第148話〜深夜のゲーム大会〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。
フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ
魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。
にゃんたこ (神様)
『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。
「ふぁぁぁ……眠い眠い……」
誰に向けた訳でもない言葉――つまり独り言を呟きながら私は寝室の扉に手をかける。今日はにゃんたこ様とニセルノが朝から遊びに来て、そのまま朝・昼・晩とご飯を一緒に食べるという家族同然の生活をしていたので、なかなか濃い一日だった。あとはベッドでゆっくりと――
「今日はまだ終わってないゼ?」
「その通り」
「……」
おかしい。たしかに私以外の家族は先に準備を済ませて寝室に入っていったが、それにしては人口密度が高い。というか、先程帰ったはずのにゃんたこ様とニセルノは何故ここにいるのか。
「いや、なんでって言われても……普通にここが私の家だゼ?」
「その通り」
そんなことを言うニセルノに、ここぞとばかりに乗っかるにゃんたこ様。要約すると『まだ遊びたい!』もしくは『今日は泊まっていく!』といった感じだろう。両方かな。
「その通り」
「はいはい。にゃんたこ様も壊れたロボットみたいに繰り返してないで素直に泊めてって言ってくれればいいのに」
「私のことはスルー!?」
「ニセルノに関しては、あながち間違いでもないから反応に困ってさ。てか、ぶっちゃけ自分と会話するのって未だに違和感があるんだよね」
「あ〜〜分かる。考えてることもほぼ一緒だし、声も同じだからたまにどっちがしゃべってるのか分かんなくなるゼ」
「その通り」←私
とまぁそんな感じで、急遽にゃんたこ様とニセルノのお泊まりが決定。こうして二人が我が家に泊まるのは初めてのことなので、フユナやコロリン、レヴィナも心做しかテンションが上がっているように見えた。そりゃ誰も寝ていないわけだ。
「よ〜〜っし! それじゃ、お泊まりといったらゲームだ! 今から『カードめくり大会』を始めるゼ〜〜!」
「「「「イエ〜〜イ!」」」」
この場を仕切るニセルノを見てると、どちらが本物か分からなくなってくる――そんなことを思いつつ、私もみんなに倣ってベッドの上に座った。イエ〜〜イ!
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こうして始まりました深夜のカードめくり大会。
人口密度が高いので、まずは状況を簡単に整理しよう。まず、私達がいるのは場所は寝室のベッドの上――と言っても、以前にコロリンと共にベッドを増築してあるので、六人もいる今の状況でも狭さを感じることはない。
次に位置関係。特大ベッドの上で、焚き火を囲むかのように円になっている訳だが、私の両隣はにゃんたこ様とレヴィナ。ニセルノの両隣にはフユナとコロリン。同じ顔が並ばないか不安だったが、無駄な心配だったようだ。
「はい。カードも並べ終わったし準備完了。じゃあ、ジャンケンして勝った人から時計回りの順番ね」
今からやる『カードめくり』とは、裏返しに広げられたカードの中から二枚めくって、絵柄を揃ったらゲット。最終的に沢山持っていた人の勝ちというシンプルなゲームだ。ちなみに、私はこのゲームが大得意。
「えへへ〜〜じゃあ私からですねぇ〜〜」
ジャンケンの結果、レヴィナからスタートとなる。……が、その前に。なんだかレヴィナの様子がおかしいぞ。表情がふにゃふにゃだ。
「あれぇ? なんですかぁルノさん? そんなに見られたら恥ずかしいじゃないですかぁ? 決めたぁ! 私、このカード取っちゃおうっと!」
「うわぁ!? 私はカードじゃないし!?」
前述の通り、お泊まりでテンションはアゲアゲなのはもちろんだが、レヴィナの場合はそれだけでないのは火を見るよりも明らかだ。何故なら目の前には『The・酒瓶』みたいなのが置いてあるし、抱きついてきたレヴィナからはお酒の匂いがするし。
「こら〜〜! 誰だお酒なんて持ち込んだのは!?」
単純に考えるとレヴィナだが、普段お酒を飲んでいるところなんて見たことないので多分違う。まさかにゃんたこ様? レヴィナみたいに陽気になられても困るのだが……
「違うよ。それに神様はお酒なんかに溺れたりしない」
そう言って、グイッとコップのお酒を飲み干してみせるにゃんたこ様は至って普通。そうなるとあとは? フユナはありえない。コロリンはワンチャン、イタズラで持ち込んだ可能性はあるが多分違う。となると、もはや一人しかいないじゃないか。というか私もちょっと飲みたいなぁと思ってたし。
