第177話〜あけましておめでとう!② 国王様はジェントルマン〜
〜〜登場人物〜〜
・ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
・サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
・フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
・カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
・グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
・ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
・スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
・レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
・コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。
・フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ
魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。
・にゃんたこ (神様)
『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。
・フウカ (妖精王)
妖精の秘境『妖精郷』に住まう妖精の王。神様とは友人関係にあり、その実力も折り紙付き。風の魔法を得意としており、中でも【風刃・風華】は風魔法最強を誇る力を持っている。
・プウ、ペエ、ポオ(小鳥の親子とリス)
小鳥の親がプウ、子がペエ、リスがポオ。ペエのみが人間に変身できる魔法陣を身体に刻まれており、人間になってはプウやポオと一緒に村へ行ったりルノの家に遊びに来たりなどして美しい歌声を披露している。
・ライカ(獣王)
グロッタを以上の体躯と金色の体毛が特徴の獣の王様。何かあれば自ら動くところから同胞からの信頼も厚い。出会いが出会いなため、ルノからは『勘違いライオン』の烙印が押されている。
声をかけられたのは、朝食を終えて席を立とうとした時だった。
「ルノ嬢。レヴィナ嬢。少しいいですか?」
私達を呼び止めたのはフィオちゃんの護衛の一人、バカさんことバッカさん。
朝食を食べ終わるまで待っていてくれたのだろう。「大丈夫ですよ」と言うまでもないタイミングでの声掛けである。
「なんだろうね?」
「さ、さぁ……?」
少々珍しい事に戸惑う私達。
名指しということは、私とレヴィナにしか頼めないことだろうか? 何か共通点はあったかな? と頭を悩ませてみるがなかなか思い当たる節がない。
……まさか朝食のデザートに出たアイスが美味しすぎて何回もおかわりしたのがいけなかったかな?
「国王様からの伝言です。『この後、時間があるようなら私の部屋まで来てくれ』とのこと。何かやったんですか?」
「ギクッ。いや、その……思い当たる節は無くはないですけど……」
「いえ、余計な詮索でしたね。お二人共、応援してますっ!」
「あ、ちょっとまって!?」
見捨てられた。
こうなったら時間はありませんでした、ってことにして出かけてしまうか? あわよくばお昼くらいには忘れてくれるかも。
「……仕方ない。最悪、フィオちゃんを盾にして何とかしよう。それまでの時間稼ぎはレヴィナに任せて――」
「あの、ルノさん……? 国王様のお呼び出しなら早めに行った方が……」
「うっ……」
ごもっともである。
そんなこんなで、レヴィナの正論パンチを受けた私は考えるのをやめて「はい……」と絶望感たっぷりの返事を返した。
せめて無事に帰って来られますように。そう願いながら。
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あれからすぐに国王様――ブレッザさんの部屋へやって来た私とレヴィナは意外なほど快く迎えられた。怒られる可能性を考えていた自分が馬鹿みたいだ。
「アイス? はっはっはっ! そんなことで客人に怒る訳ないだろう?」
