第196話〜とても面白い本?〜
〜〜これまでの登場人物〜〜
・ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
・サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
・フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
・カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
・グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
・ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
・スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
・レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
・コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。
・フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ
魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。
・にゃんたこ (神様)
『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。
・フウカ (妖精王)
妖精の秘境『妖精郷』に住まう妖精の王。神様とは友人関係にあり、その実力も折り紙付き。風の魔法を得意としており、中でも【風刃・風華】は風魔法最強を誇る力を持っている。
・プウ、ペエ、ポオ(小鳥の親子とリス)
小鳥の親がプウ、子がペエ、リスがポオ。ペエのみが人間に変身できる魔法陣を身体に刻まれており、人間になってはプウやポオと一緒に村へ行ったりルノの家に遊びに来たりなどして美しい歌声を披露している。
・ライカ(獣王)
グロッタを以上の体躯と金色の体毛が特徴の獣の王様。何かあれば自ら動くところから同胞からの信頼も厚い。出会いが出会いなため、ルノからは『勘違いライオン』の烙印が押されている。
昼下がり。
天気も良く絶好のお昼寝日和となったことで、私は久しぶりにツリーハウスへとやって来ていた。
日当たりの良いテラス席に設置されている二人がけのベンチを一つ占領し、準備したコーヒーを飲むことも忘れてすやすやと眠りこける。
膝から下と左手をだらんと投げ出し、眩しい陽射しに照らされる顔には右手を乗せて睡眠をしっかりサポート。そんな状態でしばらく眠っていると何やら私の耳にククッと不気味な音が聞こえてきた。
「なに〜〜……」
寝起きであまり回っていない頭のまま「うるさいなぁ」と深く考えずに寝返りを打とうとするも狭いベンチから転げ落ちそうになったので、仕方なく投げ出していた左手を腕ごと顔に乗せ、右手と合わせて殻にこもった私はお昼寝を続けようとして――
「ククッ! クククッ!!」
「……ひっ」
その音――いや、声の違和感に気付いた瞬間、金縛りにあったかのような恐怖が全身を凍りつかせた。
思わず悲鳴を漏らしてしまった口をキュッと引き結び、必死に気配を殺して耳を澄ませてみると、不気味な声は不規則な間隔で絶えず私の耳を震わ続けていることに気が付いた。しかも近い!
「クックックックッ!」
「う……ぁ……!?」
ついには肌を撫でるような微かな風まで加わり、全身がゾクゾクと悪寒に包まれ始めた。
このままではヤバい! やらなければやられる!!
「うわあああッ!?」
恐怖に押し潰されそうになったその瞬間、私は死を覚悟して飛び起きた。
素早く杖を構え、恐怖で噛みそうになる詠唱を鋼の心で強行し、どうかこの一撃で消えてください咲き誇れ零の導き大輪氷華と息継ぎすることも無く最大級の魔法をぶっぱなそうとして――
「……ス、スフレベルグ?」
「おや、起こしてしまいましたか?」
目の前にいる見知った顔に、私は訳も分からず別の意味で再び凍りついてしまったのだった。
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地平線に沈みかける太陽に照らされながら、私はスフレベルグに紹介された一冊の本を見つめていた。
「ではしっかり見ててくださいね?」
「う、うん」
スフレベルグが嘴を使って器用に本を開くと、そこには紙で精巧に作られた立体的な絵が現れていた。
一言で言うなら『ビックリ箱』に似ている。開いた本が箱、そして折り込まれた紙がバネのように伸び縮みし、少々おバカな顔をした謎のキャラクターが首を伸ばしてこちらを見ている。「クックックッ……!」というスフレベルグの不気味な声を聞きながら本を閉じると、おバカな顔はクシャッと吸い込まれていくように消えていった。
「も、もう一度やってみましょうか。今度はルノが開いてください」
「はい」
言われるがまま、今度は見せつけるようにわざと目の前で本を開いてあげた。スフレベルグに向かってキャラクターの顔が急接近していく感じだ。
「クックックッ……!? そ、そのやり方は新しい……! ルノ、ちょっと今のやつ繰り返してみてください」
「はい、はい、はい」
「クゥ〜〜クックックッ……!?」
私には理解できないが、どうやらスフレベルグ的にはツボだったらしい。
パタパタと本を開くと絵が飛び出し、その度にスフレベルグが顔をカクカクと上下させながら笑い転げている。酷い時には翼まで広げて全身で笑う程だ。
「はっ、はっ、ふぅ。はっ、はっ、ふぅ。危うく呼吸を忘れるところでした。どうです? 面白いでしょう?」
「う、うん。まぁまぁ……かな? 私的にはスフレベルグを見てた方が面白かったよ」
「はぁ……ルノにはまだ早すぎましたか。いずれあなたにもこの良さが分かるようになるでしょう」
なんだかお子ちゃまみたいな評価をされてしまった。
「ルノ。すみませんがその本、フユナに返しておいてくれますか? ワタシが持ってると笑い死んでしまいそうなので」
「あぁ、これフユナの本なのね。知らないうちにこういう扉も開いてたのか……」
先程までのスフレベルグをフユナに置き換えた瞬間にとても心配になってしまった。夜な夜なこれを見ながら笑い転げてるフユナなんていやだなぁ……。
「分かったよ。んじゃ私はそろそろ夕飯を作る時間だから」
またね。そう言って背を向けようとするとスフレベルグに呼び止められた。
「次巻が発売されたらまたお願いします、と伝えておいてください」
「次巻とかあるのこれ」
流行りとは分からない。私はそんなことを思いつつ、しばらくその場で本をパタパタして「怖がって損したなぁ」と肩を落としながらスフレベルグの笑い転げる姿を思い出したのだった。
その日の夜。
夕ご飯を食べ終え、テーブルでお茶を飲んでいたフユナを見て私はスフレベルグに預かった本のことを思い出した。
「あったあった。フユナ、これスフレベルグが――」
と、ここでちょっとしたイタズラ心が芽生える。
「なに、ルノ? スフレベルグが?」
「……いやね、ちょっと見て欲しいんだけどさ。いくよ?」
「???」
後ろ手に本を隠してフユナの元へ。そしてバッと目の前で一気に開くと――
「ぶふっ!?」
その後、何があったか詳しくは言えない。
ただ一つだけ。「お茶飲んでる時はやめて!」と、割と本気で怒られてしまったことを私は一生忘れないだろう。