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☆氷の魔女のスローライフ☆  作者: にゃんたこ
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第175話〜聖夜の光。プレゼント交換会〜


〜〜登場人物〜〜



・ルノ (氷の魔女)

 物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。


・サトリ (風の魔女・風の双剣使い)

 ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。


・フユナ (氷のスライム)

 氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。


・カラット (炎の魔女・鍛冶師)

 村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。


・グロッタ (フェンリル)

 とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。


・ランペッジ (雷の双剣使い)

 ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。


・スフレベルグ (フレスベルグ)

 白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。


・レヴィナ (ネクロマンサー)

 劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。


・コロリン (コンゴウセキスライム)

 ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。


・フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ

 魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。


・にゃんたこ (神様)

『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。


・フウカ (妖精王)

 妖精の秘境『妖精郷』に住まう妖精の王。神様とは友人関係にあり、その実力も折り紙付き。風の魔法を得意としており、中でも【風刃・風華】は風魔法最強を誇る力を持っている。


・プウ、ペエ、ポオ(小鳥の親子とリス)

 小鳥の親がプウ、子がペエ、リスがポオ。ペエのみが人間に変身できる魔法陣を身体に刻まれており、人間になってはプウやポオと一緒に村へ行ったりルノの家に遊びに来たりなどして美しい歌声を披露している。


・ライカ(獣王)

 グロッタを以上の体躯と金色の体毛が特徴の獣の王様。何かあれば自ら動くところから同胞からの信頼も厚い。出会いが出会いなため、ルノからは『勘違いライオン』の烙印が押されている。



 冬真っ只中の王都リトゥーラ。

 チラチラと降り注ぐ雪が街全体を白く染めあげ、凍えるように冷たい空気は無慈悲なまでに人々から体温を奪っていきました。

 しかし街ゆく人々の表情はどうでしょう? 時折、寒さに震えてはいるものの、そのほとんどはむしろどこか楽しそうに、あちらこちらへ視線を動かしながら笑顔で歩いています。

 それもそのはず。


「ご覧下さい!」


 人々の視線を集めているのは、普段よりも街を色鮮やかに光輝かせているこの季節限定のイルミネーション。

 大きな植木へツタの如く巻き付くもの、街灯と街灯を結ぶもの、もしくは露店の看板にぶら下げられたものなどなど。それらが七色に光り輝き、星や花、可愛らしい動物まで様々な形を作り出して人々の身も心あっという間に温めてしまいます。


「それがリトゥーラの伝統行事『聖夜の光』なのです!」


 ――などとドヤ顔をかますのは私の隣を歩いていたこの国の王女様、フィオちゃんことフィオ・リトゥーラ。そんな設定あったなぁと、私も忘れかけていた自慢(?)の教え子である。


「聞いてますか? 今日、この一大イベントに招待したのは先生の空っぽの頭に私のことをしっかり刻み込むためなんですからね? 年明けにあんな約束をしたのに!」


「ギクッ!?」


 まるで私の心を読んだかのように的確なツッコミをされてしまった。「今年はもっと構ってください!」「わかった!」みたいなやり取りをした結果がこれだから当然か。

 一応、物語に取り上げられてないだけで、ちょいちょい遊んでるから久しぶりって訳でもないんだけど……多分もっと登場させてくださいって意味なんだろうな。


「ま。でも――」


 良かった、というのが素直な感想だった。というのも、本日は伝統行事と言うだけあってフィオちゃんはもちろん、街の人々まで全員が露店で食事をしたり買い物をしたりなど、思い思いにこの特別な時間を楽しんでいる。


 そんな場所に誘われたのは実は私一人ではない。フユナやコロリン、そしてレヴィナ。さらにグロッタやスフレベルグに至るまで、我が家族達がもれなく招待状を頂いたのである。