「あはは、ですよね。でもさっきまで本当に思ってましたよ。レヴィナなんて何回もおかわりして、最後にはパフェまで頼んじゃうですもん」
「ルノさん……!?」
「なんだと? 今日のアイスは王城でもなかなか出せない高級品だというのに……それをふんだんに使ったあのパフェを、キミは頼んだというのか!?」
「ひぃ!? ご、ごめんなさいぃ〜〜……!? ひ、一つだけ……!」
地味に嘘をつくレヴィナ。本当は二つ食べてました。
「まぁまぁ、冗談はその辺にして。あんまりレヴィナをいじめると怒りますよ」
「はっはっ! いやぁ、すまんすまん。私の目が黒いうちはアイスなどいくらでも用意させるから安心するといい(キリッ!)」
このキメ顔がどこか懐かしいと思ってしまう辺り、完全に染まってしまったなぁと思う。もう一つの家だと思っていい、と言われたのが懐かしいな。
「ところでブレッザさん。私達にいったい何の用が?」
ここで忘れかけていた本題に突っ込む。まさかこんな談笑で終わる――可能性もそこそこあるが、それだと私とレヴィナが指名された理由が分からない。
「なに、簡単な事だ。今日は君たち二人に『魔女』として私の護衛をして欲しいのだ」
「お言葉ですが、私達は魔女というだけで護衛としての腕はからっきしですよ。レヴィナはそういうのある?」
「いえ……申し訳ないですけど……」
だよね。しかしブレッザさんもそんな答えは予想していたように軽い調子で言葉を返してくる。
「護衛とは言っても私と共に街を歩いてくれるだけでいい。散歩に付き合う感覚と言えばわかりやすいかね?」
「ふむふむ。……あの、一つ聞いても?」
「うむ」
「どうして護衛に私とレヴィナを? オリーヴァさんやバカさんはもちろんですけど、他にも優秀な護衛は沢山いますよね? ブレッザさん専属の方とか」
「あぁ、もちろん山ほどいるぞ。その気になれば隣国を潰してしまえる程優秀な護衛がな。しかし――」
簡単な事だった。
国王様ともなれば、街へ出かけるだけでも多数の護衛によって厳重に守りを固められる。当然、自由は制限されるし、普段の平穏な街並みを見ることは難しくなる……と。
「こう言ってはアレだがな。魔女が二人もいれば私の護衛全員より遥かに強いのだ。君達なら知らん仲でもないから文句を言う輩もいない。つまりたったの三人でのんびりできる訳だ」
「なるほど。みんなが『魔女様』と慕うくらいですもんね」
「そういうことだ」
思えば、光の魔女であるフィオールさんも一人で出歩くどころか魔物退治までしてたもんなぁ。全てが『尊敬』の二文字で打ち消されてしまうのだろう。
「ルノさん、私はかまいませんよ……?」
「う〜〜ん。ま、そうだね」
こうして泊めてもらった恩もある。
ブレッザさんの言葉を借りるなら、知らない仲ではないし、少しの気晴らしに付き合うくらいなら快く引き受けてあげるとしよう。
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その後、フユナ達とフィオちゃんには予定が入ってしまったことを伝えて別行動となった。
現在地は王城の正門前。
ブレッザさんは何やら準備をするということなので、私とレヴィナは一足早くこの場所で待機している。
「待たせたな」
間もなくしてブレッザさんはやって来た。
声に振り向くと、そこに居たのは筋肉のせいか、若干ピチピチになっている茶色のスーツに、黒の丸いサングラスをした筋骨隆々の男。怪しさ満点である。
「どうだ、なかなかのジェントルマンだろう? これなら誰も国王だとは思うまい」
「一瞬、命の危機を感じました。とりあえずジェントルマンに謝ってください」
「はっはっはっ! 早速厳しいツッコミだ!」
一歩引いた位置にいるレヴィナを見ればおそらく間違ったツッコミではないのが分かる。今からコレと歩かなきゃ行けないと思うと憂鬱だなぁ。
「あ、あの……。変装するのでしたら護衛の必要なかったのでは……?」
「し〜〜ッ! だめだよレヴィナ。こうなってしまった以上、アレを国王様だと思った時点で負けなの。一旦、護衛のことは忘れて、変人を監視するつもりで行こう……っ!」
「そ、そうですよね……? 良かった……私がおかしいのかと……」
大丈夫。私もあなたと同じ気持ちだから。
人知れず絆を深めた私とレヴィナの護衛はこうして始まった。
「では行こうか。ルノ君、レヴィナ君」
「君って……というか徒歩なんですか?」
「もちろんだ。王城から馬車が出てきたらバレてしまうだろう? そんなに遠くまで行くわけではないから安心したまえ」
