第十九話〜ロッキの実・大収穫祭〜
その日、私の起床時間はいつもより少々遅かった。昨日のグロッタとの散歩で意外と体力を消費していたみたいだ。
「ふぁ……寝過ぎちゃった。朝ごはん作らないと……」
私は急いで着替えを済ませて、キッチンへ向かう。
「ごめんごめん。寝坊……あれ、フユナー? グロッタのとこかな」
という事で外へ。
「いた。フユナ、どうかしたの?」
「見て、ルノ」
「あれ? ロッキの実? まだ残ってたっけ?」
「樹が……」
「!?」
なんと目の前には、立派なロッキの樹がそびえ立っていた。
「……」
「朝起きたらね、こんな事になってたの」
うーん……おかしいな。昨日まではまだ苗木だったはず。寝ぼけてるのかな? グロッタはまだ寝てるけど。
「フユナ。ちょっと私の事つねってみて?」
「えっ? うん」
ぎゅっ!
「いたたた! いたい! もういい! もういいよ!」
「???」
「ルノ様。ドMなんですか?」
あ、グロッタが起きた。なんか変な事言われた気がするな。
「いやいや、おかしいでしょ。なんでいきなり成長してるの?」
「知らなかったのですか? ロッキの樹は成長が早くて有名ですよ。なのでよく建築物にも使われます」
「そういうものなの……? これだけ早いと不気味だな」
ん? これってまずくない?
「ねぇ、グロッタ。これってあのメインストリートのやつみたいになるの? そうならこの樹の今後を考えないといけないんだけど」
「ご安心ください! この樹はお土産用の小さいタイプですので、これがほぼ最大ですよ」
「なら良かった。せっかくのお土産を切り倒すなんてしたくないからね」
「ふっふっふっ! それどころか普通に実もなりますよ。運が良ければ結晶も!」
まじか。てことは今後はロッキの実、取り放題じゃないか。
「へぇ、それはいいね。さっそくロッキの実でスープでも作ろう」
「ならこれ使おう!」
フユナが持っていたロッキの実を渡してきた。
そういう訳で今日の朝ごはんはロッキの実のスープになった。
現在は朝食を終えて、再びロッキの樹の前にいる。
改めて見ると、百メートルくらいある気がするな。
「それにしてもこのサイズで小さいタイプか。実も思った以上についてるな」
「ロッキの結晶あるかな?」
「これだけの数だからその可能性もありそうだね。とりあえず食べられそうな実は収穫しちゃおうか」
「でもどうやって登るの?」
「うーん、確かに。この高さだとハシゴなんて無いしなぁ。グロッタ、樹に体当りして落とせないかな?」
「お任せ下さい!」
この中じゃグロッタが一番大きいしパワーもあるはず。これは期待できそうだね。
ズシン……!
おぉ、いい感じ! いくつか実が落ちてきた!
「あれ、これまだ青いな。こっちは……大丈夫だけど」
この方法だとランダムで落ちるから熟したやつだけとれないな……
「となると、やっぱり直接上に行くのが一番良さそうだな。グロッタ、この青い実食べる?」
「いただきます!」
うん、思った通り。えらいぞグロッタ。
「ルノ、どうする?」
「そうだねぇ……空を飛べればいいんだけどなぁ」
あ、すっかり忘れてた。
「そう言えば私、飛べるんだった」
「あ」
フユナも思い出したようだ。
私とフユナは以前、箒に乗って一緒に飛んだことがある。あれ以来そんなこと無かったからすっかり忘れてた。
「はは、簡単な事だったね。早速行くけどフユナも来る?」
「うん、行きたい!」
「グロッタはどうする?」
「ガクガク……!」
やっぱりそうなるよね……分かってたけど。
私はさっそく氷で箒を作り出した。
「うん、上出来。じゃあ行こうかフユナ。うしろに乗って」
「うんっ!」
「んじゃグロッタ。行ってくるよ」
「ははっ! お気を付けて!」
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現在、箒に乗った私達は実がついている高さまでやってきていた。
「うわぁ、たくさんあるね」
「そうだね……これじゃ一度にとりきれないや。ま、そこは往復しよう。フユナ、とりあえず持てるだけ収穫しちゃおう!」
「うん!」
こうしてロッキの実、大収穫祭が始まった。
「んしょんしょ」
「大丈夫? 持てるだけでいいからね」
「うん。あと一個だけ……あっ!」
「あー」
ロッキの実が一つ落下してしまった。
「ご、ごめんなさい」
「ううん、フユナが落ちなくて良かったよ。じゃあ一旦戻ろうか?」
「うん」
ヒュー…
「ぎゃあああ!?」
「ん? なんだろ?」
「なんか聞こえたね?」
「うん……ま、いっか」
そして一旦、収穫したロッキの実を置きに来た私達。
「あれ、グロッタ寝てる」
「ほんとだー。あ、見て! ロッキの実持ってる!」
「体当りして落としたやつかな? 食いしん坊だなぁグロッタは」
「ふふっ、あとでたくさんあげようね」
私達は再び上に来た。
「ふぅ、だいぶ収穫できたね。フユナ、まだ持てそう?」
「とりあえずこれで最後かな。んしょっと。あ、また一個落ちちゃった!」
「あらら、でもまだ青いやつみたいだから大丈夫だよ」
「うん」
ヒュー…
「ぎゃあああ!?」
「ん?」
「じゃあ戻ろう、ルノ」
「うん、だね」
地上に到着。
「よし、次でラストかな。これはしばらくロッキ尽くしだね」
「ロッキの実、美味しいから好きだよ」
「うん、私も好きだよ。あっ、グロッタの実がいつの間にか増えてる! まだ青いやつなのに」
「グロッタもロッキの実が大好きなんだね」
そして最後の収穫。
「よし。あとはそこの三つで終わりだね。持ちきれそう?」
「うん、何とか……んしょんしょ。あっ! 今度は枝ごと折れて三つとも落ちちゃった!」
「あらー。大丈夫大丈夫。潰れちゃってたらジャムにでもしちゃうからさ」
「うん。良かったー」
「んじゃ帰ろうか」
ヒュー…(×3)
「ぐはっ! ごふっ! ぎゃあああ!!?」
「……??? まぁいいや」
「うん」
収穫が一段落した私達は現在、ロッキの樹の麓で実をまとめてる最中。
「こんなもんかな。今日の分以外は氷漬けにしておこう」
「ねぇ、ルノ。グロッタが抱えてるやつは?」
「あ、すっかり忘れてたよ。まったく、いつの間に五つも集めたんだか」
「そんなに焦らないでもたくさんあるのにね」
「あれはグロッタにあげようか。そのままでも食べるだろうしね。私達も料理しよ」
「うん。フユナも手伝う!」
初の収穫祭は無事に終わり、その日の夜はロッキパーティーをやった。今夜はテーブルを外に出して食べるスタイルだ。
ホットサンドなど、旅行で食べたものも再現してある。
「美味しー! あの時の味を思い出すね!」
「うんうん。我ながらよく出来たよ! ほら、グロッタも遠慮しないで食べて」
「なんだか、ロッキの実に襲われる夢を見たような……」
「きっと寝すぎだよ。沢山食べて元気だしなよ」
「グロッタ! フユナが食べさせてあげるよ。はい!」
「そ、そうですね。では遠慮なく! ガツガツ!!」
うんうん。寝る子はよく育つけど、食べる事も大事だからね。たんと食べなさい。
その後もロッキパーティーは続き、いつもより遅い時間まで私達は騒いでいたのでした。
たまにはいいよね!