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☆氷の魔女のスローライフ☆  作者: にゃんたこ
164/198

第163話〜ヤンキー兄弟の剣術修行〜


〜〜登場人物〜〜



・ルノ (氷の魔女)

 物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。


・サトリ (風の魔女・風の双剣使い)

 ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。


・フユナ (氷のスライム)

 氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。


・カラット (炎の魔女・鍛冶師)

 村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。


・グロッタ (フェンリル)

 とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。


・ランペッジ (雷の双剣使い)

 ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。


・スフレベルグ (フレスベルグ)

 白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。


・レヴィナ (ネクロマンサー)

 劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。


・コロリン (コンゴウセキスライム)

 ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。


・フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ

 魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。


・にゃんたこ (神様)

『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。


・フウカ (妖精王)

 妖精の秘境『妖精郷』に住まう妖精の王。神様とは友人関係にあり、その実力も折り紙付き。風の魔法を得意としており、中でも【風刃・風華】は風魔法最強を誇る力を持っている。



「ハッ! ハッ!」


「ハッ! ハッ!」


「よ〜〜し、ラスト十!」


「「おす!」」


 キレのある二つの掛け声。場を取仕切る声がラストスパートの合図を送ると、その声が一層熱を帯びる。何をしているのかと釣られて見れば、そこにいたのは磨き上げた木刀を振るう少々見知った二人の青年と――


「ランペッジさん……?」


「だね。あとの二人は私には見えないかな」


 カフェ帰りの私とレヴィナの視界に飛び込んできたのはあまりいい思い出のないヤンキー二人組と、その彼等を指導するランペッジさんだった。振るう獲物が木刀なのでおそらくは剣術の類なのだろうが……出会いが最悪だっただけに、まさかあの二人にそんな真っ当な趣味があったと知った私はかなり驚かされた。現実逃避したくなる私の気持ちも分かってくれるかな?


 と、その時。


「ん?」


「あ」


 ランペッジさんに気付かれた。


「なんだ。ルノさんにレヴィナさんじゃないか。そんな遠くにいないで近くで見たらどうだ?」


「いえ、遠慮しておきます」


 なんせ私は遠くの木々を眺めてただけなので。そんな言葉と共に退散すべく踵を返したところ、ちょうど真後ろにいたレヴィナとご対面してしまった。


「あの……見ていかないんですか……?」


「レヴィナってばもしかして見たいの?」


 はい。そう即答したレヴィナに根負けした私は仕方なしにランペッジさんとヤンキー二人組の元へ。一応お邪魔してしまった形になるので、私達は簡単に会釈をした後にランペッジさんの隣に並んだ。


「それで……これはいったい何事ですか?」


「ふっふっ、驚いただろう。じつはな、オレがいつもやってるやつあるだろ? 一本取ったらってやつ。それにアイツらが挑んできたんだ」


「ふむ。……え、ランペッジさんが勝ちました……よね?」


 見事一本取られたわ! なんて言われた日にはどうしようかと思ったがその心配は無かった。結果は余裕の勝利。しかしランペッジさんによると彼等には光るモノがあったんだとか。


「それが剣術ってわけですか」


「その通り。アイツらもアイツらでオレのことを『ランペッジの旦那』なんて呼び始めるもんだからこうなった。剣術は小さい頃に齧っただけと言っていたが……なかなかだろう?」


「確かにちょっとかっこいいですもんね……」


 私の言葉をランペッジさんが肯定。そして最後にレヴィナが発した言葉が同じく私の感想と一致していた。普段がネタでこっちの姿が本物なのだと信じたい。


「ハッ! ……お? なんだあねご、いつの間に!」


「一緒にやりますか、なんつって! ゲラゲラ!」


 儚い希望は一瞬にして消え去った。そりゃそうだよね……


「そうそう。サトリからアイツらのことは聞いたぞ? 光るモノ云々は嘘じゃないがもう半分はその件に絡んでるんだ。ちゃんと更生させるから安心してくれ!」


「ランペッジさん……!」


 なんだろう。今日のランペッジさんはものすごく出来た人間に見える。本当にどうにかしてくれそうな期待感に満ち溢れているっ!


