第158話〜新年あけましておめでとうございます③ 新年会〜
〜〜登場人物〜〜
・ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
・サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
・フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
・カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
・グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
・ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
・スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
・レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
・コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。
・フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ
魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。
・にゃんたこ (神様)
『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。
・フウカ (妖精王)
妖精の秘境『妖精郷』に住まう妖精の王。神様とは友人関係にあり、その実力も折り紙付き。風の魔法を得意としており、中でも【風刃・風華】は風魔法最強を誇る力を持っている。
神の魔法が氷の牙を炸裂させた頃。『妖精王』と『雷光』の戦いはさらなる加速を見せていた。
「はっ! とうっ!」
上下、左右。あらゆる角度から放たれる鋭い斬撃は獲物が『双剣』だということを踏まえても凄まじい連撃だった。見るものが見ればそれはまさに『迸る雷光』であり、瞬きの一つでもすれば次の瞬間には背後を取られる程の異常なまでのスピードだ。
「おっと! 残念だけどもう髪の一本すら切らせないわよ!」
しかし相対する妖精王もまた別格。触れれば流血も避けられない連撃に対しこちらの獲物は無し――すなわち丸腰である。にもかかわらず、その表情には恐怖の色は存在せず、むしろ当ててみろとばかりに楽しげそれは確かな『自信』からなるものだった。
「うんうん、良いわね。『当たり』を引いたにしてもここまでやるなんて思ってなかったわ」
言葉の間にも次々と放たれる斬撃の数はおよそ十。それすらも全て捌ききった妖精王は自らの悪巧みにハマったのが『彼』で良かったと心底喜んだ。
「オレもまさか新年からこんな強者とやりあえるとは思わなかったぜ! てかアンタ誰だ!?」
「あら、聞いてなかったの? アタシは偉大なる『妖精王』よ」
「な、なんだって〜〜!?」
いまいち緊張感に欠けるその反応を前に妖精王の戦意が僅かに萎える。同時に、この至福の時に制限時間が迫っていることを悟った彼女はここまでの戦果を噛み締めるように大きくため息をついた。
「五分。なかなか続いた方ね。またの機会があれば……その時は【風刃・風華】を撃たせてね?」
「なに訳の分からないことを――ぐわっ!?」
妖精王の願望が合図なり、瞬間、雷光を彷彿させる動きは人並みのモノに成り下がる。急な減速に身体はついて行かず、みっともなく地面に足を引っかけるのは知る人ぞ知る本来の『ランペッジ』だった。
「本来の調子が戻ったぜ!」
「いや、そこは喜ぶところじゃないから。今のアンタってばアリンコ以下よ? それじゃあバイバイ」
「ぎゃあああ!?」
妖精王・フウカの撃ち出す風の弾丸が雷光・ランペッジを吹き飛ばし終了。「どん!」響いた掛け声は決着の合図としてこのパラディーゾにて軽快に響いたのだった。
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「つまりアレか? オレの覚醒した動きはアンタに盛られた『妖精の雫』とやらの恩恵だとでも言うのか!? 有り得ん! あれはオレの実力だ!」
「違うわよ。その証拠に雫の効果が切れた時にちゃんとずっこけてたじゃない。自分の実力を把握してないなんて……アンタ、とんだマヌケだったのね。あはっ!」
「て、てめぇ〜〜!?」
現在の場所はパラディーゾ。
にゃんたこ様との激闘の末に気絶してしまった私が目を覚ますと、途中から二手に別れたフウカ対ランペッジさんの勝負の結果報告が行われた。そして前述の通り、すっかり仲良くなってしまった(?)フウカとランペッジさんの揉み合いが始まったに至る。一瞬でねじ伏せられてたけど。
「でも私も気になってたから真相が聞けて良かったよ。妙にキレがあると思ったら雫のおかげだったのね」
「そそ。アンタ以外は来て早々、呑気にお茶会してたでしょ? アレに混ぜといたのよ。誰が当たりを引くかは分からなかったけどそれも一興よね」
「フウカも悪だなぁ。タダでフィオちゃんに協力してるなんておかしいと思ったんだよ」
