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☆氷の魔女のスローライフ☆  作者: にゃんたこ
158/198

第157話〜新年あけましておめでとうございます② 新年の大魔法【幻蝶・氷華】〜


〜〜登場人物〜〜



・ルノ (氷の魔女)

 物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。


・サトリ (風の魔女・風の双剣使い)

 ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。


・フユナ (氷のスライム)

 氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。


・カラット (炎の魔女・鍛冶師)

 村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。


・グロッタ (フェンリル)

 とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。


・ランペッジ (雷の双剣使い)

 ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。


・スフレベルグ (フレスベルグ)

 白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。


・レヴィナ (ネクロマンサー)

 劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。


・コロリン (コンゴウセキスライム)

 ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。


・フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ

 魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。


・にゃんたこ (神様)

『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。


・フウカ (妖精王)

 妖精の秘境『妖精郷』に住まう妖精の王。神様とは友人関係にあり、その実力も折り紙付き。風の魔法を得意としており、中でも【風刃・風華】は風魔法最強を誇る力を持っている。



 武器屋『カラット』

 その中にある住居スペースの部屋にて、大きな丸いテーブルを十人もの人数で囲みカラットさんお手製のお雑煮をいただいた私達は『ごちそうさまでした!』の挨拶と共に両手を合わせてペコリとお辞儀。信念初のお雑煮はなかなかのお味でした。


「ふっふっ! ルノちんに教わってからけっこう練習したからな。これはキノコと塩でつくったスープなんだけど、最初の頃はやけに面白いのができてさ。文字通り笑いが止まらなくなったりしたんだよ。ははっ!」


「それって完全に『毒』ですよね。食後に怖いこと言わないでくださいよ。笑い転げてる人は……」


「ゲラゲラ! スフレベルグ! 貴様、モチで嘴が開かんではないか! ゲラゲラ!」


「〜〜っ! 〜〜っ! ゴクン」


 あれはグロッタの素なので問題ない。スフレベルグもあまり心配させないでおくれ。


「安心しな。毒を盛るようなマネはしないって!」


「そこまで言うなら信じます」


 前例があるだけにちょっとだけ心配だが、今回ばかりは本当に大丈夫らしい。いつかのように入れ替わりの薬なんて盛られたら新年早々大変だからね。


「それじゃあ、お昼もいただいたことですしそろそろ行きましょうか」


「次はフィオちゃんのところだよね。フユナ達から行くのは初めてじゃない?」


「確かに。って言っても建物自体は何回も通ってるから見てるんだけどね。たまにはこっちから行って驚かせてあげるのもいいんじゃないかな」


 出会ったばかりの頃は毎日のようにうちにやって来ては元気な挨拶に驚かされたのはいい思い出だ。今日はそのお礼参り……なんてね。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 場所は変わって、ヒュンガル唯一の宿。

 二階建ての計十六部屋。土台にこそ石も使われているがそれ以外は全て木造り。キャンプ場にあっても不思議ではないその風貌は控えめに言っても王女様が暮らすにはあまりにも不釣り合いだ。「自然の香りがして素晴らしい宿ですよ」なんて聞いたことがあるから本人は大満足しているみたいなのでこちらから言うことは何もないが。


「えっと、二階の八番っと……ここだね。刺客とか来ないか心配だったけどこんな場所にいるなんて誰も思わないね」


「オンボロですもんね」


「こら、違うよコロリン。こういうのは『味がある』っていうの。たとえオンボロでもそう言っておけばみんな幸せなんだよ」


「わかりました。……このオンボロの宿は味がありますね」


 なんか違う気もするけどいいか。とにかく今はフィオちゃん、そして護衛のオリーヴァさんやバカさんに新年のご挨拶をするのが先だ。


「てことで……こんにちは、ルノですけど〜〜」


 コンコンと控えめなノックで訪問の合図を送る。どうせこの後に『お久しぶりです、先生〜〜!!』といった感じにノックの音とは比較にならないくらい元気なフィオちゃんが出てくるんだろうなぁなんて思いながら待つこと数秒。……未だに返事はない。


