第142話〜サプライズ訪問〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。
フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ
魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。
にゃんたこ (神様)
『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。
「ここがヒュンガル。あの子が暮らしている村ね」
自然豊かな山々に囲まれた小さな村。第一印象としてはおおよそそんな感じ。だいたいの雰囲気は聞いていたけど実際に見てみると想像以上にのどかでいい所だと思ったわ。
「いっその事、わたくしもこちらで暮らそうかしら――なんてね。さて、あの子は元気にしているかしら?」
今回の訪問は特に約束をしていたわけでもないので、これは単なる気まぐれ。驚かせよう、なんてイタズラ心があったのかもしれないわね。
「驚かせる……か。ふふっ、少しくらいいいわよね。久しぶりだからテンション上がってきちゃったわ」
イタズラ好きの血と言ったら大袈裟かもしれないけど、これもあの人の影響でしょう。どうせなら一緒に来れば良かったのに。
「まぁいいわ。沢山のお土産話を持って帰って自慢してあげましょう。となると……ついでにルノさんを驚かせるのもいいわね。前回はあまり時間もなくてお相手してもらえなったし」
晴れ渡る青空の下。
少々、黒い笑顔を浮かべて年甲斐も無く悪巧みをするのは王都で有名な光の魔女。目鼻立ちの整った顔に、腰まで届く光り輝く金髪は王妃の証。
「ふふふ……!」
わたくしの名はフィオール・リトゥーラ。
王都『リトゥーラ』の国王、ブレッザ・リトゥーラの妻。そして、ヒュンガルに滞在しているフィオ・リトゥーラの母ですわ。
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自宅から約十分の場所にある地元の村、ヒュンガル。カフェに本屋に鍛冶屋に温泉。小さいながらも発展しているその村は私にとってはもはや庭と言っても差し支えない程度には歩き慣れた場所だ。
「今日もカフェでスローライフ〜〜♪ ふんふんふふ〜〜ん♪」
そんな鼻歌と共にあと数分も歩けば『ヒュンガルへようこそ!』の看板が私を出迎えてくれる。とは言え、そんな看板は村に足を運んだ数だけ目にしている訳で、改めてじっくり見ることなどはほぼ無いが。
ところが――
「あれ……誰かいる?」
本来、看板が立っている位置にはちょうど重なるように人の後ろ姿が見えた。近づくにつれて明らかになるその全貌――光り輝く金髪はどこぞで見たような美しさ。同時に聞こえてきたのはあの子を驚かせるだの私を驚かせるだのといった物騒な独り言。最終的には「ふふふ……!」という、控えめに言っても不気味な笑い声で締め括る始末。
「えぇ……何あれ怖い……」
晴れ渡る青空の下。
私、氷の魔女ルノは、予想外に現れたその人物――王都『リトゥーラ』の王妃様であり、我が弟子のフィオちゃんのお母さんでもあるフィオールさんに恐怖していた。
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ヒュンガルに足を踏み入れるとまず目に入ったのは大きな噴水。見た感じ、村の中央に位置しているようなので恐らくはシンボルのような役割を担っているのでしょう。
「よし。それじゃ、ここからが任務スタートね。ふふふ……光の魔女ここに降臨よ。それ!」
声に反応して荷物の中から白のローブとフードが飛び出してくると、そのままの流れで身体に巻き付き装着完了。普通に着替えても良かったけどここは魔女らしくね。
「これでよしっと。あとはフィオがどこにいるかだけど……あの人に聞いてみようかしら」
村の中央ということもありここからはほぼ全体に視線を巡らせることができた。そして目に付いたのが双剣を構えた金髪の青年。髪色が同じだから親近感が湧いてきちゃうわね。
「すいません。少々よろしいかしら?」
「お、挑戦者か? いいだろう。どこからでもかかってこい!」
