第十四話〜初めての家族旅行③〜 空中列車・恐怖・湖・お土産。そして締めの記念写真〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『危害を加えない』事を条件に開放された。
私達が初めての家族旅行でやってきた街『ロッキ』そしてメインストリートにそびえ立つ、この街のシンボルである六本の樹の名前も同じく『ロッキ』
しかし、この街のシンボルはそれだけではなかった。具体的に言うと……
「ジェットコースターにお化け屋敷……」
その頂上は完全に遊園地でした。
「ルノ。空中列車の樹だって! ここ行ってみたい」
「え、これ? これかぁーー?」
「うん。だめかな?」
「ガクガク……」
グロッタがすでに怯えている。内心、私も怯えている。だが……
「もちろんいいよ。行こうか!」
何食わぬ顔で応える私。という事でまずは空中列車の樹へ向かう事にした。樹と樹の間の移動はロープウェイのようなもので行われるので道中もとても楽しめた。ジェットコースターさえなければ。
「高ーーい! 見て見て! 街があんなに小さいよ!」
「これはすごいね。遠くの街まで見えそう」
とか言いつつ、私が眺めていたのは目的地のジェットコースターばかり。到着してまず探したのはお馴染みの案内板。そこには示されていたのは何種類かの乗り物……無論、全てジェットコースターだった。
「へ、へぇ……? いくつか種類があるみたいだね」
「迷っちゃうね。これなんてどうかな?」
フユナが指差したのは足が宙ぶらりんになるタイプ。ふむふむ……なるほどね。これかーー
「いいねいいね。うん……素晴らしい……」
「早く行こ! 次はあれで、その次はあれね!」
「……」
皆さんもうお気付きかと思うが、実は私はジェットコースター苦手だ。高さ云々じゃなくて、なんていうか……こう、身体の中身が変な感じになるのが耐えられないんだよね。
「あの……ルノ様。わたくしも乗るので?」
「も、もちろんだよ。私達家族はいつでも一緒だよ」
フユナがあんなにも楽しみにしているし、私が怖いからってそれを取りやめにしたら可哀想だ。フユナだけ行かせるなんてのは論外。せっかくの遊園地はみんなで楽しんでなんぼだ。
「そう……ここは遊園地。楽しもう。楽しもう。ブツブツ……」
「あれに……乗る……だとっ!? ガクガク……!?」
そしてあっという間に順番が回ってきてしまった。まだ心の準備出来てないのにーー!?
「ワクワクするね、ルノ! 前の席だといいなぁ」
「え!? ど、どうかな。他にもお客さんいるからなぁーー? あはは」
「お待たせしました! 足元に気を付けてお乗り下さい。お連れのワンちゃんは専用のベルトをしてくださいね。では、どうぞ!」
「「……」」
「やったー!」
私達は見事に最前列だった。どんまい、私。
「ルノ様……これ、本当に落ちたりしませんか?」
「も、もちろんだよ。変な事言わないでよ……」
高い所は平気だけどやっぱり高いとプラスαで怖い!
「では、出発しまーーす!」
ガタン!
「ひえっ!?」
「ワクワク!!」
「ガタガタガタガタ……!」
上がってく……どんどん上がってく! この恐怖を煽るような時間がほんとにいやだ! あ、てっぺんだ……わーーい。
ゴゴゴゴ……!
「ひゃあああ!?」
「わぁーーい♪」
「……」
やばいやばい! 内蔵がおかしくなる! ……お?
「あれ……もう終わっちゃった?」
ところが、目を開けると目の前にあったのは綺麗な空。あ、これ……やばいやつ。
グワン! と、一気に景色が変わり、次に見えたのは地上だった。
「きゃあああ! わぁぁぁぁ! ひぇぇぇぇ!?」
「おもしろーーーい!」
「……」
やばいやばい! 気絶する! 中身出るーー!?