「もしかして王都に帰っちゃってるかな……?」


 十分に有り得ることだ。そもそも王女様が宿で新年を迎えるなんて考えていたのが間違っていた……と、思ったとき。


「おや、空いてますよ? 突撃!」


「こら!?」


 鍵が掛かっていないというまさかの事態が発生。不用心なことこの上ないが気付いたのが私達でよかった。突撃したコロリンはしっかりお仕置きしておくとしよう。


「ごめんね、フィオちゃん。……フィオちゃ〜〜ん?」


 いない。室内は寝室にリビング、あとはトイレやお風呂のみ。いるならば気付くはずだが返事がないことからも分かる通りここは紛れもなく無人の部屋だ。


「なるほど。つまりこれは誘拐ですね」


「「「なんだって〜〜!?」」」


 私以外全員の叫びがシンクロする。人数が人数だけになかなかの大音量だ。


「こ、怖いこと言わないでよ。王都に帰ったんでしょ。鍵は忘れただけでさ」


「ルノ。あなたはこれを見てもそんなことが言えますか?」


「なっ!?」


 突き出された一枚の紙。その中央に書かれた文字は至ってシンプルだった。


『王女はお怒りだ。パラディーゾにて待つ』


 ……ん?


「……なんか違くない? 前半の文はなによ?」


「文字通りですよ。フィオがお怒りで攫われたんです」


「いや、意味わかんないよ……」


 しかし鍵が開けっ放しでいないという事実、そしてこの手紙とくれば少なくとも王都に帰ったという線はなくなったことになる。他のみんなも少なからず不審に思ったらしく、それぞれがゴミ箱の中や排水溝などを探し回っているようだ。……なぜそんな場所を。


「なんだとっ!?」


 そんな時、声を上げたのはランペッジさん。最後尾にいた彼は入口の扉の前で固まっている。


「どうしたんですか? まさか閉じ込められたなんてギャグかます気じゃないでしょうね」


「その通りだ!」


「ええっ!?」


 それが本当ならこれは罠。私達を一箇所に集め監禁。明らかな悪意を前に私達はなすすべもなく――


「「「あ!」」」


 いよいよもって焦りを見せ始める私達を白い光が包み込んだのはそのときだった。同時に魔法陣が部屋一面に浮かび上がり、全員の姿が一瞬のうちに消えてしまう。人目にも触れることの無い完全なる犯行が成立した瞬間だった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ぎゃあ!」


「うわっ!?」


「ピキ〜〜ン! (コンゴウセキ魔法)」


「ひゃあ!」


「とう!」


「ほっ!」


「ふん!」


「……(スタッ)」


 突如現れた魔法陣によって、私達は全てが氷によって作られた広大な大地に転送されていた。始めに私、次にフユナ。コンゴウセキ魔法で無傷のコロリンの上にレヴィナ。後半のサトリさん、カラットさん、ランペッジさん、そしてお姉さんはそれぞれ見事な着地を決め、最後に――


「ぐおっ!?」


「ぎゃあああ!」


 すぐ横にグロッタとスフレベルグがポイされた。少しズレてたら押し潰される所だったぞ……


「いたた……!?」


「なにここ。きれ〜〜い!」


「氷の大地に氷の花?」


「ここ、空の上ですよ……!?」


 みんなの下敷きになった私は痛いのなんの。おかげでここが見慣れたパラディーゾだということに気が付くまで数分を要した。つまりこれは……にゃんたこ様の仕業?