「楽しい一日になりそうだね、フユナ」


「うん、夜のパーティーが楽しみだよね!」


「豪華なお料理が出るのはもちろん、『プレゼント交換会』なるイベントまであるそうですね」


「王都の一大イベントらしいですからきっと高級なモノがたくさん並ぶのでしょうね……緊張してきた……」


 フユナ、コロリン、レヴィナがそれぞれ反応を示す。

 そう、メインイベントは夜。

 お昼過ぎ。明るい時間帯の現在ですら既にパーティーもかくやといった大賑わいを見てせているが、夜になれば王城の広場でさらに盛大な催しが行われるようだ。


「このグロッタ様に貢ぎ物する企画とはなかなか分かっているではないか」


「交換会なのでタダではもらえませんよ。ワタシ達も何か獲物を用意しなくては」


「なるほどな。ならば消えても問題無さそうな――」


 すぐ後ろから妙に物騒な会話が聞こえてくると思ったらグロッタとスフレベルグの猛獣コンビだった。お楽しみなのは結構なことだが、プレゼントに『獲物』とかいうジャンルを持ち込むのはやめて欲しい。


「ちょっとお二人さん。君達も今から一緒にプレゼント買いに行くんだから好きなの選ぶんだよ。狩りには行かなくてよし」


「よろしいのですか!?」


「フッフッフッ……! ならば普段は絶対に買ってくれないような高級なモノを選びましょう……!」


 微妙に勘違いしている二人はまるで自分のプレゼントを買ってもらえるかのような喜び方である。交換しちゃうから逆にショックを受けてしまわないか心配だ。


「まぁ逆にさらなる高級品になるかもしれないから運ということで。……それでフィオちゃん。私達はどこに向かってるの?」


 王都へ来て、前回と同じように王城にお世話になるので挨拶をして、荷物を置き、今の状況。「プレゼント買いに行きましょう!」とフィオちゃんに連れ出されてから、かれこれウン十分程度。サプライズにしたってそろそろ到着してもいい頃だと思うのだが、なにせここは王都……凄まじい広さなのだ。


「申し訳ありません。フィオ様がルノ様と一緒に歩きたいと言われるもので……」


「けどこの人混みの中を馬車で駆け回るのも危ないですし、ルノ嬢達もこっちの方が良かったでしょう?」


 フィオちゃんの背後に控えた護衛の二人。オリーヴァさんが申し訳なさそうに呟き、バカさんことバッカさんが気さくな調子で話しかけてくる。

 そんなつもりはないが、一応『客人』としてやって来た訳だからオリーヴァさんの気持ちも分かるが、この場はバカさんの方が正解だ。せっかくの街の飾り付けを肌で楽しまないのは損だもんね。


 だから――


「今日はあまりお堅くならずに行きましょう」


 そう言いながら、この場の全員に『楽しもう!』といった意味を込めて私は笑顔を返したのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「先生。ここは超、超、ちょ〜〜……ッ高級店ですから! 騒いだらダメですよ?」


「はぁ」


 やって来たのはフィオちゃん曰く、超が何個もつく程の高級店。たしかに店員さんもピシッとしたスーツに身を包み、手には白手袋。売り物は雑貨から食べ物に至るまで、そのほとんどがショーケース内で管理されている徹底ぶりだった。

 お店の数は十数店にものぼり、一つの巨大な建物に並ぶ高級店の数々は街並みを彩っていたイルミネーションに負けず劣らずの煌びやかな造り。その様はまさに圧巻――


「とかなんとか言っちゃって。実はフィオちゃんが手回ししてあって『そういう体』を演じさせてるんじゃないの? いくら何でも食べ物をショーケースって……あはは」


 なんなら街のイルミネーションから夜のイベントまで全てがフィオちゃんによる大掛かりなドッキリというのも有り得る。この子は若干コロリンに似た気があるからね。


「でしたら実際に体験してみましょう! ……ちょっとあなた。この商品、少し見せてもらえるかしら?」


「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」


 そう言って厳重に管理されたショーケースの鍵を外し、丁寧が過ぎるほどにゆっくり取り出されたのは蓋が開かれた小さな木箱。中には雪のように白い綿が敷き詰められており、その上には真っ赤に熟れたイチゴが一粒だけ入っていた。


