第171話〜獣王襲来! 怒りの咆哮【雷霆・雷華】〜
〜〜登場人物〜〜
・ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
・サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
・フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
・カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
・グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
・ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
・スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
・レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
・コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。
・フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ
魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。
・にゃんたこ (神様)
『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。
・フウカ (妖精王)
妖精の秘境『妖精郷』に住まう妖精の王。神様とは友人関係にあり、その実力も折り紙付き。風の魔法を得意としており、中でも【風刃・風華】は風魔法最強を誇る力を持っている。
同胞達が帰って来ない。
最後に元気な声を聞いたのが遠い昔の記憶のように感じる。
何かあったのかもしれない。帰れない理由があるのかもしれない。まさか……と、嫌な胸騒ぎが故に腰を上げて自らの目で現実を見ることにした。
向かった先は同胞達の住処がある森。隣には広大な草原が広がっており、遊び回るのにはうってつけだ。
「うむ、いい場所だ」
思わずそう呟いてしまう穏やかな風景。しかしそんな感動も虚しく、数秒後には背筋が凍る驚愕の光景が目に飛び込んできた。
「馬鹿な……!?」
目に映ったのは同胞の変わり果てた姿。微かに残る匂いと、面影のある美しいオレンジ色の毛が無ければ他人だと切り捨ててしまう変貌ぶり――種族の壁を取り払われた姿はまさに人間のそれだった。
このような忌まわしき所業、おそらく魔法が関与していると見て間違いない。結論に至ったのは必然で、この目は既にそれを可能にできる人物を捉えていた。
「奴か。ふざけたマネを……!」
遥か遠く視線の先。変わり果てた同胞の近くにはいたのは特に強い魔力を宿した青髪の女だった。
聞いたことがある。おそらく奴が人間達の間で『魔女』と呼ばれ、前述のような規格外を容易にやってのける数少ない存在なのだ。所詮は人間で驚異にすらなり得ないと踏んでいた者に不覚を取るなど、自分が如何に愚かな判断をしたか思い知らされてしまった。
魔女の悪行はこちらを嘲笑うかのようにさらなる加速を見せる。
「まずい……脆弱な人間に変えただけでは飽き足らず、妙な薬まで盛ろうとしている……! 許せん! 我自らの手で片付けてやる!」
一刻の猶予も許されない状況が故に、腰を上げるのは一瞬だった。魔女が相手では他の同胞が向かっても手に負えないのは目に見えている。何よりこれは我が人間を見くびっていたことで招いてしまった悲劇なのだ。
ならば!
「今こそ王としての責務を果たす時。すぐに助けてやるぞ、同胞よ!」
そして思い知らせてやる。獣の頂点『獣王』の力を。
「迸れ、紫電の雷光――」
詠唱は一瞬。咲き乱れし雷の華が周囲の木々を根こそぎ吹き飛ばし、轟音と共に四肢に宿った雷が獣の本能を一気に覚醒させ、獣王の証たる黄金の毛並みが逆立っていく。
「オオオオオオオッ!!!」
終わりだ。
同胞に仇なす者は我の敵。この怒りの雷をもって復讐の第一歩としよう。
==========================
太陽が顔を出して間もない早朝の時間帯。我が家の寝室では全員が穏やかな寝顔を晒しながら未だ深い眠りについている。日によっては早めに目が覚めてしまった誰かが気まぐれに起床したりもするが、ほとんどの場合ここから約二時程は皆眠りこけたままだ。
そう、いつも通りなら。
「ん〜〜よく寝たぁ。こんなに気持ちいいお布団で寝てるなんてみんな幸せ者だよねぇ」
一足先に目を覚まし、大きく伸びをしながらそんな事を呟いているのは昨日人間の姿になって現れたペエ。本来は小鳥である彼女はなんやかんやあって人間の姿になったことに喜びを隠しきれずテンションMAX。結局あの後、我が家に遊びに来てそのままお泊まりという流れになってしまった訳だ。