「よくぞ来ました!」


 ようやく犯人像が見えてきたその時。パラディーゾの中央、そこに咲き誇る一際高い氷の花のてっぺんに何者かの姿が見えた。

 真ん中、声を発したのは氷の花に座っているのは金髪の綺麗な髪をしたボスらしき少女。その左を飛ぶのは美しい羽を生やした妖精。右には小柄ながらも身長を超える程の髪をなびかせた神々しい人物――行方不明だったフィオちゃん、そしてフウカににゃんたこ様だった。


「ほう。これはまた珍しい組み合わせで……」


「感心してる場合じゃないですよ! 先生、お久しぶり……じゃなくて! なんで今日まで私を放置してたんですか! わ〜〜ん!」


「あはは、ごめんごめん。で、何してんの?」


「かるい!?」


 予想通りの理由でご機嫌ナナメなのはさておき、久しぶりに会ったフィオちゃんはやはり元気なフィオちゃんで安心した。ひとまず誘拐されたという心配は解消されたとみていいだろう。

 そうなると次の疑問は――


「にゃんたこ様はいったい? フウカはともかくにゃんたこ様は神様なんだから真ん中では? いや、なんのチームか知りませんけど」


「……(もぐもぐ)」


 返事はない。しかし大人しく控えている辺り、この状況は合意の上のようだ。きっとお高級なお菓子で買収されたな。


 と、そこで。


「先生」


「はい」


「今日は新年のご挨拶に来たんですよね?」


「あぁ、そうだった。フィオちゃん、新年あけましておめでとうございます」


「あ。あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします! ……じゃなくて! ここへ来てもらったのは他でもない! 新年を迎えるにあたって、先生にはまず『私のことを放置していた罰』という名のご挨拶を受け取ってもらいます!」


「はい?」


 何を言っているんだこの子は。


「さぁ! 私のご挨拶、しっかりと受け取ってください! 魔法合戦開始ですよ! フウカ、にゃんたこ! やってしまいなさい!」


「お任せあれ!」


「ぎょい」


「え、うそでしょ? ちょ!?」


 にわかには信じられないが、あのフウカとにゃんたこ様が王女様の忠実な家臣を演じるかのようにこちらに狙いを定めてくるだと!?


 そして――


「「どん!」」


 氷の弾丸と風の弾丸。二つの驚異が王女様の怒りを代弁するかのように、もれなく私に向けて放たれたのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 成り行きとはいえとんでもないことになってしまった。いつもそうだが、なぜ私は拒否権のない魔法合戦に巻き込まれてしまうのか……そんなの簡単だ。相手が規格外すぎて拒否しても拒否できないからだ。


「楽しいね、ルノ」


「あはっ! 新年早々テンション上がるわね!」


「ひぃ〜〜!?」


 楽しい言いながら氷の弾丸を撃ち込まれ、テンション上がると言いながら風の弾丸を撃ち込まれ、そのどちらにも同意できない私は氷の箒で空を飛び、ときには地を走りひたすら逃げ惑う。なんの罰ゲームだこれは!


「今年はもっとかまってくださいね、先生?」


「オッケー! かまってあげる! だからもう――」


「やった! ありがとうございます、先生!」


「ならやめてよ!?」


 王女様が妖精王と神様という規格外の力を手に入れてしまったが故の結果がこれだ。これはもう両サイドの二人を黙らせるしかないが――


「どん。どんどんどん」


「どん! あはっ! アンタも撃ってきていいのよ〜〜? どんどんどん!」


「そ・ん・な・ひ・ま・な――ぎゃあ!?」


 各種一発ずつ当たった……激痛。


「わかった! それならこっちだってやっちゃうかんね! 誰かヘルプ!!」


 そもそもの問題として、私一人に対してフィオちゃん、フウカ、にゃんたこ様の三人というのがおかしい。フィオちゃんは見ているだけとはいえ、フウカとにゃんたこ様というコンビを考えればこちらは全員で殴りかかってもお釣りがくるのだ。だからなるべく全員で助けに来て。


「えっと……フユナは遠慮しておこうかな」


「私は防御専門なので」


「私はちょっとついていけそうにありませんので……」


「ちょっと〜〜!?」


 我が家族達はもれなく見学の意志を見せてくれた。そしてお菓子をパクリ。

 見れば一緒に来たはずのみんなは隅っこのほうに設置されたテーブルにてオリーヴァさんやバカさん、そしてお姉さんにお茶とお菓子のおもてなしを受けている。あそこだけちゃっかりお正月気分じゃないか。