「なるほど。わかりました、ブレッザさん」
「おい」
「うわっ!?」
前を歩き出したブレッサさんについて行こうとしたところ、突然振り向き肩を掴まれた。
右手で私、左手でレヴィナ。三人で仲良くその場でしゃがみ込むと――
「今日は『国王様』も『ブレッサさん』も禁止だ。私のことは『ブレザー』と呼びなさい」
「了解……」
「わ、わかりました。ブレザー……さん……?」
どうやら本格的にお忍びで遊びたいらしい。
ポロッと呼んでしまわないように気を付けるが、案外『国王様』呼びが浸透し過ぎて名前で呼んでしまってもセーフな気がする。超有名人なのに愛称しか知らないみたいなね。
「まずはメインストリートへ向かうとしよう。レヴィナ君。お忍びの定番と言えば何だと思う?」
「お忍びの定番……かどうかは分かりませんが……露店巡りなんて良いのでは……?」
「さすが分かっているッ!」
「あ、ありがとうございます……!?」
思わぬフリに満点の回答をして見せたレヴィナは一気に好感度がアップしたようだ。
王都の露店には私も興味があるのでちょうどいい。『聖夜の光』の時はあまり回れなかったしね。
「実はリトゥーラには普段から露店が並んでいる区画があってな。イベントがなくともそこへ行けばいつでもイベント気分を味わえるということでなかなかの人気ぶりだ。もちろん味は保証するぞ」
「へぇ? いつでもお祭り気分みたいな感じかな。いいですねそれ」
王都だからこそできる芸当かもしれない。
ヒュンガルみたいな小さや村だと露店なんてそれこそイベント限定の――と、思った瞬間にドーナツおじさんの顔が浮かんだ。割とどこにでもあるのかも。
「うむ、いい香りだ。これとこれを三本ずつもらおうか」
「まいどありぃ!」
やって来たのは想像以上に露店が並ぶ大区画だった。
東西南北、どこを見ても露店、露店、露店。人の行列に負けじと並ぶ露店の数々はまさに圧巻の一言。
そんな中、まず最初に訪れたのはヤキトリのお店。手馴れた様子で、シオとタレを三本ずつ、計六本のヤキトリを購入したブレッザ――いや、ブレザーさんは、それらを一本ずつ私とレヴィナに手渡してくれた。「私の奢りだ」などとイケメンなことを言いながら。
「おっ、両手に花とは羨ましい! しかもその渋い見た目と紳士的な振る舞い! 俺達の国王様には劣るがなかなか良いモンを持ってるねぇ!」
「ほう? なかなか見る目があるじゃないか。気に入った。この店は良かったと国王に伝えておこうではないか」
「なんと!? 国王様のお知り合いでしたか! 通りでオーラが違うわけだ!」
「はっはっはっ! そうだろう、そうだろう?」
去り際に言われたヤキトリ屋さんの一言に嬉しそうな反応を示したブレザーさんは完全に調子に乗っていた。数秒前に少しでもイケメンと思ってしまった手前、あまり否定もできない。
「聞いたか二人とも。渋いジェントルマンと言われてしまったぞ」
「微妙に違うけど……まぁ、はい。変人の監視とか言ってすいませんでした。ほら、レヴィナも謝って」
「えぇ……!? 私は言ってないのに……!?」
共感してくれた時点で同罪である。当の本人は全く気にしてなかったので拍子抜けだったけど。
「それよりこれ、いただいちゃっていいんですか? 一応、私達が護衛なのにご馳走になっちゃうのは……」
「気にする事はない。私も今のようなやり取りが楽しみで来てるのだしな。うむ、美味い!」
「ありがとうございます。じゃあ遠慮なく」
「いただきます……」
エスコートというかなんというか。これではどちらが守られているのか分からないが、ブレッザさんもそれを望んでいる様なので気にしないことにしよう。
両手のヤキトリも実に美味しそうだ。私達も存分に楽しもうじゃないか。
「おい、アレって王女様と一緒いた魔女様じゃない?」
「ウソだろ――って本当だ!? しかも二人ともいるじゃないか!」
「ちょ、ちょっと俺、話しかけてみようかなっ!」
「ん?」
炭火の香りが漂うジューシーなヤキトリをガブリ。極上の旨味に思わず表情を緩めていたその時。
いつの間に囲まれていたのか、私達の周りには羨望の眼差しを向けながらコソコソと話し込む街の人々がいた。『魔女様』と聞こえたことから察するに、私とレヴィナのことで間違いなさそうだが……
「ルノさん……これじゃ護衛の意味が……」
「それは元々無いようなモノだったけど……うん。たしかにこれはよろしくないね」
危険とかではなくシンプルに移動できない。プレゼント交換会で目立ちすぎてしまったかな?
