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☆氷の魔女のスローライフ☆  作者: にゃんたこ
130/198

第130話〜神様とのロッキ旅行④ ロッキのバレンタイン〜


〜〜登場人物〜〜



ルノ (氷の魔女)

物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。


サトリ (風の魔女・風の双剣使い)

ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。


フユナ (氷のスライム)

氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。


カラット (炎の魔女・鍛冶師)

村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。


グロッタ (フェンリル)

とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。


ランペッジ (雷の双剣使い)

ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。


スフレベルグ (フレスベルグ)

白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。


レヴィナ (ネクロマンサー)

劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。


コロリン (コンゴウセキスライム)

ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。


フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ

魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。


にゃんたこ (神様)

『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。

 



 中天に登った太陽が街全体を明るく照らし、昼食を求めてメインストリートを往来する人々の活気はより一層増すばかり。

 ところがそんな中に正反対な雰囲気を醸し出す二人組がいた。

 一人はロッキのアトラクションである『空中列車』いわゆるジェットコースターを乗り回してご満悦のにゃんたこ様。そしてもう一人は山奥から一年ぶりに出てきたようにげっそりとした私。


「はぁ……」


 思わず漏れるため息。あまりにも場違いな重苦しい空気を感じ取った人々がこちらに視線を送ってくるが、もはや笑顔を返す元気も無くなっていた私は目の前を歩くにゃんたこ様の背中を見つめながらひたすらゾンビのように歩いていた。

 もちろん、苦手なジェットコースターに乗りまくったというのもあるが、それ以前に今の私達は生命活動に欠かせないモノが決定的に足りていないのだ。


「あの、にゃんたこ様。忘れてるかもしれないですけど私達オールしたんですよ? お土産を買うのも良いですけど少し休憩しませんか?」


「オール明けの今が一番楽しい時間」


「うぅ……分かるような分からないような……」


 しかしそれはあくまでも元気な状態での話だ。お化け屋敷&ジェットコースターという恐怖のダブルパンチをくらい、満身創痍になった身体では寝落ちするのも時間の問題である。


「てかなんでにゃんたこ様は眠くないんですかぁ? 適度な睡眠を取らないとその歳で老けちゃいますよぉ? あっはは……」


 普段なら多少は自制している失礼トークが今の思考力低下状態では出るのなんの。こりゃ一眠りしないともたないぞ。


「人間、オールしたくらいじゃ死なないから平気だよ」


「ばかぁ……私が寝落ちしたらお土産も買えないですよぉ……? にゃんたこ様はお財布も無ければ当然お金も無いんですからぁ……」


「…………」


「わっ……!」


 突然立ち止まるにゃんたこ様に、後ろを歩いていた私は思わず衝突してしまった。お土産を買えないという一言が効いたみたいだ。


「じっとしてて」


「んえ? あっ。あぁ〜〜癒されるぅ……」


 この全身に染み渡る癒しの光には覚えがある。初めて会ったあの時、気絶する程の魔法ダメージすら回復させた魔法だ。


「終わり」


「ん〜〜っ! まるで連休初日にお昼まで寝まくったみたいに良い気分! でも、できれば宿の温泉に入ってからゆっくり眠りたかったなぁ……」


「それは今夜」


「えっ? もう一泊するなら今からお土産買いに行く意味……」


「それも立派な観光だよ」


「そういうものですか」


 お土産を買うのは締めの合図だと勝手に思い込んでいたがそういう考え方もあるのか。言われてみれば確かに。帰りの時間を気にせずに選べるのはいいかもしれない。


「早く行くよ」


「そうですね。ではでは」


 お土産イコール旅行の終わり、つまりは名残惜しい気持ちを意識していた私にとって、現在のような心躍るお土産屋巡りは初めてだ。

 人間関係が増えるとこうして新しい考え方を発見できてなかなか面白い。


「にゃんたこ様も伊達に神様をやってはいませんね!」


「もちろん」


 こうして街の活気に相応しい雰囲気を取り戻した私はにゃんたこ様との少し早いお土産屋めぐりに思いを馳せるのだった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「いらっしゃいませ! おや、そこのお嬢さん達、よろしかったらお一つどうぞ!」


「あ、どうも」


「……(モグモグ)」


 市場のように沢山のお店が連なる区域に足を踏み入れた私達を出迎えてくれたのは試食を勧める元気な店員さん達の声。お昼ご飯がいらなくなるのではないかという勢いで渡されるそれはほとんどがチョコレートの類だった。


「なんて幸せな空間なんだろう。まさか『お土産の樹』以外にもこんな立派なところがあるなんて驚きですね。あ、これも美味しい」


 今し方貰ったので十個目。シンプルなミルクチョコレートから、クッキーやケーキと続き、ホワイトなチョコレートにナッツ入りのチョコレートなどなど。種類豊富で選ぶのにかなり苦労しそうだが、心做しかチョコ系が多いのが気になる。

