第140話〜偽物と本物〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。
フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ
魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。
にゃんたこ (神様)
『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。
雲を突き破るほどの遥か上空。
そこに浮かぶのは青みがかった煌めく氷で形成された氷の大地。所々に咲き誇るのは同じく煌めく氷によって形成された氷の花。
これら全ては神――にゃんたこ様の規格外の魔法『氷華』によるもの。
ここは神の支配下。
『天空領域・パラディーゾ』
……にも関わらず神は不在。代わりにお留守番(?)としてここにいるのはスローライフを愛してやまない二人の魔女。
「あはは」
「うふふ」
すなわち私達でした。
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「ねぇ、ニセルノ」
「なんだ、ホンルノ」
神様不在のパラディーゾ。
現在この場所は私と、にゃんたこ様の魔法によって生み出された偽物の私の二人の支配下となっている。だって主のにゃんたこ様がいないし。
と言うか――
「にゃんたこ様はどこ行っちゃったの?」
「んーー……分からないゼ。あれでにゃんたこ様も忙しいみたいだし、何か重要なミッションでもあるんじゃないかな」
「重要なミッションねぇ。そういう時こそニセルノに任せちゃえばいいのに」
「おいおい、自分にはもっと優しくするもんだゼ。それに上には上の仕事があるんだ。それを下に押し付けるなんて邪道だゼ」
「あ〜〜確かにそれは言えてる。さすが私。分かってるね」
「ふふん。まぁ私だからな」
という事はアレか。気まぐれでにゃんたこ様の元へ遊びに来たのはいいものの、肝心の本人がいないので私は私自身と遊ぶしかない訳だ。せっかくここまで来たというのに。
「でも広大な空からこの場所を探し出したというのに苦労はしなかった。何故だと思う? ニセルノ」
「そんなの簡単だゼ。にゃんたこ様がホンルノを好きが故に自宅の真上にパラディーゾを移したからだゼ」
「正解」
「ふっ」
喜んでいいのやら悪いのやら。まるで少しでも長く一緒にいたいからこちらまで引っ越してきた恋人みたいだ。
「そう考えると……自分で言うのもアレだけど、にゃんたこ様は私達のこと本当に大好きだよねぇ」
「それだと語弊があるゼ。あくまで好きなのはホンルノの方。私はただのインテリアさ。……泣いていい?」
「だめ。元気出して」
聞いてるだけで泣きたくなるようなことを言うニセルノ。にゃんたこ様と二人きりの時にどんな風に過ごしているのか気になる所だ。
「てかインテリアで思ったんだけどさ」
「ぐすっ……!」
「いや、違くてね。ここって何も無いじゃない? だからやることがないなぁと思ってさ。それこそ氷の花を愛でるくらいしかない気がする」
「甘いなホンルノは。暇になればにゃんたこ様との魔法合戦という極上の暇潰しが待ってるんだゼ。ぞく……!?」
「あぁ、なるほどね。ご愁傷さまです」
このニセルノも私の見えない所で同情を禁じ得ない程度には苦労していると。よしよし。
「ふっふっふっ、そんな哀れみの表情を浮かべている暇があるのか? ホンルノ」
「どういうこと?」
「私はここで日々にゃんたこ様と魔法合戦を繰り広げている。つまり、常に特訓して強くなっているということだゼ」
「うん。……え、ごめん。私が鈍いのかな。話が見えないんだけど……?」
「つまり、成長したこの力でホンルノを倒して私が唯一の『ルノ』になってやるゼ」
「えぇ〜〜?」
とんでもないことを言い出したぞ、このアンポンタンは。しかし残念ながらそれは――
「無理無理」
「ちょっ、冷たすぎるだろ!?」
「いや、だってさ。そもそもニセルノは文字通り偽物だから『完璧な私』を演じることはできないでしょ?」
「そんなことないゼ。見てろ?」
「何する気よ……」
突如会話を切り上げて立ち上がるニセルノ。
「???」
怪訝な表情を浮かべる私に背を向けて、少々歩いた先にあった煌めく氷の花の一本をポキリ。それを片手に再び戻って来たニセルノは――
「ほら、受け取りなフユナ。この花はお前のためだけに咲いていたらしい」
