第131話〜神様とのロッキ旅行⑤ 待望の温泉宿〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。
フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ
魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。
にゃんたこ (神様)
『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。
夕焼けに染まる空。
本日の役目を終えた太陽が地平線の彼方へ消えていくのを合図に、昼の顔から夜の顔へと徐々に変化していくロッキの街。
煌びやかな街灯に彩られた街並みは昨晩と同じ様に仕事終わりや夕食など、様々人達で昼とはまた違った賑わいを見せている。
「さてと。にゃんたこ様の愛も確認できたことですしそろそろ行きますか」
「変な事言わないで」
「えーー? もう素直になればいいのに」
「行こ」
「あ、ちょっと……」
そんな感じに、ツンツンしながら先へ進んでしまうにゃんたこ様。お互いのバレンタインチョコレートを食べ終えた私達は、噴水広場を後にしてずっとお預けとなっていた温泉宿探しへと向かった。
「それなんですけど、実はもう決めてあるんです。初めての家族旅行で泊まった所がイチオシで部屋ごとに温泉が付いてるんですけど、それがなんと露天風呂! あそこ以外に選択肢はありません!」
「案内して」
「お任せ下さい。あ、でもそこは食べ放題じゃないですけど許してください。ダメって言われても行きますけどね!」
「自信満々だね」
「ふっふっ……実際に見てみれば分かりますよ。まぁ、安心して付いてきてください。と言うかもう着きました」
「ここ?」
「はい!」
私が『じゃーーん!』と得意気に示すのは、和風様式を基調とした木造りの建物。平屋で高さこそ無いものの、各部屋に温泉が付いているだけあってその敷地面積はこの街一番と言っていいのではないだろうか。
「百聞は一見にしかず。さっそく入りましょ!」
「わ」
待ちに待った温泉宿に心踊らせる私はにゃんたこ様の手を引いて待ちきれないとばかりに受付まで一直線。チェックインを手早く済ませて、木の香りが漂う廊下を弾む足取りで進み、到着したのは運良く奥の角部屋だった。
「お、ラッキー。角部屋の露天風呂は他よりも見える景色が広いので当たりですよ」
「良かったね」
「きっと神様のお導きがあったのかなぁ? あ、すいません。目の前で変な事言って。てへ!」
「はぁ。別にいいよ……」
自分でも呆れる程のテンションの高さ。やれやれといった様子のにゃんたこ様と共に部屋に入ると、目の前に現れたのは家族旅行で訪れたのと同じ懐かしの部屋だ。
「なんだか家に帰ってきたみたいで安心するなぁ。あ、お茶菓子発見。にゃんたこ様も食べます?」
「うん」
「んじゃお茶も入れますね」
すぐに温泉! なんて勿体無いことはしない。宿泊というのは部屋の中だけでも意外と出来ることが多いものだ。私の場合、基本はまったりするだけだが、旅先だと一味違うものだ。
「ズズズ……ふぅ」
「……(モグモグ)」
部屋に満ちる静寂。私がお茶を啜る音と、にゃんたこ様が食べるとモナカの音だけが、お互いの存在が確かにそこにあるのだと教えてくれる。もはや家庭といっても差し支えないのではなかろうか。
「にゃんたこ様」
「……?」
「美味しいですか?」
「うん」
そんな安心感に包まれた空気を堪能してしばらくした頃。にゃんたこ様がお茶を飲み干したと思ったらおもむろに――
「入らないの?」
「え?」
「温泉」
「あぁ、そうですね。夕飯まで時間ありますし入りましょうか」
「うん」
「もしかしてにゃんたこ様、待ってました?」
「ううん。あなたがやけにソワソワしてたから」
「ドキッ!? いやぁ、やっぱり楽しみだったので……」
「じゃあ行こ」
はしゃぎ過ぎは厳禁。そんな私の考えは心を読み取れるにゃんたこ様には通用しなかったみたいだ。それなら今は二人きりなので心ゆくままに楽しませてもらおうじゃないか。
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「おぉ、思った通り! 綺麗ですね、にゃんたこ様!」
「そうだね」
遂にやって来ました露天風呂。
今回の私達の部屋は角部屋という事もありやはり見渡せる風景は他よりも広めで、見上げれば仕切られた空間だということを忘れてしまうような開放感があった。
そして、幸いな事に本日の天気は快晴。上空に広がる満天の星空は、この癒しの空間をより幻想的なものへと変えるスパイスとして大いに貢献している。
「さて、まずは身体を先に洗わないとですね。良かったら背中流しますよ?」
「お願い」
言ってしまえばここは私とにゃんたこ様だけの空間なので、お堅いことは言わずにすぐさま岩造りの露天風呂にダイブしても良かったが、それをやってしまうとなし崩し的に人間が駄目になっていきそうなので自重しておく。
「ちょっと待っててくださいね」
一言断ってから、タオルに石鹸を乗せて神に相応しいきめ細かい泡をわしゃわしゃと生み出していく。もちろんタオルはちゃんと洗う用と拭く用で分けることも忘れない。
「それじゃ、失礼しますよ……っと」
「うん」
満足のいく泡を完成させた所でにゃんたこ様を清めにかかる。まずは背中から。
「んしょんしょ。気持ちいいですか?」
「まあまあ」
「ふむ、なかなか手厳しいですな。……こうかなぁ」
にゃんたこ様から『最高』の一言を引き出すべく、力加減を変えるなど、あの手この手で尽くすがなかなかこういった機会が無いため思ったよりも難しい。
と、そんな時。
「くふっ!」
「ん?」
突然漏れた私ではない誰かの声。無論、にゃんたこ様しか有り得ないのだが、それにしては珍しい反応だ。具体的には堪えられない何かによって思わず声が漏れたみたいな……?