 その答えは簡単だった。


「本日は『バレンタインフェア』を開催しておりま〜〜す! 本命のあの人からお世話になっているあの人など誰でも大喜び間違いなし! ぜひ沢山買っていってくださいね〜〜!」


「???」


 聞き慣れない言葉に疑問符を浮かべるのはにゃんたこ様。そもそもこの世界にバレンタインがあったことが驚きだ。


「店員さんも言ってましたけど『バレンタインデー』は女の子が好きな人にチョコレートを渡す日なんです。『好き』って一口に言っても友達や家族、恋人などいろいろですし女の子が女の子にあげるなんてことも増えてますけどね。中にはお返しを期待してチョコレートをばら撒く勇者もいます」


「自分のために買わないなんて不思議だね。あなたも誰かにあげるの?」


「そうですねぇ。そんなつもりは無かったんですけどせっかくの機会なのでお土産と合わせて家族とかに買っていってあげようかな。……あ、でもそれだと抜け出して来たのがバレちゃうから無理だ。にゃんたこ様は?」


「…………」


「あ」


 もしや聞いてはいけない部分だったのではと今更ながら気付いた。神様という立場上、気軽に友達と言える人もなかなかいないんじゃないだろうか?


「ま、まぁほら! 別に誰かにあげなくても、にゃんたこ様が言ったみたいに自分で好きなチョコレートを買って食べるのも全然アリですから! バレンタインなんて不思議なイベントはスルーして欲しい物あったら好きに買いましょ!」


「うん」


 そもそも全部のお店がバレンタインフェアとやらをやっている訳でもないだろうし、当初の目的通り私達は私達でお土産屋さん巡りをすればいいのだ。


 ところが。


「なにこれ綺麗だなぁ。青と赤のチョコレート?」


「お客様、そちらは意中の人と一緒に食べると結ばれるという運命のチョコレートです。誰かにあげたいけど自分も食べたいなんて方に大変人気でして」


「へぇ? 面白いですね、これならにゃんたこ様も――はっ!?」


「…………」


「ダメダメ! あげること前提のチョコレートなんて却下! さよなら!」


「は、はぁ……?」


 逃亡。


「お〜〜っと、そこのお嬢さん方! 実はこのチョコレートは箱ひとつに全ての材料が入ったお得な手作りキットなんです! 意中のあの人と共同作業なんてぜひいかがです?」


「…………」


「こらそこ! 『意中の人がいる』前提で話すな! さよなら!」


 からのまた逃亡。


 そんな感じで、逃れられぬバレンタインの呪いからの逃亡劇を何度か繰り広げる羽目になってしまった。その度に試食させてもらえたのでけっこう楽しめたが、隣のにゃんたこ様が無言なのでちょっと怖い。

 いっそのこと場所を『お土産の樹』に移してこの憎きエリアから逃れるという手も――そう思っていると。


「へい、らっしゃい! チョコレートはいかがですかぁ〜〜!?」


 無駄に伊勢のいい店員さん現る。

 このバレンタインフェアの中、そこだけがまるでラーメンをやってるかのような場違いな雰囲気で、ぶっちゃけ今の私達にとっては一番居心地いい気がする。にゃんたこ様も興味ありそうに店員さんを――


「「ん?」」


 と、ここで同時に重なったのは私と店員さんの声。そこにいたのは、昨夜夕飯として行ったデザート食べ放題のお店で一番印象に残る元気過ぎて浮いていたおじさんだったのだ。


「爆弾シュークリームのおじさんじゃないですか」


「爆弾シュークリームのお嬢さんじゃないか」


 ピンと閃いた私達の横でにゃんたこ様もうんうんと頷いた。まさかの再会にびっくりである。


「いやいや、『爆弾シュークリームの』はちょっと違いますけどね。他にも色々食べましたから」


「はっはっ! 後ろで見てたから知ってるさ! それにしても奇遇だなぁ!」


「ほんとですね。昨日のお店はクビになったんですか?」


「なんでやね〜〜ん。バレンタインって事で出張販売を任されたのさ!」


「そういうことでしたか。ではまた」


「おいおい、聞いてただろ? 見ていかないのか!?」


「う〜〜ん……」


 逃亡するためにクルリと振り返ったが、呼び止められて元通り。よく見れば伊勢のいい声とは裏腹に、お店のショーケースには果物やケーキの絵が描かれていてとてもポップな感じに仕上がっている。まぁ少しくらいなら見てもいっか。


「でも相変わらず店員さんだけ浮いてますよ」


「はっはっ! だが文字通り品物は良いのが揃ってるぞ!」


「ふむ。どれどれ」


 確かに品揃えは豊富だ。赤青黄色など、色鮮やかなチョコレートはもちろん、普通のチョコレートだけでも煌びやかなケースに入っていたりで目移りしてしまう程の種類があった。中にはカカオの成分量が違うチョコレートも。