「ほら、フユナも一杯どう? あ、コロリンも一杯いっちゃう?」
私が結論を出したのと同時に、フユナとコロリンに飲酒を勧めるニセルノの姿が目に入った。ほらね。
「いやいや、ちょっと待って! こ、こら!? ニセルノはいったい何をしてんのさ! 同じ『私』なんだから娘に飲酒させようとしないでよ!」
「え〜〜? でもフユナもコロリンも立派なレディだゼ? なぁ、フユナ、コロリン?」
「そうらよ〜〜えへ」
「そうれふよ。うふ」
「もう飲んでる!?」
時すでに遅し。フユナもコロリンも呂律が回っていない。だが、普段見ることの出来ない二人の様子になんだか得した気分になっている自分がいるのも自覚しているので、あまり強く否定できないのも事実。たまにはいいか。
「はぁ。でも困りましたねにゃんたこ様。もう私達しかまともな人がいませんよ」
「残念。ニセルノもいつも通りだよ」
「そうだゼ、ホンルノ。私がお酒に強いのは知ってるだろ?」
その通り。自慢ではないが私はお酒には強い。にゃんたこ様の言葉を借りるならば「私はお酒なんかには溺れない」と言いきれるくらいには。
「まぁ、いいや。せっかくだから私も久しぶりに飲もうかな! ちょっとコップ取ってくれない?」
実はさっきから今に至るまで、レヴィナは私にくっつきっぱなしなので身動きが取れない。急にモテ期が来たような気分だ。
「あははっ、モテる女は羨ましいゼ! ほら」
「ありがと。レヴィナも女だけどね……。ところでこれは何のお酒なの?」
「それはウメを使った『ウメ酒』だゼ」
「おぉ、私が好きなやつ! 分かってるねニセルノ!」
「ふっ。なんたって私だからな」
なんだかんだでやはりニセルノとのやり取りはかなり楽だ。会話なしでもそこそこやっていけるんじゃないかな。
「てかさ。これじゃ、もはやただの飲み会……いや、宅飲みだよね。せっかくにゃんたこ様もいるんだから今度こそカードめくりでもして遊ぼうよ」
「お〜〜? 今の私は強いゼ? ホンルノもにゃんたこ様もイチコロだゼ!」
「む。いい度胸だね。いいよ、やろう」
お酒の力かは分からないが、ニセルノはもちろん、私もカードめくりでならにゃんたこ様に負ける気は無いと、かなり気が大きくなっていた。負けたら罰ゲームでも――なんて考える私はかつてないほどテンションが上がっているのは間違いない。
いざ、尋常に勝負だ!
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その後、少しだけ回復したレヴィナも加えた四人でカードめくりがスタートした。順番はやはりレヴィナからで、次に私、にゃんたこ様、ニセルノの順番だ。ちなみに、フユナとコロリンはニセルノの両隣でひっくり返って寝ている。何アレ、勝った時の景品にしようかな。
「あ、はずれちゃった。次はルノさんの番ですねぇ〜〜?」
「よしきた。てかレヴィナってばまだ酔ってるんじゃない……?」
「酔ってたらこんな知的ゲームできませんってばぁ……うふふっ!」
「知的ゲーム……」
まぁ、ゲームに支障ないからそういうことにしておこう。ベタ〜〜っとこちらにもたれかかってくるのは些細な問題に過ぎない。
「ま、とりあえず最初だからちょちょいとめくってと……はずれかぁ」
迷いを見せないスムーズな動きでめくってみたが結果はご覧の通り。ここで正解していればちょっとかっこよかったんだけどな。――なんて思ったその時。
「いただき」
「「なっ!?」」
初手からいきなり絵柄を揃えるにゃんたこ様に驚愕する私とニセルノ。まだ私とレヴィナで計四枚しかめくられていない上に、同じ絵柄はなかったはずだ。これはチートか? 神の力なのかっ!?
「くす。神様に不可能はないんだよ」
「くぅ……なんだかはぐらかされた感があるけど、私も当て続ければ負けることはない! いくゼ!」
「やったれニセルノ〜〜! 私だってここから挽回するけどね!」
再開されるカードめくり。ニセルノは有言実行して、にゃんたこ様に負けじと見事に初手から当ててきた。さすが私のコピーなだけあってその実力は半端ではない。これはもしや過去一番厳しい勝負なのでは?
「あれぇ〜〜? またはずしちゃいましたぁ……え〜〜ん」
「はいはい、いい子いい子」
「えへぇ、嬉しい〜〜♪」
飲酒プレイのレヴィナはゲームそっちのけで私に抱きついてくるが本人は実に満足気な表情をしていた。これはもう実質三人の勝負だな。
「ならここからが本番だ! これと……これだ! イエスッ!」
「やるなぁ。さすがは私!」
自分自身に絶賛されるという謎現象だが、褒められて嬉しいのは皆同じだ。おかげでだんだんと調子が出てきたぞ!