ゴゴゴ……ゴゴ……
「あ、終わっちゃったね」
「ほっ……」
「はっ!? ここは……?」
とてつもなく長い時間に感じたが、騒いでいたらいつの間にか終わっていた。ひたすらに怖かっただけだが、周りから見たら私達はとても楽しそうにしていたことだろう。ちなみにグロッタは最初の方から気絶していたらしい。
「はぁ……はぁ……じゃ、じゃあとりあえず次の所(湖の樹)行こっか?」
「うん! 次の所いこう!」
そして私達は次の所に到着した。
「「……」」
「次はこれだね!」
今度は座るタイプのやつだった。
その後もフユナのテンションは上がりっぱなしで、宙ぶらりんのタイプと座るタイプをもう一回ずつ乗った。それはすなわち、私が悲鳴をあげた回数であり、グロッタが気絶した回数でもありました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「次はぜひ『恐怖の樹』へ行きましょう!」
その時は、珍しくグロッタが提案してきた。
「え、急にどうしたの? またドM心に火がついたとか?」
「ふふん。わたくしはフェンリルですぞ。恐怖の樹と言うからには自信があるのでしょうが、このわたくしを恐怖させることが出来ますかな!?」
「さっきまで散々恐怖してたくせに。私もだけど……」
「フユナ怖いの苦手……」
という訳で、次にやって来たのは『恐怖の樹』
「ふむふむ……やっぱりお化け屋敷みたいなものか」
「ルノ……ほんとに行くの?」
「や、やめとく? 何だったらグロッタだけ行ってもらおうか……」
「ひ、ひどすぎる!」
ジェットコースター前の『家族で楽しもう』発言はどこへやら。しかし分かって欲しい……私はお化け屋敷も苦手なのだ。ところがフユナは。
「う、うーーん……行ってみたい気持ちあるから……行く……」
「わ、わかった。じゃあみんなで行……」
覚悟を決めたその時。
「ぎゃあああ!!!」
謎の悲鳴が聞こえてきた。言うまでもなくお化け屋敷から。
「はは……平気平気……」
そして重い足取りながらも、入口に到着した。ここだけ見るとそんなに怖くなさそうだな。
「いらっしゃいませー♪ お客様、三名様でのご利用でよろしいですか?」
おぉ、受付のお姉さんの明るい声が気持ちいい。なんか大丈夫な気がしてきた。
「はい。お願いします」
「はい、ありがとうございます! 注意事項ですが、現れるお化け……もとい、ゾンビには気を付けてくださいね! なんなら攻撃してもオッケー! では、こちらからお入りください」
「ど、どうも……え、ゾンビ?」
多少の疑問を残したまま、案内された扉から入ってみるとそこは室内という感じではなく、深い森といった感じだった。
「けっこう暗いね。ここだけ夜みたいだ」
「ル、ルノ……手、繋いでて……」
「あ、そうだね。はい」
「お二人とも、大丈夫です。なにか出てきたらわたくしが噛み砕いてやりますから!」
「それだとグロッタが氷漬けになるかもよ?」
「なんと!?」
「今、それもいいとか思ったでしょ」
「そんな事ありませんぞ! (キリッ)」
そんな感じで、頼もしいグロッタさんに付いていく私とフユナ。さっきとは違って守ってくれそうな人がいるだけでだいぶ違うな。
「はは……今回はもしかして余裕かも……」
ぐいっ。
「ん、何? フユナ」
「え?」
「え? 足掴んだら歩けないよ……?」
「……」
掴んでいたのはゾンビでした。
「うっぎゃあああああ!?」
リアルすぎる! 本物! 本物なの!? てかいつの間に湧いたの!?