「…………」
起きてしまったものは仕方ないのでご自由にしてもらって構わない。初めてのお泊まりで浮かれている時はたとえ寝坊助さんでも早めに目が覚めてしまうのは私自身も経験があるのだから。
「……すや」
が、それに合わせるかは別。私はいつも通りあと二時間ほどは眠ってから起床します――と布団に潜るも残念ながらペエが許してはくれなかった。なんせ前述のようなことをわざわざ私の耳元で呟き、それでも寝たフリをしようものなら「まだ起きないの〜〜?」などと言いながらチョンチョンつついてくるものだから目が覚めてしまうのも当然だろう。
「やだよ……よい子はまだ寝てる時間だってば。みんな起きちゃうでしょ……むにゃ」
「だ〜〜か〜〜らぁ……こうしてルノちゃんだけにこっそり呟いてるんでしょ? ふ〜〜」
「ひぃぃぃ……ゾワゾワするからやめて……!?」
どこでそんな技を覚えたのか、甘い声と共に優しく耳を撫でつけるような吐息で攻撃、もといイタズラをしてくるペエ。とことん人間の生活を満喫してるなこの子は。
「わかったよ……起きるけどそのかわり静かにね。みんなまで起こして怒られでもしたら朝食のオカズにしちゃうんだから」
「ふふっ! フウカちゃんみたいなこと言わないでよ。ゆっくりね、ゆっく〜〜り。よいしょ」
一見、私の言いつけを守って音を立てずにゆっくりベッドから降りている風だが、実際の所は途中のレヴィナを跨ぐ際に「ぐぇ……!」なんて言わせてるのだから呆れてしまう。人間の姿は楽しいなんて言ってたからきっとしばらくの間は浮かれっぱなしなんだろうな。
「やれやれ。とりあえず顔洗ってリビングに行こうか。朝食にはまだ早いからコーヒーでも飲みながらゆっくりしよう」
「あ、昨日のやつ? それならまたミルク沢山入れて欲しいなぁ」
「はいはい」
たった一晩でずいぶん馴染んでしまったなと感心しつつ、私自身も新しいコーヒーのお供がいることに思わずテンションが上がっていた。とはいえ、それを悟られてしまうのも恥ずかしいのでなるべくクールを装って歩こうとするも私の足取りは隣を歩くペエと同様に軽いものになっていたことはここだけの秘密にしておく。ふんふふ〜〜んっと。
「なんだかご機嫌だね? ルノちゃんの鼻歌なんて初めて」
ドキッ!
「な、なんのことかな。てか昨日人間になったばかりなんだから初めてのことなんてこれからいっぱいあるでしょ。まったく、ペエは子供なんだから」
「ふふっ、かわいいなぁ」
「!?」
その言葉を聞いた瞬間、終始踊らされてばっかりだと自覚してしまい余計に恥ずかしくなってしまったが、私はクールを装いながら大きなため息ついたことで大人の貫禄を維持することに成功した。ペエを子供と言った手前、ここは譲れないポイントである。
「それでさ、何か良いことあったの?」
「も、もういいってば! 私は早起きしてコーヒー飲むのが好きなの!」
そんなこんなで今日も平和な一日が始まったのでした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
リビングにやって来た私達は手早くコーヒーの準備して早速朝のお茶会をスタートした。ペエと二人仲良く窓際に設置されたソファに座り、目の前の小型テーブルには普通のコーヒーと白いコーヒー(?)が並べられている……だと?
「ふぅ。朝のコーヒーって良いね。なんだか余裕をもって一日をスタートできるって感じ」
「あ、うん。そう……かもね?」
ペエの言葉など右から左の私の脳裏には数分前の記憶が蘇っていた。それはペエのコーヒーを淹れようとした時、カップには既にミルクがたっぷりと注がれており、淹れることができたコーヒーは数滴のみだったというなんとも斬新な記憶。そりゃ白くて当たり前か。
「ルノちゃ〜〜ん。聞いてる?」
「あぁ、ごめんごめん。そのコーヒー美味しい?」
「うん、とっても。やっぱりコーヒーにはミルクに限るよね」
「なら良かった」
やはり突っ込みたい気持ちはあったが本人が美味しいと言って満足しているのにここで私が「もはやそれ、ただのミルクじゃん?」なんて言ったら空気ぶち壊しもいいとろこだ。コーヒーにルールなんて無い!
そんな風にコーヒーの概念を再構築していた時。
「ピ〜〜♪ ピピピ〜〜♪」
「お」
突如リビングに響いたのは私がすっかり虜になってしまった小鳥の囀りを彷彿させる綺麗な歌声。すぐ隣でご機嫌なペエが歌っているのだ。
「こういうのを待ってたんだよ。うんうん」
「そう言ってもらえると嬉しいな。じゃあねぇ……ピ〜〜ピ〜〜ピ〜〜♪ はい」
「ん?」
私の脚をポンと叩いて何かの合図を送ってくるペエ。いや、それともリズムを取ってるだけかな、と思いきや視線を上げてみるとバッチリ目が合ってしまった。これはもしかして?