「私は手伝ってもいいぞ! 楽しそうじゃないか!」


「あ、師匠が行くならわたしもやろっかな」


「なんだなんだ? そういうことならオレもやらない手はないだろう」


 絶望しかけた頃、立ち上がってくれたのはカラットさん、サトリさん、ランペッジさんの武闘派三名だった。良い! 実に良いぞ! と歓喜した時には受けた弾丸は既に五発にものぼっていた。ここまで一人で耐えただけでも表彰ものじゃないかな……


「とにかく決まったなら早く来て!?」


 できればニセルノにも参加して欲しかったがアレはフユナとコロリンに挟まれて幸せそうにお茶を啜っているのでダメだ。今は強力な助っ人が三人も来てくれたことに喜ぶとしよう。


「ちょっと。それだと実質四人対二人じゃない? ずる!」


「ずるくない! 妖精王に神様なんだからむしろまだ無茶振りは継続中だかんね! ――煌めく彗星! 【輝氷の射手】!」


 ようやくここで反撃のチャンスがやって来た。氷の弾丸をカラットさんが槍で弾き、風の弾丸はサトリさんが双剣で防御。隙ができるとランペッジさんが果敢にもフウカとにゃんたこ様に双剣で斬りかかってくれた。


「ふんふん。人間なのにやるわね。さすがはルノの仲間ってとこかしら」


「内二人は魔女だよ。槍の子とサトり……風の子」


 などと会話しながらも余裕を見せるのはさすがと言うべきか。当然と言えば当然だが、あの二人はまだまだ余力を残しているみたい。


「で、アンタは?」


「雷光・ランペッジだ!」


 最後に注目されたランペッジさんだが、残念なことにカッコイイ名乗りとともに放たれたその攻撃は決まらず。しかし見てわかる通り最も接近しているのはあの人だ。


「……ただの双剣使いだよ。くす」


「そうは思えない――わね!」


「ちぃ!」


 背後をとったランペッジの一撃を頭を下げたフウカが見事に躱す。完全に決まったと思う一撃だったが、それでもフウカの髪の毛を数本切り落としただけにとどまった。


「いや……んん!?」


 ここで疑問。ランペッジさんは確かに強いが、私を含めた残りの三人が未だに距離を詰められずにいるのだ。にも関わらず、前述のような成果を上げたのだ。『隙をついた』というだけで説明できるものではない。


「っと! 気にしてる場合じゃない! なら私達はにゃんたこ様を!」


 今だけはその力に頼るとしよう。ぶっちゃけこっちの方がヤバいんだから。


「くす、わかってるね。――迫る終焉、氷の牙」


「「「あっ!?」」」


 フィオちゃんの元を離れ本格的に動き出したにゃんたこ様が私達三人の猛攻をものともせず接近。三角形に組んだ陣の中心に詠唱と同時に降り立った。


「全てを穿て。【怪狼・フェンリル】」


 自ら包囲されに来たと思いきや突然の広範囲殲滅魔法が炸裂。この空間全てが攻撃範囲だとでも言うかのように周囲には次々と特大の氷の槍が地を抉りながら突き出してくる。


 だが。


「はぁ……危なかった……」


「はは。双剣使いで終わってたら死んでたね」


「【怪狼・フェンリル】か。ルノちんの魔法を見たことがあって良かったな」


 魔女の特権、空中浮遊。揃って空に飛び立った私達は【怪狼・フェンリル】の射程外までなんとか逃げ延びることができた。


「成長してるね。……あの頃よりも」


 あの頃。過去、にゃんたこ様に『ハズレ』の烙印を押されて記憶を消されたサトリさんとカラットさんは覚えていないみたいだが、あの二人も神様のお遊びと称した魔法合戦に巻き込まれたことがあるのだ。それが何年前かまでは知らないが不老不死を舐めてはいけない。


「なら成長した姿を見せてごらん。次はルノの番」


「はっ!?」


 逃げ切って油断するなんて私はバカか!? なんて思った時には時すでに遅し。同じく浮遊の魔法で追い討ちをかけてきたにゃんたこ様に撃ち落とされた私はそのまま氷の地面に激突した。


「い、いたた! お尻打った……!」


「どん」


「わっ……ぎゃ!」


 尻もちをついたところへすかさずどん。それを躱して地面に後頭部をガン! ぶっちゃけこの中で一番ボロボロなのは私なのだからあまり張り切って攻めてこないでほしい!