妖精王ともあろうお方が、いくらなんでも『私のことを放置していた罰』なんていうフィオちゃんのワガママに付き合うなんて、それこそ何かメリットがなければ手を貸したりはしないはずなのだ。
「そうだ思い出したよ。 にゃんたこ様! なんであんなお菓子なんかで買収されちゃってるんですか!?」
「……(もぐもぐ)」
視線をずらせば傍らで再開されたお茶会の席で戦闘前に食べていたモノと同じお菓子を頬張るにゃんたこ様の姿が見える。神様ともあろうお方が随分と安い餌付けをされてしまったものだ。
「放置されて彷徨ってたかわいい子羊を放っておけなかったんだよ」
「にゃんたこ様ってそんな聖母みたいなキャラでしたっけぇ
ぇ……?」
あまりのキャラ変に少々困惑。まぁ、誰これ構わず魔法合戦を仕掛けていたあの頃よりだいぶ丸くなったと素直に喜ぶべきか。……なんて思っていると。
「あ、にゃんたこさま〜〜? 先生が改心せずにまた私を放置したときはよろしくお願いしますね」
「無理。今回限りって約束」
「あぁ! こんな所にレストラン『オウト』の特別優待割引券が!? どうしよう、私はこんなものいらないからここに捨ておこうっと! ……これでお願いします」
「ぎょい」
訂正。簡単に釣られるようになった分厄介だ。私は今後こうしてフィオちゃんに転がされ続けるのだろうか……? 先生悲しい。
と、ここで。
「ルノちゃんルノちゃん。盛り上がってるとこ悪いんだけどさ。そろそろ新年会を始めてもいいかな?」
「はい?」
突如割り込んできたサトリさんがおかしなことを口走ってきた。確かに私達は新年のご挨拶をするために奔走し、この場でその目的は達成した。だからと言ってそのまま新年会に突入はさすがに無理があるのでは? にゃんたこ様に怒られてしまう。
「ルノ。早くして」
「へ? あ、はい」
怒られた。全く逆の意味で。
「まぁ、にゃんたこ様のお許しが出たなら。というかこれって元々やる気だったんですね」
見ればお茶会をしていたテーブルとは別に、魔法陣を使ったオリジナルのキッチンや大量の肉や魚、野菜、さらには氷の地面にはアイスまで刺さっている。それはばっちいぞ。
「でもみんな集まってるからちょうど良かった。んじゃみんなで乾杯しよ! 乾杯!」
ここまで来れば楽しまなきゃ損だ。飲んで食べて新年早々遊びまくってやる!
「え〜〜それじゃあご挨拶を。皆さん本日は――」
「「「ブーブーブー!!!」」」
「――なんて堅苦しい挨拶は抜きにして乾杯!」
「「「乾杯!」」」
カチャン! と打ち鳴らされるコップの音を皮切りに、全員が一斉に動き出す。こりゃ幹事は大変だなんて他人事のように思いながら、私もみんなに倣って飲んでは食べ飲んでは食べを繰り返し、ひたすら騒ぐことにした。
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それから数時間後。夜を迎えたパラディーゾはすっかり暗くなり、辺りを照らすのは火の魔法によるやさしい光のみとなった。【幻蝶・氷華】とはまた違った幻想的な光景を作り出しているのは光を反射する氷の大地と氷の花のイルミネーション。夢の中だと言われてしまえば信じてしまいそうだ。
「いい一日だったなぁ」
残ったお料理もまばらになりお酒でダウンする者も出る中、私は椅子をゆらゆら傾けながら普段よりも近い星空を眺めていた。「ちょっと。あの子、黄昏てるわよ」「ルノさんはああいう所があるからな」なんて聞こえてきたが、まぁ事実なのでスルーしておく。
「こら〜〜なんで無視するのよ〜〜?」
「うわ、来た!?」
私のことを勝手に黄昏てる認定していたフウカだ。一緒に飲んでいたランペッジさんはテーブルに突っ伏して寝てしまったらしい。
「せっかくの雰囲気が台無しだ〜〜この酔っ払いめ〜〜」
「失礼ね。妖精王はお酒に溺れたりしないわよ」
いつかのにゃんたこ様と同じ発言をするフウカはお酒くさいことを除けば確かにいつも通りだ。むしろ美しい妖精が加わったと考えればアリかもしれない。
「アンタは酔ってないのね。何? お酒嫌いなの?」
「んや。黄昏てたら抜けちゃっただけだよ」
「あはっ! 自分で言っちゃうのね?」
「またそうやってからかうんだから。なんなら一緒に飲む?」
「ふふ〜〜ん。お酒はもういいのよ。今からはお遊びの時間よ」
ギクリ。その単語で思い出されるのはにゃんたこ様だ。『お遊び』と称した理不尽なまでの魔法合戦。ぶっちゃけ同じ部類のフウカに言われると嫌な予感しかしない。
「そんなに身構えないでよ。ちょっとした暇潰しよ。アタシから一本取ったらご褒美あげるわよ?」
「一本って。ランペッジさんと飲んだせいで半分ランペッジさんになっちゃったの? そりゃマズいよ……」
「なんで可哀想な人を見るような目をしてんのよ!?」
いや、ようなではなく全くもってその通りでございます。
「でもそんなこと言っていいのかな? 今の私はにゃんたこ様との魔法合戦を経て覚醒してるからこの前みたいにはいかないよ。今度こそ勝っちゃうかもね」
「覚醒って。アンタこそランペッジじゃない。別にいいわよ? 大輪でも幻蝶でもなんでも来なさいな」
「言質とったど〜〜! じゃあ勝った方はあそこで眠りこけてるフユナにちゅうね」
「あら、自分の娘を売るなんて。いいわ。アタシが勝利してフユナはもらうわ!」
「そこまで言ってない!? けどどうせ私が勝つ!」
なんせ私はあのにゃんたこ様を追い込んだのだから。一応、格付け的には一位にゃんたこ様、二位フウカ。なのでもはや勝ったも同然!