「ピ〜〜ピ〜〜ピ〜〜?」
「……ぴ、ぴ〜〜」
「うん。上手上手」
急な無茶振りに戸惑いながらも、歌ってと促してきたペエに倣って見よう見まねで口ずさんでみると意外にも高評価をいただいた。
正直言えば小鳥の真似事してるみたいで恥ずかしいのだが、ペエが一緒になって歌ってくれるおかげで次第に私のテンションも上がり、いつの間にか夢中になって時間を忘れるほどに歌に没頭してしまった。
「なんだかすごい新鮮だね。新しい楽しみが見つかって嬉しいよ」
「私も。昔はね、こうやって獣王様とよく歌ってたんだよ。あ、でもあの時はまだ人間にはなれなかったからルノちゃん達が聴いてたらただの鳴き声だったかな」
なるほど。ペエの歌の上手さの秘訣はその獣王様とやらの英才教育によるものだったか――って、獣王様?
「ペエって王様と知り合いなの? その『獣王様』っていう?」
「そうだよ。でも王様って言ってもルノちゃん達人間の王様とはちょっと違うかも。獣王様はね、頼られれば自ら動いて問題を全部片付けちゃうようなすごいお方なんだよ。まさに動物達の頂点だね」
「ふ〜〜ん、そんなにすごいんだ。ちなみに私が知ってる王様はキリキリ言いながらドヤ顔かますような人だから前線に出ないって意味ではその通りだけど、多分ペエの想像してる人間の王様とは違ってかなり特殊だよ」
「面白そうな王様だね。獣王様ってば真面目すぎるところがあるからちょっと見習って欲しいなぁ。あ、今のは内緒ね? ふふっ」
嬉しそうに語るペエを見ているとその獣王様とやらにヤキモチを妬いてしまいそうだ。ここまで慕われている王様がバックにいたとは驚きだが、プウやペエ、そしてポオが安心して外で遊べていたのもその獣王様がいるという安心感からなのかもしれないな。感心感心。
「いや、まって」
「どうかした?」
もしかして私ってかなり危なかったのでは? 今でこそこうして仲良くやっているが出会いはニセルノのストレス発散による天変地異が原因だったらしいじゃないか。瓜二つの私が復讐の対象になってもおかしくはなかっただろう。
「あはは、懐かしいね。大丈夫って言いたいところだけどたしかに危なかったかも。ルノちゃんがすぐにニセルノちゃんを引っ張ってきてくれなかったら獣王様の所に報告が行っちゃってたよ」
「ぜ、全然笑えないねそれ……」
グロッタやスフレベルグで割と動物に耐性がついてる私だがそれはやはり家族だからという点が大きい。獣王様とやらの外見が如何程のものかは分からないが、王と言われるくらいだから山のような巨体という可能性も無きにしも非ず。そんなモノに突然襲われでもしたら驚きで心臓が飛び跳ねてしまうだろう。
「そんなに心配しなくてもルノちゃんはチンピラ達から私達のことを守ってくれたでしょ? 美味しい木の実のお土産まで貰っちゃったし復讐なんてとんでもないよ」
「その言葉を聞いて安心したよ。ちなみに今朝の焼いて食べちゃう発言はもちろん冗談だからね?」
「うふふ、怯えすぎだよルノちゃん」
「あはは、なんちゃってね」
うふふ、あはは。そんな平和ボケしたようなやり取りを経たことでこの時の私は既に緊張感の欠片も持ち合わせていなかった。見る人が見ればさぞ楽しそうに見えたことだろう。
「あっ、ルノちゃん。コーヒー無くなっちゃった」
「ペース早くない? 残念だけどペエが沢山ミルク入れちゃったからもう残ってないよ。ブラックなコーヒーを飲みなさい」
「ちょ、苦い〜〜」
「大丈夫。喉元過ぎれば苦さ忘れる!」
そう。見るのが『人』であったなら。
「!!?」
突如、どこからともなく私に向けられたのは突き刺さるような視線だった。それは昨日ペエに向けられたような好意の視線ではなく明らかな敵意、もしくはそれ以上のモノが込められている。だからこそ気付けたのは幸運だが全くもって嬉しくない。
「いや、気のせい……かな?」
「急にどうしたの? 獣王様に殺意全開で睨まれてるみたいに震えちゃってさ。たしかにあの距離からでも獣王様なら一瞬でここまでやって来てルノちゃんを捕食できるから不安になる気持ちはわかるけどね。ふふっ!」
「やめて!? そんな見てきたように言わないでよ!」
私が緊張感MAXで見つめる先。突き刺さるような視線を感じたのは庭の草原の向こう側にある森なのだが、それにしては何も起こらないと安心してみればペエが前述のようなセリフを言うものだからこれはもう避けることのできない運命なのだろう。フラグまで立てられてはどうしようもない。
「けどどうして? 私、ペエを虐めたりしてないんですけど。なんで怒られなきゃいけないの?」
「う〜〜ん、苦いコーヒー飲ませたから?」
「えぇ……」
日頃の行いが悪いとばかりに突きつけられる無慈悲な現実。そりゃないよと未だ姿を見せない獣王様を呪いつつ、諦めに近い覚悟を決めたその時だった。
――ドォン!!!
