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☆氷の魔女のスローライフ☆  作者: にゃんたこ
141/198

第141話〜コロリンの帽子〜


〜〜登場人物〜〜



ルノ (氷の魔女)

物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。


サトリ (風の魔女・風の双剣使い)

ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。


フユナ (氷のスライム)

氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。


カラット (炎の魔女・鍛冶師)

村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。


グロッタ (フェンリル)

とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。


ランペッジ (雷の双剣使い)

ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。


スフレベルグ (フレスベルグ)

白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。


レヴィナ (ネクロマンサー)

劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。


コロリン (コンゴウセキスライム)

ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。


フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ

魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。


にゃんたこ (神様)

『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。

 



「待ってくださいルノ。ほら、これ!」


「ん、なになに?」



 朝のコーヒーブレイク終えた私とコロリンがカフェを後にしたのがつい先程の事。いつもと何ら変わらないヒュンガルでの日常の中、コロリンがやけに目を輝かせて足を止めたのは村で唯一の雑貨屋だった。



「いいなぁ」



 恋する乙女のような熱い視線を向けるその先にあるのは小ぶりな麦わら帽子。アクセントとして巻かれている純白のリボンがちょっとしたオシャレポイントだ。



「へぇ、かわいい麦わら帽子だね」


「ふふふ〜〜♪ そうでしょう?」


「うん。かわいい帽子にかわいいコロリン。こりゃ神様もびっくりだね」


「そうでしょうそうでしょう? ふふふ〜〜♪」


「あ、なんかお花畑が見える」



 いつものクールキャラはどこへやら。ふふふふ言いながら試着した帽子と共にクルクル回るその姿は天使そのもの。べ、べつに家族贔屓してる訳じゃないからねっ!



「それではルノ」


「うん、かわいいコロリンも見れたし帰ろっか。ちゃんと帽子は戻しておくんだよ」


「え……」


「ん?」



 私の言葉を聞くや否や、この世の終わりとばかりに青ざめた顔で固まるコロリン。いや、言いたいことは分かるんだけどね?



「だってほら。コロリンってばまさに今、帽子被ってるじゃない。だからその純白リボン帽子はポイして」


「ほ〜〜し〜〜い〜〜!!」


「ちょっ!?」



 私の服の裾を掴んだかと思うと、欲望の声に合わせてグイグイと――こんな荒業をいつの間に覚えたのかと言わんばかりの駄々のこね方だった。



「こ、こら! いつからそんな駄々っ子になったんですかこの子は!? 分かった、分かったから! 帽子くらい買ってあげるから!?」


「やったーー!」



 絶望から一転。喜びに打ち震えるコロリンがピョンと跳ねた頃には、私の裾はすっかりヨレヨレになって残念なことになっていた。これお気に入りだったのに……



「ありがとうございますルノ。大切にしますね」


「うん。喜んでくれたなら何よりだよ。……ぐすっ!」



 やはり家族の笑顔は最高のスパイス。こういった何気ない日常の中で生まれた笑顔ならば尚更だ。しかしそれと引き換えに、ヨレヨレとなった裾が涙で濡れていたのは言うまでもない。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ただいま〜〜!」



 その後、早々に帰宅した私とコロリンはリビングのソファーに腰を下ろしてひとまず休憩。


 外からはフユナとレヴィナ、グロッタやスフレベルグ達のわっきゃうふふといった感じの賑やかな声が聞こえてくる。実に平和な空気である。



「少ししたら私達も外に行こうか。……って、コロリン?」


「ふんふんふ〜〜ん♪」



 外を眺める私の後ろから聞こえてくるのは随分とご機嫌なコロリンの鼻歌。なかなかレアな光景につい笑みがこぼれてしまうが、次に訪れたのはそれとは逆の驚きの光景だった。



「あの〜〜コロリンさん?」


「なんです?」



 先程購入した帽子を丁寧に壁に掛けるコロリン。そしてその横には既に別の帽子が掛けられており、さらにその横にもまた。その横にも(以下省略)



「いつの間にそんなに沢山の帽子を揃えたのかな……?」


「何を今さら。そっか、今日に至るまでに少しづつ増えていったので気が付かなかったんですね。さっきルノが買ってくれたやつで六つ目ですよ。ちなみにこれとそれもルノが買ってくれたやつ。というか全部ですね」


