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☆氷の魔女のスローライフ☆  作者: にゃんたこ
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第178話〜あけましておめでとう!③ 人生の先輩のお言葉〜


〜〜登場人物〜〜



・ルノ (氷の魔女)

 物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。


・サトリ (風の魔女・風の双剣使い)

 ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。


・フユナ (氷のスライム)

 氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。


・カラット (炎の魔女・鍛冶師)

 村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。


・グロッタ (フェンリル)

 とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。


・ランペッジ (雷の双剣使い)

 ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。


・スフレベルグ (フレスベルグ)

 白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。


・レヴィナ (ネクロマンサー)

 劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。


・コロリン (コンゴウセキスライム)

 ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。


・フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ

 魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。


・にゃんたこ (神様)

『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。


・フウカ (妖精王)

 妖精の秘境『妖精郷』に住まう妖精の王。神様とは友人関係にあり、その実力も折り紙付き。風の魔法を得意としており、中でも【風刃・風華】は風魔法最強を誇る力を持っている。


・プウ、ペエ、ポオ(小鳥の親子とリス)

 小鳥の親がプウ、子がペエ、リスがポオ。ペエのみが人間に変身できる魔法陣を身体に刻まれており、人間になってはプウやポオと一緒に村へ行ったりルノの家に遊びに来たりなどして美しい歌声を披露している。


・ライカ(獣王)

 グロッタを以上の体躯と金色の体毛が特徴の獣の王様。何かあれば自ら動くところから同胞からの信頼も厚い。出会いが出会いなため、ルノからは『勘違いライオン』の烙印が押されている。



 声をかけられたのは、夕食を終えて食後の紅茶と果物をお供にのんびりしている時だった。


「ルノ様、レヴィナ様。お隣よろしいですか?」


「あ、どうぞどうぞ」


 微妙に既視感のあるやり取り。しかし今回はバカさんでもなければブレッザさんでもない。

 声の主はフィオちゃんのお母さん。リトゥーラの王妃様であると同時に『光の魔女』でもあるフィオールさんだった。


「失礼致します」


 一つ一つが洗練された所作で思わず目が釘付けになってしまう。

 これで私とレヴィナの隣――つまり私達に挟まれて座りたいとさえ言わなければ満点だったのに。


「魔女が三人も並びましたね」


「そんな。わたくしなどがルノ様とレヴィナ様に挟まれながら魔女を語るなんて恐れ多い。うふふ〜〜!」


 その割には随分と嬉しそうなことで。

 魔女であることを否定しない辺り自覚はあるみたいだが、この人もリトゥーラの住民達と同じで、どうも憧れの方が強いみたいだ。

 魔女に憧れる魔女……後輩かな?


「ところでルノ様、レヴィナ様。『聖夜の光』では大人気でしたわね」


「大人気……もしかしてツッコミ待ちですか」


「はは……私は子供達囲まれて楽しかったですよ……」


 そうそう。逆に私は沢山の大人達を率いたフィオールさんに猛アタックされてね。今も思い出しただけでゾッとするなぁ。……そう言えば。


「あの……今思い出しましたけど、お身体は平気なんですか?」


 こうして食事の席にいるくらいだからそういうことなんだろうけど……よくあの炎を受けて無事でいられたものだ。

 フィオールさんは私の考えを肯定するように答える。


「あれはフィオがどれだけ成長しているかを確認したまでですわ。わたくしに魔法を当てられなかったらそれまで。その時はルノ様のプレゼントをいただけたのですが残念でしたわ」


「ははぁ……フィオちゃんの言う通りだった訳か。王妃様なのに随分と身体を張るんですね」


「うふふ。同時にあの子の母親で魔女ですもの」


 すごいなぁ、と思った。

 私はフユナやコロリンにそれだけのことができているだろうか。今度、試しに二人の攻撃をモロに受けてみるか?


