第128話〜神様とのロッキ旅行② 恐怖の樹再び〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。
フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ
魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。
にゃんたこ (神様)
『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。
『恐怖の樹』
それはすなわち、誰もが恐怖するお化け屋敷であり、私自身も家族旅行やらで何度か訪れたがそれはもう怖いのなんの。それも今回はにゃんたこ様と二人きりでしかも夜中だ。恐怖の度合いで言えば過去最高なのは間違いない。
なので――
「あの、にゃんたこ様? ここはただの通り道ですよね? 目指すは『安らぎの樹』ですよね?」
「……」
「それにほら、これ見てください。血で書いたようなおぞましい文字。『恐怖の樹』ですよ?」
「……」
「私の経験が言ってます。ここはおすすめじゃありません」
「分かった」
「ほっ」
クルリとこちらに向き直って頷くにゃんたこ様。熱い説得のかいもあって、何とか考えを改めてくれたようだ。これで安心して――
「レッツゴー」
「あ、あれ……? えぇっ!? なんで!?」
ぐいっと杖の先端に襟元を引っ掛けられて為す術もなく連れていかれるのは勿論『恐怖の樹』
「分かったって言ったのに! 言っただけなんですか!? ひどい!」
「くす」
やはり神様の前では私の意思など無いに等しいのだと実感した瞬間だった。
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「はい、それではこのランプを持ってお進み下さい。行ってらっしゃいませーー!」
という訳でやって来ました『恐怖の樹』
やはり夜というのが大きいのか、今は私達以外のお客さんはいないらしい。それを肯定する静寂。そして扉をくぐった瞬間に訪れる闇は数メートル先の木々も視認出来ないほど濃厚でまさに恐怖だった。
「にゃんたこ様……? 付いてきてます……?」
「うん」
暗闇の中、支給されたランプを片手にパキッと枝を踏み締めながら先頭を歩くのは勿論にゃんたこ様。……ではなく私。何故に?
「うぅ、ほんとに無理ぃ……。こんなんじゃお化けに気づいた時にはもう目の前にじゃん……」
「……」
ちなみに、お化けとは言ったがここに出てくるのはゾンビだ。レヴィナみたいなネクロマンサーがいるのかは分からないが、少なくとも私にはそれが本物か偽物かどうか分からないくらいにリアルだった。
「いっその事レヴィナも連れてくるんだったよ……。にゃんたこ様、付いてきてます……?」
「……」
「あ、あれ……? え、嘘でしょ……? にゃんたこ様ぁ……?」
「……」
「ちょ、ちょっとぉ……!?」
虚しく響き渡る私の声。それはまさに世界と切り離されたかのような孤独。辺りを照らすランプが自身の影のみを映し出しているのがその証拠だった。
その時。
「ひゃあああ!!?」
ツン、と何かが私の脇腹に当たった。
「あわ、あわわわ……!? ど、どこ……? ゾンビ……ゾンビ……!?」
「くす」
「え……?」
にゃんたこ様だった。
「は? え?」
意味も分からず混乱する私。一緒にいたはずのにゃんたこ様が突然消えて……かと思ったら突然姿を現す。どことなく既視感のあるような――
「あぁ、それ!?」
「うん」
杖を持つ右手。その甲にはうっすらと光を放つ魔法陣があった。それは紛れもなく、私のオリジナル魔法――だった『グラスサークル』による透明化だ。
「ひ、ひどいっ!? ゾンビならいざ知らず、にゃんたこ様まで私を驚かすなんてっ!?」
「ずっと後ろにいたよ」
「はい嘘! ちゃんと確認しましたもん!」
「くす」
悪びれる様子もなく微笑を浮かべながらゾンビ側につくにゃんたこ様。これはもう私一人だと考えた方がいいのではなかろうか。
「うぅ、もう一人で行きます。……やっぱり怖いんでにゃんたこ様が前を歩いてください……お願いします」
「うん」
おや、今度はやけに素直になったぞ。これなら透明になっても分かるし、何より先頭を任せられるという安心感がある。
「はぁ……にゃんたこ様が神様に見えてきた……」
「……」
「あ、勿論神様ですよね……!?」
「うん」
危うく墓穴を掘る所だった。ここだと冗談にならないな。それはさておき。
「あの……もしゾンビを見つけたら教えてくださいね……?」
現在の私達の位置関係は前述の通りだが、私はにゃんたこ様が持つ杖の先端を掴んでそのまま付いていく形で、何も知らない人が見れば二人がかりで棒を運んでるように見えなくもない。
「任せて」
「うぅ、にゃんたこ様イケメン……!」
すると――
「いた」
「ど、どこっ!?」
突然の宣告。恐怖のあまり杖をぎゅっと握って前方を見るがゾンビの姿はどこにもない。
「も、もぉ……またからかって」
「今通過した」
「え」
それってつまり。
「真横」
「……」
一瞬の静寂。
そして――
「ヴぁぁ……ぁ……」
変色した肌に、所々欠損したボロボロの身体。はい、ゾンビさんこんばんは。
「きゅう……」
「くす」
パタンっと、倒れたのは言うまでもなく私。その直前、何かに身体を支えられたのを最後に、プツンと意識を手放したのだった。
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「ん……」
背中に感じるのは心地よい芝生の絨毯。ゆっくりと目を開くとそこにはつい最近、氷の華の大地で見たような美しい満天の星空が広がっていた。
「起きた?」
そして同じ言葉を掛けてきたのは同じくにゃんたこ様。
「え……ここは……?」
「お望みの『安らぎの樹』」
「……?」
「『恐怖の樹』で文字通り気絶したあなたをここまで運んできたの。大変だった」
「あぁ……そういうこと……」
言われてみれば確かにゾンビを目の前にしてそんなこともあったような。となると最後の『アレ』も夢ではなかったという事か。
「にゃんたこ様は優しいですね」
「何のこと?」
「いえ。ありがとうございます」
「……?」
気絶する前に感じた温もりを、私の肌は確かに覚えていた。あれは想いがなければ有り得ない優しい抱擁。自己満足かもしれないが、その行為が私に向けられたことがとても嬉しかった。
「それじゃ、次の場所」
「はいはい」
出会った頃と比べて大きく変化したその背中を、暖かい眼差しで眺めながらゆっくりと歩みを再開させた私でした。