「こほん。続けて」
「あ、はい。とりゃ」
「……ふふっ!」
「???」
頭の中を埋め尽くす疑問符達。しかしその謎の反応の正体はすぐに分かった。何故なら『その時』は脇腹付近を洗っている最中だから。
「へぇ……? (ニヤリ)」
それが分かった瞬間、私の中でコロリンばりのイタズラ心に火がついた。
「おや、この辺りがまだ洗い足りませんね。うりゃ」
「くふっ! そ、そこはもう充分だから……!」
「ダメですよ、ちゃんと洗わないと。よいしょっと」
「ふっ、あは!?」
何だろうこれは……にゃんたこ様が急に可愛く見えてきたぞ。ここに来て神様疑惑が完全に崩れ去ろうとしている気がする。
「ま、まだ言うの? ……ふふっ!」
「え、なんです? 次は反対を洗いますね」
「あははっ!」
「おっと、やっぱりもう一度こっちを」
「も、もう! 怒るよ! あは、あはは!?」
「どうやって笑いながら怒るんですか。おかしな事を言いますねにゃんたこ様は。ほれほれ」
もはやタオルなど放置して素手で擽りにかかる私は過去最高にテンションが上がっていた。なんせ世界の頂点であるにゃんたこ様が今や私の掌の上なのだから。
「ふっふっふっ。長年の恨みをここで晴らしてくれる!」
「そ、そんな事思ってたんだね!? あは! お願いだからもうやめて! くふふっ!」
「やめてと言われるとやりたくなるのが人間の性。ふふふ」
「あはははっ!?」
それからしばらく続いた愉快な笑い声。満天の星空に次々と吸い込まれては消え、吸い込まれては消え……完全なる静寂が訪れたのはにゃんたこ様が笑う元気も無くなるほど疲れ果てた頃だった。
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先程までの空気とは打って変わって、本来の癒しの空間を取り戻した露天風呂。私が肩までお湯に浸かってのんびりしているその対面。少々の距離を置いて恨めしそうにこちらを睨むのはにゃんたこ様だ。
「許せない……!」
何度目かも分からないその言葉を発してブクブクと口の辺りまで沈む姿は神様とは程遠い、普通の女の子のようだ。
「すいません、なんか楽しくなっちゃって。もう大丈夫ですって」
「次やったらここで『開花』させるからね」
「えぇ、本気ですか?」
「うん」
「それなら仕方ないですね。諦めます」
あわよくばもう一回くらいとも思ったが流石に無理か。宿が吹き飛んでしまう。
「んじゃあとはゆっくりまったりしましょ。ほら、星が綺麗ですよーー!」
「白々しい……」
そう言いながらも隣に移動した私を寛大な心で受け入れてくれるにゃんたこ様。お詫びと言ってはなんだが、ここはひとつ豆知識でも披露して場を和ませるか。
「という訳であれを見てください」
「……どれ?」
縁の岩に頭を預けながら空を指差す私に倣ってにゃんたこ様も空を仰ぐ。その先には特に輝きの強い星が三つあり――
「それらを繋いだ三角形を『ピ座』って言うんですよ。ほら、切り分けたピザみたいに見えるでしょ?」
「からかってるの? それならケーキでもなんでもいいじゃない」
「お、なかなか鋭いですね。でもケーキは別にあってですね。あれとあれとあれ(以下省略)を繋ぐとまん丸になって、それを『ホールケーキ座』と言うんですよ」
「もう言いたい放題だね」
ぶっちゃけこのネタは王都でフィオちゃんにも披露したので再利用感が否めないが、初めての人にはそれなりにウケる筈だ。
「とまぁ、冗談はこの辺にしておいてと。こうしてにゃんたこ様と温泉でのんびりできる時が来るなんて思いませんでしたねぇ」
「どうして?」
「だって最初は顔も合わせないうちに狙撃されてたんですよ。なんでしたっけ……氷の弓矢?」
「『輝氷の射手』ね」
「それですそれです。下手したらあのまま討伐されてましたからね」
「ちゃんと手加減してたから大丈夫」