はるか遠くで爆発したかのような轟音が鳴り響くと「オオオオオッ!!!」と地を震わす獣の咆哮と共に、激しい雷がバチバチと弾けながら森の木々を根こそぎ吹き飛ばしていくのが見えた。あの人外とも言える規格外な雷……もしかしなくてもフラグ回収にやって来た獣王様では?
「あの、ペエさん? 一応聞きますけど、獣王様とやらは魔法の類はお使いになられるので? その……例えば雷とか」
「うん、その通りだよ。まるで雷のお花みたいで綺麗だよね」
「ひぇ」
アレがそうだよと言わんばかりの笑顔で答えるペエによって危機的状況に陥ってしまったことを理解した。言うまでもないが、恩人へのご挨拶であの登場は有り得ない。これはまずいぞ。
「あんなのが来て家が壊されたら困るよ! ねぇやっぱり私が行かないとだめ? 行きたくないんだけど……」
「じゃあ私も一緒に行って謝ってあげるね。ルノちゃんファイト!」
「なんか当たり前みたいに私を悪者にしてるけど来てくれるなら無実を証明してね? なんならペエだけ行ってくれてもいいよ。ナニを回収しに来たのか知らないけどすぐに帰ってくださいって言っといて」
「そんな無責任なこと言わないの。ほら、早く行かないと獣王様が来ちゃうよ?」
「……そうなの? やっぱりそうなのね!? やだよっ!?」
そんなこんなで突然の来訪者に慌てふためく私は呑気なペエを連れて家族達に被害が及ぶ前に家を出ることに。
最後の最後まで密かに抱いていた、もしかしたら人違いかも? にゃんたこ様が暴れてるだけかも? などといった儚い期待はあっという間に崩れ去ってしまったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あぁ……憂鬱。フユナ達に遺書としてちゅっちゅしてくれば良かった」
「ルノちゃんてばそんな冗談言ってたら獣王様に怒られちゃうよ?」
「いや、本気意外なんでもないよ……」
現在の場所は草原のど真ん中。仮に戦闘になってもいいようにここまでやってきた訳だが、理想は話し合いによる平和な解決。しかしご覧の通りお供のペエによる説得は期待できそうにないので今すぐにでも特大で協力で最強な魔法をぶっぱなして終わりにしたいというのが素直な気持ちだ。
「グルルルルッ!」
「ど、どうどう。落ち着いて……!」
今も目の前でグルグル言ってるこの猛獣に。
おっと、また一歩近付いて来た……ので一歩下がる。先程からこの繰り返しだ。
「ごめんね、もうヤルしかないみたいだよ。ペエはどっち側につくの? んん?」
「やめた方がいいよ。なんだか獣王様、怒ってるみたいだし」
だからやるんしかないんです。そう心の中で呟く私の視線は獣王様とやらと対峙してから固定されっぱなしだ。
グロッタやスフレベルグよりもひと回り大きな体躯に威厳を感じさせる金の体毛。一際目を惹くのはギラリと輝く獣の目と全身を覆う雷――先程、森を盛大に吹き飛ばした雷と同様のモノを纏うその姿は完全にライオンのそれだった。
「よし。ここは一思いに大輪・氷華でワンパン。……いや、やっぱり幻蝶・氷華を背後に回り込ませてずどんと一発かましてからにゃんたこ様がやりましたと言ってパラディーゾに行ってもらうか……」
ポンポンと戦略が浮かぶのは混乱が故か。しかしそれがこの場においては幸と出たようで、話し合いの意思があると見た獣王様がようやく口を開いた。もちろん捕食ではなく会話の意味で。
「はぁ、良かった。グロッタやスフレベルグの例があるからもしやと思ったけどやっぱり話せるのね。一気に安心感が増したよ……」
「当然だだろう。貴様ら人間にできて我らにできぬことなどあるまい」
「む」
咄嗟に「じゃあお箸持てる?」なんて言葉が出かけたがなんとか飲み込む。残念ながらここで冗談を言ってもガブリとされて終わりだ。会話のチャンスがあるならこちらとしてもしっかりモノにして穏便に済ませたい。
「ではさっそくだが聞かせてもらおうか。貴様は自分が何をしたか分かっているのか?」
「何……え?」
「我が同胞を醜い姿に変化させたのは貴様だろう」
「???」
ふむ、どうやら言葉を話せるのというのは勘違いだったみたいだ。最初から最後まで意味がわからないもん。やっぱり対決して勝つしかないのかなぁ。
「ルノちゃんルノちゃん。こういうことじゃない?」
こんな時になんだと思いながらペエを見ると何故かその場でクルリと回って可愛いアピールをしている。ちょっと今は今忙しいから後にしてほしいんですがね。
「はい可愛い可愛い。そんなことよりこの人、言葉話せないみたいだからペエから伝えてよ。敵意はありませんって」
