第134話〜なんだかんだでランペッジ〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。
フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ
魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。
にゃんたこ (神様)
『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。
「はぁ。くそ……」
本日の天気は快晴。しかし私達の目の前を通り過ぎるその人物が纏う空気は雨だと言ってもいいくらいにどんよりとしたものだった。
「どうしたのかな。元気無いね?」
私の隣を歩くフユナもその様子を見て訝しんでいる。その人物を知っている人間なら誰もが等しく疑問を抱くはずだ。何故なら――
「フユナがこの近距離にいたら絶対にナンパしてくるはずなのに」
「ルノ。何か言った?」
「ん、なんでもないよ」
雷を思わせる金髪を逆立て、腰に差した双剣『カラット・カラット』と共に悠々と歩くのは双剣使いのランペッジさん。
前述の通り、元気がない姿を見るのは珍しいと思える程度には前向きで明るい性格だと思っていたのだが。
「つまりランペッジさんが落ち込む程の事があったということだね。ふふ……」
「なんでそんなに楽しそうなのーー?」
「そんな事ないよ。さ、行こ行こ!」
「待ってよーー!」
そうは言ったものの、ランペッジさんには悪いが、興味半分で近づいていく私の足取りは心做しか弾んでいた。理由は単純。フユナも言っていた通り珍しいから。
そして――
「おーーい、ランペッジさん」
「やっほーー!」
「……ん?」
念には念を。ナンパされる危険を踏まえて、少々距離を置いての挨拶。だがランペッジさんの反応は鈍く、返事にも覇気がない。
「まったく。風邪なら家でゆっくり寝てないとダメですよ?」
「急に何を言い出すんだ……?」
「あはは、冗談です。でもどうしたんですか? 随分と落ち込んでるみたいですけど」
「あぁ、気にしないでくれ。はぁ……」
「あらら」
更なるため息で今度は猫背に。このままいくとその辺で野垂れ死んでしまうのではなかろうか。
「仕方ないなぁ」
何だかんだでランペッジさんとも長い付き合いだ。落ち込んでる姿を見るのは多少なりとも心が痛む。余計なお世話かもしれないが話くらいは聞いてあげよう。
その結果。
「なんで俺は師匠に勝てないんだ!?」
「ちょ!?」
道のど真ん中。話を聞くや否や、大声でそんな事を言うランペッジさんだが、同時にすごい剣幕で肩をガシッと掴むものだからびっくりするのなんの。やっぱりスルー安定だったかもしれない。
「どうどう。落ち着いてください」
「すまん、取り乱した……」
師匠――つまりカラットさんの事だ。以前にも二人の師弟対決は見させてもらったが、それはもうなかなかの奮闘。感動したと言ってもいいくらいの内容だったはずだ。
しかし当の本人は。
「違う。違うんだ……! 確かに奮闘したという自覚はある。だがその差が埋まらないんだ。おれは奮闘したい訳ではなく……!」
「ふむふむ。つまり勝ちたいという事ですね?」
「その通り!」
何故かドヤ顔のランペッジさん。心の内をさらけ出した事でだんだん調子が戻ってきたみたいだ。
「だが……それだけじゃないんだ」
「と言うと?」
再びガクンと落ち込む。感情が豊かと言うべきか、見ていて飽きないな。
「あ、わかった。自分を圧倒したカラットさんに惚れてしまったんですね?」
「ちっがーーう! そんな『親に惚れた』みたいな事を言うな!?」
「いや、それはカラットさんに失礼じゃ……」
確かに私達の中じゃカラットさんが年上の方ではあるが親なんて程の差は無いはずだ。そもそも不老不死なのでその辺の事は気にしてもあまり意味は無い。
「とにかく! 実は最近になって新たな壁が立ちはだかったんだ」
「ほう?」