「躱せるようになっただけマシだよ。他の二人なら――どん」


「「ぎゃあ!?」」


 嬉しい褒め言葉と共に頼もしい仲間が撃沈。私とにゃんたこ様のやり取りの間に隙を見つけたサトリさんとカラットさんが見事なコンビネーションで槍と双剣による左右同時攻撃を仕掛けたが、にゃんたこ様はそれに目もくれず左右の手を向けてどん。いつかニセルノに聞いた『にゃんたこ様のアホ毛が目になっている説』が濃厚になった瞬間だった。


「くぅ、ここでリタイアは厳しいけどありがとうございました! ずどん!」


 残念ながらのびてしまったサトリさんとカラットさんにはお礼だけ告げてずどん。巻き込まないよう、場外へと吹き飛ばした二人は場違いなティータイムを満喫しているみんなに無事受け止められた。


「相変わらず優しいね」


「にゃんたこ様ほどじゃありませんよ」


 なんせこれだけやり合っておきながら生きているのだから。いや、だいぶボロボロなんだけどね。


「さてと。私もやられてばかりじゃありませんよ!」


「当然。ルノの成長が一番楽しみだよ」


 その言葉を嬉しく思うと同時にやる気がみなぎる。ならば新年早々、期待に応えて見せようじゃないか!


「とりあえず! 離れてください! ――迫る崩壊、破壊の鉄槌。全てを砕け! 【氷拳・プーニョ】!」


 ハイになっているおかげで普段よりも何割か増しの巨大な氷の塊が放たれる。それをにゃんたこ様はタンッと素早く後退し最後には――


「【滾る紅炎】」


 太陽もかくやというほどの炎で一瞬にして蒸発させた。一秒にも満たない僅かな時間。しかし成長を見せると決めた以上、これで十分だ。


「行きますよ! ――咲き誇れ、零の導き! 【大輪・氷華】!」


「……?」


 にゃんたこ様直伝の最強魔法。だが、当然見慣れたそれは驚くには値しなかったようで、その表情には少々の落胆が見て取れた。それが今の私にとっては心地よい。


「ふふ、まだですよ」


 空に向かって咲き誇る一輪の氷華。その先端の飛び乗った私は更なる魔法を行使する。


「導け、氷魔の聖線! 【グラスサークル】!」


 にゃんたこ様曰く、私だけのオリジナル魔法。高度な魔法陣を描くこの力を使ってやることは一つ。【大輪・氷華】に【グラスサークル】を重ね合わせ、新たな魔法へと昇華させる!






「舞い踊れ。零の導き! 【幻蝶・氷華】!」


 開花。そして羽化。蕾を開いた氷華から産まれた数多の蝶が周囲を埋め尽くすのは一瞬だった。


「これは……?」


 氷の地面に氷の花。そこへ加わった数多の蝶によってパラディーゾは幻想的な世界へと様変わり。これはにゃんたこ様にとっても初見の魔法……どうやら興味を引くことには成功したようだ。


「じゃあここからはさらに驚いてもらいますよ。それっ!」


 パラディーゾを飛び回る蝶の一匹が音もなくにゃんたこ様の背後に近づくと、私の合図に呼応し、ズドン! っと【輝氷の射手】と同じ氷の弾丸を撃ち出した。


「っ!」


 が、そこはやはり神様。完全に意表をついた攻撃をギリギリで躱す。そう……『ギリギリ』でだ。


「いいかんじ! どんどん行って!」


「……撃ち落とす」


 続いて蝶から撃ち出された弾丸を一度目より余裕をもって躱したにゃんたこ様は標的を私から蝶へと切り替える。しかしその対応の早さが今だけは命取り。絶好のチャンスだ!


