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☆氷の魔女のスローライフ☆  作者: にゃんたこ
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第190話〜朝ご飯は軽めのモノで〜


〜〜これまでの登場人物〜〜


・ルノ (氷の魔女)

 物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。


・サトリ (風の魔女・風の双剣使い)

 ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。


・フユナ (氷のスライム)

 氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。


・カラット (炎の魔女・鍛冶師)

 村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。


・グロッタ (フェンリル)

 とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。


・ランペッジ (雷の双剣使い)

 ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。


・スフレベルグ (フレスベルグ)

 白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。


・レヴィナ (ネクロマンサー)

 劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。


・コロリン (コンゴウセキスライム)

 ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。


・フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ

 魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。


・にゃんたこ (神様)

『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。


・フウカ (妖精王)

 妖精の秘境『妖精郷』に住まう妖精の王。神様とは友人関係にあり、その実力も折り紙付き。風の魔法を得意としており、中でも【風刃・風華】は風魔法最強を誇る力を持っている。


・プウ、ペエ、ポオ(小鳥の親子とリス)

 小鳥の親がプウ、子がペエ、リスがポオ。ペエのみが人間に変身できる魔法陣を身体に刻まれており、人間になってはプウやポオと一緒に村へ行ったりルノの家に遊びに来たりなどして美しい歌声を披露している。


・ライカ(獣王)

 グロッタを以上の体躯と金色の体毛が特徴の獣の王様。何かあれば自ら動くところから同胞からの信頼も厚い。出会いが出会いなため、ルノからは『勘違いライオン』の烙印が押されている。



 久しぶりのお仕事を終えてから数日。

 ようやく疲れも癒えてベッドから起き上がるのも苦ではなくなったと思いきや、今度は寒さに震える毎日が続いて起き上がるのが苦になってしまった今日この頃。

 今日も今日とてそれは変わらず、私はベッドの上で毛布に包まれながらミノムシの如く冬を耐え忍んでいる。

 しかし。


「だめだ……そろそろ本当に起きないと朝ご飯が間に合わなくなる」


 そう、残念ながら朝食の時間が迫っているのだ。

 他にも誰かが目覚めていてくれたならお願いするという手もあるが、残念ながら全員もれなくぐっすり。


「うんうん、フユナは相変わらず可愛いね。コロリンはオトウフみたいに柔らかいほっぺたが最高。レヴィナはベッドから転げ落ちそうで落ちない絶妙な位置で寝てるのがなんともまぁ」


 隣で寝ているコロリンが大の字なので当然と言えば当然だがなんて不憫な子なんだろう。割と高い頻度で落っこちているのに文句一つ言わない可哀想な子……。


「ねぇレヴィナ〜〜どうせ落ちるなら今起きてよ〜〜。朝ご飯作るの手伝って〜〜」


 ゆっさゆっさ、ゆっさゆっさ。

 落ちそうで落ちない絶妙位置をキープしながら全身を大きく揺すり、耳元では若干ドスを効かせた声で呪いのように呟く。

 ゆっさゆっさ、ゆっさゆっさ。

 何度も揺すっているのに起きないレヴィナ。気持ち良さそうな寝顔を見るとこっちまで幸せな気分になってくるが、一度手をつけてしまったのでもう意地でも揺すり続ける。

 ゆっさゆっさ、ゆっさゆっさ――


「うぎゃ……!?」


「あら」


 ビタンッ!

 やはりと言うべきか、床に落下してしまったレヴィナが女子にあるまじき声を上げた。

 図らずも……いや、本当に図ってないよ? とにかくこれはもう起きる以外の選択肢はないでしょうとレヴィナの前までやって来た私は笑顔を貼り付けて反応が返ってくるのを静かに待つ。


