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☆氷の魔女のスローライフ☆  作者: にゃんたこ
145/198

第145話〜レヴィナとのデート〜


〜〜登場人物〜〜



ルノ (氷の魔女)

物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。


サトリ (風の魔女・風の双剣使い)

ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。


フユナ (氷のスライム)

氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。


カラット (炎の魔女・鍛冶師)

村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。


グロッタ (フェンリル)

とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。


ランペッジ (雷の双剣使い)

ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。


スフレベルグ (フレスベルグ)

白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。


レヴィナ (ネクロマンサー)

劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。


コロリン (コンゴウセキスライム)

ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。


フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ

魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。


にゃんたこ (神様)

『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。



「おはようございます、レヴィナさん」


 起床してリビングにやって来た私の第一声はそれだった。別に寝ぼけているわけでもなければ、目上の相手を前にして恐縮しているわけでもない。


「え……? あ、おはようございます……? どうしたんですか、そんなに改まって……」


「いやね、思ったんだよ。前回、レヴィナの唯一の登場シーンがお口を氷漬けにされて終わりというあまりにも可哀想ものだったなって。まぁ、私も登場したのは一瞬だったけどさ。仲間だね!」


「えぇ……」


 この女の子は私と同い年のレヴィナ。死霊術を操るネクロマンサーであり、少し前まではその能力を活かして、旅をしながらホラー系の劇団をしていたのだ。今ではすっかり家族の一員となり、こうして同じ屋根の下で暮らしている。


「しかし、ホラー系劇団として活動していた期間が長かったため、レヴィナ自身までもがホラーな雰囲気を纏ってしまっていたのは思わぬ誤算だった」


「ひどい……!?」


 と言うのも、レヴィナの容姿――主に、紫色の髪の毛が目を半分ほど隠していまっているが故に、いかにも闇のネクロマンサーっぽく見えてしまうというのが大きい。


「あはは。まぁ、それは冗談として。もし暇なら久しぶりに二人で遊びに行こうよっていうお誘いだよ。ヒュンガルの温泉にでも行かない? お風呂上がりにアイスなんてもう最高だよ〜〜?」


「アイスですか……!? 行きます……! すぐに準備してきますねっ……!」


 とまぁこんな感じに、出会った頃に比べてずいぶんと明るくなったレヴィナさんである。それに、温泉というよりも、好物のアイスに反応してしまう辺り、可愛いところもあって実に微笑ましい。


「っとと……私も準備しないとね。じゃあ今日はレヴィナとのデートだ。みんな行ってくるね〜〜!」


 こうして私は、庭で戯れているグロッタとスフレベルグ。そして今日も今日とて、遊びと称して、フユナを鍛えているにゃんた様と、面白そうに見学しているコロリンに手を振って家を後にした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ヒュンガルに到着した私とレヴィナは真っ先に温泉へ――とはならなかった。隣を歩いていたはずのレヴィナが、カラットさんが営む武器屋で足を止めて何かに魅入ってしまったのだ。


「なになに? もしかしてレヴィナもついに武闘派に目覚めちゃったの?」


「ち、違いますよ……。これです、これ……!」


 レヴィナが見ていたのは武器の類ではなく、綺麗な宝石でできたペンダントだった。微妙に見覚えのあるそれは、先日、私がカラットさんと共に討伐したコンゴウセキスライムを使ったもので、その証拠に『洞窟産のコンゴウセキ』と書いてある。


「綺麗ですね……!」


「へぇ〜〜ほんとだ。コンゴウセキってちゃんと加工するとこんなに綺麗なんだねぇ」


 思わぬ掘り出し物に見惚れる私とレヴィナ。それにしても武器屋でありながら、最高の素材と言われるコンゴウセキをペンダントにしてしまうなんて、カラットさんも思い切ったことをしたものだ。討伐したコンゴウセキスライムが特大サイズだっただけに遊び心でも湧いてきてしまったのだろうか?