「別に比べることではありませんよ」


「ドキッ!?」


 顔に出てたのだろうか? 一瞬だけ過ぎった考えをズバリ指摘されてしまった。これは恥ずかしい。


「誰が……とは言いませんけど、皆さんはルノ様のことが大好きだから一緒にいるんですよ。ねぇ、レヴィナ様?」


「え!? わ、私ですか……!? えっ、と……それは……はい……」


 そこは即答して! と、思ったが、レヴィナ自身も突然のフリにどう答えたら良いか分からず戸惑っているだけだった。顔がイチゴのように真っ赤である。


「なのでほら。ルノ様もそんな暗い顔ではなく、明るく笑っていた方が周りの方も嬉しいですよ。考え方は色々ですが、やっぱり笑顔が一番ですもの」


「あはは……そうですよね。すいません、私ってば……」


 いけないいけない。また私の悪い癖だ。ネガティブな感情に支配されたルノ(闇)には引っ込んでいてもらおう。


「さてと。それじゃあお話ばかりでも退屈でしょうし、遠慮せず食べてくださいな。なんと! 本日のイチゴは年に一つしか採れないとかなんとか言われている最高級品ですのよ」


 ドドン! と指し示すのは、テーブルの中央に置かれたカゴに山積みとなっているイチゴ達だ。

 一粒一粒が小ぶりでありながらも、ピカピカに光り輝いているそれは、フィオールさんが『最高級品』と胸を張るだけの品質なのは間違いなかった。


 ――と、ここで疑問が。


「ちょっと待ってください。その最高級なんちゃら、今年の分は昨日スフレベルグが食べちゃったはずですよ?」


「同じことを店員さんが言ってましたよね……」


 言いながら揃ってイチゴをパクリ。真相は不明だが、今まで食べてきたイチゴの中で一番美味しいのは間違いなかった。

 フィオールさんは――


「まぁ。ならこれはさらに貴重な十年に一つのイチゴですわね」


「ふむふむ。それがこんなに沢山あると」


「ええ。素晴らしいでしょう?」


「夢みたいです」


 そういうことになった。

 見たところ、年に一つの貴重なイチゴを上回るとされる十年に一つのイチゴは、まだ山のように残っている。

 もはや高級感の欠片も無いが、だからこそ遠慮なくいただけるというものだ。イチゴを摘む手は止まらない。


「おい! 二つも同時に食って、貴様はリスか!?」


「んぐんぐ。ワタシはポオと同類になった覚えはありませんよ。グロッタは食べないんですか? なら――ムシャア」


「も〜〜二人ともケンカしないの。コロリン、全部食べられちゃう前に遠ざけちゃお!」


「任せてくださいフユナ。責任もって私が全部食べてあげますから」


「あ〜〜!? そういうことじゃないのに〜〜!?」


「まだ沢山あるから大丈夫よフユナちゃん。そこのあなた! コレ、もっと持ってきて!」


 目を離した隙にまた随分と賑やかなことになっているなぁ。

 グロッタにスフレベルグはもちろん、フユナやコロリンまでもれなくイチゴの虜だ。気持ちは分かるけどね……っと、ここで私もさらにパクリ。


「ん〜〜、本当に甘い。これじゃうちに帰ってからしばらくは食べ物に困っちゃうなぁ。よし、お次は――」


「ルノ様」


「んぁ……!?」


 二個同時食べ。……の二連続食いはさすがにがっつきすぎたかもしれない。「最高級品と言いましたよね? 遠慮という言葉を知ってますか?」とか言われて怒られるかも……!?

 思い過ごしだったとはいえ、アイスの食べ過ぎで怒られるのでは? と怯えてた今朝の私はどこへ行ってしまったんだ……!