話の流れからしてその強敵にも負けたということだろう。それ程の猛者なら私も興味がある。
「あれは数日前の雪の日。あの時俺はいつものようにここでロッキの結晶を景品として沢山の人間と勝負していた」
「ふむ。相変わらずでした、と」
突然に語り口調だが本人は至って真面目。きっと私が想像するよりも濃いストーリーが展開されるのだろう。
「そんな中、その子は突然現れたんだ!」
「その子って……女の子に負けたんですか?」
「悔しいがその通り。だが問題はそこじゃないんだ。なんとその女の子がものすごい美少女でな。しかもこの俺を弄ぶかのように圧倒したんだ。あれはもはや神と言ってもいい……!」
「神……」
「くぅ、思い出しただけで鳥肌が! あの情け容赦ない氷の弾丸! ……今思ったがあの魔法、ルノさんのやつにそっくりだったな?」
「……」
「とにかくそういう訳だ。師匠だけならいざ知らず、名も知らぬ女の子にまで圧倒され、自分の実力に疑問を持って――どうしたルノさん?」
「いや、なんでもないです」
はい嘘。ランペッジさんが圧倒されたというその戦いを、私は離れた位置で見学していたので知っている。具体的にはにゃんたこ様とのぶらり旅で同じくこの場所を訪れた時のアレだ。
「はぁ。俺もそろそろ引退かなぁ……」
「何を引退するのかは知りませんけど、そんなに落ち込む事もないんじゃないですか? 神もかくやという程の実力者なら仕方ありませんって」
「そうかぁ……?」
度重なる敗北からか、イマイチ自分の実力を信用出来ないらしい。なら少し励ましてあげよう。
「そうですよ。ランペッジさんだって数々の強敵との勝負で勝利してきたんだから自信持ってください。ほら、ロッキのイベントで戦った初戦の……名前すら描写されなかった人とか。あとはその次の対戦相手の……同じく名前すら描写されなかったマッチョな人とか。……あれ? もしかしてランペッジさんってモブキャラにしか勝ったことないんじゃ?」
「ルノ。すごーーく昔の……修行中のサトリちゃんにも勝ってるよ。サトりんのワクワク冒険記に書いてあった」
「あ、確かに。でもあれは特訓の一環だからノーカンだよ」
「そっか。ならあとは……うーーん……あとは?」
「んーー……そうだ、バカさん! でもあれも不意打ちみたいなもんだからノーカンだね。うん、やっぱりランペッジさんはダメダメかも」
「うおぉぉぉ!!」
ダメダメの号泣ランペッジ。
「まぁ元気出してください。ランペッジさんは戦闘だけじゃないでしょ? 謎に手先が器用ですし料理も上手。それでいいじゃないですか」
「俺は別に料理人になりたい訳じゃないんだがなぁ……」
「いいんですかそんなこと言って。その腕前があれば意中のあの子のハートを射止めることもできるかもしれませんよ。ね、フユナ?」
「うん。ランペッジさんの料理ならその人も喜ぶよ!」
「そ、そうか……? ふふ、そう言われるとなんだかやる気が出てきたな。よし、フユナちゃん!」
「???」
「今日の昼食は俺が作ってあげよう!」
「え、サトリちゃんは?」
「サトリ? サトリなら今頃は仕事中だろ?」
「え? うん……?」
イマイチ会話が噛み合っていないお二人さんの様子を面白おかしく見つめる私。なんだかんだで少しずつ元気になっていつもの調子を取り戻してきたランペッジさんを見てホッと吐いた息が何よりも平和の証だった。
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場所は変わって現在私達はランペッジさんと共に自宅横にある草原へとやって来た。お昼を作ってくれるとは言っていたが生憎その時間にはまだ早いので――
「ランペッジさんを強化します。強くなるまでお昼はお預けです」
「え」
私の言葉に戦慄するのはもちろんランペッジさん。お腹空いてるのかな。
「当然ですよ。今日はランペッジさんのお悩み『モブキャラにしか勝った事が無い』を克服する日ですから」
「ぐぅ!?」
「なので。お昼までに結果が出なければお仕置きです。お昼ご飯は抜き!」