「……」


「ルノさん? どうしたんですか……?」


 正直、今日のランペッジさんは頼もしい。頼もしいが不安もある。なぜなら弟子は師匠に似ると言うからだ。なので――


「お願いですからたらしは増やさないでくださいね」


「なんでそうなるんだっ!?」


 フユナ、コロリン、レヴィナ。我が家の家族にもれなく好意を抱いているランペッジさんを見てきたからこそのお願い。妙な化学反応だけは起こさないでください……と切実な願いをぶつけた私は、もう少しだけヤンキー二人組の剣術修行を見学していくことにしたのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 それから数分後。


「どうぞ、ルノさん。『フルーツミックスデラックスソフトクリーム』で良かったですよね?」


「あ、うん。ありがとう」


 私はレヴィナが買ってきてくれた十種類のフルーツとミルクがミックスされたデラックスソフトクリームを片手に、未だヤンキー二人組の剣術修行の様子を眺めている。まるで一種の劇でも見に来ている気分だ。う〜〜ん、寒い。


「これさ、どっちが勝つと思う?」


「そうですね……アニキさんの方かな……?」


「ほうほう、別れたね。私はオトウトの方がアニキを打ち倒すに一票」


 現在繰り広げられているのは先程までの素振りではなく、一体一の実戦形式の打ち合い。桁違いの緊張感から、つい応援したくなってしまうのも無理のないことだ。


「ハッ!」


「甘い!」


 そんな中、ヤンキーのオトウトが鋭い打ち下ろしをかます。しかしアニキの方は見切っているとばかりに木刀を滑り込ませ防御。すかさず押し返してできた隙に、お返しの連続攻撃が容赦なくオトウトを追い込んだ。


「いや……!」


「あ、おしいっ……!?」


 ところがどっこい。カンカン! と鳴り響く木刀の音がオトウトが見事アニキの連続攻撃を受けきったことを知らせてくれる。いいぞ、オトウト!


「そこまで! 今回は引き分けだな」


「くっそ! 思いのほか鋭い攻撃で腕が痺れちまったぜ! くぅぅ〜〜うまいっ! さすがアニキ!」


「まさか今のを受けられるとは……! おかげで攻め手が品切れだぜっ! やるな、オトウト!」


 なんだか飲んだくれみたいなのと叩き売り業者みたいなのがいるが本人達は至って真面目。だからこそここまで惹き込まれる熱い戦いが繰り広げられたのだと、最後まで見ていた私達には分かった。悔しいがかっこいい!


「な? 見込みあるだろう?」


「そうですね、なんでこの色に染まってくれなかったのかが不思議なくらい」


「はっはっ! それはまぁこれからだな。期待してくれていいぞ」


「うむ」


 期待しておるぞ、と本当に思ってしまった。この調子で成長すれば、いつか私にいちゃもんつけてきた謎の凄腕剣術使い二人組ともいい勝負ができるかもしれない。まぁ、あの輩達は私が吹き飛ばしてしまったのでどこかへ行ってしまったが。


「よし。今日はなかなか調子がいいみたいだから特別試合を組もう!」


「おぉ! もしかしてランペッジの旦那が!?」


「っしゃあ! その顔面、今度こそ粉々に打ち砕いてやるぜっ!」


 やはり師匠相手に勝ちを望むのは弟子の本能らしい。その気持ちはよく分かるぞ。だけどやっぱり口を開くとちょっと残念なのがおしいな。


「でもさすがにこれは無理でしょ」


「ですね。ランペッジさんはたらしでも実力は本物ですから……」


 その通り。本当にその通り。しかし勝手に盛り上がる私たち全員に向かってたらしのランペッジさんは首を横に振り、否定の意を示すと予想外の言葉を言い放った。


「至高の相手を前にして何を言ってやがる! ルノさん! 実力を見せてやれ!」


「……」


 ん?


「レヴィナ。ランペッジさんはたらしだけでは飽き足らず『ぶっ壊れ』の称号まで手に入れちゃったのかな?」


「えっと……よく分かりませんけど、ルノさんを指名したことだけは分かりました……」


 突然の奇行に困惑。だが間違いなく私を指名し稽古をつけてやれと目線で訴えるランペッジさんに、為す術もなく押し切られてしまった私は望まぬ勝負に身を投じるしかなかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 勝負開始の合図と同時に私を襲ったのはヤンキー二人組による怒涛の攻めだった。……真面目に修行に励む姿に感動したというのに二対一ってどうなの?