「こちら、北の大地で栽培された貴重な一粒でございます。年に一粒しか採れないとかなんとか」


「なるほど、いい香りね。つまりこの一粒は?」


「はい。今年流通する貴重な一粒とかなんとか」


「……にやり」


 高級店らしい(?)やり取りを終えたフィオちゃんがニヤリと笑う。次の瞬間、年に一粒しか採れないとかなんとかいう高級なイチゴを手に取ったかと思うと――


「それっ!」


「ムシャア」


「なっ、貴様!? ずるいぞスフレベルグっ!!」


 グロッタとスフレベルグがいる辺へポイ。謎の争奪戦の末にスフレベルグが食べてしまった。そして――


「こちらの方が飼い主よ」


 と、私を示すフィオちゃん。


「ありがとうございます」


 と、私に感謝のお辞儀をする店員さん。


「……ん? どういうこと?」


 最後に衝撃の一言。


「こちら、ウン十万円になります」


 店員さんが差し出してきたのは、言葉通り『ウン十万円』と記載された紙切れ。数秒凍りついた後に顔を上げると至って真面目な店員さんの目が私を見つめていた。はよ払えと。


「フィオ……ちゃん……?」


「えへ」


 全くもって可愛くない笑顔を向けられた私は急いでお財布の紐をちぎって有り金全てを差し出したのだった――




 数分後。


「あんなの詐欺だよ……! 私、もう一文無しだよっ……!」


 そこには、街の人々とは正反対に身も心も真っ暗になりながら道の隅っこで頭に雪を積もらせて泣いている私の姿があった。


「冗談ですよ先生。高級店なのは本当ですけど、あれは私が購入したイチゴなので問題ありません。ほら、お金もこの通り!」


「!?」


 てな訳で、私は可愛い教え子を疑った自分を心の中に封印しておいた。なんだか知らぬ間に貢がれてしまって複雑だが、数秒間ひもじい思いをしたのでバチは当たらないだろう。てか食べちゃったの私じゃないし。


「まぁいいではないですか。ワタシは満足ですよ」


「そりゃそうでしょうよ。フィオちゃんももうイタズラは無しだからね。次やったら酷い目に〜〜……!?」


「え〜〜ん、先生とお出かけできて嬉しかっただけなのに! コロリンさぁ〜〜ん!」


「ルノ。あなたって人は教え子になんという仕打ちを……」


「…………」


 ちょっと冗談を言ったらこれだよ。この二人は一緒になるとロクなことをしないんだから。

 もういいや……と、諦めて、私は改めて店内を見回してみる。


「何でもいいとは言われてるけど、どうせなら選ぶところから楽しみたいしね。でも高級の二文字に騙されず慎重に……っと」


 一応、ブレッザさん達に挨拶を済ませた時に「一般人も参加できる催しだから品物に拘る必要はない」とは言われている。要はプレゼント交換をネタに面白可笑しく過ごせれば良いんだとか。


「時間はあるし、一通り見てから決めるのが無難かな」


 そうと決まればフィオちゃんはポイしてさっそく店内を見て回ろう。色んなジャンルの高級品が揃ってるみたいなので楽しみだ。


「ちょっと待ってくださいっ!」


「あ、やっと来た。ほら、行くよ」


 ポイされて耐えきれなくなったフィオちゃんが王女様でありながら人目もはばからずに迫ってきた。可愛いなぁ、分かりやすい子め――とか思いながら少し期待していた自分がいたのはここだけの秘密。


