第161話〜神様の善行①〜
〜〜登場人物〜〜
・ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
・サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
・フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
・カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
・グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
・ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
・スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
・レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
・コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。
・フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ
魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。
・にゃんたこ (神様)
『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。
・フウカ (妖精王)
妖精の秘境『妖精郷』に住まう妖精の王。神様とは友人関係にあり、その実力も折り紙付き。風の魔法を得意としており、中でも【風刃・風華】は風魔法最強を誇る力を持っている。
ある日の午後。
我が家の家族が思い思いに過ごす中、一人でお昼寝していた私は突如襲ってきたお腹の虫に叩き起されてしまった。そりゃもうグゥ〜〜っと盛大な音を立てながら。
「ん〜〜っ、よく寝たぁ……!」
にもかかわらず、約二時間の睡眠を経て大満足の私はみっともなくお腹を出しながら豪快に寝起きの伸びをかます。その時、視界に入った時計を見れば時刻は三時。ちょうどいいことにおやつの時間だ。ナイスお腹の虫。
「でもどうしようかなぁ? みんなは出かけちゃってるみたいだし……たまには一人で気ままにドーナツを食べるのもいいかな」
寝起きの頭に明確に浮かんだのはシュウウっと揚げたての音を奏でながら立ち上る湯気。サクッと噛み締めると口の中いっぱい広がるのはふんわり食感の甘い生地。半分ほど食べてからトッピングのチョコレートなどをかければさらなる美味しさに手が止まらなくなる。その結果、お財布がすっからかんになったとしても後悔することはないだろう。
「うんうん、夢が広がるね。そうと決まればさっそく出かけよう!」
お財布片手にドーナツ屋さんへいざ行かん! そんな気合と共に、夢の大きさをそのままぶつけるが如く入口の扉を勢い良く開け放ったその時。
「うわっ!?」
「ぎゃあ」
ドカン! ×2
絶妙なタイミングでやって来ていた(?)お客様が約二名。フィオちゃん、そしてにゃんたこ様が勢い良く開け放った扉に豪快に吹き飛ばされたのを見届けた私は、何事も無かったように扉を閉めた。せっかく仲良く遊んでいたのに邪魔をしてしまって申し訳ない。なにより私にはドーナツがまっているのだ。
「んじゃ私は別の出口から行くのでごゆっくり――って」
残念ながら逃亡は成功ならず。結局私は吹き飛ばしてしまった二人からキッチリお仕置を受けた後に当初の予定通りドーナツを食べに行くことになった。もちろん、フィオちゃんとにゃんたこ様の二人も一緒に。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お詫びということでドーナツをご馳走することになった私は現在、村までの道を二人のお供とのんびり歩いている最中。
「それにしても先生と二人きりでお散歩なんて初めてですね?」
そのうちの一人、フィオちゃんに冬の寒さに凍える手を握られながら投げかけられた言葉に返事をできずにいると、もう一方のお供、にゃんたこ様が対抗心を燃やすように負けじと言葉を投げてくる。
「ルノ。今日のドーナツはカップルセットにしようか」
そんな火花が散るやり取りを繰り広げる二人に挟まれる私は、首を縦に振ろうが横に振ろうが何かが爆発しそうだったのでひたすら目的地を見据えることで現実逃避に成功。
ちなみに、にゃんたこ様の言う『カップルセット』とはハート型のドーナツ二個セットが一つのお皿に盛られて提供される、文字通りカップルもしくはカップルのように仲のいい二人組に人気のセットだ。当然、今の状態でそれを注文すれば必然的にフィオちゃんがぼっちになってしまう。
「ちょっとにゃんたこさん? カップルセットなら私と先生で食べるからあなたは『欲張りまんぷくセット』にしなさいな」
「神様の決定を覆そうとはいい度胸だね。今日も今日とてぼっちのフィオには単品がお似合い」
「ぼっちじゃありませんけどぉ? ちゃんと護衛のオリーヴァとバッカが……あ、あれ? 先生と二人きりが良かったから置いてきちゃったんだった!?」
「くす」
「あ〜〜!? 勝ち誇った顔っ!?」
勝者にゃんたこ様。
