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☆氷の魔女のスローライフ☆  作者: にゃんたこ
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第155話〜サトりんのサイン会〜


〜〜登場人物〜〜



・ルノ (氷の魔女)

 物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。


・サトリ (風の魔女・風の双剣使い)

 ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。


・フユナ (氷のスライム)

 氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。


・カラット (炎の魔女・鍛冶師)

 村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。


・グロッタ (フェンリル)

 とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。


・ランペッジ (雷の双剣使い)

 ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。


・スフレベルグ (フレスベルグ)

 白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。


・レヴィナ (ネクロマンサー)

 劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。


・コロリン (コンゴウセキスライム)

 ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。


・フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ

 魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。


・にゃんたこ (神様)

『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。


・フウカ (妖精王)

 妖精の秘境『妖精郷』に住まう妖精の王。神様とは友人関係にあり、その実力も折り紙付き。風の魔法を得意としており、中でも【風刃・風華】は風魔法最強を誇る力を持っている。


 とある日の夜。


「ルノ〜〜! 見て見て〜〜!」


 ただいまの声に続いて、いてもたってもいられないとばかりに一冊の本を見せつけて来たのはサトリさんとの特訓を終えて帰宅したフユナ。ちょうど夕飯の支度も終えたところだったので私は真正面から本どころかフユナまで受け止めてあげた。頬ずり頬ずり。


「で、なんだっけ。初回限定版が買えてテンション上がってるの?」


「ちゃんと見て! これ、サトりんの本だよ! 帰る時にくれたの!」


「うわわっ!?」


 せっかくの至近距離がサトりんの本とやらによってぐいぐいと広げられる。まるでこれが私とフユナの壁だとでも主張するかのように。


「おのれサトりんめ……どれどれ」


 サトりんの本。それはすなわち『双剣使い・サトりんのワクワク冒険記』のことだ。フユナが双剣使いとなったきっかけであり、初めて一緒にお出かけしたときに買ってあげた思い出の一冊。それの最新巻というわけか。表紙には『双剣使い・サトりんのワクワク冒険記 その2』というタイトルと共に、サトりんと魔女による戦闘の一場面が描かれている。ちなみに魔女のモデルは私だ。


「ついに出たのね。本のネタにするとか言ってサトリさんと勝負した日から全く話題にならなかったからお蔵入りになったのかと思ったよ。よかったね」


「うん! しかもそれだけじゃなくてなんと! 明日、サトりんの発売記念サイン会があるの!」


「サトリさん……いや、サトりんって言った方がいいのかな。サインなんている?」


「いるよ〜〜!? 明日、ルノも一緒に行こうね!」


「……え? あ、うん。明日なんだ……」


 段取りのいいスケジュールについ苦笑い。しかしサイン会まで開催してしまうとはなかなか思い切ったことをするものだ。もしかして私が知らないだけでフユナみたいな本好きの間ではサトりんブームにでもなってるのかな?


「となると行列の可能性も考慮して寒さ対策もしっかりしないとね。並んでる間は暇だろうからゲームなんかも持ってこうか」


「なんだか手馴れてるね。ルノもサイン会とか行ったことあるの?」


「ふっふっ。とある世界にはコミックをマーケットする催しがあってね。夏は灼熱地獄、冬は極寒……そんな厳しい世界を生き抜いた末には極薄の本からは想像できないほどの感動が詰まったお宝を手に入れられるんだよ。運が良ければサインなんかも……!」


「すご〜〜い!?」


 まぁ、私自身は行ったことないんだけど。


「なんにせよイベントは楽しんだ者勝ちだよ。明日は思いっきり楽しむぞ〜〜!」


「お〜〜!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 そしてサトりん(サトリさん)のサイン会当日。天気にも恵まれ、空には雲一つない見事な快晴となった。

 会場となっていたのはヒュンガルの中心にある噴水広場。小さいながらも立派な噴水をバックに、数冊の本とペンを乗せたテーブルがサイン会はここだとアピールするかのように設置され、準備万端のサトりんがイスに座っている。……だがそれだけ。


「なんでだろ。サトリさんの背中がものすごく寒そう」


 サイン会の開始は午前九時。私達が余裕をもって三十分前に到着したことを踏まえればこの静けさも当然かもしれないが……これはあまりにも虚しい。思えば今日はコミックをマーケットする日ではなく、サトりんのサイン会なのだ。同じ規模で考えたのがいけなかった……かも。