「むっ! 今『分かりやすい子め』とか思いましたね? 私は先生と別行動ですよ」


「へ、へぇ……別に思ってないけど。でも一緒に来ないのは意外だな。お腹でも痛いの?」


「だって一緒に行ったらプレゼント交換の楽しみがなくなっちゃうじゃないですか。あとお腹は痛くないですから!」


「そういうことか」


 言われてみれば確かに。フィオちゃんならこのお買い物の時間を優先すると思ったが、どうやら私のプレゼントに対する期待の方が大きいようだ。


「だから先生は私と交換するって約束してください! ちなみにプレゼントを買ったらすぐに合流するので一緒に過ごす時間はたっぷりあります。集合場所はここにしましょう」


「ちゃっかりしてるねぇ。プレゼントに関しては善処します。……じゃあみんなもここで一旦別れようか? プレゼントは別に買って、交換した時のお楽しみってことでさ」


「だ〜〜か〜〜らぁ〜〜!? 先生は私と――」


 全員が「さんせ〜〜い!」との返事をしてくれたのでそういうことに。フィオちゃんではないが、これもプレゼント交換会をより楽しむためと割り切って前向きに考えるべきだ。

 ちなみに、フィオちゃんは話の途中でオリーヴァさんとバカさんに連れていかれてしまった。




「お菓子は……悪くないけど違う。シャンパンの類はどうせパーティーで出るよね。う〜〜ん……シャレオツなグラスなんてどうかな――高っ!?」


 皆と別れてから数分。悩みに悩んだ末に高級グラスに胸を撃たれた辺りでグロッタとスフレベルグが「コレにします!」と話しかけてきた。

 私の魔法によって小型化してこそいるが、本来は巨大なこの子達だ。別行動という訳にはいかないので私と行動を共にしている。


「どれどれ?」


「わたくしは自分がもらって一番嬉しいモノを選びましたぞ! ゴクッ!」


「ワタシはこれですね。先程のイチゴの例がありますから期待できますよ。ジュルリ!」


 いつの間に選んだのかと思えば、それらは私がつい先程訪れた食品コーナーで見た覚えのある品だった。


 グロッタは『鮮度抜群! 締めたてホヤホヤ肉!』

 スフレベルグは『北の大地・七種のベリー詰め合わせ』


 いかにも二人が選びそうな品だ。やはりお高級なだけあってどちらもウン千円となかなかの値段だが、スフレベルグの胃袋にあるイチゴに比べたら可愛いものだ。


「うんうん、個性が出てて大変よろしい。それじゃあプレゼントように包んでもらわなきゃね。すいませ〜〜ん」


 近くで可愛いペットでも見ているかのような店員さんに声をかけて購入の手続きを済ませる。品物を包んでもらい、受け取った私がそれらを二人の首に縛り付けて完了。なんだか首輪みたいになっちゃったな。


「はは、可愛いしいいよね。グロッタもスフレベルグもそれはプレゼント交換用だから大切に持っててね。間違っても摘み食いしたらダメだよ」


「ご安心ください。わたくしは交換会でこの高級肉をワンランク進化させるつもりなので!」


「甘いですねグロッタ。私は品質はそのままに、この高級ベリーを倍増させてみせますよ」


 どうやら二人ともプレゼント交換会に前向きなご様子。不要な心配なのは良かったが、なんちゃら長者みたいなことにはならないと思うので期待し過ぎないようにねと、それとなく釘をさしておいた。


「ルノ様はまだお悩み中ですかな?」


「ふっふっ……まぁね。けど実はさっきからロックオンしてる場所があるのだよ」


 私は勿体ぶるような発言をした後にジロリととあるコーナーを睨みつける。視線の先には王都を彩るイルミネーションに負けず劣らずの光と、さらにはリラックス効果をもたらす心地良い香りの数々が並んだキャンドルの専門店があった。


「しかも今だけの限定仕様! 今夜、王城で行われるプレゼント交換会にもピッタリ! ――って、さっきから店員さんの声が聞こえてきてさ。私はそこで選ぶよ」


「ふむふむ。ルノもなかなかシャレオツなジャンルを攻めますね」


「でしょ? これなら誰が貰っても喜ぶこと間違いなしだと思うよ」


 確かな自信を持っていざ突入。

 ざっと見回しただけでもシンプルな円柱状のキャンドルもあれば、丸や星まで形は様々。そこに果物の香りや花の香りが加わることでキャンドルの種類は簡単に選べない数になっていた。

 こんなの選べない、なんて思いながらあっちこっち視線を飛ばし、近くにあったキャンドル手に取って香りを楽しんだり、やたら大きいキャンドルに目を輝かせたりなどなど。

 濃密な時間を過ごしているとその時はやって来た。


「これ可愛いッ!?」


 先程まではしゃいでいた濃密な時間が嘘のような即決である。

 ここは季節限定コーナー。やはり目を引いたのは店員さんがセールストークに力を入れていた赤、緑、白を基調とした冬仕様のキャンドル――ツリー・雪ダルマ・リースの三点限定セットだった。