それはさておき。この二人は新年早々、仲良く私をハメてくれたと記憶しているのだが何故元に戻っているのだろうか? 確か「にゃんたこさま♪」「ぎょい」みたいな感じのやり取りが新鮮で面白かったはずなんだけどなぁ。
「仕方ない、こうなったらあの手で。ほ〜〜ら、にゃんたこさまぁ? 実はここにこの前の餌――じゃなかった。お礼として渡したお菓子の残りがあるんだけどぉ〜〜あ・げ・る♪」
「ありがとう」
「どういたしまして♪ ……ねぇ、なんでついてくるの? お家でゆっくり食べていいのよ? ねぇっ!?」
またしても勝者はにゃんたこ様。軽く躱されてしまったとはいえ、少々黒い世渡り方法を見せつけられて絶賛困惑中の私は、ひとまず先生としての役割を果たすべく、かわいい弟子の進むべき道を修正することに。
「はいはい、そのへんにしようね。フィオちゃんはあんまりにゃんたこ様を餌付けしようとしないの。にゃんたこ様も貰ってばかりじゃダメなので……私にもください」
てな訳で役目は果たしたので、私はフィオちゃん曰く王都から取り寄せたお高級なクッキーをにゃんたこ様に分けてもらってパクリ。それを今度は私がフィオちゃんに分けて同じくパクリ。
そんな感じに村へ到着するまでの間、私達(主にフィオちゃんとにゃんたこ様)はなんやかんやと騒ぎながらひたすらクッキーを口に放り込みながら歩を進めて行った。その後ろ姿が完全に友人のそれだったのは二人について行く私だけが理解していたのはここだけの秘密です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「うぷ。お腹いっぱいになっちゃった……」
当たり前も当たり前。クッキーはお高級なだけあってその味は絶品そのもの。おかげであの数分で食べ終わってしまうと分かった私はにゃんたこ様にお願いして何度も再生してもらい食べ続けたのだ。結果はご覧の通り、ドーナツを入れるスペースなど無くなってしまった訳だ。
「てことで私はお水だけで勘弁してください……」
「ははっ、別に構わんさ。お連れがそれ以上に食べてくれるからな」
「もぐもぐ」
お腹を膨らました状態でやって来たにもかかわらず二カッと笑って受け入れてくれるドーナツおじさん。
にゃんたこ様の尽きない食欲に気を良くしたのか「サービスだ」なんて言いながら注文してすらいないドーナツを私にも提供してくれた。……いや、ありがたいけどお腹いっぱいなんです。
「おじさんの好意を踏みにじるの?」
「くっ……!?」
にゃんたこ様の言葉が胸に刺さると同時に、おじさんの顔を伺うと相変わらず二カッと素晴らしい笑顔を返してくれる。それを見てしまった私の良心は残すなんて選択肢を許してはくれなかった。
なので。
「……うん! 揚げたてドーナツはやっぱり違う! 美味しいねフィオちゃん!」
「ちょ!? せっかくここまでいないフリしてたのに……!?」
そんな悪いことを考える王女様も私と同じ理由でお腹いっぱいになっていたが、ここまで来たら仲間は一人でも多い方が良いというものだ。観念するがいい。
と、ここで。
「いやぁ、この仕事をしてるとお嬢さん達みたいな笑顔を見るのが生き甲斐になっちまってなぁ。はっはっは……ゲホッ!」
おや。
「大丈夫ですか、ドーナツおじさん?」
「いや、失敬失敬。ただの風邪さ」
「ふむ……」
そう言ってはいるがその後も時折出る咳はなかなかに辛そうだった。思えば元気が売りのドーナツおじさんが本日一発目のビックリマークが咳だというのだから身体が何かしらの不調を訴えていることに気付くべきだったかもしれない。
「そんな心配そうな顔しなさんな。村のみんなには申し訳ないが明日一日はゆっくり休むことに決めたさ」
「そうですか。お大事にしてくださいね」
おじさんのドーナツ、楽しみにしてますから。そんな意味を込めた言葉を贈ったその時。思わぬ人物が立ち上がった。
「心配いらない。明日は私達が代わりにドーナツを作ってあげる」
「「へっ?」」
「んぐ……うぅ……!?」
未だ苦悶の表情を浮かべながらドーナツを口に放り込むフィオちゃんを他所に、にゃんたこ様の思いがけない言葉を聞いた私とドーナツおじさんの声が重なった。「私達が代わりに」ということは、私とフィオちゃんも当然ながら含まれているのだがそれ以上に――
「あのにゃんたこ様が自ら人助けをするなんて!?」
「ルノは私をそんな目で見てたんだね」
「あ、いや――むぐっ!?」
思わずこぼしてしまった失言ににゃんたこ様がすかさず罰を下す。口を氷漬けにされた私はそのまま路肩にポイされ、にゃんたこ様の言葉はさらに続く。
「おじさんのドーナツは何度も食べたからメニューは覚えてる。揚げ方もよく見せてくれてたよね。何か心配?」
「しかしなぁ。……いいのかい?」
「任せて」
心做しか胸を張るにゃんたこ様が頼もしい言葉で締め括る。そんな姿を見せられては私だけ手伝わない訳にはいかないじゃないか。よしっ!
「感動しました、にゃんたこ様! 私も手伝いますよ!
「ん」
微力ながら助太刀いたす! そんな意気込みを胸に、私とにゃんたこ様はガシッと手を取り合い意志を一つする。ここに最強のコンビが結成された瞬間だった。
ちなみに。
「んぐ……む……ごくん! ご、ごちそうさまでしたぁ……! ん? なんです先生?」
「ファイト!」
「へ?」
満腹の身体でドーナツと格闘していたせいで置いてけぼりになっていたフィオちゃんは問答無用で巻き込んでおきました。