「こういうのやっぱり良いですわね」


「へっ? ……イチゴ?」


「ルノさん……!」


「ご、ごめん」


 レヴィナに怒られてしまったのでしょうもないボケはポイ。

 フィオールさんが穏やかな表情で眺めているのはみんなが楽しそうに過ごしている様子のこと。実は私もそれは思っていたのだ。

 今日の私とレヴィナ、ブレッザさんとの関係もそうだが、他のみんなも以前より確実に仲良くなっている。久しぶりの王城でテンションが上がっているのはもちろん、おそらく関係が『友達』よりも『家族』に近くなっているのかもしれない。


「親として、こんなにも嬉しい光景はなかなかありませんわね、ルノ様」


「…………」


「ルノ様?」


「えっ? あ、私……そうですね、嬉しい限りです。今後も良き関係を築いていきたいものですね」


「はい、それはもちろん。わたくしからもお願い致しますわ」


 改めて言われてしまうとなんだか胸が熱くなってしまう。

 私もこの大切な『今』を守りたい。それはフィオールさんと同じ気持ちでなんだか嬉しくなってしまった。


「…………」




 けれど一つだけ。違うモノに気付いてしまった私は、心の中に小さな引っ掛かりを抱えることになった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 な〜〜んで思わせぶりなセリフを口に出さなくて良かったとホッとひと息。


 あの後、追加でやって来たイチゴを一時間ほどかけて食べ終えた私達は、フィオちゃんの部屋に戻ってのんびり過ごしていた。

 中には早くもベッドで横になるだらしない者も――私のことである。


「ふぅ……」


 それにしても考えさせられる時間だった。

 私自身も『親』としてやってきたつもりだ。しかしフィオールさんのような本物を前にすると、自分のやってきた事が正しいのか……少しばかり疑ってしまう。

 比べることではない、とは言われたけれど。


「ルノ〜〜! まだお風呂にも入ってないのに寝ちゃダメだよ〜〜?」


「ん〜〜……」


 ゆっさゆっさと私の身体を揺すってくるのはフユナだ。

 周りを見れば、みんな既にお風呂の準備を済ませており、私待ちの状況になっている。

 しかし私も馬鹿ではない。なんせ今、顔を埋めているこの枕はバスタオルや着替えをまとめたお風呂セットなのだから! 準備は万端である。


「お待たせ。それじゃあ行こっか」


「うん!」


 フユナに手を引かれながらお風呂へ向かう。他のみんなも後ろからぞろぞろとついて来ており、ちょっとした団体客のようだ。


「到着……っと。相変わらず広いねぇ」


 昨晩に続いて、やって来たのはブレッザさん自慢の大浴場だ。


 王城の地下に広がっているこの浴場には、シンプルな温泉はもちろん、血のように赤いワイン風呂から、ホットな泥がたっぷり注がれた泥風呂など、様々なお風呂がある。

 だが驚くなかれ。これでもまだ序の口で、全てを回ってたら朝になってしまうという理由から、昨日の時点で制覇するのは諦めたのだ。

 尽きない楽しみがあると前向きに考えよう。

 

「てことで私はこのワイン風呂でのんびりしようっと」


 チャポン。

 心地よい音を立ててワイン風呂に身体を沈めた。

 このワイン風呂は実際のワインを使用しているとかで、ほのかに香るブドウとアルコールが身も心も解放して疲れを癒してくれるのだ。私のお気に入りである。


「あぁ〜〜最高……」


 ちなみに隣にはフユナがいるおかげで心を癒す効果は倍増だ。チラッと視線を向ければ、私と同じく蕩けた表情が見える。


「も〜〜なんでフユナはこんなに可愛いのぉ〜〜」


「わわっ!? 溺れちゃうよ〜〜!?」


 我慢できずにギュッとハグしてこれでもかというくらいの頬ずり。

 温泉の効果なのか、いつもよりモチモチとした肌がとても気持ちいい。どれ、今度は反対側のほっぺたに――


「もぉ〜〜。発情しちゃうルノにはお仕置だよ」


「むぐっ!?」


 どこか見覚えのある凍結封印が、テンション高めの私の口を襲った。にゃんたこ様め、余計な技を……!?