「お客さんお客さん。そちらの限定キャンドル、残り二つなのでお急ぎになった方がよろ」


「買いますっ!!」


 食い気味に返事をする私の目は傍目から見ても輝いており、『限定』の二文字に異常なまでに反応する姿はそこそこ将来が心配なるモノだったとか。引き気味のグロッタとスフレベルグに言われました。


「あはは……ごめんごめん。限定って言われるとテンション上がっちゃうよね。あ、これ二人にあげる!」


 お財布の紐が緩んだ結果だった。

 私が持っている袋には、プレゼント交換用のキャンドル以外にも赤青黄色、色とりどりのラッピングがされたキャンドルが入っており、うち二つをグロッタとスフレベルグに手渡した。私から家族へのプレゼントだ。


「素晴らしい! しかしよろしいので? この後のプレゼント交換会は?」


「それはそれ。これは個人的なプレゼントだからいいんだよ。もちろんフユナ達の分もあるから二人とも遠慮しないでね」


「なるほど。では遠慮なくいただきましょう。ありがとうございます、ルノ」


 やはり家族の笑顔は良いものだ。グロッタにスフレベルグ。合流した後にはフユナやコロリン、レヴィナの笑顔も待っている。そんな些細なモノが私にとっては最高のプレゼントなのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 日も沈み、昼間よりもイルミネーションの光が美しくなった頃。いよいよメインイベントの時間がやって来た。

 

 場所は一般開放された王城の庭――と言っても、私達一般人が想像するような庭とは完全に別物である。

 パーティー会場も兼ねているだけあって、数百の人々、所狭しと並べられた料理にテーブル。さらに、かき集めた子供達が走り回ってもまだスペースに余裕があるのだから驚きだ。多分ヒュンガルが二つ三つは入るんじゃないかな。


「コロリンも混ざってきたら? ほら、あの辺の子供達なんて同い年くらいじゃないかな」


「なぜ真っ先に私を見るのかは分かりませんね。ルノこそさっきから積もった雪でお団子を作ってばかりじゃないですか。おやおや? そこの子供達と一緒な気が?」


「ち、違うし!? 私のはフユナと作った高級な雪玉だから大人の遊びだし!?」


「そうだよコロリン。ほら見て、プウペエポオだんご〜〜♪」


「わぁ、フユナすご〜〜い!」


「開き直りましたね……」


 などと言いつつ結局コロリンも混ざる。やっと火が着いたようで何よりだ。


「ところでルノさん? フィオさんは大丈夫なんでしょうか……」


「あ〜〜それねぇ……」


 と言うのも、プレゼントを買ったら合流するとドヤ顔をかましていたフィオちゃんがどれだけ待っても現れなかったのだ。

 最終的にやって来たのはバカさん一人で「お嬢は少しばかりヤボ用がありまして」と報告した後に私達だけを案内して今に至る。

 これまた忘れかけていたが、フィオちゃんも立派な王女様なのだ。きっとイベントを開催するにあたって挨拶やらで忙しいのかもしれないな。ちょっと残念。


 ……と、思いきや。


「先生〜〜! やっと見つけた!」


「あら?」


 フィオちゃんだ。

 王女様の思わぬ登場に周囲の人々が若干驚くが、私との関係は割と広まっていたようですぐに元通りになってしまった。

 それはさておき。


「イベントなんだし一応、王女様として振舞ってた方がいいんじゃ……?」


「それなら最初から振舞ってましたけど!? 実は王女様じゃないみたいに言わないでくださいよ!」


「あはは、どうどう。いやね、あの後いくら待っても来なかったから心配してたんだよ。バカさんには『ヤボ用』だって聞いてはいたけどもういいの?」


「……え? あ、あ〜〜ヤボ用……はい、ヤボ用! はい、その件については何とか! まったく、先生があんな所にいるから……(ボソッ)」


「???」


 よく分からない小言を言われた気がしたけど無事に終わったならいいか。

 