「やった〜〜! 一番乗りだね、ルノ!」


「あ、うん。そうだね……」


 ポジティブに捉えるのであればそう。だけどこれは多分もう結果が出ちゃってるんじゃないかな〜〜なんて思ったり。要するに来場者が私達だけ説。


「と、とりあえず行ってみようか。ちょっと早いけどフユナが来てくれたことを知ったらサトリさんも喜ぶよ」


「うん! お〜〜い、サトリちゃ〜〜ん!」


 何事も前向きに。待ち時間もなしで大好きな人のサインをもらえると思えば良いこと尽くしだ。なんならこの後は久しぶりにフユナと二人きりで村を散策するのもいいかもしれない。


「おぉ、フユナちゃんにルノちゃんまで! 二人ともいらっしゃい!」


 ぱあっと咲き誇る笑顔はおそらく私の考えの肯定したとみて間違いない。残念ながらサトりんブーム到来は絶望的のようでございます。


 なので。


「おはようございます。はい、これどうぞ」


「なにこれ」


「見ての通りホットなコーヒーです。来場者が私とフユナだけであまりにも虚しいのでそこの売店でコーヒーさんも連れてきました。もしよければドーナツさんやクッキーさんも――」


「わ〜〜ん! ルノちゃんのバカ〜〜!」


 せっかく立ち上がったというのに再びイスに座ってテーブルに突っ伏してしまうサトリさん。あまりにも堂々と構えていたものだから気にしていないのかと思った……


「てかまだ開始三十分前だからね。それにわたし的にはフユナちゃんが来てくれただけで目標達成だよ。オマケでルノちゃんも来てくれてラッキー!」


「あっ!? 来場者をそんな風に言ったらいけないんだ!」


「さて。ちょっと早いけどフユナちゃんも来たし始めちゃおうか!」


「無視された」


 ケロッと立ち直る辺り、どうやら本人はそこまで落ち込んではいないらしい。前述の通りテーブルに用意されている本も数冊のようだし、新規のファンは来てくれればいいかな〜〜くらいの意気込みなのが見て取れる。


「サトりん! あ、あの! いつも楽しい本を……えと、これも楽しかったです! サ、サインください!」


「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいな。お名前は?」


「え? ……あ! フ、フユナですっ!?」


「オッケー。フ、ユ、ナ、さ、ん、へ……と。はい、どうぞ。来てくれてありがとうこざいます! はい、握手」


「はわわわ……!?」


 名ばかりかと思ったサイン会は思いのほか本格的だった。フユナは大好きなサトりんを前にカチコチに緊張しているし、それに対するサトリさんの受け答えもすっかりサトりんのそれになっている。さすが本を出すだけあって切り替えが素晴らしい。


「ルノ……サインもらっちゃった……! 握手まで……!」


「あはは、良かったねフユナ。……ん?」


 戻ってきたフユナが見せつけてくるサイン本が二重に見えるのは気のせいではないはずだ。となるとおそらくそれもサイン本。なんとなく予想はできるが一応聞いてみる。


「フユナさん。何故にサイン本が二冊もあるのですか?」


「うん? こっちは昨日もらった普段読む用で、こっちがさっき買った保存用だよ。あ、飾っておく用のやつ買い忘れちゃった! もう一回行ってくる〜〜!」


「ちょ、フユナ!?」


 ついにこの日が来てしまったか。物語のサトりんだけでなく現実のサトりんにまでゾッコンなフユナのことだ。理解はしている……が、まさかここまでガチ勢になってしまうとは。お母さん複雑。


「えへへ〜〜! こっちには『フユナちゃん大好き』って書いてくれたよ〜〜♪ もう一回行ったらなんて書いてくれるかな〜〜?」


「……」


 それ、もはやいつものサトリさんなのでは? なんてことはフユナの嬉しそうな顔を見たあとではとても言えない。さすがにもう一回は止めさせたけど。


「まぁ、フユナが楽しんでくれたようで何よりだよ。せっかくだしこのままカフェでコーヒーでも飲みながら読書なんてシャレオツな過ごし方をしてみようか」


「うん! 今日は一日デートだね」


「デート……!」


 これはとんだご褒美。正直なところ私の楽しみはそれだったので、待ちわびたとばかりに足取りが軽くなってテンションが上がったのは致し方ない。実に良い一日だ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「あ、二人ともちょっと待って!」