「もぉ、ルノちゃんのばか! だから『醜い姿』って言うのは多分私のこと言ってるんだよ。……ひどい! 獣王様のばか!」
すると何か? 可愛い小鳥から可愛い人間にされてしまったことに対して獣王様はお怒りになっていると。だとしたらそれは盛大な勘違いです。やったのはフウカです。
「それだけ醜い姿にされてしまっては動揺して帰れないのも無理はない。そして貴様は勘違いしているようだから教えてやる。これは話し合いではなくただの死刑宣告だ!」
はいブーメラン! そんなツッコミも虚しく既に向こうは戦闘モード。ならもうやるしかない。獣王様だろうがなんだろうが躾がなっていないようだから私自ら教えてやる!
「危ないからペエは下がってて。今からこの勘違いライオンを躾ける!」
「馬鹿め、我が同胞を手にかける訳があるまい! オオオオオオオッ!」
なら安心だ――などと思ったのも束の間、地を震わす咆哮を戦闘の合図とした獣王が凄まじい速度をもって私に襲いかかってきた。
だが。
「甘いっ!」
「ぐうッ!?」
スパァン! と、獣王の顎を豪快にカチ上げたのは、地面から現れた同規模の氷槍。頑丈な体毛に遮られたものの、カウンターの要領で決まった一撃は強力な物理となって巨大な獣王を易々と吹き飛ばした。残念ながらその程度のスピードならにゃんたこ様との【輝氷の射手】の撃ち合いで慣れっこだ。
「でもさすが王様を名乗るだけはあるね……!」
手加減一切無しの魔法だったというのに打ち上げられた獣王は空中で全身を使った見事な回転を駆使し、着地するや否や次の攻撃を仕掛けてきた。どうやら僅かな時間稼ぎに成功しただけでダメージはほとんど無いらしい。
そして注意すべきは獣王が纏う雷。視界の端で捉えた先程の氷槍には同様の雷が纏わりついてバチバチと音を立てていた。おそらく触れたらアウトだ。
「今さら怖気付いても遅いぞ。それだけの力を大切なモノを守るために使えぬ輩には死あるのみッ!」
「ブーメラン投げすぎ! それならまさに今、自分の身を守るために使ってるところだよ! あなたとは違ってね!」
「ほざけ!」
再び飛んできたブーメラン、もとい獣王。屈強な前脚から繰り出されるのはサトリさんやランペッジさんを彷彿させる素早い連撃でありながらも、巨大な体躯に見合った力強さも備わった完璧な攻撃だった。でも残念。
「もう少し! 登場の機会が早ければ! やられてたかもね! ――舞い踊れ、零の導き!」
「むっ!?」
僅かに笑みを浮かべた私を前に更なる加速を見せる獣王だったが【幻蝶・氷華】によって生み出された幻蝶達がそれを許さない。
薙ぎ払われる一撃は死角から現れた幻蝶が弾き飛ばし、振り下ろされる一撃は周囲に待機させておいた氷の杖達が幾重にも交差して受け止める。ペエ達の協力があって完成した戦闘スタイルだ。
「ペエ達との特訓で手に入れた力はどうかな?」
「我が同胞を妙な名で呼びおって。その程度の力では何も守れんぞ! ガウッ!!」
「おっと!」
更なる加速を見せる獣王。底知れぬ力は流石と言ったところではあるが私には見えているぞ。初っ端からブーメランやらなんやら飛ばしすぎたせいで体力が減ってきているのを。
その証拠に。
「だいぶ雷の力が弱ってきてるみたいだね。ただの物理なら怖くないよ」
「ほう? ならば受けてみるか、獣王の一撃をッ!」
ドンと来い。余裕たっぷりに構えた私だがすぐに自分自身を呪う羽目になった。
「うわっ!?」
予想外のスピードを伴った一撃によって、風に靡いた服の一部が破れ、チッと掠った爪によって前髪が数本ちぎれる。トドメとばかりに襲ってきた攻撃の余波で思い切り吹き飛ばされた私は数メートル程飛んだ末にペエに受け止められたことでようやく止まることができた。
「大丈夫?」
「な、なんとか。ありがとね」
「うん、どういたしまして」
危うく私自身が弾丸となって家を破壊してしまう所だった。あのライオンめ……ペエの知り合いだから気を使ってたけど本当に手加減抜きの一撃を叩き込んじゃうぞ。
「ここまでだな」
「ん?」
私が立ち上がると襲いかかって来る訳でもなく静かに呟く獣王。
拳を交えたことでこちらの心情を見抜いたとかそんな感じだろうか? なんにせよそっちがその気なら私には争う理由は無いので嬉しい申し出だ。もちろん後で破れた服の分はしっかり償いをしてもらうけどね。
「ふぅ。とりあえずゆっくり話を――」
「勘違いするな」
もはや何度目かもわからないブーメランで返す言葉もない。……が、今回は様子が違うぞ?