「あら……そうだったっけ。あれぇ?」



 いまいち実感は無いが、事実として目の前の壁――等間隔打ち付けられた杭には大小様々、色とりどりの帽子達が飾られている。



「なるほど、あの荒業を会得するに至った道筋がこれ……と。まぁ何にせよここまで来ると感心しちゃうよ。帽子屋さんでも始めるの?」


「そんなことしませんって。これは私の大切な帽子達なんですから売ったりしませんよ」


「そんなに大切にしてくれるなんて、いい子だねコロリン……!」


「べつに泣く程のことじゃ……」



 コロリンはその言葉を最後に、今現在まで被っていたいつもの帽子も帽子掛けへと戻した。これがお出かけ終了の合図という事だ。



「それじゃそろそろフユナ達と合流して……まてよ?」


「帽子屋さんはやりませんからね?」


「いや、違くてね? フユナやレヴィナが帽子被ってるのは見たことないなぁと思ってさ。ついでにグロッタやスフレベルグ――それはさすがにギャグか」


「ふむ。確かにそうですね」



 家族贔屓かもしれないがコロリンは帽子がよく似合っている。つまりフユナやレヴィナに帽子を被ってもらえば同じように新たな魅力を発見できるのでは?



「うんうん。アリかもしれない」


「それじゃこうしましょう。これとこれと……ええい、全部!」


「ちょっとちょっと。突然どうしたの? 家出でもする気?」


「なんで家出するのに帽子をかき集めなきゃいけないんですか。この帽子はみんなに被ってもらうんですよ」


「お、ナイスアイディア。でもいいの? それはコロリンの大切な帽子コレクションなんでしょ?」


「そうですよ。でも売るのと家族に被ってもらうのとでは訳が違うでしょう?」


「くっ、今日のコロリンは不意打ちが多くて私の心がもたないよ。ついにデレ期が来たか……!」


「は? アホな事言ってないで早く行きましょう。ぼっちになりますよ」


「またそうやってツンツンして。それじゃ行こうか。はい、お手てを繋いで〜〜♪」


「ちょっと。そんな子供じゃないですからね」



 とかなんとか言いながらしっかりと手を握り返してくる辺り、この子は子供みたいでかわいいなぁなんて思いながら私はコロリンと共に外へと向かったのだった。


 沢山の帽子を抱えて。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 庭にいるみんなと合流したことでこの場には家族全員が揃った。フユナ、レヴィナ、グロッタ、スフレベルグ……そして私とコロリン。実に賑やかである。



「まずはこれ。はいフユナ」



 フユナ達からしたらなんの前触れも無く突如始まったコロリンによる帽子授与式だが、特に驚いた様子は無く、むしろ何のイベントだとばかりに顔を輝かせている程だ。



「くれるの? ありがとうコロリン!」


「ふふ、すごく似合ってますよ」



 ポフッと被せられたのは白い生地に青いレースがクルリと巻かれた帽子。確かによく似合っている。



「てかもうプレゼントしちゃうのね。貸してあげるだけかと思ってたからちょっとびっくりだよ」


「私を舐めてもらっては困りますね。これ程似合う組み合わせを放っておいたら勿体ないでしょう?」


「確かに。なんだろ……今日のコロリンは師匠に見える」


「はいはい。どんどんいきますね」


「もっと私のことを大切に扱って!」



 そんな私の叫びも見事にスルーされ、帽子授与式は再開された。



「え〜〜っと、次はこれですね。はい、レヴィナ」


「あ、私にまで……? なんというか、シンプルな帽子ですね……。ありがとうございます……」


「いえいえ。ちなみにこの帽子は地味なレヴィナにはとりあえずこれでいいかな、みたいな無難なやつを選んだ結果こうなりました。私が持ってる帽子は地味なやつがあまり無かったので苦労しましたよ」