私はこんがらがった頭のまま、フユナを抱えて猛ダッシュした。
「はぁはぁ……死ぬかと思った……」
「ふふっ、ジェットコースターみたいでちょっと楽しかった」
「ルノ様、こういうの苦手なんですね」
「ん、んーー? そんなことないよ。ほら、行こ」
幸いここは見通しのいい道でたまに木があるくらい。これなら脅かしようがないでしょ。
ぬっ……
「は? ひゃああああ!?」
木! 木の影にいた! 完全に油断してたから腰抜けた!
「あわわわ!?」
私が地面に座り込んで慌てていると、突然首が締まった。
「ぐえっ!?」
「わぁーーーー!?」
フユナが腰を抜かした私を想って(?)助け出してくれた。しばらく引きずられたところでやっとの停止。服脱げてないかな?
「あ、ありがとう(?)フユナ。助かったよ」
「え、あ、うん……?」
フユナも必死だったみたいだ。想像以上に怖いなここ。
「グロッタは平気なの? さっきから妙に静かだけど……」
「はい。特に驚くところが無かったので黙っていました」
うむ……さすがはフェンリル。高い場所じゃないと強いな。
「じゃ、じゃあさ……グロッタ前歩いてよ。私達後について行くからさ」
「分かりました。お任せ下さい!」
そこからは先のグロッタは正真正銘、勇者だった。
「むむ! あそこの影になにか潜んでますな!」
そう言ってゾンビを回避したり。
「お、あのゾンビ……こっちに気付いていませんね。脅かしてやりましょう!」
などと言って、逆にゾンビを驚かせたりしていた。こういう人、たまにいるよね。そして挙句の果てには……
「ぎゃあああ!? グロッタさーーん!」
「カブゥ!」
ゾンビを丸ごといただく始末。
「あの、グロッタさん? それ人間……」
「何を言うのですか。今のはゾンビですぞ?」
「あ、うん……そうなの……?」
よく分からないが食べた本人が言うのだからそうなのだろう。受付のお姉さんめ攻撃オッケーとか言ってたしな。
「ふむ、どうやらもう出口のようですな。やはりこんなものでしたか!」
「助かった……グロッタさまさまだね」
「うんうん。グロッタかっこよかったよ!」
こうして私達は恐怖の樹を無事に抜け出すことができた。分かってはいたけど……私、絶叫系とか、お化け屋敷とか本当にだめだな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私達が『食事の樹』へやって来た時には既に時刻はお昼を回っていた。
「さてと、お昼は何食べようか」
「走り回ったからお腹すいちゃったね」
周りを見回すと、ぐるっと一周囲むように色々なお店があり、中央にはたくさんのテーブルや椅子が並べられている。まるでフードコートみたいだ。
「すごーーい! 見るだけでも時間かかっちゃうね!」
「確かに……こりゃ大変だ」
てことでとにかくぐるっとする私達。なんだかんだ早く決まって、私はロッキピザ。フユナは白身魚のロッキソース添え。グロッタはロッキステーキを選んだ。
「さて、天気も良いし午後は湖の樹に行って遊ぼうか」
「フユナ、この飛び込むやつやりたい!」
案内の紙を取り出して指さすフユナ。
「フユナはこういうの得意だね」
「うん! ロッキの街に来れて良かった!」
「わたくしも恐怖の樹とかいうものはなかなか楽しめましたぞ!」
「うんうん。二人ともそう言ってくれるなら来た甲斐があったよ。それじゃ、さっそく行こうか!」
「おーー!」
遊べる時間もこれで最後……いや、考えるのはよそう。家族旅行は最後まで楽しんで想い出を作らないとね!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『湖の樹』にやって来た私はまず、驚いた。てっきり巨大な湖かと思っていたのに、流れる湖やら、波がある湖なんてものが広がっていた。極めつけは、高い所から筒状に伸びた滑り台。あれは紛うことなき……
「まさか……ウォータースライダー!?」
ここ、本当に異世界か!? と、突っ込みつつもテンションMAXな私は瞬時に着替えた。ちなみに水着は用意していなかったのでレンタルで済ませた。
と、ここで思わぬ展開。
「おい、なんだあの子達、可愛すぎだろ」
「おれ、あの小さい子の方が好みだな」
ん? 私のフユナがいかがわしい目で見られてるだと!?