「いたたた……また落ちちゃった……。あ、おはようございますルノさん……」


「おはようレヴィナ。あまりにも可哀想だから私がリビングまで連れて行ってあげる」


「へっ、なんで? うわっ……!」


 あとは簡単。言葉は不要、行動あるのみ。

 私は寝起きで頭が回っていないレヴィナをお姫様抱っこしてそそくさと寝室を飛び出した。

 訳も分からずされるがままのレヴィナにほっこりしながら階段を降り、眩しい陽射しが心地よいソファ――ではなくキッチンに近い食卓の椅子へポイ。

 朝食の支度の前にまずは一息。私は二人分のコーヒーを準備してから、ボーッとしたままのレヴィナの対面に腰を下ろしたのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「ふぅ。寒いけどこの中で飲むコーヒーは最高だねぇ」


「そうですね……こういう静かな時間は私も好きです……」


 私達だけしかいない朝のリビングには少しの会話とコーヒーを啜る音だけが響いている。

 とくに多くは語らないがその静けさがまた平和でいい。私もレヴィナもどちらかと言えばのんびり派なので気まずさとは無縁だ。


「さ〜〜てと。美味しいコーヒーも飲んだし朝ご飯でもつくろっかなぁ。でも一人じゃ大変だなぁ。チラッ」


 空になったカップを置いたところですかさず行動に移る。明らかにレヴィナに向けた独り言で『察してお願い』攻撃だ。


「冬のキッチンで一人だと身も心も凍えてきちゃうんだよね。そんな時に少しでも手伝ってくれる猫の手があればどれだけ嬉しいことか。あっ、こんなところに猫の手発見!」


「へっ……?」


 テーブルに置いてあった手を取りトドメの一撃をかました結果、レヴィナは快く(?)オッケーしてくれた。


「いいですけど……今日も『ルノサンド』ですか……?」


「…………違うよ? 違うからさ、目の光消さないで? 笑った方が可愛いよ」


「ふぁ……」


 寝言かと言わんばかりの欠伸で返された。


「仕方ない。何も突っ込まれなければそのつもりだったけど、コロリン辺りがそろそろ暴動を起こしそうだから違うメニューにしよう。レヴィナは何かリクエストある? 和食か洋食かなんて大雑把なのでもいいよ」


「ワショクヨーショク……は、よく分かりませんけど朝そんなに食べられないので軽めのものがいいかな、と……」


「おっ、気が合うね。じゃあ軽めの朝食と言ったらやっぱりルノサンド――」


 と、言ったあたりでレヴィナの目からまたしても光が消えたので却下。『ルノサンド以外』というのは大前提だ。


「じゃあホットケーキにしよっか。小さめに焼いてバイキング形式にすれば量も調節できるし」


「いいですね……!」


 瞬間、レヴィナの目がキラリと光り輝いた。

 作るのはけっこう久しぶりなので「またですかぁ?」なんてことにもならないはず。強いて言えば新鮮味を出すために、トッピングをバターやハチミツ以外にしたいところだが。


「ホットケーキと言えば、リトゥーラでは新鮮な果物のソースを使ったオシャレなものが主流らしいですよ……。ハチミツなども使うには使うそうですけど圧倒的に量は少ないんだとか……」


「へぇ。そう聞くとあえて逆らいたくなるけど私も普通のは食べ飽きたから良いかもね。それいただき。果物のソースならペエ達が取ってきてくれた木の実の中に使えそうなやつないかな?」


「最近はナッツ類が多かった気がしますね……。使えるとは思いますけどちょっとイメージと違うような……」


「前にコロリンが採ってきたようなベリーあれば使えると思ったんだけど期待薄か。私あれ結構気に入ってるんだよね」


「袋いっぱいにあった割にはすぐ無くなっちゃいましたよね……。あれ、今の時期でもヒュンガル山でたまに見ますよ」


「ふむふむ」


 ならアリだな。

 一息ついたとはいえまだ時間に余裕はあるし、なにより聞いた瞬間からもう私のお口はそれしか受け付けなくなっている。決まりだ。


「じゃあさっそく採りに行こっか。レヴィナ、準備して!」


「い、今からですか……!? 外、すっごく寒いですよ……?」


「雪は降ってないからセーフ。はい、もう時間がもったいないから不思議な力で準備完了っと」


「うわっ、私まで……!? ひ〜〜ん……!」


 決まってからは早い。

 こうして私達は至高の朝食を完成させるためにヒュンガル山に眠るベリーを採りに行くこととなった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「あのベリーであればわたくしが秘密の収穫ポイントをご案内できますぞ!」


