第126話〜神様とのぶらり旅?③ もう一人の自分〜
〜〜登場人物〜〜
ルノ (氷の魔女)
物語の主人公。見た目は十八歳の不老不死の魔女。少し癖のある氷のような美しい色の髪が特徴。氷の魔法が大好きで、右に出る者はいないほどの実力。
サトリ (風の魔女・風の双剣使い)
ルノの友達。綺麗な緑色の髪をお団子にした、カフェの看板娘。風の魔法・双剣の扱いに関してはかなりの実力者。
フユナ (氷のスライム)
氷漬けになっているところをルノに助けてもらい、それ以降は魔法によって人の姿になって一緒に暮らしている。前髪ぱっつん。
カラット (炎の魔女・鍛冶師)
村の武器屋『カラット』の店主。燃えるような赤い髪を一つにまとめた女性。彼女の作る武器は例外もあるがどれも一級品。
グロッタ (フェンリル)
とある人物の手により、洞窟に封印されていた怪狼。ルノによって『人に危害を加えない』事を条件に開放された。ちょっぴりアホキャラ。
ランペッジ (雷の双剣使い)
ロッキの街で出会った双剣使い。雷のような黄色い髪を逆立てた、ちょっぴり目つきの鋭い青年。
スフレベルグ (フレスベルグ)
白銀の大鷲。自宅に植えてあるロッキの樹にある日突然やって来て住み着いた。
レヴィナ (ネクロマンサー)
劇団として村にやって来た、ルノと同い年くらいの女性。紫色の髪が目にかかりそうになっていて、第一印象は『幸薄そう』と思われるような雰囲気。
コロリン (コンゴウセキスライム)
ルノの使い魔。魔法陣の効果によってルノのまわりを漂ったり、杖の先端にくっついていたり。コロコロしていて可愛い。……が、人間の姿になれるようになってからはちょっぴりヤンチャに。イタズラ大好き。
フィオ・リトゥーラ&オリーヴァ&バッカ
魔女に憧れて王都『リトゥーラ』からやって来たフィオ・リトゥーラ王女とその付き人のオリーヴァ(女性)とバッカ(男性)。三人とも金髪に翠眼。
にゃんたこ (神様)
『天空領域・パラディーゾ』にその身を置く神様。『遊び』と称して様々な強者を襲撃する事が多々あり、その中でもルノは『当たり』らしい。
にゃんたこ様からの恵み『無限ケーキ』という名の昼食を食べ終えた私は――
「ごちそうさまでした」
と、感謝の意を述べる。それは食材そのものに対してであり、ケーキを提供してくれたお店の人に対してでもあったり。そして一番は――
「にゃんたこ様。……って、あれ?」
先程まで目の前にいたはずの神様の姿が見当たらない。はて?
「また一人でどっか行っちゃった? まったく、あの自由気ままな野良猫ちゃんは……」
「丸聞こえ」
「ひえっ!?」
一人でどこほっつき歩いているのかと思っていた矢先、ひょこっと現れたのは件のにゃんたこ様だった。私の対面、二人がけの椅子で横になっていたため、テーブルで見えなかったようだ。
「そ、そんな所にいたんですか……にゃんたこ様ってば意地悪なんだからぁ」
「待っててあげたのに?」
「え、あ!? そ、そうですよねーー!? お陰様で美味しく頂きました。ごちそうさまです」
「うん」
なんやかんやで気を使ってくれてたみたいだ。出会った頃はまるで暴君だったというのに驚くべき変化である。
「ならまた遊ぶ?」
「いえっ、遠慮しておきます!? にゃんたこ様みたいな清楚な方のお相手なんて恐れ多いです!?」
「よく口が回る」
「そりゃもう心の声を誤魔化すのに必死なもので……」
「今更だね」
「あはは……」
でも実際の所、本当にいい変化だと思う。こうして会話して、お茶を楽しんで……そんなやり取りを自然とできるようになったのだから。
「それじゃ、そろそろ行きましょうか」
「うん」
そんな事を思ったが故だろうか。私は自然その手をとることができた。この時、確かに『友情』が目覚めたのを実感出来た事がとても嬉しく――
「触らないで」
「冷たーー!?」
そう思ったのも束の間。馴れ馴れしく触れた私の手が氷漬けになったのだった。
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「はぁ、凍傷になるかと思った。口を氷漬けにされた回数に比べたら大した事ないけど」
カフェを後にした私達は、ひとまず休憩として、村の中央にある噴水広場にやって来た。一人はキンキンに冷えた手を水で癒し、またある一人は縁に座って足先でパチャパチャと水と戯れている。
「はぁ。水が温かく感じる。にゃんたこ様は冬なのに寒くないんですか?」
「温めたもの」
「え、これ? 本当に温かいんですか? 私の手が氷漬けになってたからそう感じるのではなく?」
「うん」
「えぇ……」
見ればにゃんたこ様の足は魔法によってぼんやりと光り、そこを中心にして徐々に湯気が立ち始めている。
「水さえあればいつでも温泉みたいなものですね。せっかくだからゆっくりして――」
「他の場所へ行こう」
にゃんたこ様からの突然のご提案。足湯ならぬ手湯をもう少し堪能しておきたかったが仕方ない。
「と言ってもうーーん、あと行ってない場所って言ってもそこの温泉くらい……いや、もうこの噴水が温泉なのかな」
「違う。ここじゃない他の場所へ行くの」
「今からですか? でもほら。例えば、ロッキの街に行くとしてもそんなに遊ぶ時間がありませんよ? それこそお泊まりでもしないと」
「そうする」
「へ?」
「出発」
「ちょ、ちょっと!?」