「あれでですか? その後にも私の事を空に咲く花の一部にしようとしたり。まぁ、今となってはいい思い出ですけどね」
「うん」
生きてたから言える結果論と言われればそれまでかもしれないが、本人もそのつもりは無かったみたいだしこれは私の素直な気持ちだ。にゃんたこ様に出会えて本当に良かったと思う。
「私もルノに出会えて良かったよ」
「あはは、そう言ってもらえると嬉しいです」
自然と呼ばれる私の名前。ドキッとするのも悪くなかったが、それをすんなり受け入れられるようになった今の状況の方が不思議と居心地いい。
「つまり『友達』になれたってことですかね?」
「そうだね」
そんな言葉を交わした後に再び訪れる静寂。
もちろんそれは苦痛ではなく、むしろ同じ空間、同じ景色を共有しているという事であり、ここに確かな繋がりを感じた私達だからこそ許された『友情の証』なのだと実感した瞬間だった。
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露天風呂から上がり、浴衣に身を包んだ私達を出迎えてくれたのはロッキの特産品である『ロッキの実』をふんだんに使った夕食の数々。用意してくれた女将さんが『ごゆっくりどうぞ』の言葉を残して退室したのを合図に、お互い向かい合う形でテーブルを挟み、座布団の上に腰を下ろした。
「美味しそうですねぇ」
「うん」
しかし一口に『ロッキの実』と言っても、基本的にそれはご飯と一緒に炊かれていたり、炒め物の具材の一部などという扱いなので、テーブルには肉や魚、サラダにデザートなど種類は豊富で全体的に和食寄りだ。
「これこそ温泉宿って感じがしますね。さっそく食べましょうか」
「うん」
「「いただきます」」
食事の前に忘れてはならないその言葉。まるで家族の様に自然とこの行為に及ぶことが出来るのが妙に嬉しい。
「変な顔してると無くなるよ」
「むむ、失礼な。ってあれ、にゃんたこ様のおかずは?」
「もう食べたよ。だから次」
そんな事を言って、我が物顔で手を伸ばすのはもちろん私のおかず。なんでやねん。
「ってあぁ! そのお魚、楽しみにしてたのに!?」
「美味しかったよ」
「でしょうね! 復元してくださいよーー!?」
「もう欠片も残ってないから無理」
「悪魔! 本当に友達になれたと思ったのに! やっぱり私は下僕なんですか!?」
「本当に友達だよ」
「ふん。そんな甘々な言葉にはもう騙されませんからね。んじゃこのお肉はもらい!」
「あっ」
「なにこれ、口の中で勝手にほぐれる!? 美味しい!」
たった今、私が口に放り込んだのは中央に置かれていた一際豪華な肉料理。ロッキの実と共に甘辛く煮込まれたその肉は前述の通り、咀嚼する必要が無いほどに柔らかい仕上がりだった。
「むぐむぐ。これは無限に食べられますね。最高」
「……」
お皿ごと抱え込み、メインディッシュの肉料理に舌鼓を打つ私を見つめるにゃんたこ様はワナワナと震えていたかと思えば今度はやけに落ち着いた様子で――
「これ」
「ん?」
スっと見せつけてきたお皿に乗っているのは締めのデザート。ロッキの樹液を練り込んだチーズケーキの上には同じくロッキの樹液でコーティングされた、白く輝くロッキの実がその存在感をここぞとばかりに放っていた。こちらまで漂ってくる甘い香りが堪らない。
「でも、まだデザートは早くないですか? 確かに美味しそうですけど」
「そんなことない。見てて」
「……? 分かりました」
「もぐ」
「……」
「もぐ」
「え?」
流れるような手際とはまさにこの事だろう。
あろう事か、二切れのチーズケーキがそれぞれ一口でにゃんたこ様のお口の中に吸い込まれていった。言うまでもなく一人一切れなのだが……
「え? え? 私の分は?」
「くす」
「!?」
もはやショック過ぎて言葉が出なかった。今更ながら思ったけどにゃんたこ様ってドSだよね……?