 最初は冬の寒い山道を歩くことを覚悟して家を出た私達だが、なんと玄関から数歩の所で思わぬ助け船がやって来た。グロッタである。


「いやぁ探す時間が省けて助かるよ。何より温かい」


「本当……眠たくなってしまいます……」


 現在、私とレヴィナはグロッタの背中に乗せてもらいながらヒュンガル山を高速移動中である。

 鋭く突き刺さる冷たい風をものともしないモフモフの毛皮が快適な移動の手助けとなり、途中からちょっとしたお出かけ気分で寒さなど忘れて楽しんでしまう程だった。


「朝食に間に合わせたいとのことなのでもう少し飛ばしますぞ!」


「おけ。レヴィナが寝落ち寸前だから配慮よろしく」


「ははっ! 落としてしまっても帰りに拾いますのでご安心を!」


「じゃなくて落とさないように気を付けるの!」


「ぎゃあああ!?」


 アホなことを言い出したグロッタの髭を一本、ブチッと引っこ抜いてお仕置すると大袈裟な悲鳴が響き渡った。

 なんだか懐かしいやり取りについ微笑ましくなってしまうが私はドSではない。グロッタはドMだけど。


「到着です!」


「ご苦労さま」


 時間にして数分で山の中腹まで来てしまうとはさすがフェンリルの脚力と褒めておこう。

 現在の場所は道を外れた場所にあるぽっかりと空いた広場で、目の前に聳え立つ一際大きな樹や周囲の茂みにはたくさんのベリーが実っている。ここがグロッタ秘蔵のベリー収穫ポイントのようだ。


「おっと、その前に一つ」


 いざ収穫、と気合いを入れた瞬間に待ったがかかる。珍しく神妙な顔つきだがいったい言い出すのやら。


「実はこの中には毒のあるベリーも含まれてましてな。『トリカブベリー』という――」


「トリカブベリー!!?」


 思わず食い付いてしまったがこれは落ち着いていられない。

 トリカブベリーとはクレープ(友達)のお店で食べた絶品クレープに使われていたベリーの名前なのだ。厳密には、私が味わったのは風味だけの別物だがあの至高の味は忘れない。


「ルノ様。興奮しているところ申し訳ないのですが、トリカブベリーはわたくしでも腹を下しかねない猛毒ですぞ」


「確定じゃない上にお腹壊すだけで済むのね」


 なら一つくらい食べても平気なのでは? と、思うかもしれないがあくまでグロッタ基準の話なので私なんかが食べたら本当に危ない。危ないが……あの味の本物が知りたい……!


「ひとまず見分け方を教えてくれる? どうするかは最後に考えるから」


「簡単ですぞ。若干色が黒めなのと、あとは表面のイボが細かいのかトリカブベリーですな! 見た目が明らかにグロいのがそうです!」


「色が黒めで表面のイボが細かいやつ……これか。たしかに二種類あるね。で、こっちがグロい方と。ちょっとゾワッとするな」


 周囲を見回すとパッと見で三分の一くらいはトリカブベリーなのが分かる。一度認識してしまえば区別するのはそこまで難しくはないので知らぬ間にあたる心配はなさそうだ。


「よし。じゃあグロッタ。レヴィナのこと起こしてくれる? ササッと収穫しちゃおう」


「お任せを! レヴィナよ! 起きろ!」


「うぎゃ……!?」


 今の今までグロッタの背中で眠りこけていたレヴィナが容赦なく振り落とされて今朝のワンシーンを完全再現。ちょっと可哀想だけど下は芝生なので見た目よりダメージは少ないはず。