「そうと決まれば先手必勝! 咲き誇れ! 零の導き――ぎゃあ!?」
勝ちを確信しながらの詠唱に隙を見つけたフウカが遠慮なくガツンと後頭部をどついてきた。
「ちょ!? 卑怯! ズル! ノーカンノーカン!」
「なによ。自分で先手必勝って言ったんじゃない。まさか詠唱を待てとか言う気じゃないでしょうね?」
「その通り。見たいでしょ? 私の超魔法【幻蝶・氷華】」
「超……あはっ!? わかった、待っててあげる。その代わりアタシが勝ったら報酬二倍ね」
それはちょっとご褒美が過ぎるんじゃないかな。二倍ってつまりちゅっちゅするってことでしょ? ……まぁ、発動が約束された時点で私の勝ちは決まったようなものだからいっか。
「オッケー! では改めていくよ! ――咲き誇れ、零の導き! 【大輪・氷華】! 導け、氷魔の聖線! 【グラスサークル】!」
詠唱完了と同時に地面から突き出した氷華が私ごと空へ向かって咲き誇る。やがて最大まで成長した頃には魔法陣の描き込みまで完了。二度目なので手馴れたものだ。
そして。
「舞い踊れ、零の導き! 【幻蝶・氷華】!」
開花と同時に飛び立つのは青白い光を放つ幻蝶達。今は夜ということもあって、にゃんたこ様の時とはまた違った美しさに満ち溢れている。
「ふんふん。本当に綺麗ねぇ。……もう動いていいのかしら?」
「もちろんだよ。待っててくれてありがとう。そして終わりだよ!」
フウカを取り囲むように舞う幻蝶の数はおよそ百匹。死角のない陣形を組んだそれに「ずどん!」と合図を送り込めば私の勝ちだ。
「隙あり」
「え?」
声が聞こえたのはまさかの背後。満遍なく取り囲まれたあの状況を一瞬で脱した!?
「初見なら遅れを取ったかもしれないけど残念。蝶は幻なのに魔法を撃たれたらこっちはくらう。なら真っ先にアンタに一発くれちゃえば終わりよね? 幻なおかげで簡単にすり抜けられるから近付くのも簡単……ってね!」
「うぎゃ!?」
パタン。本日二度目の気絶。最強だと思った魔法が呆気なく敗れ去ったことに涙を流す暇もなく私は意識を手放してしまったのだった。
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「うわ〜〜ん! フユナ〜〜!? フウカのばか!」
目を覚ました時には全てが手遅れだった。目の前にはフユナを撫でながらちゅっちゅするフウカ。そしてなぜか私は顔以外の全てを氷漬けにされて身動きができない状況に陥っている。
「ちょっと! ここに来てフウカとにゃんたこ様のコンビは反則だよ! にゃんたこ様〜〜! 後生なのでこの氷から解放してくださいよ〜〜!?」
「だめ。力に溺れた罰だよ。反省して」
「ひ〜〜ん!?」
返す言葉もない。身をもって知ってしまった【幻蝶・氷華】の弱点。そしてにゃんたこ様の言葉通り、それに溺れていた自分が情けない。
「ぐす。もう魔女やめたい……」
「ルノから魔法を取ったら何も残らないよ」
「ひ、ひどいっ!?」
しかしあまりにも核心をついたその言葉が容赦なく私の傷口を抉っていく。
新年早々なんて最悪な日だ。おみくじを引いたら絶対大凶だ。
そんな文句ともいえない文句を呪いのようにひたすら唱える私は日付が変わるその時までフユナお預けの刑に処されることとなったのだった。
めでたしめでたし。