「かかって? え? え?」
なぜ初対面の青年と勝負をしなければいけないのでしょう。挑戦者も何も挑んだ覚えはないのですけれど……
「ふむ。あぁ、なるほど」
対峙する青年のすぐ横。案内板らしき物には勝負とやらの詳細がおおまかに記されていた。一本取れば勝利。景品はロッキの結晶。
「面白そうね。それじゃあ少し遊んでみようかしら」
「それはこっちのセリフだぜ! とうっ!」
「あら?」
掛け声と共に掻き消える青年の姿。その初動だけでこの青年のレベルの高さが分かる。小さな村の人間だと思って少々侮ってましたね。
「とりあえず仕切り直さないとね。それ!」
「ぎゃあああ!?」
パッと杖を構えてパッと閃光を放つ。たったこれだけのことでも突然やられると意外と怯んでしまうもの。この青年に至ってはオーバーリアクションもいいところですが。
「ふぅ。危ない危ない」
「ぐぉぉぉ! 目がぁ!?」
「そんな演技をしても無駄ですわよ。あなた、なかなかの達人でしょう?」
「ほう、バレたか。だが時すでに遅し!」
「あらら?」
再び掻き消える青年の姿。改めて感心させられるこの動き――王都でもこれほどの速さを誇る人は滅多にいないでしょう。それこそ一部の騎士や、フィオの護衛を任せたオリーヴァやバッカくらい。
「本当に面白いわね。でも残念」
「んなっ!?」
先程、閃光を放った際に仕掛けておいた束縛の罠。スピードで劣るならそれ以外で。手はいくらでもあるものです。
「魔法の鎖よ。ふふ、動けないでしょう?」
「確かに。……だが甘い! ここは既にオレの間合い――」
「それも残念」
「ぎゃあああ!?」
反撃の瞬間に再び杖を構えてパッ。今度はモロに直撃したみたいね。
「あの状況の中、反撃に転じたのは素晴らしかったですけど、さすがに選択肢は限られてましたね。はい、残念賞」
「ちくしょう〜〜!?」
ツンと、がら空きのおでこに杖を一突き。文字通り一撃を入れたわたくしは見事勝利。頂いたロッキの結晶はフィオへのお土産にするとしましょう。
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私が遠くで見守る中、ランペッジさんとフィオールさんとの対決は激闘の末、無事に終わりを告げた。
「う〜〜ん! なんだかこっちまでハラハラしちゃったよ。フィオールさんもなかなか……さすが魔女だね」
「本当ですね。お母様が一人で出歩いていられる理由が分かります」
「ほんとほんと。…………って、いつからいたの?」
「えっと〜〜「とりあえず仕切り直さないとね」「ぎゃあああ!?」の所くらいからです」
「けっこう最初の方からいたのね。声かけてくれれば良かったのに」
「先生があまりにも夢中になっていたみたいなので。ところで、なんでお母様がいるんですか?」
「あぁ〜〜それはだね……」
これはなんと説明したらいいものか。フィオールさんのせっかくのサプライズ訪問に水を差すのも気が引ける。しかしその対象に私も含まれているのを知っている身としてはこのままという訳にいかないのも事実。
「そうか。ならこっちも……」
「あの〜〜?」
「あぁ、ごめんね。えっとね、ほにゃららほにゃらら!」
「えぇーー!?」
一応言っておくが「サプライズ訪問にだよ」と、的確かつ手短に説明してあげただけ。我が弟子は随分といい反応をしてくれるな。
「まぁ、そういうことだからさ。逆にこっちが驚かせちゃうなんてどうかな?」
「それ最高です! ぜひやりましょう!」
という訳で逆サプライズ計画開始。
「でもどうやって驚かせるんですか? 背後から大声で叫ぶとか?」
「う〜〜ん、どうせなら驚きと感動のダブルパンチがいいんじゃないかな。フィオちゃんの予想外の成長を見せるなんてどう?」
「あ、いいですねそれ! それじゃあ、気付かれないように背後から近付いて私の魔法――炎の蛇でぐるぐる巻きにするなんてどうですか? それなら驚きと同時に魔法の成長も見せつけることができますよ!」
「いや……それ消し炭になって終了しちゃう……」
「え〜〜? じゃあ背後から――」
そんな感じにいくつか案は出たものの全て却下。なぜこの子は背後からの襲撃に走ろうとするのか。
「よし。ならこうだ! ほにゃららほにゃらら!」
