第146話〜クレーマー現る〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。
フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ
魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。
にゃんたこ (神様)
『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。
ある日の昼下がり。
私は久しぶりにカフェでまったりスローライフを満喫していた。大木をそのまま持ってきたような剥き出しの柱に、雪化粧を施したかのような純白の壁。その中でも、ヒュンガルの自然を肌で感じることができるテラス席は特にお気に入りだ。
「そんな場所で飲むコーヒーは特に美味しい。ふぁぁ……眠くなってきちゃった……」
「ちょっと、ルノちゃん。わたしの話聞いてる?」
「は〜〜い……もちろん聞いてますよ」
「本当かなぁ?」
私と同じテーブルに座っているこの人は、友達であり、このカフェの看板娘であるサトリさん。エプロン姿がよく似合っていて、カフェの看板娘に相応しいその笑顔はとても眩しい。今現在に至ってはおサボりの最中で、ただ談笑に耽っているだけだが。
「なんだか懐かしいですね。この感じ」
「急にどうしたのさ? おばさんみたいだよ」
「失礼な。そんなこと言ったらサトリさんの方がおばさんですよ。お互い、不老不死ですけど見た目年齢はサトリさんの方が上なんですからね」
ちなみにその見た目とやらは、私は十八歳。サトリさんは二十歳。圧倒的勝利だ。
「な〜〜んか、わたしの知らないところで圧倒された気がする。少しでもご機嫌取っておかないとコーヒーのサービスが来ないぞ」
「ふふん。私はちゃんと覚えてますよ。サトリさんは今日に至るまでサービスは一度しかしたことがない! しかもその一度は私にではなくフユナにです!」
「バレたか」
とは言っても、別にコーヒーやチーズケーキだけでお財布が打撃を受けるわけでも無し、サービス云々はただのネタでしかない。まぁ、サービスしてくれると言うのなら受けるのもやぶさかでないが。
「ところでルノちゃん。キミに聞いて欲しい話があるのだよ」
「なんです? またクレームでもいただいたんですか?」
「またって今回が初めてだしっ!? このカフェオープンして以来初めてのクレームだしっ!」
「なんだかそう言われるとおめでたくなってきますね」
「全然!?」
めずらしく憤慨するサトリさん。やはり看板娘の座に君臨する人にとってクレームはかなり重要な要素となってくるらしい。しかし私に言わせればかなり今さら感のある話だ。
「何故なら、今まさにこうして目の前で看板娘が堂々とサボっているのだから。今日がクレーム記念日になったのは、今まで私がクレームを入れなかったおかげですね」
「何言ってんの。これはルノちゃん公認だからいいのさ。わたしがいなかったら寂しいでしょ?」
「……」
声を大にして言えないが、確かにそれは遠からずといった感じ。このカフェを利用するようになって長いが、割と最初の頃から『サトリさんセット』が問答無用で付いてきてたので、今さら無くなったところで違和感がある。
「まぁ、それはそれとして。一体何をやらかしたんですか? サトリさんのクレーム体験談なんて面白そうなので聞いてあげますよ」
「ふっふっ……聞いて驚け。シンプルにお客さんにコーヒーをぶっかけた」
「シンプルすぎて擁護のしようがありませんね」
優秀な看板娘のクレームということで期待したのだが、これ以上の会話のネタにはならなそうだ。残念。
「いやいや、まだちゃんと続きがあるんだよ。なんとね、そのお客さんにめちゃくちゃに怒られてさ」
「それは当たり前ですけど……ちょっと面白くなってきましたね」
人の失敗は蜜の――いや、やめておこう。サトリさんの話を聞くに「クリーニング代よこせや!」などと言われて、払わざるを得なかったんだとか。なるほど。
「わたしはわざとやったわけじゃないのに! うえ〜〜ん!」
「誰ですかあなたは。サトリさん涙を流すようなキャラじゃないですよ!」
「ひどい!」
「いや、だって。うえ〜〜んなんて通じるのはフユナくらいですよ。サトリさんは年齢的にアウト!」
「きぃ〜〜!?」
と、そんな感じに大してダメージも受けてなさそうなサトリさん。こういう前向きな部分は見習いたいところだ。
「ちなみに、ルノちゃんが喜びそうな話題があってね。なんと、そのクレームの人がまさに今、店内にいるのさ!」
「私はそんな腹黒じゃないですけど……確かに面白そう。どれです?」
「ほら、あそこ。いかついヤンキーがいるでしょ?」
「ふむふむ……」
私はサトリさんに倣って店内へと視線を移すと、そこにはガラの悪そうな二人組のメンズが優雅にコーヒーを飲んでいた。今時のヤンキーはずいぶんとシャレオツなんだな。
「なんだか若かりし頃のランペッジさんみたいですね。知らないけど」
「すごい分かる。わたしも知らないけど」
「てかお客さんいるならこんなに堂々とサボってたらダメじゃないですか。みんながみんな私みたいに寛大で天使なお客さんなわけじゃないんですからね」