「ひどい……」



 帽子の影となって表情はよく見えないがなんだかんだでレヴィナも喜んでいる。このままいくと我が家の家族がもれなく帽子族になってしまうんじゃないかな。



「そしてもちろん二人にもありますよ。はい」


「む?」


「ふむ?」



 大きすぎるが故に気を利かせて頭を下げてくれるグロッタとスフレベルグ。だが当然、帽子のサイズは人間用なので合うはずもなく――



「その点は問題ありませんよ。ルノ、お願いしますね」


「あ、なるほどね。任せて」



 コロリンの言わんとしていることを察した私は魔法で帽子の大きさを二人に合うように変化させた。すると、チョコンと乗っていただけの帽子がスッポリと被さり――



「うん。これは……」



 やはりギャグだった。二人には悪いが、怪狼と大鷲が揃って帽子を被っているその絵をギャグと言わずなんと言うのか。見方によってはかわいいかもしれないが……



「お、よく見たら帽子が色違いだ。これは仲のいい田舎の夫婦的な……?」


「ルノが何を想像してるのかは分かりませんがおおよそそんな感じです。二人がよく戯れている姿を見るので仲良くペアルック的な」



 とまぁ、コロリンが考えているのも私と大差は無かった。



「うむ、よく分からんが陽射しが遮られてこれからの季節は肌に良さそうだな!」


「そうですね。ワタシも暑いのは苦手ですが、この帽子があれば日焼けを気にせず出かけられますね。ありがとうございます、コロリン」



 私達を他所によく分からない理由で意気投合するグロッタとスフレベルグ。君達は元から毛で覆われているでしょうに。



「でもなんだかんだでみんなに似合う帽子をチョイスしたコロリンはさすがだね。さて、私はそろそろお昼ご飯の支度でもしようかな」


「ちょっとちょっと。どこへ行くんですか」


「うわ、ととっ……?」



 良い天気だしサンドイッチでも作って皆と外で食べようかな、なんて考えながら家に戻ろうとしたところを何者かに肩を掴まれて阻止された。コロリンなんだけど。



「どうしたの? 心配しなくても今日はルノサンドじゃなくてただのサンドイッチだよ」


「それはどうでも――いや、割と重要ですけど今はどうでもいいんです。ほら、ルノにはこの帽子ですよ」


「へ?」



 皆と同じくポフッと被せられる帽子。やはり今日のコロリンは不意打ちが上手い。まさか最後にこんなサプライズを用意しているとは。



「いや、なんで自分だけ無いと思ってたんですか。ひねくれるにはまだ早いですよ」


「あはは、ごめんごめん。てかこの帽子ってさっきの?」


「はい。ヒュンガルで買ってもらったやつです。もちろん、ルノにも似合うと思いますよ?」


「そ、そうかな? 似合う?」


「はい、とっても」


「あは……なんか照れるなぁ。ありがとね、コロリン」


「ふふ。どういたしまして」


「でも良かったの? あんなに駄々こねてたのに」


「べ、別に駄々なんてこねてませんから。……ルノの方が似合ってるんだから仕方ないでしょう?」


「うんうん。……えっ!?」



 何度目かも分からない不意打ちをくらってようやく気付く。私はコロリンが時折見せるこのツンデレの虜になっていたらしい。



「くぅ〜〜! まったくこの子は! よしよし〜〜♪」


「うわ、なんですかいきなり!?」



 テンションマックスとなった私は家族の目も顧みずコロリンの頭をこれでもかと撫で回す。


 そこでふと。



「あれ? でもそうなるとコロリンの帽子は……」



 確かコロリンの帽子コレクションは全部で六つ。


 つまり残るは――



「私にはこのお気に入りがありますからね」



 そう言ってニコリと笑ったコロリンは手元にある最後の帽子を自らの頭に被せた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 翌日。



「コロリンの帽子コレクションに気付かなかった理由が分かったよ。結局、被ってるのはいつもその帽子だったね」


「言われてみれば確かに。やはりお気に入りに勝るものはありませんね」



 散歩がてら帽子トークを繰り広げるのは自宅とヒュンガルを繋ぐいつもの道。早朝ということもあり、現在のこの道を歩くのは私とコロリンの二人だけだ。



「でもさ。その帽子のどこがお気に入りなの? こう言っちゃアレだけど、それってごく普通の麦わら帽子だよね。それこそコロリンがレヴィナにプレゼントしたシンプルなやつに負けず劣らずの」


「ルノは分かってませんね。デザインよりも大切なことがあるでしょう。忘れたんですか? この帽子は初めてルノに貰っ――コ、コホン!」


「なになに? 初めて私に?」


「な、なんでもありません。ほら、行きますよ」


「え〜〜すごい気になるんだけど……」


「そんな大したことじゃありませんってば」



 それは文字通り何の変哲もないただの麦わら帽子。強いていえば王都で『最高級の藁で作った麦わら帽子』と、嘘か本当かも分からない売り文句と共にいただいて、直後にコロリンに似合うだろうと軽い気持ちであげただけのものだ。結果的にものすごく似合ってしまったのだが。



「……あ、そういうこと?」



 ここに来て全てが繋がる。そうなればもうこの溢れる気持ちを抑えることなど不可能だ。



「コ〜〜ロ〜〜リン!」


「うわっ!?」



 ツンデレなこの子には素直な気持ちを伝えるのがベスト。


 なので――



「かわいいね!」


「意味が分かりません!?」



 私はただそれだけ言って、今日も今日とて私があげた帽子を大切に被るコロリンをめいっぱい抱き締めてあげたのでした。



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