「な、なんだってーー!?」
文面だけ見ればそうだが実際はそんなに慌てた様子がない。もう少しキツめのお仕置きをご所望か。
「だが何をもって判断するんだ? またルノさんの氷弾を避けるスパルタ特訓とか?」
「いえ、残念ながら今の私は力を自覚して最強なのでそれをやるには羽虫を相手取るくらいの意気込みでやらないといけません。つまり大変」
「ぐくっ!?」
「なので今日はフユナと勝負してください」
「「え?」」
偶然にも重なる二人の声。これにはちゃんと理由もあって、サトリさんと修行するフユナ、そのお手伝いとしてちょいちょいランペッジさんが参加しているみたいなのでそれを直に見てみたいのだ。
「まぁ、俺はいいんだけどな?」
「フユナも! ……なんでニヤニヤしてるのランペッジさん?」
「コホン。何でもないぞ?」
もはやすっかり平常運転のランペッジさん。こんなんで修行ができるのか疑問が残るが……
「ま、やってみた方が早いですね。はいスタート!」
「とーー!」
「ぐはっ!?」
バキャ! っと響く爽快な音。朽ち果てた木の棒を武器に、あっという間に勝利を飾ったのは――
「はい。勝者フユナ! おめでとう!」
「やったーー!」
一瞬。そして一撃。そう言えば初めての勝負もこんな感じだったなぁ。という事はあの時から何も変わってないと。
「いやいや! 開始の合図が急すぎるだろ!?」
「でもフユナも同じ条件ですし……」
「く、返す言葉が無いだと!?」
「もう認めましょう。ランペッジさんは弱い!」
「なんだってーー!?」
これはダメなやつだ。この際ハッキリ言ってあげるのも優しさの内。ではでは――
「ほんとにダメダメ! しかもそれは『女の人』限定! つまりたらしもたらし! 超絶たらしです!」
「ぐはっ!?」
「そんなんだから負けるんです! 『可愛い挑戦者じゃないか(ごくっ!)』なんて言ってる場合じゃないんですよ!」
「んなっ! 見てたのか!?」
「あ。……まぁそれは置いておいて。バカさんとの勝負ではあんなにいい動きしてたじゃないですか。たらしはたらしかもしれませんけどランペッジさんは『動けるたらし』のはずですよ」
「たらたらたらたらと……!」
「と言うかほんとにそれじゃないですか? 私はもちろん、フユナにコロリン。サトリさんにカラットさん。レヴィナにフィオちゃん。それに神……例の女の子。あとついでにお姉さん。ほら、みんな綺麗な人達ばかりじゃないですか」
「ちゃっかり自分も入れてるな。だが確かにそうかもしれん」
「でしょ? ランペッジさんの場合、強さは問題はないので改善すべきはそのたらしっぷりですよ」
「よしきた。そこまで分かれば話は早いぜ!」
「少しくらい『たらし』の部分を否定してほしかったですね。何か考えがあるんですか?」
「ふっふっふっ……当然。そして答えは簡単。数日間ここで暮らせばあっという間にさ」
「え、ここ? 私の家?」
「その通り!」
「ダメです。なにがどうなったらそんな御褒美を貰う展開になるんですか。それこそ強くなるまでお預け。強くなってもお預け。一生お預け!」
「んなっ!? 俺の『モブキャラにしか勝った事が無い』を克服するのはどうなるんだ!?」
「それだって元々は元気が無さそうだったからですよ。でもいつもの調子が戻ったみたいなのでもう大丈夫ですね。はい、解散!」
「なんだってーー!?」
要するに何一つ問題など無かったと。まぁ、たらしの部分に関してはちょっとアレだがそれが無くなってしまったらランペッジさんじゃなくなってしまう。結局は今のままが一番だ。
「でもせっかくなんでお昼は一緒に食べます?」
「おぉ、ついにルノさんも俺に!?」
「いやいや。『も』ってなんですか。我が家の全員がランペッジさんに惚れたみたいなこと言うのはやめてください。惚れてるのは料理に、ですよ」
「ふっ、いいことを教えてやろう。それを『ツンデレ』と言うんだぞ」
「……」
もはや何も言うまい。ランペッジさんが元気になった。それでいいじゃないか。