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☆氷の魔女のスローライフ☆  作者: にゃんたこ


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第199話〜臨時講師の一日〜


〜〜主な登場人物〜〜


・ルノ (氷の魔女)

 物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。


・サトリ (風の魔女・風の双剣使い)

 ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者でフユナの師匠でもある。


・フユナ (氷のスライム)

 氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。とある本に出会って双剣にハマってしまいサトリの弟子になった。


・カラット (炎の魔女・鍛冶師)

 村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。サトリとランペッジの師匠でもある。


・ランペッジ (雷の双剣使い)

 ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。いつの間にかヒュンガルに住み着いていた。


・ヤンキー兄弟(ゲラール兄弟)

 王都では名の知れたゲラゲラとうるさい笑い声が特徴の兄弟。ヒュンガルにやって来て色々とあったが、今ではランペッジの元で剣術修行に励んでいる。




 ある日の昼下がり。

 お昼ご飯を終えて一息ついていると誰かが帰ってくる声がした。とは言っても「ただいま〜!」という元気のいい挨拶でお稽古帰りのフユナだということは一発で分かったので、私も「おかえり〜!」と返事をしながら玄関に向かう。


「今日は早かったねフユナ」


「今日はちょっと……あっ、そうだルノ。お客さんを連れて来たよ!」


「お客さん?」


 その言葉を聞いた途端、何故か嫌な予感がした。お稽古帰りならサトリさん一択だが、それなら既に声が聞こえてきてもいいハズ。


「つまり……敵ッ……!」


 すると何の因果か、フユナの後ろに現れたのはとても嫌な影だった。それも二つ。


「煌めく彗星【輝氷の射手】ッ!!」


 ズドンッ!!

 研ぎ澄まされた感覚がその正体を瞬時に見破り、次の瞬間、私は最速を持ってその異物がゲラゲラと笑い出す前に思い切り吹き飛ばしていたのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 その後、フユナに怒られた私は改めて二つの異物ーーヤンキー兄弟に謝罪してから渋々リビングに通した。そう、渋々。


「おいおい、なんでアネゴはこんなに不機嫌なんだ? こっちは被害者だってのに」


「どうせアレだろ? 更年期なもんで意味もなく不機嫌にーー」


 ズドンッ!!!

 用意したコーヒーにお菓子。本来なら優雅なコーヒーブレイクが始まろうとした先で特大の氷弾がヤンキー兄弟の一人(兄)にめり込み失言を封じる。はっきり言っておくが私はまだこの(自主規制)達がしでかしたことを根に持っているのだ。


「も〜ダメだよルノ。ゲラールお兄さん達はお客さんなんだから」


「な、なんてことなの……! フユナってばどこでそんな『変な物』の名前を覚えてきちゃったの……!?」


「ル〜ノ〜?」


 と、さすがにこの辺で止めておかないと悪ふざけでは済まなくなりそうだったので一旦深呼吸して落ち着くことに。

 なんでも本日予定されていた双剣のお稽古ーーサトリさん+ランペッジさん+その他(ヤンキー兄弟)による練習試合ーーができなくなってしまったので、ひとまず家に来てもらったということらしい。


「サトリちゃんはカフェの方でどうしても手が離せなくて、ランペッジさんは風邪ひいちゃったんだって。だからお兄さん達とフユナだけになっちゃったの」


「分かる分かる。めっちゃ気まずいやつでしょコレ。お師匠役のサトリさんはもちろん、ランペッジさんもいないって状況でこの二人を預けられても困っちゃうよね」


「も〜ルノってば、お兄さん達に失礼でしょ?」


「いや、これはあるあるなんだよ。友達の友達は必ずしも友達とは限らないんだよ……!」


 私にも経験があるのでよく分かる。しかしフユナの反応はいまいちで、本当にヤンキー兄弟とは『この道の仲間!』みたいに接しているのであまり強く言うこともできない。

 聞いてみると何度かランペッジさんとヤンキー兄弟がお稽古に合流したことがあるらしく、それからは切磋琢磨してお互いを磨きあっているらしい。


「うぅ……私は悲しい……! まさかフユナが多少なりともヤンキー兄弟で磨かれていたなんて……!」


「大丈夫ルノ? さっきから辛そうな顔してるけど」


「ありがとうフユナ。でも安心して。私がまたピカピカのフユナに戻してあげるから」


「???」


 なんにしても大体の事情は把握した。要はお師匠不在の現状をどうするか。その答えは簡単!


