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☆氷の魔女のスローライフ☆  作者: にゃんたこ
144/198

第144話〜フユナのカチコチ成長記 その4〜


〜〜登場人物〜〜



ルノ (氷の魔女)

物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。


サトリ (風の魔女・風の双剣使い)

ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。


フユナ (氷のスライム)

氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。


カラット (炎の魔女・鍛冶師)

村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。


グロッタ (フェンリル)

とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。


ランペッジ (雷の双剣使い)

ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。


スフレベルグ (フレスベルグ)

白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。


レヴィナ (ネクロマンサー)

劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。


コロリン (コンゴウセキスライム)

ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。


フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ

魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。


にゃんたこ (神様)

『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。



 その日、朝食後のお茶を楽しんでいると、玄関の扉をノックする音が聞こえてきました。控え目な音から察するに、サトリちゃんやカラットさん、フィオちゃんなどではないとあたりを付けつつ、わたしは対応するために玄関へと向かいました。


「どちらさまですか〜〜?」


 ルノに倣ってそんな言葉と共に玄関の扉を少しだけ開けます。これは不審者などの可能性も考えてのことだと言っていましたが、今回に限って言えばそれは杞憂でした。


「遊びに来たよ」


「あっ」


 なぜならそこにいたのは、ここ最近、やけにルノと仲良くしている女の子――にゃんたこちゃんだったのです。しかしここで一つ問題がありました。肝心のルノは不在なのです。


「来てくれたのにごめんね。たぶん村にいると思うんだけど」


「……」


 わたしの言葉を聞いて、凍ったように動かなくなってしまったにゃんたこちゃん。やっぱりショックだったのかな。


「そうだ。よかったら上がってく? お昼頃には帰ってくるって言ってたからここで待ってたら?」


 お昼頃とは言っても具体的な時間までは決まってないですが、おそらくは三時間ほど。お客さん用のお菓子やジュースもあるので退屈はしないはず。それにせっかくの機会なので、にゃんたこちゃんともっと仲良くなれたらなんて思いもありました。


「じゃあお言葉に甘えて」


「うん。どうぞ〜〜!」


 思いが通じたのでしょうか。正直、ルノがいる村まで行ってしまうと思っていたのでちょっと意外でした。


「レヴィナさ〜〜ん。にゃんたこちゃんが来たよ!」


「ええっ!?」


 にゃんたこちゃんを連れてリビングに戻るや否や、ソファで本を読んでいたレヴィナさんが過剰とも言える反応を示しました。信じられないといった様子です。


「どうしたの? にゃんたこちゃんには会ったことあるよね?」


「はい、ありますけど……ひゃあ! 本当にいるぅ!?」


 にゃんたこちゃんの姿を視界に捉えたレヴィナさんが発狂しました。それに対しにゃんたこちゃんは――


「静かにして」


「むぐ〜〜!?」


「くす」


 出会い頭にレヴィナさんの口を氷漬けにして微笑みました。こう言っていいのか分かりませんが、とてもあざかやなお手並みです。これが二人の挨拶なのでしょうか。


「ん〜〜いつの間に仲良くなったんだろ? いいなぁ」


 レヴィナさんは口が氷漬けなので表情はいまいち分かりませんが、にゃんたこちゃんはとても楽しそう。わたしも早くお菓子とジュースの用意してあの輪の中に入ろう!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 その後、わたしとにゃんたこちゃんは、食事をするテーブルではなく、先程までレヴィナさんが本を読んでいたソファに腰を下ろしました。目の前の小さなテーブルにはお菓子とジュースもあります。ちなみに、レヴィナさんは氷漬けの口を押さえてどこかへ行ってしまいました。


「美味しいね、これ」


 最初に口を開いたのはにゃんたこちゃんでした。その手にあるのはわたしが作ったプリン。自信作です。


「ふふっ、それなら良かった。それね、フユナの手作りなんだよ?」


「ふ〜〜ん」


 短い返事だけして、夢中でプリンを口に運んでいます。こんなにも自分の作ったものが好評だと嬉しいものですが……先程からまったく減っていないのは気のせいでしょうか?


「気のせいじゃないよ」


「え?」


 考えていることがバレてしまいました。気のせいじゃないとは一体……?