「えっ……?」


 目には目を。弾丸には弾丸を。同じ【輝氷の射手】を放ったにゃんたこ様の表情が驚愕に染まる。蝶を確実に捉えたはずの攻撃がすり抜け、幻蝶の名に恥じぬ見事な翻弄っぷりを見せる。こうなればあとはこちらのモノだ。


 ところが。


「終わりです! ――ずど……ん……ぁ……?」


 千載一遇の大チャンス。しかし私はそれをモノにすることなく、猛烈な疲労感と共に意識を手放してしまったのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ねぇねぇ。ルノは大丈夫なの?」


「回復魔法もかけたから大丈夫。起きないのはルノが寝ぼすけなだけだよ」


「さすがルノちゃん。スローライフ好きは伊達じゃないね」


「「「あはははっ!」」」


 耳に響く笑い声。フユナににゃんたこ様にサトリさん。……どうやら私は気を失っていたらしい。


「あ、起きた! 大丈夫ルノ?」


「ん……大丈夫……かな。ちょっとだるいけど」


 その後、にゃんたこ様から説明を受けた私は全てを思い出した。新年の挨拶のこと。フィオちゃんとグルになったにゃんたこ様とフウカにパラディーゾに転送されて来たこと。拒否権のない魔法合戦の末に私がにゃんたこ様から一本取れたかも? という寸前まで追い込んだこと。ちなみに『取れたかも?』の部分は異様なまでに強調された。


「こほん。なかなか面白かったよ。【幻蝶・氷華】」


「ありがとうございます。にゃんたこ様の【大輪・氷華】を私なりにアレンジしてみたんですよ」


「うん。だけどそれが裏目に出ちゃったね。あれだけボロボロの状態で【大輪・氷華】からの【グラスサークル】。仕上げに【幻蝶・氷華】。魔力切れになるのも無理はない」


「そういうことか……。これからの課題ですね」


 なんだかどっと疲れが押し寄せてくる。やりきった感というものだろう。こんなに清々しいのは久しぶりだ。


「いや〜〜でもルノちんも人が悪いよなぁ。あんなのがあるなら初めからぶっぱなしちまえば良かったのに」


「確かに。にゃんたこちゃんの言葉通りなら魔力切れにならなかったかもしれないし」


「オレはいつもより調子も良かったから楽しめたけどな!」


 未だ続くお茶会からカラットさん、サトリさん、ランペッジさんの声が届く。好き放題言ってくれるものだがみんなの協力があってこそあそこまで繋げたんですよ〜〜っと心の中で呟いておく。


 と、会話が途切れるとここでようやく黒幕が登場。


「先生〜〜! かっこよかったですよ〜〜!」


「あっ、この子は心配させて!!」


 まるで悪巧みをなかったことにするかのように抱き着いてくる黒幕のフィオちゃん。途中から避難してお茶会に混ざってたの知ってるぞ。


「まぁまぁ、許してあげなさいな。このちっこいのもアンタに会えなくて寂しかったみたいよ?」


「きゃ〜〜妖精王さん、余計なこと言わないでよ!?」


 ヒョイと顔を出したフウカに全てを暴露されおかんむりの王女様。言われずともみたいな部分もあるので今更焦っても遅いですよ、と言いたい。


「まぁ、寂しい思いをさせちゃった先生の責任もあるしね。今年はもっと遊ぼう、フィオちゃん」


「は〜〜い、もちろん!」


 というわけで和解も成立。これにて一件落着……じゃなかった。


「本来の目的を忘れるところだった。えっと、フィオちゃん、オリーヴァさん、バカ……こほん、バッカさん。そしてにゃんたこ様、フウカ。改めて、あけましておめでとうございます」


 今年もよろしくお願いします! その言葉を皮切りに、ここに集まって全員での賑やかなお茶会は深夜まで続くことになったのでした。


 ……というのはまた別のお話しで。



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