 そんな声が響いたのは私とフユナが揃って背を向けてカフェへと足を踏み出したときだった。


「ルノ。サトりんが呼んでるよ?」


「ほんとだね。寂しくなっちゃったのかな?」


 なんせ私達は唯一のお客さんだ。この場を去ってしまえば今朝のような一人ぼっちの寂しそうな背中が再び現れてしまうことになる。仕方ないな。


「今度、コーヒーサービスしてくださいね」


「何訳わかんないこの言ってるのさ。カフェ行くんでしょ? 一緒に行こうよ。いいよね、フユナちゃん」


「でもサトりん、サイン会はもういいの?」


「言ったでしょ? フユナちゃんが来てくれたから目標達成! 新規のお客さんなんて期待してないからね!」


「自分で言っちゃいましたね」


 サイン会の様子を眺めてた時は切り替えが素晴らしい〜〜なんて見直したというのに。いや、ある意味これも切り替えの早さがなせる技なのかな。


「ま、それでこそサトリさんって感じですね。いいですよ、一緒に行きましょ」


 フユナも幸せ。サトリさんも幸せ。それならそれが一番に決まってる。もちろんこの後は私ものんびりコーヒーが飲めて幸せ。


「んじゃ、ササッと片付けちゃうからちょっとだけ待ってて」


「手伝いましょうか? どうせ行き先は同じなんだし」


「はは、ありがと。けどお客さんにそこまでさせられないよ。テーブルとイスだけしかないしすぐ終わるから大丈夫だよ」


「左様ですか」


 ならばこれ以上は何も言うまい。ただひたすら待つのみ――そう思った時だった。






「もう終わり?」


 サイン会は? と、そんなニュアンスを込めた言葉を投げかけてきたのはまさかの人物――いや、神物だった。


「にゃんたこ様? なんで――」


「どいて。今日はあなたに用はない」


「むぐ!?」


 眼中になかったモノが眼中に入ってきたのが気に入らなかったのか、問答無用で口を氷漬けにされポイッと道の片隅に捨てられる私。随分と懐かしいやり取り……全然嬉しくないけど。


「ありがとうこざいます! もちろんまだやってますよ〜〜♪ サインをご希望ですか?」


「うん」


 放置された私をよそに再び始まるサイン会。さすがの変わり身の早さでサトリさんがサトりんに変化し、神様を前にしても堂々としたその振る舞いはやはり尊敬に値する。


「ルノ、大丈夫? えいっ!」


「ぶっ!?」


 そんな中、唯一私を心配して駆け寄ってきてくれたフユナがサイン本の角で口の氷を破壊してくれた。解放された口から少々の血が滴っていたことはさておき、これは意外なお客さんが来たものだと私フユナはその光景を見守ることにした。


「お名前は?」


「にゃんたこ」


「にゃ、ん、た、こ、さ、ん……と。はい、どうぞ。来てくれてありがとうこざいます!」


「ん」


 受け取る際にニコリと微笑んだのは喜びの証だろう。そして――


「最後の一冊。フユナのよりレアだね」


「む〜〜! フユナは読む用と保存用と飾る用で三冊もあるもんね!」


 戻ってくるや否や、サトりんのサイン本を誇らしげに見せつけてくるにゃんたこ様。その言葉通りならそれは貴重な最後の一冊。レア物……らしい。微笑ましい光景だ。


「いやぁ、まさかにゃんたこちゃんまで来てくれるとは思わなかったよ。お陰様で見事完売したしわたしの本も捨てたもんじゃないね。ルノちゃんもサインなら今のうちだよ?」


「でもあれで最後でしょ? にゃんたこ様が嬉しそうに言ってましたよ。貴重な一冊だ〜〜って。私は暇な時にフユナに読ませてもらいますよ」


「そんなの友達のよしみでまた作ってあげるのに。欲しくなったら言ってね」


「あはは。ありがとうこざいます」


 同じ本を片手に談笑に耽るフユナとにゃんたこ様。そんな二人を追いかけながら私は今度こそ片付けを終えたサトリさんと同じように談笑に耽る。本一冊で人を笑顔にできるとは流石はサトりん。そんなことを心の中だけで呟きながら、私まで笑顔になっていたのは言うまでもない。


「さすがサトリさんですね。あ、言っちゃった」


「ん? どうしたのさ突然」


「あはは。ちょっと思っただけですよ」


 そういうところは私も見習わないとなぁ〜〜なんて勉強させられた一日でしたとさ。




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