「うそだよ。はい」
「おぉ、復元魔法! じゃあさっきのお魚も!?」
「あれはほんとにもう無いよ」
「ぐすっ……!」
はいドS確定。
「もういいです。にゃんたこ様はほんとによく食べますね」
「美味しいからね」
「左様ですか……」
そんなこんなで出だしこそ一悶着あったものの、その後は割と普通の食事風景が続いた。そもそも食事の席ってこんなに苦労するものだっけ……?
「うぅ、食事って素晴らしいですね」
「なんで泣いてるの……」
「いえ、やっぱり苦労あってこそのものなんだなぁと思いまして。このお味噌汁美味しいですね」
「そうだね」
早々にご飯、そして味噌汁を食した私は残りのおかずやデザートを摘みながら、食材や料理に尽きることの無い感謝を示した。
「ふぅ。ご馳走様でした」
「ご馳走様でした」
こうして、お行儀良く締めの挨拶を済ませた私達は、食器の片付け、そして布団の用意をしてくれる宿の人を他所に、仲良く歯磨きを済ませて就寝の準備に取り掛かるのであった。
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部屋のテーブルは端に避けられ、代わりに中央に陣取っているのは私とにゃんたこ様、隣同士に敷かれた二人分の布団だ。
「さぁ、女子トークの時間ですよ」
「は?」
唐突に出てきた言葉は恐らく『宿泊』というこの状況に舞い上がっているからこそのものだろう。定番とも言えるこの時間無くして旅の一日は終われない。
「そういうものなの?」
「そういうものです。にゃんたこ様は好きな人はいるんですか?」
「唐突だね。いるよ。私の目の前に」
「……もう一回聞きますね? 好きな人はいるんですか?」
「だから目の前にいるあなた。ルノの事が好きだよ」
「……」
これはあれか。眠いから適当に返事してるパターンか。
「寝ぼけてるの?」
「いや、でも……えぇ? こんなスタートダッシュな女子トーク初めてで。なんだかロッキに来てから私への好き好きアピールが半端ないですね」
「あなたが聞いてきたんでしょ」
「まぁそうですけど。ふぁぁ……」
「女子トークなんちゃらはどうしたの? もう眠そうだけど」
「あはは。回復魔法かけてもらったとは言えオールしましたからね。楽しい時間はあっという間……ですね」
「そうだね」
「すぅ……」
「……」
やはり精神的な疲れまではどうにもならないみたいだ。しかしそれだけの意味は確かにあった。にゃんたこ様とのまさかの旅行。バイキングやお化け屋敷、バレンタインから温泉まで。この短時間で実に沢山の思い出ができたものだ。
猛烈な眠気の中、走馬灯のように次々と蘇る今日までの記憶。それはきっと楽しかったからこそのもので――
「また一緒に来たいね」
「んーー……? なんですかぁ……?」
「何でもない。おやすみ、ルノ」
「はーーい……。おやすみなさい……にゃんたこ様ぁ……」
確かに刻まれたにゃんたこ様との『思い出』
薄れゆく意識の中、目が合ったにゃんたこ様が微笑んだのを最後に、私は眠りについたのだった。
翌日。
「んーーよく寝たぁ……」
「……」
「ん?」
冬らしい冷たい空気と雲ひとつ無い快晴。しかしそれらとは裏腹に、目を覚ました途端に感じる熱い視線。きちんと畳まれた布団の上に座るにゃんたこ様だ。
「うーー……おはようございます。寝起きでそんなに見つめられてたら恥ずかしいですよ」
「随分と気持ち良さそうに寝てたね」
「あはは……見てたんですね。文字通りです」
すっかりにゃんたこ様と一緒に過ごす事に慣れてしまったからか、もはや目の前にいるのが神様だということも忘れてゆっくりと身体を起こす私。正直まだ眠い。
「そんな事言ってられませんね。準備して出発しますか」
「うん」
宿は今朝までという形でチェックインしたので、名残惜しい気持ちはひとまず忘れて、これからという未来に目を向けて生きて行こう。そう、これは別れではなく旅立ちなのだ。
「物語のセリフみたいだよ」
「うっ。突っ込まれると恥ずかしいのでやめてください……」
「くす」
過去なら思い出としてしっかり胸の中へしまってある。目を向けるべきはこれからの未来。素直にそう思えるのはこのロッキ旅行でにゃんたこ様と友達以上の絆を結べた事の証だ。
「以上でも何でもなく友達だよ」
「ズコッ……!」
そんな感じで最後まで締まらない私達だったが、それも含めて『思い出』となるのでしょう。