第127話〜神様とのロッキ旅行① 着いて早々バイキング〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。
フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ
魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。
にゃんたこ (神様)
『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。
にゃんたこ様の規格外の魔法『複製』によって現れたもう一人の私。歩き方や言葉遣いなど、なかなかにツッコミどころ満載の複製体だったが、悲しいことに家族ウケはバッチリで、帰ってから私自身が受け入れてもらえるか不安になるほどだった。
「はぁ。今更心配になってきた……。あの偽物の私、本当に大丈夫ですかね?」
「うん」
私の不安に手短に返答するにゃんたこ様。
私達は現在、目的地である大樹の街『ロッキ』へと向かって箒を飛ばしている最中。そろそろ日も暮れて暗くなってくる時間帯なので、上空かつ冬ということもあり結構な寒さである。
「本当に寒い。なんでにゃんたこ様は平気なんですか? もしかしてまた魔法で何かしてるなら私のことも温めてくださいよ」
「残念。あなたが風避けになってるだけ」
「ひどい」
今の状態を説明するならば、それは箒に二人乗り。お察しの通り、前が私で後ろがにゃんたこ様なので当然の結果である。
「まぁ、そのかいもあって早く着きそうですけどね。ほら、もう見えてきましたよ」
「うん」
出発してから約三十分。山ひとつ超えた辺りで見えてきたのは大樹の街の名に相応しい六本の巨大なロッキの樹。その名の通り、あれは街のシンボルであり、天辺にはジェットコースターやお化け屋敷その他諸々、簡単に言ってしまえば遊園地がある訳だ。
「ぞくっ!? 思い出したら鳥肌立ってきちゃったよ……」
何を隠そう、私は大のジェットコースター&お化け屋敷嫌い。ロッキには何度か足を運んでいるが、毎回その両方に苦しめられている自信がある。
「だけど今回は大丈夫。なんたってにゃんたこ様しかいないからいくらでも誤魔化しようがあるもんね」
「丸聞こえだけどね」
「ぎくっ!」
なにはともあれ、無事にロッキに到着した私達は、冷えた身体を癒す為にも、足早に温泉宿を探す事にした。明日が天国になるか地獄になるかは分からないが、今日だけは確実に温泉でゆっくりまったりしようじゃないか。
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夜のロッキの街。
左右に三本ずつ、計六本の巨大なロッキの樹が並ぶメインストリートには仕事帰り・食事・観光など様々な人達で、夜とは思えない賑わいを見せていた。
「そういえば夜に出歩くのは今回が初めてかも。賑やかですねぇ」
「うん」
四方八方、満遍なく視線を巡らせる私達の姿は、見る人が見れば田舎者に見えたことだろう。実際、家族旅行やらでそれなりに来た事のあるロッキでさえこの有様なので否定はしないが。
「さてと。まずは宿を見つけないといけませんけど……やはり温泉付きが良いですよね」
「あと食べ放題」
「いやいや、にゃんたこ様は魔法でなんでも食べ放題じゃないですか。その条件ならどこもクリア出来ますよ」
「オリジナルの方が美味しいに決まってる」
「そういうものですか……」
一度食べて復元したものは、もはや紛い物と言う事だろうか。相変わらずにゃんたこ様の『オリジナル理論』はよく分からない。
「それなら時間も時間ですし、先にどこかで夕飯を食べちゃいます? その後で温泉宿探せばいいですし」
「うん」
「ではでは」
という訳でにゃんたこ様の舌を満足される事ができるお店を探し始める私だが、なんせ田舎者なので家族旅行の時に行ったロッキサンドのお店くらいしか経験がない。チーズケーキのお店は夕飯ではないので今は除外。
そんな時――
「あれ」
と、にゃんたこ様が指差す先には、積み重なるパンケーキを模したような巨大な円柱状のお店が圧倒的な威圧感を放っていた。
「でもあれって……確かに食べ放題ですけどデザート専門ですよ? ご飯も少しくらいあるとは思いますけど」
「決定」
「まぁ、にゃんたこ様がよければ……」
夕飯と称してデザートをお腹いっぱい食べる。誰もが一度はやってみたいと思った事があるはずだ。私は大いにある。
「そういえば今更ですけど、にゃんたこ様ってご飯食べるんですね」
「どういう意味?」
「いえ。神様なのでそういうのとは無縁なのかと思いまして。『呼吸するだけで全て解決!』みたいな」
「……」
「い、いや!? ごめんなさい!?」
限りなく細められる神の瞳。もしかして寝ちゃった?