「まさか我が最高の一撃を避けるとはな。やはり魔女相手に手加減はできぬという訳だ」
う〜〜ん。あまり言いたくはないけど避けることができたのは奇跡なんだけどな。とりあえずその妙なやる気を引っ込めてくれると助かるのだが。
「先程、貴様は言ったな。雷の力が弱ってきてると。ならば見せてやる。獣王と呼ばれる由縁を! 誰も抗うことのできない雷の頂点をッ!」
遠慮しておきます。そう思った瞬間、これまでとは比べ物にならない緊張感が私を襲った。
接近して来た訳ではない。睨まれた訳でもない。驚くべきことにたった一つの詠唱がそれらを上回る緊張感を私に強いてきたのだ。
「迸れ、紫電の雷光! 【雷霆・雷華】!!」
まずい。そう直感したのは詠唱直後に獣王が身に纏った凄まじい密度の雷に見覚えがあったから。あれは一番最初、獣王が咆哮と共に森を吹き飛ばした雷、おそらくそれと同質のモノ。つまり!
「……っ!!」
危険を悟った私が身を翻すのは一瞬だった。あれだけの規模の雷が放たれれば、この草原は間違いなく吹き飛び、私はもちろん、後ろにいるあの子が危ない。
「ペエっ!!!」
辿り着けたのは奇跡。しかしなりふり構わない雷を前に射程外への脱出はもはや絶望的。私に出来る事は一つしか残されてはいなかった。
「咲き誇れ、零の導き! 【大輪・氷華】!!」
開花した氷の大輪が私とペエを取り巻いたその瞬間、獣王を中心とした四方八方、天と地、両方から放たれた雷が防御に全力を注いだ【大輪・氷華】を激しく照らす。
直後。
「オオオオオオオッ!!!」
ドォン!!
轟音が鳴り響き、全てを置き去りした獣王の咆哮が勝利を宣言するように草原一帯に響いたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
なんでこうなるんだろう。私はそんなことを思いながら規格外の雷から少しでも逃れるため、ペエを抱きしめながら地に伏せていた。
周囲に鳴り響く激しい落雷の音。視界を奪う閃光の嵐。そのどれもがこの草原のあらゆるモノに等しく破壊の限りを尽くしていく。
「…………」
そんな中、場違いなほど静まり返った頭の中では走馬灯のように過去の記憶が蘇っていた。規格外な氷魔法で私をオモチャにする神様であったり、もしくは規格外の風魔法で私の身体を真っ二つにしようとした妖精王であったり。
なんでこんな時だというのに愛しい家族との記憶を蘇らせてくれないんだと何処の誰かも分からない何かを呪いつつ、相変わらずの状況に耐えているとふと気付いた。
「ねぇ。あの獣王様、魔法撃つの下手くそすぎない?」
「ルノちゃんが氷のお花で守ってくれてるからだよ。綺麗だねこれ」
「いや、うん。まぁそうなんだけどさ……」
先程から獣王の放った雷が抉っていくのは周囲の地面ばかり。考えようによってはあの魔法が無差別に放たれているからという可能性もあるが、詠唱を聞いた限り『アレ』はそんな安い魔法ではないはずだ。
「ま、まぁ……よく分からないけど今がチャンスだと前向きに考えよう」
閃いたのは強襲作戦。前述の通り、現在は激しい雷と閃光、そして舞い上がる砂埃によって視界の確保が難しい状況だ。つまり今、攻撃を仕掛けることができれば全てが死角からの一撃となり、それが最強の氷魔法なら獣王といえどひとたまりもないはずだ。
「よし、勝ったね」
「ルノちゃんはこんな時でも呑気だねぇ」
「必死に考えた末に勝機を見い出せたもん。悪いけど今度こそ倒すよ!」
「う、うん。まぁ獣王様なら死んじゃうことはないと思うから応援してるよ。ファイト!」
ペエのお許しも出たのでもう思い残すことはない。私はすぐさま【幻蝶・氷華】を唱え、高密度に圧縮した魔力を一匹の幻蝶に託した。あとはこの子が氷、雷、あらゆるモノをすり抜けて魔力の中心にいる獣王を探知してずどん……だ。
「一匹で平気? もう二匹くらい足したら?」
「え? あ、左様ですか」