「確かにね。てか、天使って誰のことさ。全然見当たらないなぁ?」
「お姉さ〜〜ん! 店長〜〜! サトリさんがサボってますよ〜〜!」
「こ、こらっ!? 行ってきま〜〜す!」
ピュ〜〜っと慌てて逃亡するサトリさんを見守ること数秒。私の目の前の席、先程までサトリさんがいた席には、ほとんど手のつけられていないチーズケーキだけが残っていた。ラッキー♪
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それから、戦利品のチーズケーキを美味しくいただいていると、今度はちゃんとした仕事モードのサトリさんが目に入った。対応しているのは先程話題にあがったヤンキー二人組だ。
「コーヒーのお代わりお持ちしました〜〜!」
「おっ、気が利くじゃねぇか! ゲラゲラ!」
「今度はこぼさないでくれよ〜〜? ゲラゲラ!」
言葉の最後に必ずゲラゲラと笑うヤンキー二人組はグロッタの親戚かなにかだろうか? なんにしてもアホっぽいことに変わりはない。
「実際、サトリさんは大変だよねぇ。私ならゲラゲラ言い出した瞬間に、あのお口どころか、全身を氷漬けにして外にポイだよ。氷像に口無しってね」
そう考えると、アレを笑顔で対応できる辺り、サトリさんはやはりベテランの看板娘なのだろう。ちょっと尊敬しちゃうな。
「それではごゆっくりどうぞ〜〜!」
「ごゆっくりさせていただきま〜〜す! ゲラゲラ!」
「また適当にお代わりよろしく〜〜! ゲラゲラ!」
ちなみに、今は店内にいるお客さんはそのヤンキー二人組のみ。他のお客さんに迷惑がかからないのが唯一の救いだ。私を除いて。
それから数分後。
「お代わり! お代わり〜〜! ゲラゲラ!」
「おれもおれも〜〜! ゲラゲラ!」
なんだかアホを通り越して、どんどん幼児化しているのは気のせいだろうか。もしかして、あの二人の会話はゲラゲラ言ってれば半分くらいは成立するのでは?
「お待たせしました〜〜! ゲラゲラ!」
どうやらサトリさんも同じ結論に至ったらしい。ところが、それを聞いたヤンキー二人組はというと――
「あぁん? なにゲラゲラ言ってんだコイツ!? ゲラゲラ!」
「それが接客の態度なのかおい!? ゲラゲラ!」
せっかくサトリさんが同じ土俵に上がってあげたというのに、お気に召さなかった様子。結局最後にはゲラゲラ言ってるので怒ってるのかはよく分からないが。
「てかおい! これホットコーヒーじゃねぇか! この暑い日にホットを飲めってか!? ゲラゲラ!」
「まったくだぜ! てかこれもホットじゃねぇか! ナメてんのか!? ゲラゲラ!」
とかなんとか言っているが、アレは紛れもなくご本人が注文した品である。「にしても今日はあちぃな! ホットでいくか!」「逆に!? いいなそれ! ゲラゲラ!」などと、アホ丸出しなことを言いながら注文していたのを私はしっかり聞いていた。逆にする意味とは如何に。ゲラゲラ。
「仕方ない。そんなにアイスが飲みたいなら私が手伝ってあげよう」
というわけで、静かな詠唱と共に発動させたのは、ここ最近お気に入りになりつつある狙撃魔法『輝氷の射手』だ。それを百分の一。いや、万分の一くらいに威力を抑えながら――ずどん。
「お、いい感じ。もういっちょ!」
続けざまにずどん。緩やかな放物線を描いて目標のホットコーヒーに迫るのは、計二発の氷。それらが見事に――
「おっ、なんだ? ちゃんと氷が入ってるじゃねぇか! ゲラゲラ!」
「どんな早業だよ! ゲラゲラ!」
なんだかヤンキー二人組に喜ばれるのは癪だっだったが、一応はサトリさんの助けになったみたいなので結果オーライとしよう。
「さてと。それじゃ、私はそろそろ帰ろうかな。アホなヤンキー二人組で暇つぶしもできたしね」
そういう意味ではあの二人もなかなか優秀(皮肉)だと思う。サトリさんが特に咎める様子もないということは、他人に危害を加えないのであれば一応は許容範囲内ということなのだろう。そう、危害を加えなければね。
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お会計を済ませるために、テラス席から店内へと入った私の耳に届いてきたのは、外から聞いていた時とは比べ物にならないような、ゲラゲラと騒がしい声だった。
「あ〜〜チーズケーキ食いまくったらウンコしたくなってきたわ! ゲラゲラ!」
「おいおい、お前はチョコレートケーキ製造機かよ! ゲラゲラ!」
かなりお下品な会話な上に、私が好きなチーズケーキを汚さないでくれ。ついでにチョコレートケーキも。
「ちょっとトイレ行ってくるわ! ゲラゲラ!」
「これで一品得だな! ゲラゲラ!」
ほんと最低。そう思った矢先、事件が起こった。
「あ、コーヒーのお代わりお持ちしましたよ」
そう言って、〇〇〇のために立ち上がったヤンキーの前に現れたのは、コーヒーを持ったサトリさんだった。しかし――
「おい、邪魔だって! ウンコ漏れんだろ! どけっ!」
「うわっ!?」
ドンッとサトリさんを突き飛ばすヤンキー。当然、そんなことをされればサトリさんといえど、コーヒーを落としてしまうわけで――ガシャン!