「……」
キリッっとキメ顔でそう言った後に氷の花をグイっと押し付けてきた。どうやらフユナにプレゼントを贈る『私』を演じているみたいだけど――
「気持ち悪い……」
「なんで!?」
「いや、見たまんまの素直な感想かな……あなた本当に私?」
「それこそ見たまんまだゼ」
「まぁ、見た目だけね」
とは言え、このニセルノに暴露されるまで我が家の家族達が偽物だと気付かなかったのも事実。私は無意識のうちにあんな発言をしていたのだろうか……少し心配になる。
ちなみに偽物と暴露されてニセルノと分かってからも割とみんなからのウケは良かったみたい。
「まったく。こんな風に設定したにゃんたこ様を恨むゼ……」
「てかさ、ぶっちゃけその言葉遣いとガニ股を直せば完璧でしょ。それくらい何とかならないの?」
「うーーん……これが普通だとすり込まれてるからなぁ。むしろホンルノの真似をすると私にとっては違和感あるかな」
「そういうものなのね」
にゃんたこ様もあれでお茶目な所があるからなぁ。絶対に確信犯なのにそれを指摘するとはぐらかされるし。まぁ、そこが可愛い所でもある。……なんて口に出して言えないけど。
「……ねぇ、ドーナツ食べたい」
「急だな。何の話か分からないゼ?」
「そっか、あれはニセルノが生み出された後の事だから知らないのか。ヒュンガルにね、美味しいドーナツ屋さんができたの」
「へぇ? 私も食べてみたいもんだゼ」
「んじゃ買ってきてあげようか。ニセルノもなんだかんだで苦労してるみたいだからね」
「うぅ、泣かせてくれるなホンルノ。むしろ一緒に行かない?」
「いやいや、それはだめだよ。瓜二つの人間が一緒に行動してたらみんな困惑しちゃうでしょ」
「サトリとお姉さんの例があるから大丈夫だと思うゼ?」
「うむ、否定できない。でもだめ」
「ちぇ。それならこういうのはどうだ? 普段世話になってるホンルノのために私が買ってきてあげるというのは」
「それ、自分が村に行って遊びたいだけでしょ。……と分かっていながらお願いしたい自分がいる」
「あはは、なら自分に正直になってみようゼ?」
「ん、分かった。それなら文字通り自分に素直になるよ。お留守番は任せて」
「やったゼ!」
何故かパシリにされることに喜びを感じるニセルノ。まぁ、お互いに納得しているので良しとしよう。
「でもなるべく違和感の無いようにね。特に言葉遣いとガニ股」
「言葉遣いとガニ股か。……んっ、んんっ! あ〜〜あ〜〜」
テクテク歩きながら喉の調子を整えるニセルノ。別に歌うわけじゃないんだけどな……
「でも確かに歩き方はそれっぽくなってる!」
「でしょでしょ? 私をなめてもらったら困るなぁ。その気になればこんなの簡単だよ。てへぺろ♪」
「言葉遣いまで! でも最後のはいらないでしょ」
「なーーに言ってるの。ちょいちょい使ってるから過去の自分を見つめ直してごらんよ」
「なるほど。こうして客観的に見るとなかなか……うん……」
自分を見つめ直して初めて気付くこともある。なるほど、こういうことか。
「まぁ、それはそれとして。はい、これお金。どんなチョイスをしてくるかはお楽しみにしておくね」
「ふっふっ、任せておいて。んじゃ行ってくるね〜〜♪」
「あまり遅くならないようにね」
「ホンルノは私の保護者かーーい。ふふふふふ♪」
「なんかお花畑が見える。行ってらっしゃい」
村に行けることに喜びを隠しもしないニセルノがピョンとパラディーゾから飛び降りた。その後ろ姿がちょっとだけ可哀想に見えたのは心の中にしまっておこう。
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という訳でここからは私、ニセルノ視点で物語をお送りしますゼ。……しますよ。
「いやぁ〜〜久しぶりだゼ! んんっ! 久しぶり、だなぁ!」
とは言ったものの、にゃんたこ様と一緒に下の世界を覗くことはたまにあるのでそれほど懐かしさのようなものは無い。だけどやはり実際に足を運ぶのとでは雲泥の差だ。
「さーーてと。んじゃ、さっさと買い物をすませちゃおうっと。確かホンルノの話じゃポップな屋台と元気なおじさんが目印だったよね」
だいぶ抽象的な説明だけど、行けば分かるとホンルノは言っていたのでそこは自分を信じてみるとしよう。
「ど〜〜こ〜〜だ〜〜っと……なんかいい匂いがする。あそこか!」
さっそく発見。視界に捉えた時には既にドーナツを揚げた香ばしい匂いが鼻腔を支配していた。これは期待できそうだ!