最初に当てた一撃で分かってはいたがそれほどまでにあの獣王はカッチカチの防御力らしい。暗に「手加減しない方がいいよ」と言われているみたいだがそれも当然。ペエの言葉と私がここまでの戦闘で感じていたモノを信じるなら、相手はにゃんたこ様やフウカと同格の相手なのだ。
というか……一応、あなたを助けに来たのに容赦無いですねペエさん。
「……見つけた。ふっふっ、隙だらけだ」
予想していた通り規格外の魔法なだけにかなりの集中力を必要としているらしく、今も凄まじい咆哮を続ける獣王の足元は完全にお留守だった。
「遠慮なく行かせてもらうよ。――咲き誇れ、零の導き! 【大輪・氷華】!!」
「!?」
獣王の下腹部付近に忍ばせた三匹の幻蝶が一気に輝きを増す。瞬間、呼応した三つの魔力が合わさり、雲をも突き破る程の氷の大輪が獣王の巨大を軽々と吹き飛ばした。
「ガハッ……!」
数秒後、雷が止んだ静かな草原にズシンと落下したのは目を回した獣王。気絶させることができれば御の字だったのだがやはり王の名は伊達ではなく、時間を与えてしまえばすぐに回復してしまう雰囲気すらあった。簡単にはいかない……だがこれも計算済みだ。
次が最後の一撃。これで終わりにしよう。
「迫る終焉、氷の牙。全てを穿て!【怪狼・フェンリル】!」
「!?」
バキィン!
トドメとして放った氷の牙が気絶寸前の獣王を飲み込み、文字通りこの戦いに終焉をもたらしたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「待たせたな。さぁ、我等の森へ帰ろう」
「獣王様……」
微妙に感動的な空気が流れるのは完全に荒地と化した草原のど真ん中。静かになってホッとしたのも束の間、我が勝者とばかりにペエに語りかける獣王を前に私は先程から呆れっぱなしである。
というのも。
「ちょっとそこの御二方。人の庭で妙なコントを繰り広げるのはやめてもらえないかな? 特にそこの獣王。あなた、よくそんな状態で帰ろうなんて言えたもんですね。んん?」
「…………」
黙りこくる獣王だが、言葉を返せないことからも分かる通り我が家の草原をめちゃくちゃにした自覚はあるようだ。もしくは氷と魔法陣による二重の封印によって雪だるま状態になっているが故に何もできないか。両方であることを祈る。
「それで。私の話は理解してくれたのかな?」
「理解はした。……が、信じられるかどうかは別だ。たしかに同胞も貴様の味方をしているようだが魔法で操られている可能性もある」
「ひどい……獣王様は私の事まで疑うんですか?」
「くっ! 同胞よ、その目は卑怯だぞ……!?」
今日に至るまでの経緯を一通り説明したのだが獣王は未だ信用には至ってくれない。確かに言い分はごもっともだし仲間を助けたいという気持ちからの行動みたいなので非情に徹するのも気が引けてしまう。
しかしこのまま平行線の状態では無為に時間が経過するだけだ。
「困ったなぁ。私的には信用してくれるまでここに放置しておくのもアリなんだけど、顔だけライオンの雪だるまじゃ可愛くないんだよね……」
「ならさ、目と鼻以外全部氷にしちゃえば? 顔を丸々残しちゃうから怖いんだよ」
「それだ!」
ナイスアイディアだがペエはそれでいいのだろうか。あとで怒られたりしなきゃいいけど……平気かな。
だって――
「同胞よ、いつからそんな非情になってしまったのだ! やはり操られているのだな!? この極悪非道を極めし魔女めっ!」
「獣王様〜〜? 私『醜い姿』って言われたの忘れてませんからね。それにルノちゃんを極悪呼ばわりするなんていくら獣王様でも許しません」
「やめろ! 同胞を語るなら戻ってくるのだ! うぉぉぉ!」
――こんな感じにもはやどちらが上なのか分からない状況なのだから。威厳も何も無くなってきて少し可哀想になってきたなぁ。
「同胞が……身も心もすっかり変わってしまった……! うぅ……!」