「熱っ!? コイツ、またやりやがった!?」
「また服にかかったじゃねぇか!」
「も、申し訳ありませんっ!」
接客業の職業病とでもいうのだろうか。はっきり言って、悪くもないサトリさんが謝っているのは可哀想でしかない。しかもヤンキー二人が『また』と言っている辺り、おそらく前回のクレームとやらもサトリさんに落ち度があったわけではないと察しがついた。――はい処刑。
「はいはい、すいません。ちょっと通りますよ」
私が選んだのは強行突破。まぁ、このことがなくても、出口に向かうためには通らなければいけない通路なのだが。強いて言えば、目的がちょっと変わったくらい。
「ちょ、ちょっとルノちゃん!?」
「誰ですか『ルノちゃん』って。これは私の独りよがりですよ」
見たところ、サトリさんには怪我はない。ならあとは心置き無くこの失礼極まりないヤンキー共をとっちめるだけだ。
「なんだこの女は? 無駄に可愛いじゃねぇか! ゲラゲラ!」
立ち上がっていた方のヤンキーが無駄に褒めちぎって(?)くるがもう遅い。一応、最後の情けくらいはかけてあげようか。
「あなたは悪い事をした自覚はありますか?」
「あん? 何を言って」
「さようなら」
私は無駄と悟った瞬間に、輝氷の射手(打撃モード)発動。ずどんと放った氷がズドンとヤンキーのお腹辺りに直撃し、そのままお店の外まで吹き飛んでいった。ちなみに、入口の扉は魔法で開けてあるので被害はゼロ。残るはもう一人のヤンキーだが。
「お、おれは何もしてねぇぞ!?」
「一緒にゲラゲラしていた時点で同罪ですよ。さ、帰ってください」
「わ、分かった! 分かったから撃つなよ! 絶対だからな!?」
「はいはい、分かりましたから早く出ていってください」
「くそっ! 覚えてろよ、この悪魔め!」
「ずどん」
「ぎゃあああ!?」
同じ運命を辿るヤンキー二人組。最後の一人に関しては完全にフリだったので私は無罪のはず。とにかくこれにて一件落着――とはいかないかな。
「……」
怪我が無いとはいえ、突き飛ばされたサトリさん。そして足元には割れたカップやこぼれたコーヒーなど。私が愛してやまないお気に入りのカフェは悲惨なことになっていた。
「……片付けますね」
部外者が手を出してしまったせめてもの償い。そんな聞えのいい言い訳をする私の心は、大好きな場所を怪我されたことでとても傷付いていたのかもしれない。その証拠に――
「あ、あれ……?」
涙で歪む視界と、やるせない気持ちで震える手が割れたカップを拾うことさえさせてはくれなかった。
「あはは、魔法で片付けちゃえばいいか。うん」
冷静に考えてみれば、素手で割れたカップを拾うのは危険だ。なので魔法で一箇所に集めて袋にポイするのが一番。
「これでよし……っと。あとは床を拭いて元通り……あ」
「ふふ〜〜ん。もう終わってるよ!」
いつの間に持ってきたのやら。サトリさんがモップでの拭き掃除を一瞬で終わらせていた。さすが。
「じゃ、じゃあもう大丈夫ですね。私は帰ります」
「待って、ルノちゃん」
「わっ……」
サトリさんの横を通って出口へと向かおうとした矢先、ぐいっと手を引かれて顔面をサンドイッチ。無理矢理振り向かせて私の顔を見たサトリさんはからかうように笑った。
「ふふっ、やっぱり泣いてる」
「べ、別に……」
せっかくこうならないために立ち去ろうとしたのに。まったく、意地悪な人だ。
「なんで?」
「……」
理由まで聞くなんてあんまりだ。そう、これは私の独りよがり。私が大好きな場所をヤンキーから守っただけのことだ。
「分かってるよ。ルノちゃんとはこれだけ長い付き合いなんだからね」
そう言ってニコっと笑うサトリさん。それだけで全てが救われたような気持ちになった。これならもう心配いらないだろう。
「だからさ。ルノちゃんも笑いなよ」
そう言って、サトリさんが近付いてきた時には既に手遅れ。私はされるがままに抱き締められてしまったが、ある意味助かった。これ以上、顔を見られる心配がないから。そしてサトリさんは言った。