「ハッ! ハッ! いけるぜアニキ!」


「ハッ! 当然だ! 一気に畳み掛けるぞ!」


 少々思うところはあるものの、思った通り剣術を活かした攻めはなかなかのモノだ。そこらの賊に襲われてもへっちゃらなんじゃないかな。


「けど私はそうはいかないよ」


 アニキとオトウトの左右同時攻撃を魔法で作り出した氷の杖で受け止める。そうして生まれた隙に私は後ろに一歩下がって距離を取った。


 ところが。


「逃がしませんぜ、あねご!」


「オラァ!」


「む」


 引き際を見逃さず攻め込む思い切りの良さ。これまたなかなかのモノだ。


「いや、本当にすごいかも。あなた達、本当に剣術齧ってただけのヤンキーなの?」


「ヤンキーとは心外ですぜ!」


「俺たちは王と」


「隙あり」


 人のこと言えた立場ではないが……戦闘中に喋ってるのはいただけないな。おかげで後ろがお留守になってますぜ、ヤンキーのお二人さん。


「「ぐはっ!?」」


 突然の襲撃を受けてドサドサッと地に伏せるヤンキー二人組。攻めるあまり警戒を怠った後頭部に打ち込まれた氷の杖の重い一撃が二人の意識を容赦なく刈り取ったことでこの勝負は終了したのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「さすがあねご! 見事なお手並みでした!」


「でも二対一で負ける俺達って……ウケるな! ゲラゲラ!」


「そこは落ち込まないのね。前向きでいいけど」


 終わってみれば呆気ない勝負だったが、ヤンキー二人組の思わぬ一面を見れたのは素直に喜ばしいことだった。引き止めてくれたランペッジさんに感謝だな。


「前にも言いましたが俺達も心を入れ替えたんですぜ!」


「あねごにぶっ飛ばされたあの日からな! ゲラゲラ!」


「左様でございますか」


 やはり剣術修行をしていないとゲラゲラうるさい。だけど今回は少しばかり認めてあげよう。ランペッジさんの元で立派に更生してくれることに期待だ。


「すこしはスッキリしたかい、ルノさん?」


「ん……」


 と、ここで再びやって来たランペッジさん。なんだか含みのある言い方だが……?


「もしかしてわざと?」


「ふっふっ! おかげで変なモヤモヤも消えただろう? 真面目に励むヤンキーを見た後に同じ土俵での勝負。そりゃあ勝っても負けても絆は深まるってもんさ」


 なるほど。実感した後では言葉もない見事な正論だ。


「やっぱりこの村にいる以上はどうしても顔は合わせるからな。まぁ、アイツらもまだ失礼なところは抜け切ってないかもしれないが……大目に見てやってくれ!」


「分かりました。私ももう少しだけ大人になれるよう頑張ります」


 本当に今日のランペッジさんにはかなわないな。まさかここまで見越してあの二人の修行を? だとしたら見方を改めないといけないね。土産話として今日の出来事はフユナにも聞かせてあげよう。


「あなた達二人も今日はありが――」


 それでは最後に長年の因縁(?)があるこのヤンキー二人組との和解。そう思っての私の言葉は、しかしそれ以上続くことはなかった。なぜなら――


「いやぁ、でもあねごも案外余裕かもな! ゲラゲラ!」


「だよなぁ? 背後からの一撃だって分かってりゃ耐えられたもんな! ゲラゲラ!」


 おやおや? これはこれは。


「まっ、所詮はあねごも一人の女ってな! ゲラゲラ!」


「それな! すでに俺達の勝ちは決まってるってな! ゲラゲラ!」


「ゲラゲラ!」


「ゲラゲラ!」


 ……


「「ゲラゲラ!」」


「……ぶっとばす」


 やはり人間、そう簡単に変わるもんじゃない。そんな新しい教訓を学んだ私は改めてヤンキー二人組への怒りを再確認し、それを形にすべく特大の氷で思い切り奴らを吹き飛ばしてやったのでした。


「ん〜〜! 今度こそスッキリ! 帰ろうかレヴィナ」


「は、はい。そうですね……」


 でも今後に期待なのは素直な気持ち。頭の片隅でほんのちょっとだけ応援してるので精進してくださいな。



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― 新着の感想 ―
[一言] 氷の魔女様の一撃によりたった二行の文章でチンピラが吹き飛んでいったぁ!そこに痺れる憧れるぅ!
2020/01/11 15:58 謎の桃色結晶
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