「はいはい、分かったから泣かないでよ。あなた獣の王様なんでしょ。ペエもあんまり虐めてあげないの」
「だって獣王様ってば……うぅ〜〜ごめんなさい」
てな訳ではい仲直り。最悪、私はいいから同胞同士では仲良くして欲しいものだ。
「ピピ〜〜!」
「キッキッ!」
ここで登場したのは昨日ペエと同じく我が家にお泊まりしたプウとポオ。
そう言えば今朝起きる時にペエの枕元で仲良く寝転がっていた二匹はあんまり気持ち良さそうに寝てたものだからそのままにしておいたんだった。騒がしくしてごめんよ。
「おぉ! 無事だったのか、同胞よ!」
と、ここで一気に沸き立つのは言うまでもなく獣王。一応、無事なのは先程説明したはずだが今それを言っても仕方がない。あんな嬉しそうな顔を見せられては尚更ね。
「おぉ、そうかそうか。なに? 魔女の家で世話になってただと? 美味しい木の実にふかふかの寝床……ふむふむ」
なにやら動物達の間で会話が繰り広げられている様子。雪だるまに話しかける小鳥とリスというなんともシュールな光景だが、これまでとは異なり獣王は頷きながら理解を示しているみたいだ。
それからいくつか言葉が交わされると。
「うむ。同胞の言葉なら疑う余地はあるまい」
「ピピ〜〜♪」
「キッ♪」
「もぉ〜〜……私の言葉はまともに受け止めてくれなかったくせに……」
若干一名、取り残されてる感が否めないがおおよそ問題は解決したとみて良さそうだ。
朝から慌ただしいイベントだったが終わってみればなんてことはない、同胞思いの王様による心温まるエピソードだったな。
「いや、すまなかったな魔女よ。どうやら我の早とちりだったようだ」
「うん、分かってくれたなら良かったよ」
これにて一件落着。あとは封印という名の雪だるまを解除してお帰り願うとしよう。
「はい、んじゃこれでおしまい。これからは……なんだろ。お友達? とにかくよろしくね」
「うむ。何かあれば言うが良い。非礼の詫びとして一つくらい手を貸そう。ではさらばだ。帰るとしよう同胞よ」
「あ……」
ここでふと気付く。それはペエも同じだったようで、踵を返す獣王について行こうとしたところで足が止まった。……お別れだ。
「コホン。まぁ、いつでも遊びに来なよ。ペエ達の家ってそこの森でしょ? またおいで」
「…………」
「ペエ?」
様子がおかしいな。初めてのお泊まりが楽しかったから名残惜しいというのは分かるがどうも違うみたい。なんと言うか……大切なモノを失ったことに気付いて虚無っている――と、顔に書いてある。
「…………」
もしかして?
「……だめ」
というか無理、だよね。
「どうしたのだ同胞よ?」
「ねぇ、獣王様。思い出してみて」
「む?」
「私達の森……吹き飛んじゃったよね? ううん。獣王様が……吹き飛ばしちゃいましたよね?」
「……。……はっ!?」
獣王は思い出す。本日の登場シーンを。
『迸れ、紫電の雷光――』
私とペエの頭にはとある記憶が蘇る。
『ドォン!!』
そのどちらも共通していたのは『森が吹き飛んだ』こと。つまりはそういうことだった。
「償わないとね」
「くぅ……」
項垂れる獣王の額に優しく手を置く私。
「私の……お家……」
「ピ〜〜……」
「キィ……」
その背後で放心状態になっているプウ、ペエ、ポン。思いがけず一番の被害者になってしまった不憫な三匹が動き出したのはそれからしばらく経ってからのことでした。
「でも……別にいっか」
ん?
「よくよく考えればルノちゃんの家にまた泊まれるってことだもんね。美味しいご飯にふかふかのベッド! 楽しみだねぇ」
「ピピィ〜〜♪」
「キッキッ♪」
な〜〜んてことを平然と言ってのける三匹はむしろラッキーだと喜ぶ始末。なんだこりゃ。
「はぁ……まぁいいや。けどこのままじゃ私のスローライフに支障が出るから森の片付けはあなたがしっかりやるように。もちろん草原の修繕もね」
「う……む。仕方あるまい」
めでたしめでたし。