「任せなさい、君達」
ズイッと前に出たのはまさかのブレッザさん。護衛とは……?
「少し道を開けてもらえるかね?」
「「「キャ〜〜!」」」
「「「うおぉぉぉ!」」」
「「「魔女様〜〜!」」」
残念ながらジェントルマン(仮)のお言葉は届かず。さすがにこれはブレッザさんも――
「仕方ない」
「えっ!?」
「ひゃ……!?」
へこたれなかった。
それどころか、むしろ何かに燃えるようにジャケットを脱いだかと思うと、それを私に預け、腰に手を回される。それはレヴィナも同じで、要するに私達は荷物のように抱えられた訳で――
「とうっ!」
凄まじい力で弾かれたような跳躍。
控え目に言っても背骨がメキッと悲鳴をあげるような暴挙に、私もレヴィナもされるがままだった。
「ふぅ。魔女様への憧れもここまで来ると大変だな」
そして屋根の上へ着地。
こんな超人なら冗談抜きで護衛なんて必要無いじゃん……と思う私だった。
「ぶくぶく……」
「あぁ!? レヴィナが泡吹いちゃってる!? ちょっとブレッ……ブレザーさん!? 筋肉技使うなら言ってくれないと!」
「いや、すまない。君達の身の安全を第一に考えた結果だ。……よし、ひとまず休める場所へ行こう。使うぞ」
「ちょ!? 私は自分で飛べるから――」
「とうっ!」
「わあぁぁぁ!?」
「ぶくぶく……」
こうして、私とレヴィナ(気絶)はこの後も為す術なく連れ回されることに。
ノリで言った『筋肉技』にハマってしまったブレザーさんによって連れ回された露店は数知れず。
ヤキトリに続いて、アメ細工、アイス、ホットサンドにホットドッグ。その後も目に付いた露店をひっきりなしに回っていると、気付いた時にはもう夕方に差し掛かっていた。
「ブレザーさん、魔女より目立ってましたよ。たぶん」
「はっはっはっ! 君達二人がいたからこそだろう? 私も鼻が高いぞ」
「……はっ!? ここは……?」
想像以上に疲れたが、それ以上に楽しめたのも事実。
途中からあの超人的な跳躍にも慣れたもので、食べては跳んで、食べて跳んでを繰り返し、護衛という本来の目的を忘れるくらい充実した時間となった。
今なら苦手なジェットコースターでも平気なんじないかな〜〜なんてね。
「むっ、また住民に見られているな。そろそろ帰るか」
「そうですね。ほら、レヴィナも行くよ」
「ふぇ? どこに――」
「とうっ!」
「おぉ〜〜」
「ひゃ……!?」
三つの影が今日一番の跳躍を見せると、住民達の歓声が響き渡る。
この日からブレザーさんは『魔女様を攫うジェントルマン』として末永く語り継がれることになるのだった。
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「最高の一日だった! 礼を言うぞ。ルノ君、レヴィナ君」
王城に帰宅した私達はブレッザさんの部屋まで戻って来た。
ここで解散かと思えば、続いたのは前述のような感謝の言葉と、さらに労いの紅茶とケーキまで。
今日の露店巡りから思っていたが、護衛として出てきたのに何故かエスコートされ、ほとんどが奢り。帰ってきてからもこの調子ではさすがに申し訳なく思えてしまう。
魔女が尊敬されているリトゥーラだから、という理由があったとしてもだ。
でも。
「私もとても楽しかったです……」
レヴィナの言う通りだ。
最初はどうなる事かと思ったが、終わってみればこの通り。まるで友人のように接してくれたブレザーさんのおかげで私達も気負うことなく楽しむことができた。