「魔法で食べる前の状態に戻してるの」


「ええっ!?」


 にわかには信じられませんが、事実として目の前でそうなっているのだから信じるほかありませんでした。なんて羨ましい。


「よく分からないけど……にゃんたこちゃんってすごいよね。この前はサトリちゃんにすごい強い風の魔法教えてあげたみたいだし」


「神様だもの」


「神様……」


 いくつか読んだ本の中にもその存在は登場していましたが、共通していたのはそのどれもが規格外の存在ということ。まさににゃんたこちゃんにピッタリです。


「あなたは疑わないんだね」


「そんなにすごい魔法を目の前で見ちゃったんだもん。納得しちゃうよ」


「そう」


 返事こそ短いですが、今のにゃんたこちゃんは確かに笑っているように見えました。友達に一歩近づいたような気がします。


「ずいぶんと素直だね」


「えっ、そうかな?」


「うん。それなのに黒い部分がない。ルノがあなたのことを溺愛しているのも分かる気がする」


「そ、そんな風に言われると照れるなぁ……」


 ルノとにゃんたこちゃんの間でどんな会話があったのか気になるところでしたが、それは聞いてはいけないような気がしました。こっちが恥ずかしくなってしまいそうで。


「そうだ! にゃんたこちゃんは本は好きかな? フユナのおすすめのやつがあるんだけど!」


 これは恥ずかしさを誤魔化すために出てきた言葉でした。興味がなかったらどうしようかとも思いましたが、そんなことはなかったようです。


「たまに読むよ。どんなの?」


「これ! 『双剣使い・サトリんのワクワク冒険記』っていうんだけど――」


 そこからの話題はとても盛り上がりました。本の主人公が誰なのか。そしてその主人公に憧れてわたしが双剣を使うようになったことなど。時間がいくらあっても足りないくらいでした。


「でもね、サトリちゃんに色々と教えてもらってるけどまだまだなの。不意打ちなんかして一本取ったことはあるけど、真っ向勝負じゃ全然。きっとまだ手加減されちゃってると思うんだよね」


「そんなに勝ちたいの?」


「うん! もちろん一緒にお稽古する時間も楽しいんだけど、やっぱり強くなって褒めてもらえればもっと楽しいと思うんだ。でもサトリちゃんもルノも強いから、それがいつになることやら……」


 正直、追いつけることなんて想像もできませんでした。不可能だと言ってもいいくらいかもしれません。そんな時、にゃんたこちゃんがある提案をしてきました。


「じゃあ遊ぶ?」


「え? 遊ぶ……って?」


「プリンのお礼。私が……フユナを鍛えてあげる」


 予想外の提案でしたが、同時に得体の知れない期待感もありました。先程の魔法を見ても分かる通り、にゃんたこちゃんの実力は未知数。こんなに嬉しい提案はありません。なので――


「うん! よろしくお願いします!」


 悩むまでもありません。返事は一瞬でした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 遊ぶ――要するに、特訓をするべくやって来たのは、家のすぐ横にあるお馴染みの草原でした。


「でも特訓ってなにやるの?」


「簡単。普段、フユナがお稽古でやってる事と同じだよ。私とフユナで勝負して、一本取った方が勝ち。勝った方がこのクッキーを食べて良いの。一枚だけね」


「ふむふむ」


 クッキーはさっきまで一緒に食べていたものの余り。つまりこれが勝者のご褒美になるというわけです。


「でも『お互い』ってことはにゃんたこちゃんも反撃してくるってことだよね……?」


「そんなに心配する必要ないよ。私は一つしか魔法は使わないから」


「一つだけ?」


「煌めく彗星、輝氷の射手」


 とても聞き覚えのある詠唱でした。それは輝く氷を彗星の如く撃ち出す狙撃の魔法。ルノと同じです。


「なんでなんで!?」


「練度を度外視すれば大して難しい魔法じゃないからね。始めるよ」


「う、うん!」


 少し驚きましたが、知ってる魔法なだけに対処法も分かります。輝氷の射手はスピードと連射力が持ち味の魔法。サトリちゃん仕込みのスピードの見せ所です。


「どん」


「???」


 どん。こちらに向けられた手と、その上での掛け声。動きを見れば魔法を放ったのだと想像はできましたが、肝心の氷が見当たりません。そう思ったのも束の間――ズドン!!


「わあっ!?」


 背後から聞こえてきたのはものすごい轟音でした。その理由は至ってシンプル。振り向いた先――草原の端っこにある岩が爆破でもされたかのように粉々に砕け散っていたのです。


「え? なんで?」


「よく見て。もう一度いくよ」


「う、うん……?」


「どん」


「!?」


 髪の毛にチッ! っと走る衝撃と共に、ギリギリ視界に捉えた美しい氷。轟音の正体は、にゃんたこちゃんから放たれた、もはやルノとは別物と言ってもいいくらいの輝氷の射手でした。


「くす。これで一本だね。いただきます」


 そう言って、ヒョイとクッキーを手に取って食べ始めるにゃんたこちゃん。


「な、なんで〜〜!? まだ当たってないよ!?」


「髪の毛に当たったよ」


「むむ……!」


 否定はできませんでした。確かに視界を通り過ぎる際に、髪の毛を弾く音がしましたから。


「一応言っておくと、今のはルノが撃てる最速。いや、成長を考えたらそれ以上かもしれない。もしも今のに驚いたなら、つまりそれだけの加減をされていたということだよ。憧れの人に勝ちたいなら『追い付きたい』という気持ちより『追い越したい』という気持ちを持たないとだめ」