「コホン。では僭越ながら本日のお稽古は私が担当することにします!」


 隣で「わ〜い!」と喜ぶフユナを撫でながら対面に座るヤンキー兄弟を見る。すると一瞬だけポカンとして顔を見合せたかと思うと「おいおい」と盛大に鼻で笑われーー


「アネゴの強さは知ってるが教えるのとはまた話が別だぜ?」


「そうそう。アネゴ、剣を握ったことも無いシロウトだろ?」


「に、握ったことくらいありますけどぉ!!?」


「「ゲラゲラゲラゲラ!!!」」


 思い切り笑われながら精一杯の反論をするが今回はヤンキー兄弟の方が正しかった。

 お稽古の対象がフユナだけならまた魔法を交えた戦い方を伝授できるが、ヤンキー兄弟は純粋な剣術だけなので教えられることは何も無い。

 

「模擬戦と称してヤンキー兄弟の耐久テストでもするか? もしくは開き直って今日はお休みってことにして一緒にスローライフを……いや、ないな」


 あれこれ考えてみるがやはり足りないのは剣術に関する知識だ。斧でも槍でも何か武器の心得があれば話は別なのだが。


「……まてよ?」


 武器の心得があり、実力もある。そしてお師匠様としての経験もある人物。そんな人物に心当たりがあった私は急いでとある武器屋に箒を走らせたのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 場所は変わって現在地は庭にある広大な草原。

 私はフユナとヤンキー兄弟の前に立って、連れて来たその人物を紹介した。


「えー、こちらが臨時講師のカラットさんです。武器を握れば山を砕き、魔法を放てば海が蒸発するというすごい人です。……えっと、あとアレなんでしたっけ? カラットさんがよくやる自己紹介」


「世界一の魔女であり、世界一の鍛冶師でもある絶世の美女、な」


「えー、世界一の魔女であり、世界一の鍛冶師でもある絶世の美女なので、皆さん拍手で歓迎してください」


 パチパチパチ!

 最後にカラットさんが「よろしく!」と片手を上げて締め括ると、初めましてのヤンキー兄弟も初めましてじゃないフユナも温かい拍手で応えてくれた。

 てっきりゲラゲラと茶化す笑い声が聞こえてくるかと思ったがそんな空気は無い。むしろ目を輝かせて嬉しそうですらある。


「おい……! コレがランペッジの旦那が言ってた凄腕の師匠か……!?」


「そうなるな……! 揚げたてみたいな名前だったからよく覚えてるぜ……!」


 絶妙に失礼なことを言っているがつまりはそういうことらしい。ヤンキー兄弟にも強い人に対しては憧れのようなものがあるようだ。


「じゃあよろしくお願いしますねカラットさん。報酬は『ルノを一日配達員にできるチケット』でいいですか?」


「それ無しでもルノちんならやってくれそうだけどな。まぁ任せておけ。臨時なんだし気楽にパパっと模擬戦でもやって揉んでやるさ」


 いきなり模擬戦とは思い切ったスケジュールだが引き受けてくれた以上は大丈夫だろう。と、油断していたら何を思ったのかカラットさんは空に手を掲げて目を焼くような眩い炎と共に『カラット・カラット(やり)』を取り出した。


「ちょっとちょっと! 模擬戦なんですよね!? 私は全然! いや、本当に全ッ然! あのヤンキー達を消し炭にするのはいいんですけど! でもフユナにはちゃんと模擬戦をやってくださいね!?」


「分かってるって。それに曲がりなりにもあのランペッジが弟子にした奴らだろ? ちょっとやそっとじゃ死なないさ。フユナちゃんに関してはもうお互いに慣れっこだから大丈夫。なっ、フユナちゃん?」


「うん! 今日こそ負けないよ!」


 熱い闘志を漲らせるフユナは準備運動にしては激しすぎる勢いで草原をグルグルと猛ダッシュし始めた。普段どんな過酷な特訓をしているのか心配になってしまう。


「んじゃあまずは俺達の相手をしてもらおうか、カラットさんよ!」


「ランペッジの旦那の師匠ってんならちょっとやそっとじゃ死なねぇよなぁ!?」


「ふっ、なかなか威勢がいいじゃないか。あいつから聞いてるぞ。お前がアニキでお前がオトウトだな?」


 アニキとかオトウトって名前だったのか〜い、と心の中で突っ込んでいるとヤンキー兄弟は揃ってカラットさんに突撃した。

 以前にも見たことあるが、兄弟お得意の連携攻撃はなかなかのものだ。戦闘中にも関わらずゲラゲラと笑っていることを除けばなかなか見れる戦いである。


「「ハッ!」」


「甘いッ!」


 接近した瞬間、鏡合わせのように見事な連携で左右からの高速連撃を叩き込むヤンキー兄弟。バツ印を描くように放たれたその斬撃を、しかしカラットさんはたった一度槍をすくい上げるように振るっただけで弾き飛ばしてしまった。ちなみにヤンキー兄弟が使っているのもお稽古用の木剣ではなく鉄剣なので迫力が違う。


「ぐっ! なんて怪力してやがる!?」


「やべぇアニキ! 前っ!?」


「んっ? ぎゃあああっ!!?」


 ドゴッ!!!

