第十五話〜ロッキの余韻〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『危害を加えない』事を条件に開放された。
大樹の街・ロッキでの家族旅行から帰宅した翌日。
私はいつも通りに起床し、朝食を作っていた。
「……はぁ」
ちなみにフユナも同じ時間に起床し、現在はグロッタに朝ごはんをあげている。
朝食のメニューはロッキで買ったお土産であるパンとチーズケーキ。そして最後に私がロッキの実を使ってスープを作って完成なのだが。
「ロッキの実……ロッキかぁ。楽しかったなぁ……」
私は完全に想い出に支配されていた。
みんなもあるでしょ? 旅行が楽しければ楽しいほど、帰ってきた時になんとも言えない気持ちになるやつ。
「ロッキの実を見てると未だにロッキの街にいる気がしてくる……温泉……遊園地……ぐすっ」
「ルノ、なんで泣いてるの?」
「うわっ! いたの?」
「うん。グロッタにごはんあげてきたよ」
「そっか、ありがとね。もうこれで完成だからちょっと待っててね」
「うん、わかった」
そう言って、テーブルの方に行ってしまった。フユナは案外普通だな。
「ふぅ、私も切り替えないとね。旅行は楽しかったけど、今はもう帰ってきたんだから」
そう。あれはあくまで『楽しい思い出』なのだ。それなのにこんな悲しくなってたら申し訳ない。さ、食べよう食べよう!
「お待たせ、できたよーー!」
「あっ、これお土産のやつだよね」
「そうだよー! ロッキのパンにロッキの樹液のチーズケーキ。あとロッキの実のスープだよ」
「チーズケーキは初日に食べたよね。楽しかったなぁ」
「そうそう! ホットサンド食べた後にね!」
「一緒に出てきたジュースも美味しかったね」
「……」
「……」
あっ、まずい。また想い出が蘇ってきた。
「ほ、ほら。冷めないうちに食べよう! 今日はこの後、サトリさんとカラットさんにお土産渡しに行くんだからね」
「う、うん!」
「「いただきまーす!」」
朝食を食べ終えて一段落したところで。
「あれ、そういえばロッキの結晶はどうしたの?」
朝食前まではテーブルの上に飾ってあったはずだが。
「あ、うん、グロッタの小屋に付けてあげたんだ。光ってるからライトの代わりになるかなって」
「あー、なるほど。確かにグロッタの小屋って夜は真っ暗だったからね」
「うん。だからすごい喜んでたよ」
「はは、思わぬ所で結晶が役に立ったね」
ちなみに、現在のグロッタの小屋は最初に比べてかなり華やかになっている。ロッキの結晶もそうだが、ほかにも壁の装飾。小屋の横には花とお土産に買ってきたロッキの苗木も植えてある。
「外見だけ見たら、まさかフェンリルが住んでるなんて誰も思わないだろうね」
「これからもいろいろ飾り付けしてあげないとね!」
うんうん。こういう微笑ましいやり取りを見てると和むよ。
「さてと、それじゃそろそろ出掛ける準備しようか。この時間ならまだカフェも空いてるだろうしね」
「うん。準備してくるね!」
そうして、私は食器を片付けてから簡単に準備したのだが暇を持て余してしまった。フユナはまだみたいだしグロッタの小屋の様子でも見てくるか。
「おぉ、明るくなってる」
「ルノ様、おはようございます!」
「うん。おはよう、グロッタ。ずいぶんと明るくなったね」
「ふっふっ……わたくしは今朝、フユナ様にロッキの結晶を頂いて気持ちが昂っているのです!」
「ん? 明るくなったって小屋の事だよ?」
「ぐはっ!」
「はは、冗談だよ。グロッタとフユナが仲良くしてくれてて私も嬉しいよ」
「はい、ここに来てからとても楽しく過ごさせてもらってます!」
「うんうん。そうだ、この後サトリさんとカラットさんにお土産渡しに行くけど、一緒に来る? ちなみにサトリさんは私がよく行くカフェの店員さんね」
「カラット……わたくしを拘束した挙句に毛を引っこ抜いた魔女ですね!」
「う、うん」
あれ、まだ根に持ってたのか。
「わたくしは今日一日、フユナ様に頂いた結晶を眺めております!」
「ふーん、なんか自分育てた植物を一日中眺めてる老人みたいだね。それならお留守番だけよろしくね」
「はい、お任せ下さい!」
その時、ちょうどフユナがやってきた。
「お待たせーー!あ、グロッタの小屋、綺麗になったでしょ」
「うんうん。グロッタも今日は一日中、結晶眺めてるって」
「え、そうなの?」
「はい、いつまででも眺めていられますので!」
「だめだよーー! 今日はサトリちゃんとカラットさんに、お土産渡しに行くんだよ。みんなで行かないと!」
「はい、わかりました。フユナ様!」
そういう事になった。
うーん、この謎の主従関係、もうネタだよね。
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私達はまず、サトリさんのカフェにやって来た。ちなみにグロッタはまた魔法で小さくして、お客さんをびっくりさせないように配慮してある。
カランカランーー!