「反省した?」


「〜〜っ! (コクコク)」


「じゃあ解いてあげるね」


「ぷはっ!?」


 とんだ失態である。

 身も心も――いや、主に心が解放され過ぎた結果だった。

 さすがに本場のワイン風呂。少し離れた位置で「えへへ……」と、普段よりも表情を蕩けさせているレヴィナを見て学ぶべきだったかな。ちょっぴり反省。


 少しばかり落ち込みかけたその時だった。


「ルノは昔から変わらないね」


「えっ、どうしたの突然?」


「なんとなく思ったの。ルノはそうやって、昔から好き好き〜〜って、真正面から言ってくれるよね。そういうところ大好きだよ」


「そんなぁ……えへ」


 なんなのこれは!? まさかフユナもワイン風呂にやられて酔っぱらっちゃった!? それとも純粋な――


「愛ですわね」


「うわっ!?」


 せっかくのムードに割り込んできたのは、長い金髪をバスタオルで纏めたフィオールさんだった。

 びっくりするから背後から現れないで欲しいな。


「うふふ。ルノ様も随分と策士ですわね」


「なんのことですか……?」


「よろしい。それなら――フユナさん。ルノ様はどんな人ですか?」


 これまた急な話題をフユナへと投げかけるフィオールさん。何が何だかさっぱり。しかしフユナは突然の質問にも迷うことなく答えて見せた。


「たまに変な時もあるけど――」


 いきなり!? と心の中で突っ込みながら思わずズルっと溺れかける私。

 一方でフユナの言葉は続いた。


「そうやって場を和ませてくれるルノが大好き!」


「なるほど。素晴らしい『お母さん』ですね」


「ううん、違うよ」


「ガ〜〜ン!!?」


 未だかつて無い衝撃を受けた私はこの時点で屍と化していた。もういっそこのままワイン風呂の泡となって消えてしまいたい。そう思いながら口元まで沈んだ。


「上手くは言えないんだけど、ずっと一緒にいたい人なの。フィオールさんとフィオちゃんみたいな血の繋がりは無いかもしれないけど、ルノはそれ以上に、えと……う〜〜ん……分かんなくなってきちゃったよ〜〜!?」


 お湯から顔だけ出していると、前述の言葉と共に顔を真っ赤にするフユナが見えた。ついに酔っぱらっちゃったかな?


「落ち着いて。ただ一言でいんですよ。ルノ様はフユナさんにとって何ですか?」


「大切な人!」


「〜〜っ!!?」


 ボンッ! 

 一世一代の大告白(?)に耐えきれなくなった私の顔が大爆発を起こす。もう本当にこのまま天国に昇ってしまいそうだ。


「そういうことみたいですよ。……ルノ様?」


「ルノ……?」

 

 先程までの感動的な空気はどこへやら。しかしその理由は簡単だった。

 フユナとフィオールさんの視線の向く先は私。それに気付いた時には既に私の視界はぼやけ、続いて頬を何かが伝っていった。これは――


「あ、あれ……?」


 私は泣いていた。……って自分で言わせないでっ!?


「ひ〜〜ん……! ちょ、こんなつもりじゃないのに〜〜!?」


 お風呂だからなんとか誤魔化す――と思ったが、それでも大粒の涙が零れているのは明白だった。私は必死に目を擦ったり、お湯をかけたりしてみたが涙は隠せない。


「だ、大丈夫? フユナ、何か悪いこと言っちゃった……!?」


「うふふ、違いますよフユナさん。あれは嬉し涙です。どうやら予想以上に嬉しい言葉だったみたいですよ?」


「う、うん……?」


 よく分からずに戸惑っているらしいフユナだが、残念なことに私は私で未だに涙が止まらないので顔を向けることもできない。

 少しの間、離れようと思ったそんな時。


「うふふ。余計なお世話でしたか?」


「ゴボボ……」


 お湯から目だけ出して逃げる間際、フィオールさんに呼び止められてしまった。

 伝わったかどうか分からないが「いいえ」とだけ答えて私はその場に留まることに。


「皮肉でもなんでもありません。純粋に『大切な人』なんて言える関係は本当に羨ましいですわ。少なくともわたくしは嫉妬してしまいました。うふふ……!」


「ちょ、ちょっと……顔が怖いですって!? でも……はい。羨ましいでしょう?」


 ドヤッ。思わず胸を張ってしまった。

 嬉しいものは仕方ない。今だけは許してください。


「まったくルノ様は。魔女として勝つのは難しいと踏んだからこそ、こっち方面で挑みましたのに。どちらも負けてしまったわたくしの身にもなって欲しいものですわ」


「あはは。そんな……」


 よく言う人だ。

 そんな風に思っていないからこそ、こうして余計なお世話をしてくれただろうに。これでは一矢報いないと私が情けないばかりだ。


 だから。


「知ってますか、フィオールさん。こういうのは比べることではないんですよ?」


「まぁ……!」


 少しの皮肉を込めて言葉を返すと、珍しくフィオールさんが驚いた顔をした。してやったり!