「と言うか、微妙にジェントルマンが抜けきってませんけど今後はそのキャラで行くんですか?」
呼び方は未だにルノ君レヴィナ君。服装にしてもサングラスを外しただけでそれ以外は同じ。ちょっぴりピチピチの茶色スーツだ。
「なに、心配せずとも数日経てば元通りになるさ。どうやら思った以上に役に入ってしまったようだな。はっはっはっ!」
それを聞いて少し安心した。ジェントルマンも良かったが、やっぱり出会った当初のようにキリキリ言いながらキメ顔をしてくれた方がらブレッザさんらしいからね。
「ふぅ。ごちそうさまでした」
「行くのかね?」
「はい。と言っても夕飯になったらまた会いますけどね」
「うむ。では最後にプレゼントだ」
「「???」」
なんだろう、と顔を見合わせる私とレヴィナ。
手渡されたのは片手に収まる程度の花束だった。オレンジにピンク、白に水色と、どれも美しく綺麗な花ばかり。小さめのサイズも相まって『可愛いらしい』という感想が真っ先に浮かんだ。
「あは。ありがとうございます」
「大切にします……」
私達はまさかのプレゼントに驚きもしたが、素直な気持ちを伝えた。
「魔女様である前に一人の人間として、今後も君達とは良い関係でいたいものだ。もちろんご家族全員な」
とんでもない。
それなら既に良い関係になっている。ブレッザさんはもちろん、可愛い教え子のフィオちゃん、そしてフィオールさん。全員が『良き友人』として、家族と同じくらい大切な人達だ。
「こちらこそ。色々と良くしてくれるブレッザさん達とはもはや『知り合い』では収まりませんしね」
「うむ!」
ブレッザさんは満足気に頷いて見せた。気持ちは同じみたいで良かった。
「ではまた後ほど」
「失礼します、ブレザ……いえ、国王様……」
そして今度こそ私達は部屋を後にした。
最初はどうなるかと思ったお誘いも、終わってみればいい思い出だ。
ブレッザさんのもう一つの顔、ジェントルマンのブレザーさん。特別に見せてくれたもう一つの顔――という訳ではないかもしれないが、今日を通して絆が深まったのは間違いない。
これからもよろしくお願いします。
部屋を出る間際、そんな意味を込めた笑顔を向けると、ブレッザさんは手を振って応えてくれた。
だから私も同じように手を振って『良き友人』のブレッザさんに別れを告げたのでした。
フィオちゃんの部屋に戻ってからのこと。
「やっぱり王様ってすごいんだね」
「急にどうしたんですか、先生?」
「私はね、ブレッザさんの『ジェントルマン』な部分を知ってしまったのだよ。本人の前じゃ言えないけど少し尊敬しちゃった。ね、レヴィナ?」
「そうですね……。数日で戻るって言ってましたけど、私は今日のブレザーさん……いや、国王様の方が良いなぁ……」
「だよね。ピチピチのスーツのせいで少し変人が入ってるけど、全部が完璧じゃないからこそジェントルマンの部分が光るというか!」
「わかります、わかります……っ!」
そんなこんなで、紳士に誑かされた乙女の如く盛り上がる私とレヴィナ。
その様子を見ていたフィオちゃんは――
「先生たちが禁断の恋に落ちちゃった……!? みんな! ビッグニュース!」
当然と言えば当然の結果。
お忍びの時しか見せないブレッザさんの顔を知らないフィオちゃんが、私達に『お父さんに惚れた人達』というイヤなレッテルを貼ったことは言うまでもないことだった。