 それから間もなくして国王――ブレッサさんによる開始宣言がされてイベントは始まった。

 私達がこの場所にやってきた時には既にお料理やシャンパンが振る舞われていたが「やっぱり本命はコレですよ!」とフィオちゃんに力説された通り、一番の盛り上がりを見せているのはプレゼント交換会だった。 


 毎年このイベントでは、告白する者、日頃の感謝を伝える者など様々な人がおり、想いを伝えるのきっかけとしてはこれ以上ないようだ。

 当然、私も似たような気持ちで、主に『感謝』を伝える側だ。決して『告白』ではない。


「ふぅ、はぁ……き、緊張する……チラッ! よし、三つ数えたらその瞬間に先生にアタックしてこのプレゼントをっ……チラチラッ! それともやっぱり何も言わずに渡した方が夢があるかなっ!? チラチラチラ(以下省略)」


 対してこちらにいらっしゃる王女様は間違いなく告白である。さっきから実に思わせぶりな視線が飛んでくるもんな。


「さ〜〜てと、私は誰と交換しようかな」


 乙女なフィオちゃんを見ているのも面白いが、私的にはフユナやコロリン、もちろんレヴィナのプレゼントも興味がある。早くしないと交換しちゃうぞ〜〜なんてね。


「フ〜〜ユ〜〜ナ〜〜♪ ……あ」


 視界に入ったのは既にプレゼント交換を終えたフユナとコロリンだった。先を越されたか……!


「毛糸の帽子だ! 可愛い〜〜!」


「フユナはマフラーですか。温かくて良いですね」


 雪ダルマのポンポンがくっついた真っ白な毛糸の帽子を被るフユナと、両端にクマの顔がプリントされた茶色のマフラーを巻くコロリン。どちらも冬仕様で可愛い!




 一方、レヴィナは。


「いた、魔女様〜〜!」


「あの! わたしと交換してくださいっ!」


「このっ、ぼくが先だぞ! 魔女様、ぼくとっ!」


「え、ええっ……!?」


 魔女様への憧れは健在のようで、憧れの眼差しを向ける子供達から沢山のお菓子を押し付けられていた。満更でもないのは嬉しそうな表情を見れば明らかだった。


「えっと……じゃあ小分けになっちゃうけど皆で分けようか……? 私のやつも合わせて袋に入れて……と。はい、一人一つ持って行ってくださいね……?」


「「「わ〜〜い!」」」


 どうやらレヴィナのプレゼントはキャンディの詰め合わせだったようで、最初こそ押し寄せてきた子供の人数に戸惑っていたが、すぐに素晴らしい対応をしてみせた。

 自らのキャンディ、そして子供達のクッキーやチョコレートなどのプレゼントを一度ばらし、余っていたプレゼント用の小袋へ詰め直すとそれを喧嘩にならないように均等に配っていった。

 心温まる光景だ。




 残るはグロッタとスフレベルグだが――


「くっ……! 元の大きさに戻って圧をかければイケると思ったのだが……」


「だから言ったでしょう? このサイズでは誰も近寄ってきませんよ」


「仕方ない。ならばこの肉はグロッタ様自らが食らってやるっ! ガツガツ!」


「おや、それは名案ですね。ではワタシもこのベリーを。ムシャア」


 ――てな感じに自分のプレゼントをそれぞれ食べてしまった。

 もはや何も言うまい。本人達が喜んでいるならそれでよし。


「さて。それじゃあ私もそろそろ戻りますか」


 フィオちゃんの元へ。

 しかしそれは思わぬ人……いや、人達に阻まれてしまう。


「ま・じょ・さ・ま〜〜♪」


「「「魔女様〜〜!」」」


 凄まじい勢いで私の元へ駆け寄ってくる人々。

 レヴィナの時とは違って、こちらはほぼ大人達で構成された大軍であり、最も驚くべきは先頭にいるやけに顔を赤らめた人物だった。王の風格を匂わせる美しい金髪を靡かせた、どこかフィオちゃんに似た人物――


「フィオールさん!?」


 何してるんですか!? その言葉を言うよりも早く、私は氷の箒を生み出して空へと逃げた。子供ならまだしもいい大人の大軍相手では死んでしまう。


「はぁ、ほんと意味がわかんないよ。うわ、来た……!?」

 