「ふふん。それでも神様に間違いはないから私が負けることは無いよ。……いただき」
「くっ、それは私が狙ってたのに。ならこれとこれだゼ! よしっ!」
「あまい。冒険しない者に勝利の女神は微笑まないよ。これとこれが正解な気がする……きたぁ!」
「あ、ちょっとぉ〜〜私の順番を飛ばさないでくださいよぉ。でもルノさんゲットしたからいいやぁ〜〜♪」
そんな感じで、初めはお酒に掻き回されてどうなることかと思ったカードめくりも、思いのほか白熱した勝負となってきた。しかし勝負という以上、決着の時は必ずやって来る。自分との勝負。神様との勝負。いずれにしても負けられない。
そしていよいよ勝負は終盤。そこで戦況が動いた。
「またいただき」
「ちょっと待った! その絵は『マツタケ』で、そっちの絵は『シメジ』ですよ! 残念!」
「!?!?」
正直、もうニセルノだけでも倒して二位狙いだったのだがなんたる幸運か。まさかにゃんたこ様がミスをするとは。さらに――
「ちなみに、ニセルノが今取ったやつも違うよ? それは『マツタケ』でそっちが『エリンギ』だね」
「はぁ!? どう見ても同じ絵だゼ!?」
「ぶぶ〜〜! それにちゃんと右下に名前も書いてあるよ」
「ちっさ!? このズル! てか、このカード作ったの絶対ホンルノだろ!?」
「あはは、じゃあ次は私の番だね」
「またスルーされた!」
なにはともあれ、私は『マツタケ』を揃えて見事に正解。これで同点なので、ようやくスタートラインに立てたと言ったところか。しかし、ここからが問題。残りのカードは残り四枚――マツタケだかシメジだかエリンギなのだが、実はこのゲームでは次に誰かが正解したらそこでゲーム終了。ラスト二枚は無条件で正解になってしまうのでノーカンとなるのだ。つまり――
「「にゃんたこ様が正解したらここで私の負けが決定するっ……!」」
私達の声がハモるのも無理はない。先程はなんだかんだでにゃんたこ様のミスとなったが、神様に同じ手は二度と通じないだろう。もはやミスは期待できない――と私達は理解してしまった。ここまでか。
「あれぇ? にゃんたこさん、これで正解すれば勝ちじゃないですかぁ。おめでとうございます〜〜♪」
「うわっ……!?」
ここに来て再びレヴィナ(泥酔)が登場し、勝利目前のにゃんたこ様に抱きついた。普段では絶対に有り得ない光景だ。
「残りは四枚だからぁ、簡単ですね。どれにするんですか〜〜?」
「わっ、わっ……!? ちょっと離れて……うわっ!?」
「にゃんたこさん可愛い〜〜!」
あのにゃんたこ様がレヴィナに頬ずりされながらいいようにされている。レヴィナさんよ、なかなかいい仕事をしてくれるではないか。その調子だ。
「にゃんたこ様〜〜? 早く選ばないと時間切れになっちゃいますよ?」
「も、もういい。このまま……これ。あとは――」
「あ、こっちにしましょ♪」
グイッ。ヒラリ。
「……」
「あれぇ、はずれちゃいましたぁ〜〜てへ」
ナイス、レヴィナ。どんまい、にゃんたこ様。あとが怖いけど今だけは喜ぼうじゃないか。
「あははっ、ありがとうレヴィナ! これで私の勝ちだゼ!」
「あ、それ。『エリンギ』と『シメジ』ではずれだね」
「はぁ!? 名前……本当だぁ〜〜!? 紛らわしすぎるゼ!?」
「ちゃんと、右下に名前書いてあるって言ったのに。じゃあ私の番ね。はい『シメジ』と『シメジ』で私の勝ち!」
こうして、なんやかんやと偶然が重なった結果、僅差で私は勝利することができた。ニセルノ、そしてあのにゃんたこ様にまで勝ってしまったぞ! ――なんて、浮かれていたのは言うまでもないだろう。
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「おはよう〜〜!」
「なんだかいい匂いがしますね?」
「あれって……?」
翌日の朝。起床してリビングへとやって来たフユナ、コロリン、レヴィナがいつもとは違う予想外の光景に困惑の表情を浮かべた。
「こうして……こう。はい、ニセルノ。これにソースかけて」
「ソースですね。ほいほいほい……っと」
「その絶品ソースはフユナのやつ。次に出すやつはルノの分だからそっちの激辛ソースをかけてね。たっぷりと」