「これは一本取られてしまいましたね」


「やった。これでおあいこですね」


 とは言っても、元々おあいこみたいなものだったのだろう。

 立派にフィオちゃんのお母さんをやっているフィオールさんを羨ましく思ったのと同じように、フィオールさんもまた私とフユナの関係を羨ましく思っていたのだと思う。

 そんな中でも「比べることではありませんよ」と、私を気遣って大切なことを教えてくれたのだ。本当になんと言ったらいいか。


「ありがとうございます、フィオールさん。これからも末永くよろしくお願いします」


「うふふ、ルノ様ったら……仕方ないですわね」


 なんだか違う挨拶になってしまったが素直な気持ちは伝えた。

 フィオールさんという人生の先輩に、今後も何かの壁にぶつかった時は助けてもらうかもしれない。


 その時はまたお願いします……と。そんな気持ちを。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 就寝前。


「おやすみフユナ。ちゅちゅちゅ〜〜!」


「わあっ!? ルノ! みんな見てるから〜〜!?」


「心配しないで。みんなにもするから大丈夫!」


 多分この時はワイン風呂にやられて酔っ払っていたのだろう。そうでなければ説明できないほど、今まで以上に愛をぶつける私がそこにはいた。




 続いてコロリン。


「コロリンもおやすみ。ちゅちゅちゅ〜〜!」


「まったく。子供じゃないんですから。わっ」


 少し照れながらもすんなり受け入れてくれた。同時におとうふのように柔らかいほっぺたも堪能しておく。




 次にレヴィナ。


「え、ええっ!? 私も……ですか……!?」


「ふふっ。すると思った?」


「ぁ……。ですよね……」


 ちょっと残念そうにしてたのが可愛かったので――


「おやすみ、レヴィナ! ちゅちゅ〜〜!」


「むぐ〜〜っ!?」


 ――という感じに真っ赤にしてあげた。




 あとはグロッタとスフレベルグ。


「――は、さすがに無理がある?」


「わたくしは構いませんぞ!」


「ワタシも。これが初めてですね」


 と言いながら二人して口をすぼめたので――


「グロッタもスフレベルグも大好きだよ! おやすみ。わしゃわしゃ」


 右にグロッタ、左にスフレベルグを抱き寄せてこれでもかというくらい撫で回してあげた。




 ……と、忘れるところだった。


「ドキドキ……!?」


 さて寝よう。

 そう思ってベッドに入るとすぐ隣で瞳を輝かせるフィオちゃんと目が合ってしまった。眩しすぎる……


「でもほら。フィオちゃんにはフィオールさんの愛があるからさ」


「ドキドキ……!?」


「だめだこりゃ」


 もはや私しか目に入っていない。仕方ないなぁ。


「ん〜〜」


 チョン。


「キャ〜〜!?」


 パタン。

 何があったかは想像にお任せする。


「なんだか取っちゃったみたいですいません、フィオールさん」


 とりあえずここにはいない人生の先輩に人知れず謝っておいた。同時にありがとうございます……と、改めてお礼も。


「それじゃあみんな。おやすみ」













 そして私はゆっくり目を閉じた。


 この日見た夢がとても幸せだったことは覚えている。

 フユナがいてコロリンがいて。レヴィナもいればグロッタにスフレベルグも当然いた。フィオちゃんもいたのはきっとそういうことなんだろう。


 みんなが当然のように笑っていた。


 どうしてかは覚えていない。けど間違いなくみんなが幸せそうだった。


 それが一体何を表していたのか。





 この場にいた全員の寝顔だったことは誰も知ることはなかったのでしたとさ。



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