 魔女様に憧れる大軍の中から現れたのはこれまた魔女様。先頭にいた『光の魔女』であるフィオールさんだ。


「うふ。これで二人きりになれましたわね」


「あっ、もしかしてこのために!?」


 遥か上空。ニコリと笑うフィオールさんを見れば返事を聞くまでもなかった。とんだ策士である。


「やっぱり親子ですね。フィオちゃんも告白する乙女みたいになってましたよ」


「あらら。それなら早く動いて正解でしたわね。レヴィナ様が子供達に取られてしまった以上……ルノ様だけは譲れませんの!」


「ひどい! 魔女なら誰でもいいんだ!」


 などと突っ込みながらどうしたものかと頭を悩ませる。

 私的にはここでプレゼント交換をしてしまうのもアリなのだが、それをしてしまうと親と子で戦争が起きてしまいかねない。


 ではどうする? その答えは向こうからやって来た。


「ではルノ様。こちらがわたくしのプレゼンアアアアア〜〜!?」


「!?」


 突然の出来事だった。

 地上から凄まじい勢いで飛び上がってきた炎がヘビのようにうねったかと思うと、次の瞬間には隙だらけのフィオールさんに巻き付き、一気に炎の花を咲かせる。

 そのまま落下したフィオールさんはパーティー会場にあった噴水へポチャン。「冷た〜〜い!?」と騒いでいるところを見ると特に心配する必要は無さそうだが……


「先生〜〜! せ〜〜ん〜〜せぇ〜〜!」


 本来なら非常事態にも関わらず冷静(?)でいられたのはこういう訳である。あの見覚えのある炎のヘビはやはりフィオちゃんによる魔法だった。

 見ない間に空を飛ぶ技術も成長していたようで何より。


「プレゼントは……ほっ、良かったぁ。お母様ったら私を差し置いて先生にアタックするんだから」


「プレゼントよりもフィオールさんは大丈夫? いや、大丈夫なんだろうけどちょっと強引過ぎるというか。先生、フィオちゃんの将来が心配だよ……」


「大丈夫ですよ。お母様程の魔女が私の魔法に気付かない訳ありませんから」


 ほら、とフィオちゃんの視線の先には地上にいるずぶ濡れのフィオールさん。子を見守る親の表情をしながらも青筋が何本か浮き上がっているのがとても恐ろしい。


「コホン。では改めて!」


 かしこまった咳払いを一つ。すると、先程までのどこかおちゃらけた顔を捨て去った、真面目なフィオちゃんがそこにはいた。


「大好きです先生! どうか私のプレゼントを受け取ってください!」


 一世一代の大告白。だからこそ、来ると分かっていても心に響くなぁと痛感した。これは私も真面目に応えなければいけない。


「私も好きだよ。フィオちゃん」


「〜〜っ!!」


 目を見開くフィオちゃんは顔を真っ赤にしながら笑顔をこぼした。


 遥か上空。

 ここで思い思いの言葉を交わした私とフィオちゃんはプレゼントを交換した。

 奇しくも同じ大きさ、同じ柄の包み紙は、いつでも私を『先生』て慕ってくれていたフィオちゃんだからこその偶然だろうか。良い教え子を持ったなと嬉しく思う。


「あの! 今ここで開けてもいいですか? プレゼント!」


「うん、ぜひぜひ。私もいいかな?」


「はい! じゃあせ〜〜の、で開けましょう!」


「いいね。じゃあいくよ〜〜?」





「「せ〜〜っの!!」」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「おかえり〜〜! ルノ、フィオちゃん!」


「二人も食べたらどうです? 美味しい料理ばかりですよ」


 揃って地上に降り立った私とフィオちゃんを出迎えてくれたフユナとコロリン。手にはリボンが巻かれたチキンに、キラキラにコーティングされた果物のタルトなど、王城のシェフ達自慢の料理を一足早く楽しんでいるようだった。