「お、ついに来ましたね。さらに魔法で辛さ倍にしておくゼ!」
なんと、見慣れたキッチンで朝ご飯を作っていたのは私――ではなく、にゃんたこ様とニセルノの二人。激辛ソース云々がモロに聞こえていたが、それはこっそりニセルノの分とすり替えるとしよう。
「みんなおはよう。そろそろできると思うから座って待ってようか」
「う、うん。えっと……なんでにゃんたこちゃん達がお料理してるの?」
「あ、そっか。フユナとコロリンはお酒飲んで寝ちゃってたから知らないのか。レヴィナは……覚えてないよね」
「えっと……」
「???」
レヴィナが少々赤くなったのは気になったが、とりあえずは状況説明が先だ。ほにゃららほにゃらら〜〜っと。
「へぇ。やっぱりルノはカードめくり強いんだね。にゃんたこちゃんにも勝っちゃうなんて」
「でもそれを言ったらニセルノもではないのですか?」
「あはは。まぁ、そこは実力がものを言ったってところかな」
「「ふ〜〜ん?」」
あまり説明になっていないかもしれないが、勝っていなければこんな状況は有り得ないわけで、二人も納得してくれた。レヴィナは聞いているのかいないのかよく分からないが、相変わらずモジモジしている。なんか顔が赤いな。
「まぁ、でも久しぶりに燃える勝負だったゼ。ほい、これフユナの分で、これがコロリンの分。こっちがレヴィナで……こっちがホンルノの分な(ニヤリ)」
「おぉ、美味しそうなサンドイッチ(激辛)だね」
給仕役を務めるニセルノによってテーブルに並べられていくのは、色とりどりの野菜や卵がふわふわのパンに挟まれたサンドイッチだった。メインの調理はにゃんたこ様がやっていたことを踏まえると、これは『にゃんたこサンド』と名付けるべきか。とにかく美味しそうだ。
「くす。『ルノサンド』より美味しい自信があるよ」
「あっ、言いましたねぇ? 私はサンドイッチにはうるさいですよ?」
「望むところ」
こうして「いただきます」の挨拶と共に完成したのは、いつもよりも賑やかな朝食の席だった。我が家のみんなはもちろん、にゃんたこ様やニセルノまで、みんな等しくその表情を笑顔一色に染めていた。さて、肝心のお味の方は?
「うんっ、すごく美味しいよ!」
「にゃんたこは私と同じくらい料理が上手なんですね」
「本当に……! あ、でも私はルノサンドも好きですよ……?」
さすがは神様お手製というだけあってみんなにも大好評だ。私はにゃんたこ様がお料理する姿なんて想像したこともなかったからちょっと意外だな〜〜なんて思ったり。
「ホンルノはどうだ? 美味しい? (ニヤリ)」
「うん、本当に美味しいよ。ニセルノは食べないの? (ニヤリ)」
「あ、あれ……?」
なんでコイツは激辛ソース平気なんだ? 私はダメなレベルで辛いはずなんだけど……? といった風な怪訝な表情でこちらを眺めるニセルノ。何をそんなに驚いてらっしゃることやら。それならあなたの目の前にあるではないか。
「まぁまぁ、細かいことは気にせずガブリといっちゃってくださいな?」
「そ、そう? んじゃまぁ、いただき――辛っ!? 辛〜〜い!?」
「ぷぷっ!」
阿鼻叫喚を極めすぎたニセルノの悲鳴が平和な朝の食卓に響き渡る。人をハメようとするからそうなるのだ。反省するがいい。
「さて。これで心置き無く朝ご飯に専念できるよ。ん〜〜美味しい」
かけひきを制した末に手に入れた平和な時間。普段は味わえないような興奮を与えてくれたにゃんたこ様とニセルノには感謝に似たような気持ちを抱いたのは偶然か必然か――
「ん? ちょっと待って……え、うそ……辛っ!? 辛〜〜い!?」
「くす。大成功」
訂正。感謝の気持ちは皆無。バレないように中心にたっぷりと仕込まれていた激辛ソースによって舌を焼かれる私は、ニセルノと同じく涙目で悲鳴を上げることしかできませんでした。
めでたしめでたし。
余談ですが――
「ん、んんっ!? でも舌が慣れてきたらなんだか美味しい気がしてきた!」
「お、ホンルノも? この激辛サンドイッチ当たりだゼ!?」
「だよね! にゃんたこ様、お代わりあります!?」
「え……? ある……けど……」
「「いただきます!」」
「……」
釈然としない表情を浮かべるにゃんたこ様を見られたのはいい思い出になりました。