「へい、らっしゃい!」
「あ、どうも……」
ケーキや果物のイラストで彩られたポップな雰囲気な屋台。そして私の存在に気付いた店員のおじさんの元気な一声。まるでラーメン屋みたいだ。
「ふむ。『行けば分かる』ってホンルノの言葉これ以上ない説明だったわけだ。さすが私」
という事でホンルノにはご褒美として多めにドーナツを買っていってあげるとしよう。なんせ私のお金じゃないから買い放題だ。ふふ……!
「なんだ、誰かと思えば爆弾シュークリームのお嬢さんじゃないか。らっしゃい!」
「んーーっと……??」
そう言えばにゃんたこ様の土産話でこのおじさんの話を聞いた気がする。
確か初めて会ったのはロッキの街にあった食べ放題のお店。ホンルノの話も合わせると、それ以降も何度か会っているのでもはや知り合いと言っても差し支えない関係みたいだから私もそのつもりで行こう。
「はい、お久しぶりです。爆弾シュークリームの子です。でも今日はドーナツをくださいな。トッピングメニューの生クリームとチョコレートもセットで」
「へい、毎度! お嬢さんもすっかりウチのドーナツにハマっちまったな。嬉しい限りだ! へい、おまち!」
「あはは、ありがとうございます。……え、お嬢さん『も』って?」
「ほら、そっち。この前のお友達も来てるぞ?」
「???」
そっち。そう言って示すのは屋台の隣にある飲食スペース。テーブルとイスが置いてあるだけのそこには、背中を向けてはいるが確かに人の姿がある。
「あれ? なんか見覚えが……げげっ!?」
地面まで届くコンゴウセキのように美しい髪。そして意思があるかの如くこちらを向く一本のアホ毛。パラディーゾに不在だったにゃんたこ様だ。
「……(ゴクッ)」
ヤ・バ・い。
にゃんたこ様から直接聞いたわけではない。そしてこれはホンルノも知らないことだが……あのアホ毛はいわゆる『目』だ。暇潰しの魔法合戦に付き合っていくうちにアレの意味に気付いたのはつい最近のことではあるが間違いない。
つまり――
「なんでここにいるの?」
「ギクッ!?」
モグモグ。
いまいち締まらないが、その背中は確かに私に語りかけてきた。
「ねぇ」
「は、はい……」
「なんでここにいるの?」
再び投げかけられる質問。
落ち着け。まずは落ち着くんだ。今の私はルノ。この場において私は唯一のはず。
「え、えっと……ドーナツ食べたいなぁって思って……買いに来ただけ……だゼ?」
「言葉遣い」
「え?」
「ガニ股」
「え? ……あっ!?」
「お留守番をほったらかして出てくるなんていけない子だね」
「あ、あはは……」
「おじさん。ごちそうさま」
「へい、まいど!」
最後の一口をポイっと口に放り込んで静かに立ち上がったにゃんたこ様がこちらに迫ってくる。お叱りを受けるか受けないかは分からないが確実に言えるのは――
「帰るよ、ニセルノ」
「あの、まだ私ドーナツ食べてない……」
「上でルノが待ってるでしょ? 早く」
「え、なんで知ってるんですか!?」
「神様だからね」
「あぁ!? 心を読むなんてずるい!」
「くす」
こうして私――ニセルノの自由な一日はにゃんたこ様との偶然の鉢合わせによって虚しくも幕を下ろすことになったのでした。ちくしょうめ。
「口が悪いよ」
「うぎゃ!?」
おちくしょうめ。
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ニセルノがお使いに出かけてから約一時間。すっかり静まり返ってしまったパラディーゾは完全に暇を持て余すだけの空間となっていた。
「ふぁぁぁ……まだかなぁ、ニセルノ」
大きなあくびが空に吸い込まれる平和な空間。ドーナツという名のお土産に思いを馳せながら、ただひたすらに空を見つめるという究極なまでに無駄な時間の使い方。それでも文句を言われないのはここが私だけの楽園――ではなくただ一人ぼっちなだけ。
そこへ。
「魔法陣?」
突如現れた光り輝く魔法陣。微妙に既視感のあるそれに視界を奪われる中、頭の中を過ぎったのはニセルノの姿。その予感は見事に的中。