「前に流行りましたね。こういうやつ」


「最大でカカオ成分100%まである。と言いたい所だが、今日だけ特別になんと! 限界突破した『カカオ成分120%チョコレート』なんてのもあるぞ?」


「限界突破した分の20%が気なりますけど聞くのはやめておきます。そもそも私達、バレンタインのチョコレートではなく普通のお土産を買いに来たんですよ」


「そうなのか? だけどそっちの爆弾シュークリームのお嬢さんは興味津々みたいじゃないか」


「え?」


 店員さんの視線の先。そこにいたのはショーケースの前でしゃがみこんで一つのチョコレートを食い入るように眺めるにゃんたこ様だった。


「それは『普通のチョコレート』だ。普通に食べたり普通に誰かにあげたり」


「確かに普通ですね。それ買いますかにゃんたこ様?」


「うん」


「それじゃこれ一つ。……そうだ! ラッピングもお願いします」


「へい、まいど! 気合い入れて包むから待ってな!」


 元気過ぎるその声に一斉に振り向く周りの人達。すっかり慣れてしまったがやっぱり声でかいよねこの人。


「あの、みんなに見られて恥ずかしいんですけど……!?」


「はは、悪い悪い! ほら、特別に最高級の袋に入れておいたから許してくれ!」


「どうも。よく分からないですけど、なんかありがとうございました」


「はっはっ! またどこかで会うかもな! その時はよろしく頼むぞ!」


「あはは、私もそんな気がします。ではでは」


 そんなこんなで、二度に渡る邂逅のためか、妙に『知り合い感』の溢れるおじさんに別れを告げて、私達はバレンタインフェアとなる会場を後にしたのでした。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 それからしばらくして。


「賑やかでしたねにゃんたこ様」


「そうだね」


 お店を出て歩くこと十分。私達はメインストリートの外れにある噴水広場までやって来ていた。ちょっぴり休憩だ。


「さて、少し座りますか」


「うん」


 この場所は文字通り噴水と僅かな草木があるだけだが、賑やかな王都にしては珍しく落ち着ける雰囲気なのでちょうどいい。

 実は座ったのは別に疲れたからでも無ければ次の目的地を相談するためでもない。先程のお店でチョコレートを買ったのは目的があり、実行するにあたってこの場所がぴったりだったからだ。


「という訳で。どうぞ、にゃんたこ様」


「さっきの?」


 疑問符を浮かべるにゃんたこ様に手渡したのは先程買った『普通のチョコレート』だ。ただしバレンタインなので綺麗にラッピングされた贈り物用となっている。


「なんかお土産みたいになっちゃいましたけど、これ、にゃんたこ様へのバレンタインチョコレートってことで。はい!」


「……!」


 流石にこれは驚いてくれたみたいだ。お土産感があって申し訳ないが、にゃんたこ様の珍しい表情が見られて私は嬉しい。


「遠慮なく受け取ってください。早くしないと溶けちゃいますよ? なんちて」


「あ、ありがと……」


 ゆっくりと受け取るにゃんたこ様は未だに驚きを隠せないといった様子である。


 しかしそれ以上に驚くべき事が起こった。

 にゃんたこ様が微妙にニヤついた表情をしながら、丁寧に包みを剥がし終えると――


「はい」


「ん?」


 蓋が開けられて甘い香りを漂わせるチョコレート。それがそっくりそのまやスッと返却された。


「ガ〜〜ン……!?」


「そうじゃなくて」


「え?」


「一緒に食べよう」


「???」


 きっと私も動揺していたのだろう。未だに状況が分からない。


「今日は『バレンタイン』なんでしょ」


「そう、ですけど……?」


「だからこれは私から。ルノへのバレンタインチョコレート」


「なっ!?」


 驚きの言葉を続ける私に痺れを切らせたのか、もしくは慣れないことをしている恥ずかしさからか。箱からチョコレートを一つ摘み、やや強引に私の手に押し付けるにゃんたこ様。私は私で心ここに在らず。


「ぽか〜〜ん……」


 暴君として名高いにゃんたこ様からのバレンタインチョコレート。それはもう嬉しいなんて言葉では言い表せない程で、私はしばらくの間、手のひらに乗せられたチョコレートを意味もなく見つめることしかできなかった。放置されたら一生このままな気さえする。


「いらないの?」


「い、いる! いります! ありがとうございます!!」


「うん」


 こうして、至高のチョコレートを口に放り込んだ私はその甘さを感じながら、隣で同じようにチョコレートを頬張るにゃんたこ様に限りない感謝の気持ちを伝え続けたのでした。

 バレンタイン最高。そんなことを心の中で叫びながら。


















「でも『暴君』は言い過ぎたね」


「ひゃあああ!?」


 心の中で発した余計な一言のおかげで、口どころか全身氷漬けにされるのは逃れられない運命でしたとさ。




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