そう言って、噴水の水から足を上げたにゃんたこ様は身支度を始めてしまった。
「あのーー私、家に帰らないと。流石にここ何日かで消息不明になりすぎなので」
主に神様とのお戯れによって。
「私がもう一人いれば解決なんですけどね」
「分かった」
「ほっ」
そう言ってから、別れの挨拶でもするように手を差し伸べてくるにゃんたこ様。先程は拒絶の言葉と共に手を氷漬けにされたというのに、これまた嬉しい変化である。
ところが。
「任せて」
「へ?」
「虚無の言伝、愚像の温もり。真を欺く自称の邂逅」
何故に詠唱? 何の詠唱? その答えはすぐに分かった。
「完成」
「えぇっ!?」
私が目の前に現れた。説明によると、触れている生物を複製できる魔法なんだとか。そういう握手ね……
「これって? えぇ!? つまりどういうことですか?」
「自分の言葉を思い出して」
「言葉? うーーん……はっ!?」
『私がもう一人いれば解決なんですけどね』
「そういうこと」
「つまりこれで私は家に帰れる訳ですね?」
「なんでそうなるの」
「はは……やっぱり?」
つまり本物の私がにゃんたこ様とお泊まりデートで、偽物の私が家に帰って私の代わりをすると。
「でも、それならにゃんたこ様が偽物の私とでもいいんじゃ? なんなら偽ランペッジさんとか偽レヴィナも一緒にしてハーレム旅行なんて」
「だめ。それにもう命令した」
「命令?」
「ん」
私の疑問に答えを示すかのように別の場所を指差すにゃんたこ様。そこには我が家に向かって歩く偽物の姿があった。
「私ーー!? ちょっとまってよ私!」
私(偽物)を追いかける私(本物)というなんとも滑稽な絵面が完成。
「そうじゃなくて! 何ですかあの歩き方は!?」
「そっくりでしょ?」
「ぜ・ん・ぜ・ん! あんなガニ股歩きの魔女がいるもんですか! やるならもっと私らしくしてくださいよーー!?」
抗議の声を上げながら、女子力をゼロにしたような私(偽物)をとっ捕まえて必死に進行を阻もうとする私(本物)の姿ににゃんたこ様は――
「くす」
「あ!? 確信犯! 絶対わざとやりましたね!」
「そんな事しない」
「はい嘘! てか力強!? ま、まって!? あぁ……」
私(本物)の叫びも虚しく、私(偽物)はズンズンと私の家の方角に消えていってしまった。
「ぐす……」
この日何度目かも分からない涙を流す私の肩にポンッとにゃんたこ様の手が添えられたが、それは決して『元気出して』の意味ではなく『早く行こう』の意味だ。
「うぅ……! それならせめてあの偽物がちゃんと『私』を演じてるかどうかだけ確かめさせてください。そしたら出発しましょ……」
「うん」
やっと折れてくれたにゃんたこ様。いや、何一つ折れてないか。なんて思いながらも、夕焼けに染まる我が家への帰路を仲良く歩いていくその姿は、見る人が見れば仲のいい姉妹に見えたことだろう。
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偽物より少々遅い到着となった私達は、お互いに『グラスサークル』で透明になってこっそりと窓越しに家の中を眺めていた。
「うぅ、なんで自分の家なのにこんなマネをしなきゃいけないの……」
「楽しいでしょ?」
「………………少し」
思い返してみれば、私もこの透明化の力を生み出し切っ掛けは似たようなものだったな。失敗に終わったけど。
「ま! せっかくだし存分に楽しませてもらおう」
「うん」
という訳で、気を取り直して中を覗いてみると、そこにいたのは特訓が終わって帰ってきたフユナと、そのまま一緒に来たサトリさん。そしてコロリンの姿があった。レヴィナはまだアルバイトから帰っていないみたい。
そして肝心の私(偽物)はというと。
「みんな、夕飯できたゼ」
「わぁ、いい匂いだね!」
「いつの間にこんな料理の腕を上げたんですか」
「ふふん、まぁね。サトリも良かったら食べて行くといいゼ」
「きゅん。ルノちゃんイケメン……」
何故か語尾に『ゼ』を付けながら相変わらずガニ股で歩いているイケメンな私(偽物)の姿があった。
「ぐぐ……あの完成度に悪意しか感じない……! にゃんたこ様ぁ?」
「くす」
「やっぱり……。それよりなんでみんな気付かないのよぉ。約一名、新たな扉を開きそうな人もいるし」
「楽しそうだね」
「そりゃまぁ。というかこれなら普通ににゃんたこ様が私と一緒に遊びに来れば良かったのでは?」
「それはまだ楽しみに取っておく」
「え、ほんとに来ちゃうんですか?」
「うん。いつかね」
「左様ですか……正体云々の問題が無ければ私は大歓迎ですけど」
「それはバレないように尽くして」
「ですよね」
思うところはあったが、数日空けるくらいなら何とか私(偽物)はやっていけそうだった。バレたらバレたでもう仕方ない。
「むしろあっちの私がデフォルトになってしまわないかが怖い……」
「そうなったらずっと遊べるね」
「微妙に響きのいいその言葉には騙されませんよ」
「残念」
そう言ってくすっと笑うにゃんたこ様。
「んじゃ、そろそろ出発しますか。なんか今生の別れみたいでやだなぁ」
「気のせい」
「ですね。ではでは」
「うん」
旅立ち。そして別れ。
「いや、だから違いますから!?」
「くす」
訂正。これはただのぶらり旅。それも神様と二人きりの。
目指すは大樹の街『ロッキ』
いざ出発!