 そんな風に考え事をしていると、レヴィナが口を開いた。


「ルノさん。これ……」


 言葉はそこで終わりだったが、その先は聞くまでもない。コンゴウセキに負けないくらいに輝いているその目が全てを物語っていたから。


「買っちゃう? それじゃあ、この青っぽいやつと赤っぽいやつを買ってお揃いにしちゃう? ……なんちゃって!」


「いいんですかっ……!? すぐに買ってきますね……!」


「え……? あ、ちょ!?」


 冗談半分。いや、完全に冗談で言ったつもりだったのだが『お揃い』と聞いたレヴィナは、ピュ〜〜っと喜びのままに店内へと突撃してしまった。冗談とはいえ、言い出しっぺは私なのにお金を出させてしまう流れになっているのがなんだか申し訳ない……


「えへへ、買ってきちゃいました……! はい、こっちがルノさんの分……!」


「ど、どうも……」


 お店を出てくるなり、買いたてホヤホヤの青っぽい方のペンダントをポンと手渡された。今さらお金出しますなんて言ったところで雰囲気をぶち壊してしまいそうなので、せめてこの後の温泉なりアイスなりをご馳走するとしよう。


「あ、すいません。なんか寄り道になっちゃいましたね……」


「あはは、そんなの気にしないでいいよ。行きたい所へ自由に行こ。こういうのは気ままに動いた者勝ちだよ」


「そうですね……!」


 何事にも計画を立てることは大切だが、それに固執して他の楽しみを見逃してしまうのは実によろしくない。そう考えるとレヴィナはけっこうスローライフに向いているのかもしれないな。


「うんうん。なんだか急に親近感が湧いてきちゃったなぁ」


「どうしたんですか、ボーッとして……?」


「あ。ううん、なんでもないよ。行こっか!」


「はい……!」


 レヴィナに倣って私は同じようにペンダントを首にかけ、歩みを再開させた。お揃いのペンダントを着けて仲良く道を歩く二人の女の子。あと一歩で手を繋ぎかねないその様子は、傍目から見たら完全にカップルのそれでした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 それからは特に寄り道することもなく、ひたすらにのんびり歩いて温泉まで辿り着くことができた。数日前に特大コンゴウセキスライムとの白熱した戦いがあったせいか、ただ歩くだけの平和な時間がいつも以上に幸福に思えた。まぁ、この後には温泉というさらなる幸福が待っているのだが。


「ふぅ。ここの温泉も久しぶりだなぁ」


「そうですね……気持ちいい……」


 いざ入浴。肩を並べながら浸かる温泉の癒し効果はやはり絶大だった。この温泉ができたばかりの頃は、フユナと毎日のように来ていたのがとても懐かしい。そんな感慨に耽っていると――


「うとうと……」


「あ、レヴィナってば。入浴中に寝たらまた溺れちゃうよ?」


 以前にも、温泉に入っている時にレヴィナが寝落ちして溺れかけたのはいい思い出だ。だが、ここまで気持ち良さそうにしていると、起こしてしまうのも気が引けるというのも正直な気持ちだ。


