第十七話〜フユナのカチコチ成長記その2〜
氷のスライム・フユナ視点の物語その2です。
特訓の時は師匠。
それ以外の時は友達。
そんなフユナとサトリのやり取りをお楽しみください。
その日、わたしは先日の家族旅行の事を思い出していました。温泉や遊園地。とても楽しかったな。そして……
「あの双剣の人、結構強かったよね?」
「はい。一応、威張るだけのことはありましたな」
「だよね」
わたしは現在、グロッタと一緒に自宅すぐ横の草原にいます。
「しかし、フユナ様の方が強すぎてあの若造の立場がありませんでしたな。はははっ!」
「うん」
あの人がそれなりの強さなのはすぐに分かりました。それはルノも同じ筈なのにあの時背中を押してくれました。
『フユナ、挑戦してみたら? ちょろっとやっつけちゃいなよ』
そしてあの時、確かに勝ちました。自分が『強い』と思った相手に。
「グロッタ……わたし、サトリちゃんと特訓して強くなったのかな?」
「もちろんです、フユナ様! あの対決でもう気付いてるでしょう?」
「そうだよね。うん……うん!」
「あのサトリもなかなか見所がありますし、いい師匠に出会えましたな!」
そう。ルノの友達であり、私にとっても友達。そして、尊敬できる師匠です。
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「お、来た来た」
「お待たせ、サトリちゃん」
わたしは待ち合わせしていました。わたしの生活の一部になりつつある師匠のお稽古。今日もまさにその日です。
そこから近くの特訓場所まで移動します。その道中。
「今日はルノちゃんどうしてるの? たまには一緒に来ればいいのに」
「ルノなら家でサトリちゃんの本店読んでたよ。師匠と水入らずの時間を過ごしておいでって」
「ふーん? てか、あの本ルノちゃんも読んでるのね。恥ずかしいな……」
あの本……『双剣使いサトりんのワクワク冒険記』は私が双剣を使うきっかけにもなった想い出の本です。
「おっと、着いたね」
「今日もよろしくお願いします!」
「うむ。……あ、その前に。フユナちゃん、ロッキの街の双剣の人に勝ったんだよね?」
「う、うん。結構強かったよ。何回も防御されちゃって……武器を弾き飛ばして何とか勝ったんだ」
「ふむ、なるほどね。わたしが思うにあの人、相当な実力者だと思うんだよね。でも、フユナちゃんは勝った!」
「う、うん」
「フユナちゃん、かなり成長してるね。双剣も魔法もセンスあるとは思ってたけど。今回の件でフユナちゃん自身でも実感したんじゃない?」
「うん。グロッタにも同じような事言われちゃった」
「そっかそっか! みんなフユナちゃんの成長が嬉しいんだよ。ルノちゃんだってきっと喜んでるよ」
「うん!」
「ちなみにねー双剣の人、たまにこの村に来てるんだよ」
「そうなの!?」
「あの人、ロッキの結晶集めててさ。師匠がよく素材として譲ってもらってるんだよ。そのうちばったり会うかもね!」
「そんなんだ……」
世界は狭いなぁなんて思いました。わたしが気付いてないだけですれ違ったりしてるのかも。
「よっし。んじゃそろそろ始めようか?」
「はい! よろしくお願いします!」
よし! 特訓開始だ!
「とは言ったものの、どうしようか?」
「え?」
「いやね、双剣の人に勝ったくらいだし、もう他に教える事ないかなぁって。てへぺろ」
「えー」
サトリちゃんはそう言っているけど、わたしにも分かることがあります。
「でも、サトリちゃんはあの人よりも強いでしょ? お稽古の時、手加減してくれてるの知ってるよ?」
「ほぅ、なかなか鋭いじゃないか。その通り。わたしは強いのさ」
「……」
サトリちゃんは誇らしげに胸を張っています。ちょっと悔しかったので……
「隙あり!」
ピキーン!
「ひぇ!?」
「師匠! 覚悟ー!」
ドゴ……
「ぐえっ!?」
あの人に勝った時と同じような一撃を入れてしまいました。
その後は真面目に特訓しました。
わたしはサトリちゃんに教わった事を思い出していました。
連撃の中に決め手となる一撃をいれる!
キン、キンキン!キィン!
「うん、いいね! でもっ!」
フッ……!
「!」
「油断しちゃだめだよ!」
そう。決め手を放つ時は狙われる安い時でもあります。これも以前サトリちゃんから教わった事。
キィンッ……!!
「お……」
なんとか双剣を滑り込ませ、弾き返しました。その隙を見逃さず、再び攻めるわたしでしたが……
「ほんとに強くなったね」
打ち合う音の中でたしかに聞こえました。微笑みながらそう言うサトリちゃんの雰囲気が次の瞬間、一気に変わりました。
「いくよ?」
ヒュッ!!
キィンッ!
「う!」
予想外の衝撃に腕が痺れました。
「まだ」
ヒュッ!!
キィンッ!