「え、えぇーー!? でもそれってタイミングが結構難しいんじゃないですか?」
「だからこそだよ。私達の力を見せてあげようじゃないか!」
「う〜〜ん……!? わ、分かりました! 私も先生の弟子として精一杯頑張ります!」
「うん、その意気だ! えいえいおーー!」
「なんですかそれ? えいえい……?」
「うそ、知らない? えいえいおーー……って」
「???」
「……」
コンビネーション必須だというのに大丈夫だろうか……そんな不安に刈られる私だった。
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「氷の魔女と金髪の美少女?」
「えぇ。この村にいるみたいなのですけどご存知ありません?」
「うーーむ……」
何やら考え込む青年。知ってるかどうかで言えば知っている。しかし見ず知らずの人に知人を売るのは……みたいな感じ。まぁ、ブツブツと独り言が漏れていただけなのですけど。
「ご安心くださいませ。訳あって身分は明かせませんがわたくしもその二人と知り合いですの」
「そういうことなら。ちなみに説明するまでもないぞ。なぜならオレのルノさんとリトゥーラ王女ならあそこにいるからな」
「あら」
寝言をほざいたような気がしましたが今はスルー。青年が指差すのは道やお店の類ではなく離れにある茂みの方角。最初は冗談かとも思いましたが、奥に見えるのは確かにルノさんとフィオの二人姿。
「あんな所で何を話してるのかしら。ちょっと聞いてきてちょうだい」
「よし、任せろ」
「あ、ごめんなさい。あなたではなくて」
お願いしたのはわたくし自身の魔法――光で形作った鳥に。意思こそありませんがある程度の命令なら忠実に従ってくれるかわいいペットのようなものですわ。
「さてと。それではわたくしはこれで失礼しますわ。あなた……えっと……お名前は?」
「ふっ、名乗る程の者ではないさ」
「あら」
これは残念。強さに容姿、放っておくには勿体ない逸材を見つけた身としては是非お近付きになりたかったのだけど……わたくし自身も名乗っていないのだから仕方ないわね。
「ならこれだけ。もし身の振り方に困ったらぜひ王都『リトゥーラ』に足を運んでみてくださいな。いいお仕事を紹介致しますので」
「ほう? 嬉しい話だがオレに仕事をさせるならそれこそ国王、またはその親族の護衛くらいでなきゃ――」
「はい。ですからまさにそれですわ」
「え」
「ふふ。それじゃあ、いつかまたお会いしましょう。名も知らぬ双剣使いさん」
「あ、ちょっと待っ――ぎゃあああ!?」
こうして本日何度目かも分からない目くらましの魔法を放ったわたくしは、光の鳥が飛んで行った方向へ向かって歩き出しました。
最後までオーバーリアクションをする面白い青年に背を向けて。
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「よし、この辺りでいいかな」
私がフィオちゃんを連れてやって来たのは自宅とヒュンガルを繋ぐ道の中間地点。フィオールさんに逆ドッキリを仕掛けるための魔のエリアと化す予定だ。
「これは私の予想だけどね。フィオちゃんだけでなく私のことも驚かせようとしているフィオールさんなら絶対にうちに来ると思うんだよね。つまりこの道は必ず通るってことさ」
「確かに。さすが先生です! つまりこの逃げ場のない一本道で呑気に歩いてきたお母様を背後から!?」
「と、とりあえず背後からの奇襲は一旦置いておこうか。でもおおよそそんなイメージかな」
「ふむふむ。それで作戦とは?」
「ふっふっふっ、それはね。フィオールさんがこの場所までやって来たらまずはフィオちゃんが炎の鳥を生み出すの」
「なるほど。背後ではなく頭上からの奇襲ですね」
「いや、まぁそうなんだけど……」
この子はフィオールさんに恨みでもあるのだろうか。背後からだの奇襲だのと物騒なことこの上ない。まぁ、久しぶりの再会ということで親子共々テンションが上がってのことだろう。
「そして次の段階。フィオちゃんがフィオールさんの頭上に放った炎の鳥に私が氷の魔法をぶつける。すると〜〜?」
「氷が炎にぶつかって溶ける……?」