「すや〜〜」


「やっぱり寝ちゃったよ……」


 なんとなく分かってはいたが、懲りない子である。こうなったら心を鬼にして、温泉で寝落ちするというのがどういうことなのかをしっかり教えてやらねば。では遠慮なく。


「そりゃ」


「ごぼぼっ!?」


 レヴィナの頭を上からチョンと押しただけで見事に沈んでしまった。こりゃ面白い。


「ゲホゲホ……! なにするんですか〜〜!?」


「だから入浴中の寝落ちは危ないって言ったのに。めっ!」


「自分で沈めたくせに……!?」


 バレたか。だけどこれで寝落ちの危険性を学んでくれたなら沈めたかいもあるというもの。私は良くやったはずだ。


「なんでやり遂げたみたいな表情なんですか……。あぁ、髪の毛が目に……」


 見れば、普段でさえ前髪で目が半分ほど隠れているのが、今は濡れた影響もあって、完全に目を隠してしまっている。


「あはは、なんだかおばけみたいだね。邪魔なら縛っちゃえば? ほら、こうして前面ちょんまげスタイルでさ」


「わわっ……」


 ちょいと失礼して、私はレヴィナの前髪をおでこの辺りで一つにまとめてみた。こうすれば髪の毛が目に入ることもなく、素顔がバッチリと見える。


「うん、バッチリ。むしろこれは!?」


「な、なんです……?」


 少々恥ずかしそうにしながら、まとめた前髪を弄るレヴィナさん。一言で言ってしまえば可愛い。お湯が滴る良い女というのはこういうことを言うのか。


「うん。レヴィナは可愛いよ。憎いくらいに」


「そ、そんな……。前回、ここに来た時も見たでしょう……? 大袈裟ですよ……」


「かわいい人ほどそう言うのさ。その前髪、根元からバッサリいっちゃっていい?」


「えぇ!? ちょっとルノさん、顔が怖い……」


 ついつい嫉妬の炎が燃え上がってしまったが、この場に他の人がいれば満場一致でレヴィナをかわいいと褒め称えるのは間違いないはずだ。……やはり許せん。


「コホン。まぁ、それはそれとして。嫉妬の炎でレヴィナを焼いちゃう前に上がろうか。のぼせてきちゃった」


「そうですね。何で焼くのかはよく分かりませんけど……怖いので上がりましょうか……」


 そう言う困り顔のレヴィナは、最後の最後まで何度見ても可愛いままだった。仕方ないので、このしょうもない炎はこの後のアイスで鎮めるとしよう。


 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「えっと、これとこれ。あとこれも……! あと――」


「あの、レヴィナさん? そんなに食べられるの?」


「え? なんで――」


 そんなこと聞くの? とばかりに首を傾げるレヴィナの手にはアイスが四つも握られていた。その内の一つは私の分なのでレヴィナは三つ食べるつもりらしい。温泉施設内のアイスではなく、わざわざ外のアイス屋さんまで行こうと言ってきただけはある。


「ここのミルクアイスはとても美味しいので何個でもいけちゃうんですよ。ふふ……」


「へぇ、そこまで? なら私もこれ食べ終わったらミルク味のやつ買ってみようかな」


「あ、じゃあ良かったらこれ、一口食べてみますか……?」


 嬉しい申し出だった。新しい味に挑戦する時に試食できるというのはなかなか大きい。お言葉に甘えるとしよう。


「あ、でも間接キスになっちゃうけどいい?」


「ふふっ……! ルノさんて、たまに変なこと言いますよね……?」


 ちょっとボケてみただけなのに変人扱いされてしまった。サトリさんにこのボケをかました時は――お子様扱いされたっけ。もうやめよう。


「ん。確かに美味しい! 私、もう一つ買ってくるよ!」


「あ、私も行きます……!」


「食べるの早っ!?」


 一口もらって残りを返した途端にアイスが消えた。捨てたんじゃないかと疑うほどの早さだ。お腹を壊さないか心配になったが、確かにレヴィナは食べる前に「何個でもいけちゃうんですよ」などと言っていた。地味に羨ましい能力だよね。


「そうだ。せっかくなので、今から買うやつは家に持って帰って食べませんか? 今日はにゃんたこさんも来てますし……」


「お、それいいね。んじゃあ家族全員分……一応、一人二個ずつくらい買っていこうか」


「え……」


「あは、やっぱり多い……かな?」


 一個とはいえ、既にアイスは食べたのだ。私は一個にするべきだよね。と思ったのだが――


「いえ、一人五個くらいにしましょう。すいません、アイスを……五……十……十五……もう面倒なので五十個ください……!」


「ちょっ!?」


 そんなこんなで、私とレヴィナは店員さんの化け物を見るような目に見守られながら、袋いっぱいのアイスを抱えて帰路を歩くことになった。なんの罰ゲームですかこれ。


「ふんふ〜〜ん♪ みんな喜んでくれますかね……?」


 家に着く直前、そう尋ねてくるレヴィナはすっかりご機嫌の様子。アイスだけでここまで喜んでくれるなんて可愛いものだ。……買ったのはレヴィナだけど。


「なんか……今日は色々とありがとね? アイスとかアイスとかアイスとか」


 もはやご馳走になりすぎて申し訳ないレベルだ。しかしレヴィナはまったく気にした様子もなく――


「いえいえ。むしろこっちがお礼を言いたいくらいです……! 今日はルノさんと遊べてとても楽しかったですよ……」


 そう言いながら触れるのは首に下げられた薄紅色のペンダント。私の薄青色のペンダントとお揃いのそれを大切そうに見つめる表情は、言葉通りとても幸せそうだった。その眩しすぎる笑顔は見てるこっちが照れ臭くなってしまう程だ。


「えっと、私も楽しかったよ。また一緒に遊びに行こうね」


「はい、ぜひ……!」


 締め括りとしてそんな言葉を交わす。とは言っても、これからもまた同じ屋根の下で暮らすわけだからずっと一緒にいることに変わりはない。しかし、レヴィナにとって、私と一緒に遊んだ今日という一日が、特別なものになったというのはなんとなく分かった気がした。何故なら私も同じだから。


「つまり今日はお互いにとって忘れられないデートをしたということになるね」


「また変なこと言ってる……」


 ついつい口に出してしまったが……まぁ、いいか。デートは冗談だけど、忘れられない思い出となったことは紛れもない事実。


 一生の宝物なのだから。



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