第194話〜歌姫の投げ銭システム〜
〜〜これまでの登場人物〜〜
・ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
・サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
・フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
・カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
・グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
・ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
・スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
・レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
・コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。
・フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ
魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。
・にゃんたこ (神様)
『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。
・フウカ (妖精王)
妖精の秘境『妖精郷』に住まう妖精の王。神様とは友人関係にあり、その実力も折り紙付き。風の魔法を得意としており、中でも【風刃・風華】は風魔法最強を誇る力を持っている。
・プウ、ペエ、ポオ(小鳥の親子とリス)
小鳥の親がプウ、子がペエ、リスがポオ。ペエのみが人間に変身できる魔法陣を身体に刻まれており、人間になってはプウやポオと一緒に村へ行ったりルノの家に遊びに来たりなどして美しい歌声を披露している。
・ライカ(獣王)
グロッタを以上の体躯と金色の体毛が特徴の獣の王様。何かあれば自ら動くところから同胞からの信頼も厚い。出会いが出会いなため、ルノからは『勘違いライオン』の烙印が押されている。
ある日の昼下がり。
「ピッピッピッ〜〜♪ ピピピッピ〜〜♪」
暇を持て余した私が村を散策していると、中央の噴水広場辺りで何やら聞き覚えのある声が聞こえてきた。
ピッピッピッとリズムを刻むその声は、子鳥のさえずりを彷彿させ、聴く者を癒す可愛らしい歌声だ。
「やっぱりペエだ」
視線の先。噴水の縁に腰掛けていたのはオレンジ髪の少女、ペエだった。
両脇に一匹の小鳥と一匹のリス――ダンサー(?)のプウとポオを従え、気持ち良さそうに歌っているのを数人の村人が囲むようにして聴き入っている。
「微妙に忘れ去られてた設定だったけど歌姫の人気は健在っと。私も混ざろう」
ペエとの目線がモロに交わる真正面から行ってもよかったが、そこはちょっと気を利かせて一番端っこで聴くことにした。
近い位置にいたポオだけは私に気付き、よく分からないコミカルなダンスでアピールしてたので軽く手を振って応えてあげた。あまり歌に合ってないのでは? と心の中でツッコミながら。
「ピピピ〜〜♪ ピッピピ〜〜♪ ピピ――んっ?」
あっ、ペエにも気付かれた。
「ピッピッピッ〜〜♪ ピピピッピ〜〜♪」
――が、ニコッ笑って歌い続ける。その姿はもはやプロのそれだった。なんかキュンとしちゃった。
「うんうん。立派に成長してくれて私も嬉しいよ」
いつの間にかすっかり人間社会に溶け込んでいる姿に、私は思わず涙をこぼしそうになったのだった。
何故か周りの観客から敵を射抜くような視線を向けられたがそれは知らんぷりしておきました。
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その後、何曲か歌ったペエが「ありがとうございました〜〜!」と観客達に笑顔を振り撒いてお開きとなった。
良かったなぁと満たされた表情を浮かべる村人達はとても幸せそうだ。もちろん、私も同じ気持ちでとても気分が良い。今ならこの村人達と朝まで語り合いながらお酒でも飲んでいられるだろう。
「さてと。んじゃペエ達に挨拶したら私も帰ろうかな」
なんて思いながらペエ達に足を向けると、同じように何人かの村人が彼女の元へ歩み寄って行くのが見えた。もしかしてこれからファンサービスの時間でもあるんだろうか?
「変な虫がついてないか心配だな。少し見てよう」
しかし私の不安は全くの的外れで、村人達は「今日も良かったです!」だの「これからも応援してます!」だのといった感じで、純粋にペエの歌声を気に入ってくれている人ばかりだった。
なんだか心が薄汚れていた自分が恥ずかしい。疑ってごめんなさい。
「あっ、ルノちゃんも聴いてくれてありがとうね」
人知れず落ち込んでいると、そこでようやく私に気が付いたペエが両肩にプウとポオを乗せてやって来た。私も感想を伝えないと!
「うん。今日良かった……じゃなくて、これからも応援……も言われてたな。こ、言葉が見つからない……!」
「えっと、大丈夫? もしかして今日はイマイチだったかな?」
「いや、とんでもない。す〜〜んごく良かったと思う! 次は武道館だね!」
「ブドウカン? よく分からないけど喜んでもらえたなら良かった。嬉しいなぁ」
「うっ、なんて眩しい……!」
ニコッと花咲く笑顔で私の薄汚れた心を浄化してくれるペエ。
ここでようやく平常運転に戻った私は開けた視界にとある物を映した。
「なに、その箱? お饅頭でも詰まってるの?」
今もペエが大事そうに抱えているのは一つの箱だった。
そういえば路上で歌を歌ったり芸を披露する人達がこんな箱を置いていたな。感動してくれたお客さんが最後にお金を放り込んでたっけ。
「これはねぇ……じゃ〜〜ん!」
箱の中にはギッシリとお金――ではなく木の実だった。
真っ赤に熟れたベリーに、硬い殻に包まれたクルミ。他にもドングリや花の種など、自然の恵みがこれでもかと詰め込まれている。
「いいでしょ。少し前から貰えるようになったんだけどね? 最初の頃はお菓子とかもあったんだけど、木の実の時はとくに喜んでたみたいでいつの間にかこうなっちゃったの」
「投げ銭ならぬ投げ木の実ということか。こりゃペエの人気も本物だね」
「そうだと嬉しいんだけどね。でもやっぱり好きなことしてるだけで色々貰えるのは不思議な気分だなぁ」
謙遜しつつも嬉しい部分はあるのか、改めて笑顔になったペエは恥ずかしそうにしていた。
遠目に見ていた村人の何人かが「おぉ……!」などと声を上げながら頬を赤く染めているのがとても興味深い。アレは変な虫候補として注意深く観察しておこう。
「そうだ。せっかくだし一緒に帰ろっか? それともどこか行く?」
「いえ、私は歌姫様の護衛をするので帰りましょう。変な虫がついたら危ないので」
「も〜〜そんなのいないってば。村の人達はみんな良い人だよ」
最後に私の肩をピシッと叩いたペエは、本日の戦利品を数えながら上機嫌に鼻歌を歌い始めるのだった。
帰宅後。
「これ、ルノちゃんにも半分あげる。お裾分けね」
「いいの? こういうのって本人以外が貰っちゃダメなんじゃない?」
「まぁそうなんだけどね……ほら、プウとポオを見てもらえれば分かるんだけど」
言いながら、いつの間に紛れ込んでいたのか、箱の中から木の実に埋まった二匹を取りだしてテーブルに置くペエ。なんと、プウとポオは膨れ上がったお腹を摩りながら眠っている!
「まったくもう。こんなのが続いたら太って踊れなくなっちゃうよね」
「そうだね……じゃあ有難く頂こうかな。ごちそうさまです」
こうして、密かに歌姫の専属ダンサー(?)二匹を救ったのはここだけの話である。