「反省して」
「むぐっ!?」
流石におふざけが過ぎたか。久しぶりのお仕置きになんだか懐かしい気持ちになる私を放置して歩みを再開されるにゃんたこ様。
「ぷはっ! ちょっと待って」
「言ってしまえば『食事』はしなくても問題ない。でも――」
再び横に並ぶ私にそんな前置きをした後にこう言った。
「美味しいものを食べるという行為は誰もが平等に幸せになれる。理屈じゃないでしょ?」
「確かにそうですね。なら今夜はめいっぱい幸せになりましょ!」
「うん」
神様と人間。肩を並べることも叶わない異次元の何かだと勝手に思っていたが案外そんな事は無かった。綺麗な物を見た時や、美味しい物を食べた時……それぞれに何かを感じ、何かを思うのは共通なのだ。
「ふふ。なんだか急に親近感が湧いてきました。行きましょう、にゃんたこ様」
「触らないで」
「冷たーー!?」
それでもやっぱり神様との『触れ合い』は私にはまだ早いようでした。
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「ははぁ、中は結構な広さなんですね。キャッチボールでも出来そう」
「やる?」
「いや。なんとなくですけど、にゃんたこ様がやると壁に大穴が空きそうなのでやめておきましょう」
「残念」
想像以上の広さ。第一の感想はそれだった。次に目に入ったのは、壁際に並ぶ数々のデザート達。それぞれがキッチンと繋がっており、その都度完成となるひと手間を加えて提供してくれるといった感じ。なかなかお高級な店に来てしまったみたいだ。
「いらっしゃいませ。お客様、二名様でしょうか?」
「あ、はい。そうです」
「ではこちらのプレートに書かれた番号のテーブルへどうぞ。制限時間は一時間となっており、その間に一番多く食べた方の勝ちです。ではスタート!」
謎にテンションの高い受け付けのお姉さん。無論、そんな勝負も決まりも無いので、一時間の間は自由に食べて良し。
「まぁ、ゆっくり食べますか。私達の席は……あそこですね」
「うん」
私達の席は端っこ。とは言っても、壁際にデザートが並んでいる訳なので直ぐに取りに行けるというメリットがある。反対側は少し遠くなるけど。
「ふふふ……当たりも当たり。割と近くにチーズケーキも置いてあるじゃないか。ではさっそく」
「取ってきて」
「え?」
「お腹空いた」
「……」
たまにいるよね。食べる専門の人。
「でも残念! 私、にゃんたこ様の好みとかもまだ分からないので一緒に行きましょ!」
「……」
ぐぅ〜〜と、お腹の虫に返事をさせながら席を立つその姿に苦笑しながら、私達はまず一番近くのデザートの元へ向かった。
「へい、らっしゃい!」
「ど、どうも……」
ラーメン屋に来てしまったかと勘違いしそうなくらい伊勢のいい店員さん。ちなみにここは爆弾のように大きいシュークリームのコーナー。その名に因んでかは分からないが、提供前には火で表面を炙るんだとか。
「ほうほう?」
「なかなかシャレてるだろう?」
「ですね。店員さんだけ浮いてますけど」
「はっはっ! こりゃ鋭いツッコミだ! ほら、一個オマケしとくぜ!」
謎のサービスを受ける私。オマケも何もここは食べ放題でしょうに。そんなツッコミを他所ににゃんたこ様は――
「五個」
「「へっ?」」
気持ちを共有させる私と店員さん。何故ならこのシュークリームは前述の通り『爆弾サイズ』だから。
「初手からそんなにとばして大丈夫ですか? もしかしたら激マズかもしれませんよ?」
「お嬢さん辛口だなぁ。おじさん泣いちゃうぞ」
「あはは、冗談ですよ」
しかしにゃんたこ様は当然のようにお皿いっぱいに盛られた爆弾シュークリームを持って席に戻ってしまった。あれは本気だ。
「お嬢さんお嬢さん。本当はダメだが……最悪、土産用に包んでやるから言いな……」
「お気遣い感謝します……」
規格外の食欲を目の当たりにした事で、妙な友情が芽生えた瞬間だった。
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その後、私はにゃんたこ様とは別に、三種類程のデザートをかき集めてから席に戻った。時間にすれば恐らく三分くらいでそれ程経ってはいないはずだが――