 全力で振るった攻撃を弾き返され、体勢を崩した所に問答無用の一撃をお見舞いされるアニキ。土下座のような姿勢で頭を地面にめり込ませる姿を見て一瞬だけ怯んだオトウトだが、彼はなんと次の瞬間には大きく一歩踏み出して再び攻めに転じていた。


「おっと! 片割れだけになっても攻めてくるとはやるじゃないか!」


「当たり前さ! アニキありきのオトウトだと思うなよ! オラオラオラッ!!」


 片方が倒されるとパワーアップするみたいな謎の能力(?)を発動させた(?)オトウトは怒涛の攻めを見せ始めた。

 さすがにアニキがいた時と同じ連撃とまではいかないものの、一発二発と繰り出される斬撃は素人が見ればまさにバツ印が迫ってくるような錯覚を与えるほどの速さだった。

 ただ残念なことに相手はあのカラットさんだ。僅かに落ちた連撃の隙間に体を滑り込ませると、左側から迫る斬撃を槍で受け止め、隙だらけとなった脇腹になんと強烈な右拳を打ち込んで全てを終わらせてしまった。


「よし、なかなか良かったぞ! しかし攻撃の瞬間は二人とも隙がーー」


 地面に頭をめり込ませたままのアニキとお腹を抱えて泡を吹くオトウトにアレコレと解説を始めるカラットさんは実にご機嫌だ。

 久しぶに武器を振るう機会がもらえて嬉しかったのか、目を覚ましたヤンキー兄弟が戦慄すること計十回。ちょっとだけ可哀想に思えた私がドクターストップをかけたところでようやくカラットさんは手を止めたのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 その後はウォーミングアップを終えたフユナの出番となり、鳴り響く武器の衝突音は先程までとは比較にならないほど激しさを増していた。


「えいっ! やっ! はあっ!」


「いいぞ! 武器はしっかり握っとくんだぞ! ハッ!!!」


「うッ!!!」


 ガキィンッ!

 ヤンキー兄弟以上の手数を持って攻めるフユナにこちらも先程以上の威力で応戦するカラットさん。しかしその一撃を受け止めたフユナは見事に武器で防御しており、同時に背後に飛ぶことで威力を散らしていた。


「どっちもすげぇ……!?」


「こりゃ笑えねぇぜ……!?」


 隣で観戦しながらガクガクと震え出すヤンキー兄弟は引き攣った笑顔で共感を求めるようにこちらを見てきたが、私はすごいでしょと胸を張るだけに留めておいた。厳しいようだが敗者にかける言葉はないのだ。


「ちくしょう……! アネゴの知り合いは異常だぜ……! アレで魔女ってんだから世の中狂ってやがる……!」


「本当だぜ……! だがランペッジの旦那が師匠と崇めるだけはあるな……!」


 こうしてしばらくの間、戦慄するヤンキー兄弟と誇らしげに胸を張る私という妙な構図に見守られながら、カラットさんは無尽蔵の体力で臨時講師に相応しい働きを見せてくれたのだった。


















「よし、今日はここまでにするか! ってどうしたお前達?」


 空がオレンジ色に染まってきた辺りでようやく特訓終了を告げるカラットさん。しかしヤンキー兄弟はなにやら納得のいかない様子で立ち上がりーー


「カラットのアネゴ! 俺達はまだ納得してねぇぞ!」


「おうよ! 一度や二度の敗北で引き下がってたらゲラール兄弟の名が廃るぜ!」


 辛い行事が終わった瞬間、謎に元気になるアレ。そんなヤンキー兄弟を尻目にカラットさんは「どうすんだこれ?」みたいな目で私を見てきた。確かに元気になるだけならまだしも挑んで来られては終わりが見えないな。


「分かりました。では僭越ながら、ここからは私が臨時講師ということで……ずどん」


 ズドンッ!(×2)


「「ぎゃあああっ!!?」」


ヒューンと流れ星のように村へと帰っていくヤンキー兄弟を見送って、今度こそ本当に一日が終わったのでした。



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