らせようとしてるんじゃないだろうな?」


「いや、それに関してはとっくにブレザーさん自身が滑らせてたんであんまり関係ないですよ」


「はっはっはっ! そうだったか!」


 どうでもよさそうに笑うブレザーさんはしばらくしてから久しぶりに本気の勝負ができて嬉しかったと話してくれた。

 衛兵相手に無双してしまうサトリさんと互角の勝負をしたのだから相手がいないのも当然と言えば当然かもしれない。そもそも国王様が闘うって何なのって話ではあるけど。


「しかし世の中は広いものだ。これ程の強さを誇る者がいるとはな」


「あんな大技出しておいてよく言いますよ。なんでしたっけアレ。えっと……グランドクロス」


「【グラウンド・クロス】だ。しっかり覚えておきなさいルノ君」


「やっぱりダサい……」


 だが実物を見てしまった身からすると馬鹿にできない技ではある。ちなみにあの時に放った【グラウンド・クロス】は峰打ちバージョンで、本気を出せば大体のものは四等分にできるらしい。


「だが本来ならアレを出す前に負けていたな。彼女も峰打ちしかしてなかったのには気付いているだろう? 実戦なら最初の一撃で首を飛ばされて終わりさ」


「まぁ、私達はあくまでもスローライフの一環として来ただけですからね。この人は武闘派としての血が抑えられなかったみたいですけど」


 今も気絶したままのサトリさんをペチペチと叩くが起きる気配は全くない。というか寝息みたいな音が聞こえるがお昼寝してるんじゃないだろうな?


「あっ、そうそう。今さらですけどこの人は本当に魔女ですよ。私の友達でサトリさんっていうんです。以後、お見知り置きを」


「その点は魔法を見せられた時点で疑ってはいなかったが……はて? どこかでその名前は聞いたような」


 ふむ、と何やら腕を組んで考え込んでしまうブレザーさん。シャツの背中部分がミチミチと音を立てているがすぐにそれは収まった。


「そうだ、フィオからの手紙にあった名前だ。たしか看板娘のサトリ! そうだろう?」


「よくご存知で。カフェで顔を合わせると仲良さそうに騒いでますよ」


「そうかそうか。凄腕の双剣使いで魔女、さらには看板娘か。すごい人がいたものだ。いやいや、いい経験になった!」


 そんなこんなでしばらく談笑をした後にブレザーさんは登場した時と同じように空高く飛び上がって去っていった。お詫びだと言いながら律儀に何かの割引券まで置いて。


「おっ、これってあの屋台通りのやつじゃん! しかも全店無料のゴールドカード!?」


「んん……なに騒いでんの……?」


 ふああ〜と大きくあくびするサトリさんはやはり寝ていたようだ。あれだけの勝負を繰り広げたら眠たくなるのも理解できるがそろそろ膝が疲れてきたのでどいて欲しい。


「てことで、はい起きてください」


「えぇ〜……」


 背中を押して起き上がらせるも、首が据わってない赤子のように頭をカクカク揺らすサトリさんは完全に電池切れだ。これは連れて帰るのに苦労するぞ。


「そうだ! これあげるんで元気出してください。さっきの人がお詫びにってくれたんですよ」


「さっきの人……あぁ、ブレザーとか言ったっけ。ぐぐっ……!?」


「どうどう。敗北の味を噛み締めるのは帰ってからにしましょ? それより見てくださいこれ。何だと思います? さっき通ってきた屋台通りの食べ物が無料になる幻のゴールドカードですよ」


「はぁ? どうせ偽物じゃないの?」


「ホ・ン・モ・ノ! ほら、ちゃんと見て! 国王様公認の刻印もちゃんと入ってます!」


「げっ、マジじゃん!? いや、知らないけどとにかく本物っぽいから早く行こう! やけ食いしてやる〜!」


 こうして私達はようやく本来の目的であるスローライフに専念することができた。

 ヤキトリにアイス、ホットサンドにクレープまで手当り次第に堪能し、同時に至高のジェントルマン、ブレザー様に感謝しながらお財布を気にせずに思う存分娯楽の限りを尽くしたのでした。




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