「ギロッ……!」
「あ、あの子怖ええ!?」
「ばか、親に決まってんだろ!」
「あの若さでか!? あの視線といい、たまんねーな」
私は私で変な性癖の人に目をつけられた。
「ギンッ!」
「おい、あの犬やべぇ」
「フェンリルみたいな気迫を感じるぞ」
「大人しくしてた方が身のためだな……」
フェンリルみたいな犬のおかげでフユナは守られた。良くやった!
「さっそくだけどあのウォータースライダーに行ってみよう!」
「おーー!」
「ギロ! ギロ! ギロッ!」
「グロッタさん? もう睨みは効かせなくていいからね?」
少々問題は起きたがそれも仕方ない。フユナは可愛いからね。もちろん私も!
「ねぇ、ルノ。みんなで一緒に行こうよ!」
「お、いいねーー!」
という訳で、先頭にグロッタ、それを抱くフユナ、そのフユナを私が抱いて滑る形になった。
「はい、お次は三名様ですね。ではどうぞーー!」
「やっほーーー!」
「気持ちいいーー!」
「ガクガク……!」
これもだめらしいグロッタには申し訳ないが、一分近く掛かるこのウォータースライダーを私とフユナは存分に楽しませてもらった。そして最後にはお決まりの……
バッシャーン!
「ガボッ!?」
先頭のグロッタがモロに水を飲んでいた。
「次はあれ行こ!」
あれは先程、フユナが行きたがっていた飛び込むやつだ。これは一人用だったので私とグロッタは下で見学する事にした。
「助かった……あれも内蔵がおかしくなるんだよね」
「わたくしもホッとしました」
そんな事を話していると、フユナの出番がやってきた。上から手を振っていたので私もそれに応える。天使がまいおりるぞ。
そして……
「とーー!」
ザッパーーン!
「おぉ、すごい!」
「さすがです、フユナ様!」
フユナは着水するまでに見事な回転を入れていて、完全に注目の的だった。
「きゃーー! かっこいい!!」
「可愛いーー! 最高!!」
そんな声と共に巻き起こる大勢の拍手。なんかもう、アイドルみたいな扱いになってるな。
「はは、これはもうフユナの独壇場だね」
「ふふん、当然ですな!」
全く注目されていない私とグロッタは、人知れずドヤ顔をしてしました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
楽しい時間というものは経過も早いもので、あっという間に夕方になってしまった。
湖の樹を後にした私達は、家族旅行の締めにふさわしい『お土産の樹』にやって来ていた。
「あったあった。ロッキの苗木とーー」
「ルノ。サトリちゃんと、カラットさんにもお土産買っていってあげようよ!」
「ん、そうだね。うちの分と二人の分。三つ買おうか」
私達がお土産に選んだのは、ロッキの詰め合わせ。ジュースやジャム、クッキーなど色々入っているものだ。
「うん、こんなもんかな」
少々、名残惜しいがこれで本日の予定も全て終了だ。
するとフユナが。
「ルノ。あれ」
「ん?」
あ、なるほど。言わんとしている事が分かった。
「記念写真か。いいね、撮ろう撮ろう!」
てことで、忘れちゃいけない! 家族旅行最後の思い出作り!
「いらっしゃいませ! 記念に一枚いかがですか?」
「はい、三人でお願いします」
「はい! では、そこに並んで笑ってくださいねーー!」
フユナはグロッタを抱いて、その隣に私も並ぶ。
そして。
「じゃあ、いきますよーー! はい、ヨーグルト♪」
カシャ!
こうして、初めての家族旅行は無事に終了。
最後に撮った記念写真は、その締めにふさわしい笑顔で完成し、末永く我が家に飾られることになるのでした。