「お、いらっしゃい! ルノちゃん、フユナちゃん」
「おはようございます」
「おはよう、サトリちゃん。今日はお土産持ってきたんだ」
「え、わたしに? わざわざありがとうね! まぁ、入って入って!」
私達はいつもの席に座り、そいていつもの如くサトリさんも座る。もう何も言うまい。てか私もその気で来たしね。
「へぇ、ロッキに行ったんだね。わたしも何回か行ったなぁ」
「そうなんですか? ずっと村にいるイメージだったのでちょっと意外です」
「わたしだって仕事だけの人生じゃないよ!」
「はは、そうですよね」
「サトリちゃん! ロッキの街でね、双剣の特訓が役に立ったんだよ。おれから一本取ってみろーーって人に勝ったんだよ」
「え、あーー……双剣の人か。わたしも挑んだよその人に」
「え、そうなの!?」
「うん。勝ってロッキの結晶を強奪してきたよ」
「フユナももらった! グロッタの小屋に飾ってあげたんだ」
「グロッタ?」
そうだ、紹介するのすっかり忘れてた。今日の目的の一つでもあったんだった。
「この子の事です」
「あ、その子か。気にはなってたんだけど、突っ込むのすっかり忘れてたよ。ただの犬じゃないよね?」
「分かります? フェンリルなんですよ。今は私の魔法で小さくしてます」
「ほぅ? でも、フェンリルがペットなんて大丈夫なの? なんでそんなに懐いてんのさ?」
「えーっと、話せば長いんですけど……あれこれぺらぺらーって訳です」
「そういう事ね。師匠もとんでもないことしてるなぁ」
「ふん、まったくだ!」
「うわ、なに……しゃべるの? その子」
「普通にしゃべるし、食べるし、旅行も一緒にしました」
「ほぇー、完全に家族だね。えっと、グロッタ……だっけ? よろしくね。サトリだよ」
「ふん。お前は、あの赤い魔女の弟子なのだろ? そんな奴に用は……」
ブチッ! 私はグロッタの髭を一本抜いた。
「ぐはっ!? しかし、ルノ様。こいつはあの忌まわしき魔女の……」
ブチッ! さらに一本。
「よ、よろしくお願いします! サトリ様!」
「そうそう。サトリさんはカラットさんじゃなんだからね。八つ当たりはだめだよ」
「あ、いや……様は恥ずかしいから普通にサトリでいいよ? 気楽に接してくれていいからさ」
「うむ。分かった、サトリよ」
そして数分後。
「……なので、先頭を歩いてルノ様とフユナ様をゾンビから守ったのだ!」
「おぉ、やるねぇグロッタ!」
「ルノ様は絶叫系もだめでな、大変だったものだ!」
「ほほぅ……ルノちゃんにそんな弱点があったとはねぇ?」
「ずっと悲鳴をあげっぱなしだったぞ。はははっ!」
なんかこの二人、やけに意気投合してるな。仲良くしてくれるのは嬉しいけど。
「ていうか! グロッタこそ空中列車ダメだったでしょ!」
「何を言っているのですか、ルノ様! そんな記憶ありませんぞ!」
「そりゃそうだよ! グロッタ、気絶してたんだから」
「なんだ、グロッタもダメだったのね……」
そんな調子で私達は四人で、しばらくの間旅行の話などで盛り上がっていた。今朝とは違って、もう憂鬱な気持ちは無かった。
どこにいてもやっぱりフユナやグロッタといると楽しいし、こうしてサトリさんと会話も良い。憂鬱な気持ちになっても、こうやって楽しいことして塗り変えればいいしね。
「あ、もうこんな時間だ。ごめんね、わたしピーク前の準備しなきゃだからそろそろ行くね!」
「はい、頑張ってください。私達は、この後カラットさんのところに行ってお土産渡してきます」
「お、そうなのね。よろしく言っといてね」
「またね、サトリちゃん!」
「またな、サトリよ」
「またね、みんな。お土産ありがとうね!」
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その後、カフェを出てからすぐのこと。
「あのサトリという娘はなかなか見所がありますな!」
「サトリちゃんはフユナの師匠でもあるんだよ」
ほんとに気が合ったみたいだな。うん、いい傾向だ。
「あとはカラットさんとも仲良くできればいいんだけどね……」
「どうしましたか、ルノ様?」
「ううん。これからカラットさんにお土産渡しに行くけど仲良くね?」
「つーーん……」
でも、とりあえずこれでグロッタの紹介も済んだし一安心かな。あとはグロッタがカラットさんと仲良くなればなお良し。
ま、カラットさんも悪い人じゃないんだから時間の問題かな。