「その通り。つまり真下にいたフィオールさんはびしょ濡れ! これは私とフィオちゃんによるびしょ濡れドッキリ大作戦なのだ!」
「すごい! さらにそこから先生の魔法で追い打ちをかければ凍えさせることも可能ですね!」
「いや、さすがにそこまで鬼畜なことするつもりはないけど……一応、王妃様だし」
「そうですか? 先生がそう言うのでしたら……」
何故か残念そうに俯くフィオちゃん。そんなに凍えさせたかったのかな。
「よし。気持ちを切り替えて行こう! これはフィオちゃんのコントロールと私のタイミング。つまりコンビネーションが重要だよ」
「なるほど。そしてそれを見たお母様は私の成長に感動する……と。そういうことですね?」
「その通り。恐らく時間はそんなにないから早速やってみよう。いろいろ言ったけど要するにフィオちゃんはフィオールさんの頭上に炎の鳥を放ってくれればそれでオッケー。あとはそのタイミングで私が氷をぶつけるから」
「任せてください! それじゃあ、さっそくやってみましょう。目標はあの光る鳥で!」
「光る鳥?」
目標。そう言って指差すのは私達の頭上を旋回するように飛び回る光り輝く美しい鳥。初めて見る種類だ。
「了解! んじゃやってみよう!」
「はい! いでよ、炎の鳥! それっ!」
フィオちゃんの掛け声と共に放たれる炎の鳥。それは少し前に見た時より、大きさもスピードも格段に上がっていた。日々成長している証だ。
「いいねいいね。次は私の番か……今だ! ずどん!」
目標の光り輝く鳥。その、ちょうど真上に炎の鳥が来たタイミングで私が放った氷の彗星が見事に命中。ぶつかり合った炎と氷は一瞬で水となり目標へと降り注ぐが――
「ああっ!? 避けられちゃいました……」
「ありゃりゃ。でもこれなら成功間違いなしだよ。自信持っていいと思うよ?」
「そうですね……はい! 必ず成功させましょう先生!」
「うん、もちろんだよ! えいえいおーー!」
「えいえいおーー!」
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「あらまぁ、楽しそうにしちゃって。羨ましいわ」
わたくしが偵察に向かわせた光り輝く鳥。スピードらそれなりあると自負していましたが、もう少しで降り注ぐ水の餌食になっていたことから察するに、あの二人のコンビネーションはなかなか厄介なレベルに達していることが見て取れました。母親として嬉しい限りです。
「あなたも災難だったわね。お疲れ様」
報告を終えた光り輝く鳥は、役目を終えると光の粒子となって飛散する。ここからはわたくしの役目ね。
「でもどうしようかしら。びしょ濡れになってあげるにしてもまだ季節的に辛いものがあるし……困ったわ」
まさかわたくしの訪問がバレていたとは予想外……さすがルノさん。これじゃあサプライズ訪問で驚かせるという当初の目的を成し遂げるのは厳しいわね。
「となると……やっぱりこれね」
たどり着いた結論は一つ。娘の成長を嬉しく思う反面、魔女として負けたくない気持ち――そんなプライドという名の意地があったが故の結論。
「そうと決まれば……少しだけあなた達の作戦に引っかかってあげるわ。ふふふ……」
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『フィオちゃん。準備はいい?』
『ふふっ、先生ってば頭に虫が乗っかってますよ?』
『今更だけど水かけたりして怒られないかな?』
『先生。今度一緒に温泉に行きませんか? やったぁ!』
『あ、笑ってる。もぉ……他人事じゃないんだからね』
そんな感じに、アイコンタクトで伝わっているかどうかも分からないないやり取りをするのはもちろん私とフィオちゃん。現在の私達の距離は道を挟んでお互いの表情がなんとか分かる程度には離れている。作戦決行にあたってベストなポジションに陣取った結果だ。
『フィオちゃん、気を抜いたらだめだよ。さすがにまだフィオールさんは来ないだろうけどね。うん、まだ来ないでしょ』
『急にどうしたんですか先生。暇なんですか?』
『こういうのはフラグを立てとけばだいたいはその通りになるの。ほら来た!』
『え〜〜? あ、本当だ!?』
村の方角からやってく来るのは白いローブと白いフードに身を包む人物。フィオールさんだ!
