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☆氷の魔女のスローライフ☆  作者: にゃんたこ
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第十六話〜グロッタとカラット〜




 私達はサトリさんにお土産を渡し、次の目的地である、カラットさんのお店『カラット』にやって来た。



「こんにちは。あれ……?」


「いないね?」


「ふっふっふっ!いないなら仕方ないですな!」



 ふむ、接客中かもしれないな。



「せっかくだし店内見て回ろうか。ほら、グロッタも喜んでないで行くよ」


「はい!」


「フユナ、双剣のコーナー行きたいな」


「オッケー。えっと、こっちだっけ?」



 発見。と思ったら先客が居る。木の双剣のなんて持って変な人だなぁ。なんか見覚えのある人だけど……まぁいいや。

 接客していたのはもちろんカラットさん。

「世界一の魔女」だの「美人鍛冶師」といった声が聞こえてくる。自画自賛している声も、もちろんカラットさん。相変わらずだな。



「終わるまで横にどけてようか。それとも別のコーナー見に行く?」


「じゃあ、杖見てみない?」


「あ、いいね。私もちょっと興味のあるかも」



 という訳で杖のコーナー。



「ふーん、杖は割とシンプルなんだね」


「ルノが氷で創り出すものとは全然違うね」



 並んでいる杖は基本的に似たような形だ。先端にはめ込まれているものがそれぞれ違っていた。



「あれ? ルノ。これってロッキの結晶じゃない?」


「ほんとだ。へぇ、杖の素材になるんだね」


「ふむ、わたくしのような神々しさがありますな」


 杖の先端では、はめ込まれたロッキの結晶と、銀色の美しい毛の装飾が輝いている。ものすごく神秘的な杖だ。


 すると、夢中になっていた私達の背後から声がした。カラットさんだ。



「当たり前だろ?」



 ブチッブチッ!



「ぎゃあああ!」


「これ使ってるんだから」


「お、お前! また毛を抜きやがって!」


「大丈夫だ、今回は禿げてないよ。ちょっとしか」


「もう許さん!」


「「あ」」



 私とフユナの声が重なった。グロッタが噛み付こうとしたのと同時に、私が施した魔法陣が光を放ち……



 ピキーン!


「ぎぇぇぇ!?」


「あらら。今回ばかりは同情するよ……」



 もちろんすぐに氷は溶かしてあげました。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「へぇ、旅行のお土産か。わざわざありがとうな!」


「どういたしまして」



 うん、喜んでくれたみたいで良かった。



「ちょうど客も帰ったところだし、良かったら奥の部屋に来なよ。お土産みんなで食べよう」



 そういう事で、私達はカラットさんの部屋に案内された。



「その辺に座って待っててくれ。今お茶持ってくるから」


「あ、はい」



 カラットさんの部屋は、中央にテーブルが置いてあり床に直接座るタイプだった。

 周りの棚を見てみると色々な素材が置いてある。



「あ、見て見て。グロッタの毛も置いてあるよ」


「あの魔女、さっきわたくしから毟った毛をちゃっかりそこに置いてやがりましたからね!」


「そうだったのね……あ、カラットさ」


「ふん、こんなのこうしてやる! ぺっぺっ……!」


「こりゃ大変だ。新しいものと交換しなくては!」



 ブチッブチッ!



「ぎゃあああ! おっ、おっ、お前!!」


「なーに人の部屋で妙な事してるんだよ。私にそんな趣味はないぞ?」


「もう許さん!」



 ピキーン!



「ぎぇぇぇ!?」



「またやってる……」





 その後、ようやく落ち着いたところで。



「さ、遠慮なく食べてくれ。もらった私が言うのも何だけど。ほれ、グロッタにもやるぞ」


「ふん、食ってやろう」


「ありがとうございます」


「いただきまーーす!」



 私達はロッキのクッキーを食べつつお茶を飲む。なんだか老後の生活みたいだ。



「ところで、カラットさん。さっきの杖なんですけど」


「うん? あぁ、グロッタの毛を使ったやつか」


「はい。ロッキの結晶が杖の素材になるなんて知りませんでしたよ。あれって……?」


「ふっふっふっ。相変わらずルノちんはお目が高いね。持ってきてやるからちょっと待っててな」



 この流れってもしかして!?



「ちなみにあげるわけじゃないからな?」


「……」



 ちょっと期待しちゃいました。





 カラットさんはすぐに戻ってきた。



「ほれ、ルノちん。ちょっと持ってごらん」


「はい。あっ」


「きれい!」



 手に持った瞬間にロッキの結晶がさらに輝き、銀色の毛も美しさを増した。



「その杖は持った者の魔力によって輝きが増すのさ。こんなに光ったのは初めてだ」


「へぇ、すごいんですね」


「光るとどんな効果があるの?」


「え?」



 フユナが期待に目を輝かせて聞いていたのだが……



「ふふん、聞いて驚け。それだけの効果さ」


「……」



 フユナが固まってしまった。いや、私も。グロッタも。

 逆の意味で驚いてしまった。



「おっ、おっ、おっ! お前は! それだけのために毛を毟りやがったのか!?」


「何言ってんだ。あれがあるからこそ、結晶の輝きが際立つんだぞ? あの毛が無きゃただの光る杖だろ」


「あってもただの光る杖だ!」


「まぁ、そう怒るなって。そんなに欲しいのか?」


「……」



 グロッタは呆れて黙ったのだが、カラットさんは欲しがっていると思ったらしい。



「仕方ないなぁ。ほれ、やるよ」


「別にいらん」


「そう言うなよ。実はな? ロッキの結晶には安らぎを与える効果があるんだよ。さらにお前の毛を使ったことでフェンリルには特に効果がある。お前には色々と迷惑を掛けたからからな……」


「お前……」


「だからほら、受け取ってくれ。これはグロッタのための杖だ」


「ふ、ふん……そこまで言うなら受け取ってやろう」



 やばい。感動して泣きそうになってきた。まさか、こんな感動のエピソードがあったなんて……フユナなんて既に号泣している。


 グロッタはそのまま杖を抱いてそっぽを向いてしまった。


 カラットさんが私達の元に戻ってきた。



「カラットさん、私は感動しました」


「ん?」


「まさか、カラットさんがそこまでグロッタの事を考えてくれてたなんて思ってませんでした……すいません」


「……」


「私にくれないって言ったのもこういう事だったんですね。我が家で大切にします。……なんで笑ってるんですか?」


「いや、言っただろルノちん。あれは光るだけの杖だよ?」


「安らぎの効果は?」


「無いよ。いや、そうとも言えないな。結果的にこうして私とグロッタは分かり合うことができた」


「え、じゃあほんとに光るだけ……? 貴重なロッキの結晶だって使ってるのに」


「じつはさ、知り合いにロッキの結晶をよく持ってきてくれるのがいてさ。数はあるんだよ」


「そうですか……」



 なんか感動して損しちゃったなぁ。フユナ、また固まっちゃったよ。



「でもさ」


「はい?」


「こうしてグロッタと話ができて良かったよ」


「……」



 私はカラットさんの顔を見て何も言えなくなった。ものすごく嬉しそうにグロッタを見つめ、純粋な好意だけを感じた気がしたから。






 私とフユナは顔を見合わせて少し笑った。






「カラットさん」


「ん?」


「良かったですね」


「ん、そうだな」



 彼女は照れくさそうに笑ったのでした。




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