「は、はい……」


 言い返す言葉もありませんでした。さすがはルノ。さすがはサトリちゃん。そして、さすがはにゃんたこちゃん。わたしも止まってはいられません。


「次はフユナから。いつでもかかっておいで」


「わかった! 行くよ〜〜!」


 わたしは気持ちを切り替えて攻めることにしました。にゃんたこちゃんに輝氷の射手がある以上は距離を空けたらだめ。まずは一気に距離を詰めます。


「と、見せかけて!」


 双剣を振りかぶった瞬間に方向転換。そして背後を取りました。もちろん狙うのは――


「足!」


「甘いよ」


 背後からの不意をついた一撃が、たった一つの跳躍で躱されました。しかしわたしの本当の狙いは次。双剣の強みは連撃です。


「ここ!」


 跳躍によってできた隙。空中では身動きが取れません。仮に空を飛ばれでもしたら厄介ですが、にゃんたこちゃんの言葉通りなら使う魔法は『輝氷の射手』のみ。勝った――と思いました。


 しかし。


「どん」


「わっ!?」


 キィン! っと弾かれたのはわたしの双剣。それを成し得たのは、空中にいるあの一瞬で狙いを定めたにゃんたこちゃんの恐るべき力量。近距離での輝氷の射手でした。


「でもまだ――」


 終わりじゃない! そう思い、再び反撃に移ろうとしたその瞬間でした。


「どん」


「!?」


 先程の一撃とは別のもう片方の手。着地を待たずに放たれた狙撃がまたしてもわたしの髪の毛に掠りました。双剣もかくやといった連撃です。


「くす。また一本だね」


「〜〜っ!?」


 その後も何度か挑戦しましたが全部負け。圧倒的という言葉がこれほど適した状況などないのではないでしょうか。少なくともわたしにはこれ以上の攻め手はありません。完敗です。その結果――


「ずるいよ〜〜! 神様に勝てるわけないじゃ〜〜ん!?」


 出てきたのは負け惜しみと取られても仕方の無い言葉でした。我ながら情けない……


「そんなことないよ。今のはあくまでも『ルノがある程度本気を出したら』っていう動きを再現したもの。だからまずはこれだけの力の差があるってことから学んで。それが分からないで勝負を挑んでるうちはただの『無謀』だよ」


「うぅ〜〜!?」


 本日何度目でしょうか。本当に言葉がありません。ですが不思議と涙は流れませんでした。何故でしょうか?


「それは成長できたから。相手との力量の差を認めるのは思いのほか難しいの。勝ちたいと思う相手には特にね。素直なフユナはそれができた。――なら次はどうする?」


「……どうやって勝つか考える!」


「正解。それじゃあもう少しだけ遊んであげる」


「よ、よろしくお願いします!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 あれから約一時間。ご褒美のクッキーもすっかり無くなってしまったのを合図に、にゃんたこちゃんによる『遊び』と称した猛烈な特訓は幕を下ろしました。


「疲れた〜〜! 結局、一本も取れなかったよ! にゃんたこちゃんの悪魔〜〜! スパルタ〜〜!」


「くす。ルノじゃ甘々なのは目に見えてるからね。上の世界を知るのも勉強のうち」


「は〜〜い……」


 言われてみれば確かに、ルノやサトリちゃんとの特訓ではここまで『圧倒的な力』をぶつけられたことはありませんでした。ルノは丁寧に教えてくれるし、サトリちゃんはわたしのレベルに合わせてくれてます。ですが、やり方の違いはあれど、みんな『上の世界』を教えてくれてるんだと今更ながらに気付きました。


「フユナはみんなに愛されてるんだよ」


「ええっ!?」


 そんなことはない――とは言えませんでした。成長したからこそ、それが身にしみて分かってしまったのですから。


「あ〜〜あ……みんな本当に強いなぁ。フユナが勝てる日は来るのかな?」


「きっと来るよ。憧れの人に勝ちたいなら――どうするんだっけ?」


「力量の差を見極めてから、追い越すつもりで、勝つ方法を考える!」


「正解。よくできました」


 こうして、午後も特訓――とはいきませんでした。にゃんたこちゃんによると、休むのも大切なんだとか。


「その辺はスローライフが得意な人がいるからね。しっかり教えてもらおうか?」


 そう言って指差す先にはスローライフが得意な人――ルノがちょうど帰ってところでした。


「お、なになに? 私の帰りを待ってたのかな? 相変わらずフユナは可愛いなぁ。にゃんたこ様も来てたんですね」


「うん。ルノがいなかったからフユナと遊んでたの。楽しかったよ」


「遊んでた!? 楽しかった!? ちょっと、フユナ! まさかいじめられてたの!?」


 急に焦り出すルノ。まるで、自分が遊びと称していじめられていたことがあるかのようでした。


「も〜〜! にゃんたこちゃんはそんなことしないよ。ルノやサトリちゃんを倒すために特訓してたんだから!」


「そうだよ。遠くないうちにルノはフユナに倒される。楽しみだね」


「えぇ……私の知らないところで何をしていたんですか……怖い」


 秘密の特訓と言ったら大袈裟かもしれませんが、今日のやつはまさにそれでした。いつか成長した力を見せつけて、ルノやサトリちゃんに勝つ。一歩前進したその目標を達成するために、わたしはこれからもお友達のにゃんたこちゃんと共に精進していこうと思います。



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