「あぁ……着いたんですね……」


「うん。さっそくだけどさ、猛毒のトリカブベリーも混じってるから気を付けてくれる? 区別するのは簡単で、ほにゃららほにゃらら」


「ふむふむ……うわ、鳥肌が……」


 判別方法をレクチャーしたところで収穫開始。

 グロッタが秘密の収穫ポイントと胸を張るだけあって手元のカゴはすぐにいっぱいになってしまった。今回は朝食に使う分だけあればいいのでこれで引き上げてもいいのだが――


「トリカブベリー」


 見た目に反して思わず鳴ってしまう喉があの味を思い出させる。もどきでも美味しいなら本物はもっと美味しい(?)はずだ。しかしグロッタでもお腹を壊しかねない毒というのが一歩踏み出す決意を鈍らせる。


「シンプルに加熱処理してみるか。どこからともなく出てきた試験管にすり潰したトリカブベリーを入れて……ファイア」


 指先からボッと出た炎で加熱すること一分。水分を飛ばしてドロリとなったベリーは心做しか私の知ってるベリーソースの色合いに近付いていた。ただ、こっちは本場なので本当に毒が消えたかその有無を確認する必要がある。


「グロッタ、口開けて」


「んあ――ぎゃあああ!?」


 グワッと牙が並ぶ大口に手を入れ、加熱処理したトリカブベリーを流し込む。すると歓喜の声を上げたグロッタが生まれ変わったような笑顔で「もう終わりですか!?」とおかわりを要求してきたが、残念ながら大量に作るのは鍋でもないと無理なので今はお預けだ。

 グロッタのお墨付きもあるならこれで一安心。私は良き成果に満足しながら少し多めにトリカブベリーをカゴに詰めて収穫を終えたのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 帰宅後、朝食の席にて。


「なかなかですね」


 さっそく本日の成果を披露すると、まず最初に声を上げたのはコロリンだった。

 一見すると落ち着いている風だが、その手は休むことなく動き、真っ赤なトリカブベリーソースをたっぷりつけたホットケーキを口に運び続けている。

 隣に座るフユナもそれは同じで。


「甘酸っぱくて美味しいね〜〜!」


 ご覧の通り、負けじとホットケーキを食べまくっている。どちらも『ルノサンド』の時とは比べ物にならないがっつきようで少々複雑だが、手料理を笑顔で食べてくれるのは素直に嬉しい。

 ちなみに一番気に入ってくれたのがレヴィナ。


「ルノさんルノさん……もぐ。本当に美味しいですよ……もぐ」


「あの、レヴィナさん? 朝はあんまり食べられません的なこと言ってなかったっけ? かなりお箸――いや、フォークが進んでるみたいだけど」


「だって本当に本当に本当に美味しいんですもん……。ルノさん……それ、食べないなら貰ってもいいですか……?」


「よくないです! 食べます! まだたくさんあるからそっちから取って!」


 もはや食べることしかしか頭にないレヴィナからホットケーキを守るのにも一苦労である。

 もちろん、私も美味しく頂いているので残り少なくなったら時に争奪戦が始まりそうで心配だ。


「まぁなんにせよレパートリーが増えたから良かったかな。次は『ルノサンド』にしても――」


「「「…………え?」」」


 私の何気ない言葉に何故かみんなから絶望的な反応が返ってきた。おかしいこと言ったかな?


「ルノさん……しばらくはホットケーキでも……いいんですよ……?」


「え、なんでよ? 同じメニュー続いたら嫌でしょ?」


「いや、その……。お二人は次もホットケーキ……がいいですよね……?」


「一択ですね」

「うん!」


 よく分からないレヴィナの発言に笑顔で賛同するコロリンとフユナ。

 ずいぶんと反応が違うなぁなんてどこぞのメニューを思い浮かべながらチラッと横に視線を向けると「ですよね……!」と呟きながらやけに得意気なレヴィナが目に入ったので。


「この!」


「いたたた! なんでですか……!?」


 よく分からないがお仕置したい気分になったので、レヴィナの脇腹を思い切りつねって「また太っちゃうよ」と念押ししてから美味しい朝食を再開した私でした。



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