『いくよ、フィオちゃん!』
『はい、先生!』
一歩。二歩。徐々に私達の射程圏内に歩みを進めるフィオールさんに迷いは一切無い。しかしそれはこちらも同じ。打ち合わせはバッチリなのだから。
そして――
『入った!』
『炎の鳥っ!』
空へと舞い上がる真紅の翼。それはやがて標的の真上に到達し――
『あとは撃ち抜くだけ。せ〜〜のっ!』
緊張の瞬間。この一瞬で全てが決まる。
しかし私が氷を放とうとしたその瞬間。
「いい連携だわ。でも残念」
確かに聞こえてきたフィオールさんの見透かすような声。
次の瞬間――
「それっ!」
パッ!
「「!?」」
フィオールさんが構える杖の先端から視界を奪う程の閃光が放たれた。まさかの反撃に、フィオちゃんはもちろん、私までもが停止を余儀なくされる。
数秒後。
「あれ……いない……?」
その場に残されたのは私とフィオちゃんの二人のみ。先程までの出来事が全て夢であったかのような感覚だ。
「うぅ、先生ぇ……目がぁ……」
「あはは、やられちゃったね」
「なんで〜〜???」
私達が戸惑う中、しかしそうではないと証明する物が道の真ん中に落ちていた。ロッキの結晶と一枚の手紙だ。
「それって……もしかしてお母様から? なんて書いてあるんですか?」
「うん。読んでみようか」
一枚の紙に綺麗な文字で綴られたフィオールさんからの手紙。その内容は逆ドッキリをしようとしていた私達からすれば驚くべきものだった。
『お久しぶりね、フィオ。そしてルノさん。いきなりですけど……あなた達の企みは全て筒抜けでしたわよ』
「「えぇ!?」」
『ふふっ、びっくりしたでしょう? そんなあなた達のために種明かしをして差し上げましょう。上をご覧なさいな』
「上?」
「あぁ! 先生あれ!?」
それはコンビネーションの練習にと標的にしていた光り輝く鳥。まさか……?
『もう説明は必要ありませんね? はい、残念賞』
「く……!?」
「お母様……!!」
ギリギリと歯をくいしばる負け組の二人。無論、私とフィオちゃんなのだが。
『でもお二人がいい関係を築けているみたいで安心したわ。ゆっくりお茶でもしながら積もる話でもしようと思ったのだけれどフィオの成長、そして何より元気そうな顔を見れただけでお母さんは満足よ。あ、そのロッキの結晶はお土産ね』
「だってさ」
「うぅ、勝ち逃げ。……でも綺麗」
『最後に。フィオ。たまにはこっちに帰ってきて一緒にご飯でも食べましょうね。そしてルノさん。これからもフィオのことをよろしくお願いします。またいつでも遊びに来てくださいね。それではごきげんよう』
一枚の紙に綴られた文字の数々。そこには母から娘への確かな愛情が記されてた。楽しそうで何より……と。
「まぁ……良かったんじゃないかな。フィオールさんも安心したみたいだし。それに――」
「はい。成長した姿、見せられたみたいですし!」
とは言え、やはり親というものは子供の心配はしてしまうもの。それは子が離れているなら尚更かもしれない。
だから――
「今度はさ。私達がフィオールさんの所へ行って驚かせてあげようか?」
「ぜひそうしましょう!」
そのうちまたフィオちゃんの里帰りに付き添ってあげるのも悪くはない。そのときはお土産としてとびきりのドッキリをプレゼントしてあげるのもいいかも。
「ふぅ。なんだかお腹すいちゃったな。せっかくだからフィオちゃんも一緒にうちでご飯食べる?」
「良いんですか!? ぜひぜひ!」
めでたしめでたし。