「あの、にゃんたこ様? シュークリームは?」
「いま食べてるでしょ?」
「……」
確かにその通り。しかし五個あったはずの爆弾シュークリームは既に最後の一個となっていた。そんな馬鹿な。
「ははーーん、分かりましたよ。魔法で消して大食いアピールってことですね?」
「それになんの意味があるの……」
少々、呆れ気味の返答。にゃんたこ様にしては珍しい表情である。
「カフェの時も思いましたけど食欲も規格外ですね。では私もいただきます」
という事でいざ実食。神様の舌を満足させる味とは如何に。
「ん、美味しい!」
件の爆弾シュークリーム。このサイズなだけに『クリームを飲む』と言った方が良いかもしれないが、その行為が苦ではないくらいにスッキリとした味わいだ。
「なるほど。あの店員さんの心配も杞憂だった訳か。これは美味しいや。……ん?」
「……」
感動に浸っている私の前では既に最後の一口を口に放り込んだにゃんたこ様の姿があった。それも何かを凝視しながら。
「「……」」
無論、私がチョイスしたデザート達である。
「ねぇ」
「ダメです」
「ちょうだい」
「ダメです」
「いただきます」
「!?」
もはやこの場に私の意思の存在は許されなかった。
「もう一回」
余程気に入ったのか、食べた先から次々とデザートが復元されていく。
「あ、ずるい! オリジナル理論はどこいったんですか!?」
「美味しいものは美味しいに決まってる」
「じゃあ私の分も復元してくださいよ。欠片でもあれば出来るんでしょ?」
「だめ。そこで見てて」
「悪魔!」
結局、デザートを取りに行ったのは最初だけ。私が厳選したデザート達は無残にもにゃんたこ様の胃袋に吸い込まれ――
「ふふん。私だって学習しますもんね! これだけあれば!」
「……!」
ドン! とテーブルに置かれたのはほぼ全種類を盛った大皿。すぐ後ろのシュークリームコーナーのおじさんは元より、周りの視線が痛いが仕方ない。
「いただきます」
「でもそういう意味じゃないですけどね!?」
あくまでも『私のデザート』として集めて来たのだがもはやどうでも良かった。美味しいのは当然。にゃんたこ様も幸せそうだったし、何よりそれを分かち合えているみたいで楽しいからね。
「……(パクパク)」
「……」
とは言ったものの、私が食べられたのは十分の一くらい。ちょっぴり涙が出たのは言うまでもない。
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「ありがとうございましたーー!」
あの後、にゃんたこ様の『もっと』のいうお言葉もあって、延長した私達がお店を出たのは日付が変わるほんの一時間前だった。計二時間は食べ続けた本日のお夕飯のお値段……その合計はほんの二万円くらい。
「ふぅ、お腹いっぱい。あのお店は当たりでしたね」
「うん。当たりだった」
そんな言葉を交わしながら歩く深夜のメインストリート。流石に人通りは減ってきたが、それでもきらびやかな街灯で街の中はそれなりに賑やかだ。
「ふむ。こういう光景を目の当たりにすると朝まで遊びたくなっちゃいますね」
「うん」
「なんて……流石に神様にオールさせる訳にも――」
ロッキに到着するなり『今夜は温泉!』なんて意気込んでいたのはどうしたのやら。冗談半分だったその言葉ににゃんたこ様は。
「そうしよう」
「ぐえっ!?」
即答と同時に、突如私を襲う浮遊感と首を絞められるような息苦しさ。それは文字通りであり、にゃんたこ様が私の襟を掴んで空を飛んだ結果だった。
「ぐえ〜〜!? (どこへ!?)」
「上」
何。私はこのまま天に召されるの? 神様の手で直々に?
と、その時。
「ぶっ!?」
「到着」
ビタン! と叩き付けられるように下ろされた私の目の前には――
「ひぇ……!?」
そこにあったのは一枚の看板。血で綴られたようなおぞましい文字で書かれていたのは、夜の帳を下ろした今の風景に実にマッチしていて――
「恐怖の樹ーー!?」
「くす」
『恐怖の樹』
すなわち、お化け屋敷を前に、魔女の悲鳴が高々と鳴り響いたのでした。