「ただいま……」
「あ、おかえり」
だいぶ早いお帰りとなったニセルノ。何故に落ち込んでいるのか。
さらに――
「ただいま」
「あれ?」
にゃんたこ様までも出現。一緒に帰宅とは仲のよろしいことで。
「おかえりなさい、にゃんたこ様。お邪魔してます」
「うん、いらっしゃい。これお土産」
「あ、ドーナツ! わざわざありがとうございます!」
にゃんたこ様に手渡されたのは一つの紙袋。ほんのりと甘い香りのするそれは私が待ちわびていたドーナツだった。
「にゃんたこ様もドーナツ買いに行ってたんですね。ニセルノと帰ってきたってことはもしかして?」
「うん。お留守番をサボるいけない子だったから強制送還したの」
「あぁ……やっぱり」
さすがに神様の前では誤魔化しきれなかったということか。予行演習ではいい線いってたと思ったんだけどなぁ。
「ちなみにバレたのはまさかの鉢合わせで動揺し過ぎたことで言葉遣いが元に戻ってさらにガニ股になったからだゼ」
「えぇ……」
「さらに言うと、そのお土産のドーナツは私が買ったやつだゼ、ホンルノ。手柄を横取りするなんてひどいゼにゃんたこ様」
「そうなんですか、にゃんたこ様?」
「……」
「あ、そっぽ向いた」
こりゃ確定だな。ごく自然に渡してくるものだからすっかり騙されてしまった。
「ルノが来てたのを知ったのは直前だから仕方ない。だからお土産はニセルノの分しか無かったの。はい」
「へっ?」
そう言いながらにゃんたこ様が手渡したのは先程私にくれたものと同じ紙袋。ニセルノは絶賛困惑中。
「お留守番ご苦労さま。……いらないの?」
「あ、いや。いただきます……?え、でもなんで……?」
「好きでしょ。このドーナツ」
「えっと……それはホンルノの方じゃ?」
「うん。だからニセルノも気に入ると思うよ。同じルノなんだから」
「!?」
そんなツンツンデレデレのやり取りを見せられた私は『きゃーー!』っと叫びたい気分だった。さすがにゃんたこ様と言うべきか、ニセルノをオブジェ扱いしておきながらこのデレっぷりはなかなか心に響く。
「オブジェじゃなくてインテリアだよ」
「あはは、そうでした」
「せっかく感動してたのにひどいゼ二人共」
「ごめんごめん。ニセルノもありがとね。おつかいご苦労さま」
「べ、べつに私が遊びに行きたかっただけなんだゼ!」
「うわ、こっちもツンデレだ……」
一緒に暮らすと性格まで似てくるのだろうか。それとも私自身が元からツンデレだったとか? いやいや。
「なに動揺してるんだホンルノ。早く食べようゼ」
「そうだね。たくさんあるし、にゃんたこ様も一緒にどうです?」
「うん。遠慮なく」
なにはともあれこうして平和を絵に描いたようなお茶会がスタート。
最初はニセルノも苦労してるなぁ、なんて思っていたがどうやらそんなこともなかったみたいだ。お土産を買ってきてくれるにゃんたこ様のその優しさがある限りこの二人の関係は良いものとしてずっと続いていくことだろう。
今後も二人仲良く過ごしてくださいな。
「そうだ、忘れないうちに返しておくゼ。ほい、ホンルノ」
「ん、ありがとね」
ドーナツを食べようしたその時、ニセルノが思い出したかのように手渡してきたのはおつかいを頼むにあたって渡しておいた私のお財布。
だが――
「え……ちょっと待って。ニセルノ……?」
「ん?」
「お財布がやけに軽いんですけど……あぁ!?」
パカっと口を開けたお財布だがその中身は見事に空っぽ。決して大金ではなかったが……これは辛い。
「ふふ、おかげでたくさんのドーナツに囲まれて幸せだゼ。な、ホンルノ」
「うん……まぁ、たまにはいいか。気にしたら負け! 食べよう食べよう!」
私のはした金でこの幸せな時間を買えたと思えば安いものだ。こんなんで良ければこれからもちょくちょくお茶会を開いてもいいかもしれないな。
「そう言えば途中にアイス屋なんかもあったなぁ。にゃんたこ様、今度はホンルノにそれ買ってもらってアイスパーティーやろうゼ」
「いいね。ナイスアイディア」
「……」
程々にね。