「うくっ!」
わたしは気付いてしまいました。サトリちゃんは双剣だけ狙ってる。わたしを傷つけないように。でも上には上がいることを教え込むように。
「まだ」
ヒュッ!!
キィンッ! キィンッ!
「うっ……ぐ……」
もう攻めに入る余裕などありませんでした。武器を手放さないようにするだけで精一杯。
「最後!」
ヒュッ……!
「!?」
キィィィンッ……!
その音を聞いた時、既にわたしの手に双剣は握られていませんでした。そしてサトリちゃんはわたしの背後。それでも本気ではないようでした。
ーーーーー
ーーー
ー
「うん、だいぶ良かったよ。ただ……」
「……」
「わたしの攻めで、心を乱しちゃったね。今のフユナちゃんならもっとやれてた筈だよ」
「うん……」
「誰でもある程度成長すると、慢心する時が来る。そこからさらに上を見るのか、満足して終わるのか。強くなれるかはそこにかかってくるよ」
「はい……」
浮かれている自分を見透かされているようでした。上には上がいて、サトリちゃんの場合かなり上。情けなくて涙が出そうになりました。どうやらまだまだ学ぶべき事がありそうです。
「最後に。わたしは今日『上』というものを見せた。あとはフユナちゃんがどうしたいかだよ」
「はい。もっと精進します……」
ここは元気よく答えるべき所だったのですが出来ませんでした。ほんとに……ほんとに情けなくて。
「しゅん……」
すると、サトリちゃんの雰囲気は一変して優しいものになりました。
「よし。褒める所は褒めないとね。えーと、ぶっちゃけ、今までのフユナちゃんなら終わらせようと思った時にいつでも出来たんだけど……」
「ぐすっ……」
「しまった。そうじゃなくて……今日のフユナちゃんは違ったよ。一皮剥けたっていうか。わたし自身が攻めて隙を作らないといけなかったというか」
「うん……」
「まぁ、元気出しなよ!わたしが強すぎただけで他の相手ならこんな事にはならないよ」
「むぅ……!」
「ささ、今日はもう終わりだよ。お疲れ様!」
「あ、ありがとうございました……」
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わたしたちは村に帰ってきました。お稽古が終わると穏やかな時間がやってきます。
「フユナちゃん。せっかくだし、お茶してかない?」
「うん!」
現在は午後をまわっているけど、夜まではまだまだ時間はあるみたい。
私たちはいつもルノが座っているテラス席に座りました。
「自分の職場でお茶するってのも不思議なもんだね」
「ふふっ、そうだね」
たしかに、普段このカフェでは店員さんとして接しているのでこうしてお茶するなんで不思議な気分。間違えてサトリちゃんに注文しちゃいそう。
「んー、わたしはとりあえずコーヒーにしようかな。フユナちゃんは……それプラスチーズケーキかな?」
「う、うん!」
見事に当てられてしまいました。ルノとよく来るから読まれちゃったな。
その後はコーヒーを飲みながらゆったりとした時間を過ごしました。
「それでね、グロッタがまた毛を抜かれちゃってー」
「グロッタも苦労してるんだなぁ」
「でもね、その日の最後には二人とも仲良く(?)なれたんだよ。カラットさんすごく嬉しそうだった」
「へぇ、それは良かったじゃん! あの人もああ見えて、けっこう寂しがり屋だからなぁ」
「ふふっ、最後の方なんてちょっと照れてたんだよ」
「はははっ!」
そんなこんなであっという間に終わりの時間になってしまいました。
「あら、もうこんな時間か」
「あっという間だったね」
「ほんとだねー! んじゃ遅くならないうちに帰ろうか。送ってってあげるよ」
「いいの?」
「もちろんだよ。ルノちゃんの顔も見たいしね」
「わーい!」
なんだかこうして普通に過ごしてるとお姉ちゃんみたいに思えてきちゃうなぁ。
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「ルノ、ただいまー!」
ビクッ!
「はっ……あ、フユナ? お、おかえり」
どうやらルノは本を読んでいる途中で寝てしまったようです。
そんな事を思っていると、続いてサトリちゃんも入ってきました。
「ルノちゃん、ただいまー!」
「あれ、サトリさんまで。てか、師匠と同じような現れ方しますね」
「わたしにもおかえりって言ってよルノちゃん」
「はいはい、おかえりなさい。それも同じですね……」
「それはそうとルノちゃん? わたしの本を読みながら寝るなんて、そんなにつまらなかったのかな?」
「そ、そんなことないですよ? はは……」
ルノが加わったことで見慣れた光景が広がりました。これが当然のようなそんな感覚です。
「そ、そんなことよりー! よかったら夕飯食べていきませんか?」
「あ、誤魔化したね。じゃあいただこうかな。………………実はそのつもりだったんだよね。にや」
「え? なんか言いましたか?」
「い、言ってないよー! ご馳走になるね!」
「やったー! またみんなでご飯!」
その後、せっかくなのでグロッタも呼んで四人で一緒に夕飯を食べました。