「ありがとね」
「……うん」
締めくくりとなったのは、そんな短いやり取り。また明日から元気にやって行こう。そう思わせてくれたサトリさんにとても救われた私だった。
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翌日。
少々恥ずかしい気持ちを抱えながらも、私はお気に入りの場所でスローライフを満喫するべく、カフェへとやって来ていた。
「お〜〜い、聞いてるの、ルノちゃん?」
「聞いてますよ〜〜」
相変わらず、呼んでもないのに同じテーブルでくっちゃべるサトリさんだが、その変わらない姿が、今の私にとっては癒しとなっていた。やっぱりここは最後のカフェだ。
と、思ったその時――
「いた! あねご! ゲラゲラ!」
「探しましたぜ! ゲラゲラ!」
店内を通ってテラス席までやって来たのはあろうことか、昨日のヤンキー二人組だった。相変わらずゲラゲラとうるさいが、あれは鳴き声なのか? ――と、思いつつもやることは一つ。
「ずどん(×2)」
「「ぎゃあああ!?」」
ヤンキー二人組は仲良くテラスの柵を超えて空の彼方へさようなら。
「ちょ、いきなりすぎますぜ、あねご! ゲラゲラ!」
「おれ達、あれから反省したんですぜ! ゲラゲラ!」
割と本気で吹き飛ばしたのに平然と戻ってくるヤンキー二人組。ゲラゲラ言ってると防御力が上がる効果でもあるのか?
「まぁ、いいや。ずどん(×2)」
「「ぎゃあああ!?」」
キラ〜〜ン。
「面白そうだね。次はわたしにやらせてよ」
「じゃあ半分こしましょ。最初に来た方がサトリさん。次が私で」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、そりゃな」
「うりゃ!」
「ぎゃあああ!?」
もはや全てを言わせずに吹き飛ばす辺り、サトリさんもなかなか怒っていたのかもしれないな。魔女を怒らせると怖いんだぞ。
「ちょ、アニキ!? ゲラゲラ!」
「うわ、兄弟だったんですね。じゃあ、あなたもどうぞ。ずどん」
「ぎゃあああ!?」
本日の知りたくない情報ナンバーワンだった。せめてどちらか一方がまともならもう少し違っただろうに。
「いや〜〜でもスッキリしたよ。とりあえず話くらいは聞いてみる?」
「私は許しませんけどね。ここを汚した罪は、フユナを泣かせた罪の次くらいに重い!」
「うぅ、ルノちゃんがそんなにもわたしを想ってくれてたなんて……!」
「いやいや、カフェのことですってば」
まぁ、カフェと言えばサトリさんも含まれるんだけどね。それは黙っておこう。
「とか言ってる間に来たみたいだよ。頑丈だなぁ」
「そこだけは評価に値しますね」
「「ありがとうございます、あねご!」」
到着するなり跪くヤンキー二人組改め、ヤンキー兄弟。というか、その『あねご』とかいう呼び方はやめて欲しいんだけど。
「ところで何しに来たのかな? コーヒーを飲みに来たってわけでもなさそうだけど」
「そりゃもちろん、謝りにですぜ、看板娘さん! ゲラゲラ!」
「その通りだ、看板娘さん! ……言っておいてアレだけど『看板娘さん』ってウケるな! ゲラゲラ!」
彼らの言う『謝る』とは一体どんな意味を持つのだろうか。ゲラゲラ語で話されても理解できないな。
「昨日はすいませんでした、あねご! ゲラゲラ!」
「昨日はすいませんでした、看板娘さん! ゲラゲラ!」
「――って言ってるよ。どうするルノちゃん?」
「私の考えは変わりません。ぶっとばしましょう」
「「ゲラゲラ!」」
こうして、最後までゲラゲラとうるさいヤンキー兄弟をぶっとばして今度こそ一件落着。言葉を聞く限り反省はしているようなので、これからは私も神様のように寛大な心を持って接しなければいけないかな。
「「さすがあねご!」」
「ずどん」
まぁ、それでもしばらくはぶっとばすけど。