「あれ……? お二人共、なんで同じプレゼントを……?」


「「…………」」


 ようやく私達の異変に気付いてくれたのはレヴィナだった。

 そう。私とフィオちゃんが持っているプレゼントは箱の大きさから包み紙の柄まで全てが同じ。もちろん、それだけなら苦笑いを浮かべることもない訳で。


「むむっ? お二人共、同じキャンドルですな!」


「ほぅ? ずいぶんと見せつけてくれますね。このこの」


 つまりはそういうことだった。

 別に悲しくはない。……が、なんと言えばいいのか。シンプルに『交換会』をした実感が湧かない。


「わ、私は幸せです!」


 ここで自分に言い聞かせるように口を開いたのはフィオちゃんだ。確かにこの子なら何をもらっても喜んでくれそうではある。たとえ同じモノでも。


「忘れたんですか先生。プレゼントの有無は些細なことにすぎません!」


「うん?」


 違うらしい。


「先生は私の言葉を受け取ってくれましたよね? それで、先生も『好きだよ』って言ってくれました!」


「うん」


 それはそう。たまにイタズラっ子だけど私をよく慕ってくれる可愛い教え子だ。


「お互いがお互いを好きなら一緒に暮らしてもいいですよね!」


「ううん」


「やった!」


「いや。『うん』じゃなくて『ううん』って言ったの。肯定じゃなくて否定。なんか……ごめんね……?」


「そんなぁ!?」


 聖夜の光、プレゼント交換会。

 誰もが幸せになれるはずの聖なる夜に、人知れず、一人の一途な王女様が涙を流しました。しかしその想いは色褪せることなく、翌日にはこれまで以上の愛を持って、大好きな先生の背中を見つめていたのでした。


 めでたしめでたし。




















 そんな可愛いらしい王女様の可愛い一幕がもう一つ。時は数時間前の過去に遡る。




 とあるキャンドル専門店を訪れる数分前のこと。


「う〜〜ん……イマイチ惹かれるモノが無いわね」


「フィオ様。それでしたらキャンドルの専門店を見てみてはいかがですか?」


「あ、そう言えば! 今の時期、あそこでは限定のキャンドルセットが販売されているみたいですよ?」


「キャンドル……炎……」


 オリーヴァに続いてバッカの言葉。

 これだ! 

 悩みに悩み、こんがらがっていたフィオの頭に希望の炎が灯る。『限定』の二文字もテンションを上げる要因だった。


「キャンドル専門店は……あそこね」


 行動は早い。しかし相手は一枚上手だった。


「なんで先生が!? あそこにいたら入れないじゃない……!?」


 しかも移動する気配は皆無。

 待ち合わせ場所に設定していたことに気付いたのはすぐだった。


「くぅぅ……! 先生さえいなければあの限定キャンドルが買えるのに。――ん? えっ、待って。ねぇオリーヴァ? あの店員さん、今『最後の一つ』って言ったかしら!?」


「はい。間違いありません」


「大変っ!? バッカ! 何とかして先生をどこかへ追いやって!」


「と、言われましても……」


「い〜〜そ〜〜い〜〜で! じゃ、じゃあ……えっと……! ヤボ用ができたとでも言ってテキトーに!」


「うお!? わ、分かりましたからっ!? うげっ!」


 もはや手段を選んではいられない。その結論に至ったフィオは、護衛の一人にパンチやキックをかまして強引に押し出した。

 バッカもあれで護衛の座を掴み取った優秀な人材だ。少しばかり人を移動させるくらいわけは無い。そう信じて。


 そんなこんなで――


「やったぁ! 限定キャンドルセットいただき!」


 ツリー・雪ダルマ・リースの形のキャンドル三点セット。見た目も可愛らしく大変満足のいく品だった。

 あとは渡す時の台詞を考え、何通りかのシチュエーションを試みるのみ。一緒に過ごす時間が減るのは惜しいが、それで情けない姿を晒してしまっては元も子もない。

 フィオが今日という日にかける想いが人一倍というのは誰の目から見ても明らかだった。


「よし。行くわよオリーヴァ! 夜が楽しみだわ」


 この時のフィオは一世一代の告白をサラリと躱されるなどとは思ってもみなかった。

 まさか全く同じキャンドルを選んでしまうなんて、とも。



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